ブナの沢旅ブナの沢旅
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2021.10.17
吾妻連峰 大倉深沢
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2021年10月15日

10月上旬の楢俣川でよろめいたはずみで強打した胸が痛く、まるで肋骨を骨折した時のような症状がしばらく続いた。整形外科のレントゲン検査では骨折はしていないといわれ一安心だったが、重いザックを背負うのはまだ心配。10日ほど経ってようやく痛みもほとんどなくなったところで日帰りハイキングを計画した。

今年は不安定な天気に振り回されている。当初は無難に丹沢周辺を考えていたが、たまたま予定した日の東北南部の山が晴れマークに変わったため急遽、沢をからめたハイキングに変更。以前から機会があれば行ってみたいと思っていた吾妻連峰の大倉深沢に決めた。いつもながらの土壇場計画だが、情報集めはすでにしてあったし、ほとんど登山道歩きなので心配はなかった。あえていえば、できれば谷地平避難小屋に泊まって翌日遡行というゆったりプランだったところをザックを軽くしたいため日帰りに変えたことだろうか。

前夜のうちに福島入りしてレンタカーで吾妻スカイラインを進み途中、休憩所のある駐車場で仮眠。翌朝浄土平へ向かうと雲海が広がる絶景ドライブとなる。沿道には早朝からカメラを構えた多くの人たちと車が並んでいた。さすがに人気の山なのだと思う。浄土平の駐車場にもすでに多くの車。休日はものすごい混雑に違いない。登山道に入ると人は見えないのでみなさんどこに行っているのだろうか。

まずは鎌沼に立ち寄る。穏やかな山々に囲まれた静かで美しい沼だ。鎌沼からは樹林帯の登山道となるが道がぬかっていて歩きにくい。数年前に初めて歩いた時は5月初旬の残雪期だったが、無雪期の方が苦労する。なつかしい谷地平避難小屋に立ち寄って沢装備にかえパンとコーヒーで一服する。小屋はとてもきれいなのだが、トイレがない。以前は雪で藪が隠れていて広々していたのだが、小屋の周囲は1mほど先に笹の密藪がせまっていた。

登山道は何度か沢を徒渉するが、増水時には大変そうだ。谷地平にでると黄金色に色づいた湿原がどこまでも続くような開放的な空間が広がる。この景色を見るためにだけでもやってくる価値あると思えた。そういえば小屋のところで往復してきたという単独者と挨拶をかわした。

 

 

 

谷地平を縦断するように木道を進み沢に下る。ここが大倉深沢出合いだ。かぎりなく穏やかな何もないただの小川風情だ。紅葉は盛りを過ぎているが、青空に平瀬がきらきらしている。大倉深沢は歩く沢だというのは織り込み済み。今回はそんな沢歩きを求めてやってきたのだ。なのでヘルメットを車に置いてくるという気の緩み。途中に気付いた時、仲間はあきれて沢は中止だなんて息巻く。このところ沢でのちょっとした怪我が絶えないので心配してくれているのだろう。

地図でみてもなかなか標高をあげずにゆったりと小さく蛇行している様子がわかる。まさにその通りだ。昔は沢沿いに道があったらしいく、その痕跡が所々認められた。ほんとに歩く沢なのだが、魚影の多さには驚いた。みな小さなイワナなのだが岩陰に群れていて近づくと驚いたようにみんなが飛び出してくるさまが可愛い。一度だけは、どうみても尺に違いない大倉深沢の主のような大物をみて大騒ぎする。

 

 

ようやく沢幅が狭まり斜度も出てきて段差のような小滝もあらわれる。所々倒木帯もある。これで終わってはあまりに何もなさすぎると心配になる頃、突然コケに覆われた多段滝があらわれ、沢の様子が一変する。ちょうど地図で岩マークがある1700mを越えたあたりからだ。写真ではみていたが、予想していた以上に美しい苔滝で、しかも何段も続いている。すべて快適に登ることができる。どうしてこのような展開になるのか不思議だ。連瀑帯を過ぎても苔の小滝はつづき、源頭部で突然ふたたび平瀬となって草地が広がる。一切経山が近い。

最後の二俣からは五色沼上の登山道を目指してコンパスを頼りに東へ進む。藪というほどの藪はなく、フカフカのまばらな低潅木帯とひざ下の笹原だ。広い草原台地を自由気ままに歩く気持ちの良いフィナーレで登山道にでた。

 

 

 

 

眼下には私にはお初の五色沼が青々とした水をたたえ、やさしく山々に包まれている。人の記録などではよく見ていたが、やっと本物にお目にかかれた。日の当たり具合で水の色が微妙に変化する。もう少し時期が早いと周りの紅葉が鮮やかだったのだろう。けれど誰もいない静かさは得られなかったかもしれないと思うと、幸せな気持ちだった。

靴を履き替えふたたびハイカー姿に。最後のティータイムをとって一切経山へ向かう。登らないと帰れないから登るというくらいの気持ちだ。このころからガスがではじめ、眼下の五色沼が次第に見えなくなっていった。ちょうど良いタイミングで遡行を終えることができてよかった。殺伐とした山頂につくとまったく景色はなくなってしまったが、午後のそれほど早い時間でもないのにそこそこハイカーが登ってくる。山頂標識で証拠写真をとって下山開始。

 

 

下るにつれてガスがはれ酸ガ平を見渡す。紅葉の名残でまだ美しい。なかなかよい所に手軽にやってくることができるのだなと思った。避難小屋もあり、こちらには立派な公衆トイレが完備されていた。ただ中は宿泊を想定していない作りになっていたのは当然か。火山活動のガスが立ち込める一切経山を眺めながら、ゆるりゆるりと登山道をくだり浄土平にもどった。

吾妻連峰の山はほとんど馴染みがないのだが、沼と湿原を沢歩きでつないだ日帰りハイキングは予想以上に充実したいいコースだった。大倉深沢はなによりも、源頭部の苔滝と草原の詰めが気持ちよかった。けれど、また機会があれば行くかと問われれば、う〜ん、どうかな。何年かして(忘れて)緑の初夏のお花の季節になったら、いいかもしれない。

 

 

浄土平6:30ー鎌沼7:25/7:40ー谷地平避難小屋9:15/9:30ー谷地平ー大倉深沢入渓点10:10ー登山道13:40/14:00ー一切経山14:40ー浄土平15:45