ブナの沢旅ブナの沢旅
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2007.09.22
摺上川観音堂沢(叶堂沢)
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2007年9月22-23日

 

8月半ばに小川で転んで肋骨を折ってトホホなYさんのリハビリ山行と銘打って、桃洞沢、大行沢とともに三大ナメ沢といわれている栗子山塊の観音堂沢(叶堂沢)に行った。東北方面へは新幹線とレンタカーの組み合わせがいつの間にか定番に。

福島駅から新しくできた摺上ダムへ向かう。25000分の1の地図とはかなり地形が変わっていると想像していたが、巨大な石積みのダム堰体が目に飛び込んできたときには思わず何だー。予想以上に大規模なダム湖で、公園が整備されていたり何やらでやたら立派だ。

40分ほどで観音堂沢出合横の林道ゲートに到着。沢支度をして林道にはいるとロープが張ってあり、侵入した場合ダム関係者は1万円、一般者は5000円の料金を徴収するという、「有名な」看板が立てかけられていた。眼下の観音堂沢はダム湖の一部となって青々と水をたたえており、これから沢登をするところとはとても思えない。

平水時のバックウォーターは1300mほど上流らしい。30分ほど歩くと県境の枝沢が合わさる橋がかかっており、林道が沢に近づく。ここにも大きく看板が立ててあるので、目印になる。このあたりになると普通の沢らしく、期待をふくらませて入渓する。標高はわずか310m。

最初はゴーロとナメ、瀞が交互にあらわれる渓相だが、自然林はいまだ明るい緑の葉を広げていて、とてもいい雰囲気だ。ナメ床には時々深い甌穴があり、大きな岩魚がすっと通り過ぎていくことしばし。クラツラ沢を分けてしばらくいくと右岸の枝沢が10mのスダレ滝を落としていている。白いコンクリートのようなナメ床の廊下は快適なフリクションで側壁をへつる。

次第にナメ一色となり、時々小さなナメ滝がとても大きく深い釜を持ってあらわれアクセントをそえる。中には釜に入らないと取り付けない小滝もあるが、そんなところには必ず巻道がある。ナメを快適に進んでいくと、といいたいところだが、倒木が頻繁に目に付くようになる。

2時間ほどでユノムラ沢の出合いに。やはりきれいなナメ沢らしいので、当初寄り道も考えていたが、すぐ先が倒木でふさがれていて士気をくじかれる。帰りによることにしてクロノ沢へ進む。

ただひたすらにナメを歩けると思っていたのに、またしてもひどい倒木群に行く手をふさがれる。クロノ沢と地神沢の二俣の間に張り出した尾根のふも とが河岸段丘のような平地になっており、ここにテントを張ることにした。

なかなか素敵なテンバで、片隅には大きな4本のブナが正方形を作るようにまっすぐのびていて、格好の炉辺になりそうだった。テントを張って一休みしてから、クロノ沢を散策。やはりずっとナメが途切れることなく続くのだが、等間隔に現れる倒木で分断され、ナメに酔いしれることができないのが悲しい。けれど、岩魚にとっては格好の棲家なのか、魚影の濃さに手づかみできるのではないかと思ってしまう。一箇所見栄えのするナメ滝があらわれる。
トラロープがフィックスされていたが、フリクションで快適に登ることができる。下降用だろう。帰りにはありがたく使わせてもらった。翌日雨で遡行できないかもしれなかったので、このままクロノ沢をつめて林道に上がり、地神沢を下降してテンバにもどることもできたが、550mあたりで沢も細くなり倒木がひどくなって気分的にも疲れてきたので引き返すことにした。

テンバにもどってから枯れ木を集め焚き火の準備に取りかかったのだが、火が起きる前にライターが壊れてしまうというハプニングに!ガッカリだったが、人任せで自分ではマッチも何も持ってこなかったのだから仕方ないと、あらたな反省材料に。まあ、外も暑かったからよしとして、7時には就寝。

 

 

翌朝目覚めるとやはり予報どおり、天気はあまりよくない。降ってはいないので、のんびり朝食をとってからテントはそのままにして地神沢の散策に出かける。出合い付近からしばらくは両岸ともブナとみずならの大木が林立する開けた段丘になっており、どこでもテントが張れそうだ。

ナメ床もいろいろで、地神沢のナメは本当に舗装道路のように滑らかで、その上を沢水がさらさら流れていて端正なことこの上ない。なのに、またしても倒木群にじゃまされる。

いけどもいけどもナメ、ナメ、ナメ~といいたいところだが、いい気持ちになると必ず邪魔がはいるのだ。イソザネ沢の出合いは貧相な感じ。奥にはやはり倒木が見える。県境の枝沢を右に分け、しばらくいくと倒木群の先に滝が見えたので、滝の先に多少の期待を持って進んでみたが、ナメも石と土砂で覆われ、倒木の状態は変わらないので早々と引き返すことにした。

途中で二人の釣り人が近づいてきたので、最近の沢の 状態を聞くと、倒木の多くが今年のものだという。大きな台風がこれまでに二回上陸しているので、そのときにやられたのかもしれない。

二俣で荷物を回収し、しばらく沢を下るが、ナメ滝の下りを嫌ってロープを出したり巻いたりして、気がついたらユノムラ沢をとっくに過ぎてしまった。もどるのも厄介なのでそのまま沢を下ることにする。

来るときはこれから先のナメを期待してあまり関心を払わなかったところは、それほど倒木もなく快適に下ることができ、上流部の舗装道路のようなナメとは違うが、それなりにきれいな渓相を再認識することができてよかった。

楽しく下っていくとすぐに入渓点の看板が見えてきて遡行を終える。気持ちのいい中州の河原で、昨晩食べきれなかった野菜やソーセージを炒めて昼食をとり、林道にあがって車にもどった。

観音堂沢はナメのきれいな沢であることに変わりないが、倒木の多さが遡行価値を大きく損なっていることを感じざるを得なかった。そして、なぜ今年になってそれほどの被害が集中したのか疑問がわいた。これまでも大きな台風の直撃はあったはずだ。

たしかに、両岸の斜面の地層は岩盤の上に土が薄く乗っていてその上に大木が浅い根を張って微妙なバランスを保っているようだ。そのため台風などでバランスが崩れると簡単に根っこをむき出しにして地すべりを起こし、沢床をふさいでしまうのだろう。注意して両岸を見上げると、今にも滑り落ちそうに根を露出しているところも多く認められた。

多くの山で崩壊が進行していることが伝えられているなか、沢も影響を受けつつあるという事実を目の当たりにした山行となってしまった。とても残念な気持ちでもどった出合いの道路からは、自然を壊して人工的に作られた巨大なダム湖の広がり。

う~ん、なんか釈然としない気持ち。途中ダムの堰体を望む公園の一角につくられた、もにわの湯に立ち寄るが、地元の人たちで賑わっていた。福島駅でレンタカーを返却し、数分後に発車する新幹線に飛び乗った。