ブナの沢旅ブナの沢旅
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2021.10.27
摺上川叶堂沢(ユノムラ沢下降〜地神沢〜クロノ沢)
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2021年10月24-25日

14年ぶりの叶堂沢。標高が低い沢なので紅葉にはまだ早いことはわかっていたけれど、ゆったり焚き火ができる沢に行きたかった。いつものんびりとか、ゆったりしたいといって計画するのに実際には余裕がないことが多い。だから正真正銘のんびりできそうな日帰りの叶堂沢へ焚き火テント泊へ。「ブナの沢旅」を立ち上げてから一年もたたない2007年9月の遡行以来だ。

当時は摺上ダムのある下流から入渓し、例の有名な「私有地につき無断進入禁止」看板を見た。林道沿いに地主さんの住宅があったので挨拶のため立ち寄ったところ留守だったのでそのまま入溪し、問題はなかった。けれど以来トラブル回避のためか下流からの入溪は(少なくとも記録上)見られなくなった。その後、地元の福島登行会が上流の林道から下降した記録が掲載されると、同様の方法でぽつぽつと記録が見られるようになり、今ではすっかり定着した感がある。わたしたちも今回は最近のトレンドに乗ったコースをたどった。

叶堂沢へはもう一つ密かな楽しみがあった。それは叶堂沢の本流?と思われる地神沢を歩いて出会ったブナのマザーツリーにもう一度会うことだった。

 

摺上川を上流の源頭部から入渓するには宮城県の七ヶ宿ダム奥にある七ヶ宿スキー場をめざす。七ヶ宿はダムや滑津大滝、スキー場などがある地元ではちょっとした観光地らしい。スキー場の入口から林道を奥に入り最後はダートの車道を進むが 、途中の分岐で迷ったため「すみやのくらし」の標識がある工房に声をかけて道を確認すると、今日はこのあたりには見られない車高の低い車も通って行ったし、奥で何かあるのですか、などと逆に質問される。ということはすでに叶堂沢には先行者がいるようだと661m地点の駐車広場に行くと、すでに3台駐車していた。

沢支度をして橋を渡るとユノムラ沢に下る明瞭な踏み跡、というか山道があった。ユノムラ沢は前回行きそびれたのでルートをあれこれ考え下降することにしたのだ。釣り師の道だろうかなどと言いながらたどって楽々沢に下りる。しばらくは何もないゴーロ沢だが450m付近で様子が一変する。

ナメになったかと思うと両岸が切り立ったゴルジュの入り口となり下が見えない滝頭となる。とりあえず取り付きやすそうな左岸の斜面を登っていると右岸から2人組が高巻きを終えて沢に下ってきた。声をかけて様子を聞くと右岸も巻けるようで、トラロープもあるから右岸から巻くのだろうという。叶堂沢に悪場はないだろうとちゃんと調べてこなかった。仕切り直して右岸にとりつく。きっと技量のある人たちだったのだろう。軽く言われたけれど私たちにはそれほどやさしくはなかった。

ルート確認のため高巻きとトラバースの後いったん沢に下りると予想外にも急峻な数メートル程のトイ状ナメ滝を見上げ、下は8m滝の落ち口だった。8m滝も右岸を水際近く小さく巻いて下ったが、一箇所足元が切れ落ちていて緊張した。(帰宅後あらためて見ると、左岸を大高巻きして直接8m滝下に下る例が多く、そのため8m滝上のナメ滝は見えないらしい。)

予想外の高巻きを終え8m滝下でホッと一息の休憩。負け惜しみのように、これくらいのアクセントがあって面白かったなどと言い合う。ここからはナメが主流でのっぺりしたナメ滝にはトラロープがかかっていて難なく下る。仲間と、トラロープって、まさかこのロープのことかしらなどと言いながら下ると沢幅が広がりユノムラ沢出合となる。ここからは一度歩いているルートだ。深い釜をもつナメ滝を左岸から越えると待望の穏やかなナメが広がる。

 

 

ちょうど午後の日が沢に注ぎ込んで沢床がきらめきとてもきれいだ。クロノ沢出合はすぐそこだが、沢幅が広くて一番美しいところなので進むのが惜しい。クロノ沢出合の右岸台地は多くの遡行者に利用されている絶好のキャンプサイトで薪も豊富にある。時間も早いので当初は地神沢を散策するつもりだったが、すでに気持ちが満たされている。ゆっくりと焚き火キャンプを楽しもう!ということになった。

薪も乾いているものが多かったので簡単に火を熾すことができた。暗くなるまで数時間もあるので薪を山のように集めたが、結果、少し残してしまった。。シーズン初の鍋支度をしてきた。普段は食事は写真に撮らないけれど、今回は焚き火目的山行なので主なメニューだけ記録してみた。それだけ意気込みのキャンプなのであった。久しぶりにほんとうにゆったりとした一日を過ごすことができた。

     

     

     

翌日も焚き火を熾し、火にあたりながら朝食。コーヒーを入れてテントはそのままで出発は7時半。沢に陽が入らないのでもっと遅らせてもよかったが、まあ何があるかわからないので予定通りとする。まずは地神沢をゆるゆると散策。

前回はナメの中に等間隔に新しい倒木があってちょっと残念だったが、やはり沢は生き物。十数年もたてば一掃されて所々倒木帯はあったが大方スッキリしていた。印象的な白い樹肌のブナの大木を注意して探しながら歩いたが、残念なことに見つからなかった。倒れてしまったのか、苔がついて形状が変わったのか、まさか見逃したのか。(知っている人がいたら教えて欲しいです。)

550m付近までたどりナメが消えて沢が細ってきたところで引き返す。上流部を周回してもゴーロなので中途半端でもナメをもう一度歩きたいと思ったからだ。次第に沢にも陽が差し始め行きよりも明るい雰囲気となる。テントサイトにもどって帰り支度を済ませ、もう一度コーヒーを入れる。この余裕がうれしい〜。

     

     

   

さて帰路はクロノ沢に入る。最初は杉林の中の黒いナメで暗い雰囲気だが、しだいに赤茶けた地神沢と似た沢床となり、ナメもよりなめらかとなる。途中2段6mナメ滝が小さなクロノ沢のハイライト。とはいえ右岸にトラロープがあり、のぼりはロープに頼らなくても容易だ。こちらも550mほどまでは小ぶりながら間断的にナメが続く。次第によくいえば苔むした日本庭園風の様相となり緩やかに蛇行しながら最後は階段状となってドラム缶に吸い込まれ遡行終了。

靴を履き替えていると対岸の斜面を黒っぽい動物がさっと走り去っていくのを目撃する。一瞬熊かと思い笛をピーピー鳴らす。ほんの数メートル登って林道に這い上がる。完全に廃道化しているがぬかるみはあっても特に崩れたところはない。広葉樹の雑木林なので紅葉がきれいなのだろう。端正な三角錐の五郎山が唯一の展望だ。小一時間ほどで、ぽつんと一台の我がパーティの車が見えてきた。

    

 

 

 

  

帰路は行きに話をした工房「すみやのくらし」に挨拶がてら立ち寄り、ご夫婦で焼いた炭と炭入りのパンやお菓子などを買い求め、短いながら、お二人で好きなことをしながら素敵な田舎暮らしをされているご夫婦の姿を垣間見る機会をえたのが収穫だった。

ユノムラ沢下降11:15ー地神沢出合13:00ークロノ沢出合13:30//7:30ー地神沢往復ークロノ沢出合9:45//10:30ー林道11:50/12:15ー駐車広場13:00