ブナの沢旅ブナの沢旅
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2022.11.11
八十里峠〜田代平〜破間川〜鞍掛峠
カテゴリー:ハイキング

2022年11月11-12日

今シーズンは計画がほとんど流れてしまったけれど、ようやく最後になって行こうと思っていたところに行くことができた。などというと、どれほどの所かと思われるかもしれないが、たんに自分のこだわりだけを詰めた山旅だ。

以前秋に八十里越を歩いた時、落葉した小松横手から見渡した破間川源流は穏やかな流れがずっと続いていた。黒姫と守門岳、烏帽子山に抱かれた「あぶるまがわ」の源流。地図を見ても緩やかなブナ台地が広がっていると、かってに郷愁を抱き、いつか川原に下りてみたいと思った。今年4月に黒姫から下った雪の破間川源流は予想以上に穏やかなブナ台地だった。晩秋の山旅はここにしようと決めた。

当日発1泊と時間が限られているため往復とも五味沢林道を歩いた。林道とはいえ、崩壊で通行止めになって久しく半分は自然回帰した山道だ。何年か前の5月連休に八十里峠から歩いた時は暑さとズタズタの雪とデブリで苦労したが、今回はわりと呆気なく八十里峠入口へ。林道から近道に入るがテープに導かれ峠には容易にたどり着いた。

おもわず「ただいま〜」なんて言ってしまう。今年2度目だし、もう6-7回来ているから。ところが今年は様子が違い、やたらピンクテープが貼られていた。たぶん三条町と只見町が共同で行なっていた八十里越歴史調査の一環なのかもしれない。以前は気が付かなかった石垣の一部が復元(というか掘り起こし)されていたり、古道入口の尾根に上がる踏み跡ができていた。

国道289号線がようやく数年後に開通するという地元情報を得ていたので、ひょっとして観光誘致の一環で「よみがえる八十里越古道」などという謳い文句を目論んでいるのかしら、なんて思ったり。そういえばいつだったか、晩秋に八十里古道探索を行なったというブログを読んだことがあった。それは沼の平から大三本沢を越えて県境尾根に上がるらしい。途中に痕跡と思われる石積を発見したりして成果はあったもののヤブがひどくて途中まで、という記憶。そんなことで私も興味を持って残雪期に早坂尾根から八十里峠を目指したことがあったが、最後はヤブがひどくて苦労した。

と、いう具合に、八十里の話になるとつい脱線してしまう。峠から田代平までは所々登山道が崩壊して迂回路ができており、今年の残雪期に迷ったところはさもありなんという具合だった。五味沢林道分岐からはいつどんなシーズンに歩いても美しいブナ林の散策路。

 

 

田代平に立ち寄り黄金色の湿原の真ん中へ。いつも静寂の空間が好ましい。ただ気のせいか年々湿原が狭くなり低潅木帯に侵食されているように思える。そしていよいよ破間川へ。田代平に詰め上げる沢は途中に滝があって前回高巻きが大変だったので下りたくない。

 

地図で傾斜が緩そうな一本上流の枝沢を下ることにした。予想通り降りやすい枝沢だったが意外なことに途中はナメの連続だった。難しくはないものの先が見えなくなるたびに大丈夫だろうかと気を揉んでいたので、本流におり立った時はホッとしてうれしかった。すぐに左岸に平坦地を見つけ、ザックをおろした。

手分けをして整地と薪集めを行い、火が熾たときには薄暗くなり始めた。まさに釣瓶落としの秋の空。なんとか沢シーズン最後の焚火を思っていた場所でできてよかった。最後の晩餐よろしく、夕食は胡麻鍋にバーベキュー、簡単チーズフォンデュと、張り切りすぎて食べきれず。オリオンが確認できるまで焚火にあたりながらお茶しながらまったりとした時間を過ごした。

 

 

 

 

翌朝は軽く雑炊の朝食をとり、ザックも持たずに源流の散策にでかけた。当初は4月に下降した841mあたりまで行くつもりだったが、破間川に泊まっただけで満足してしまったのだ。沢自体はあまり変化のないゴーロ川原なので、雰囲気さえ感じられればよしとして809mあたりまで。

黒姫の北東尾根筋が手に取りように見える。川が大きく右に曲がるとブナ台地の先に烏帽子山が見えてきた。そろそろかなと、大岩の上で日向ぼっこをして戻ることにした。つぎがあるとは思えないけれど、もしあれば沢でもう1泊して中日はもっと上流の滝が見えるあたりまで歩いたり、覚えたての釣りをしたりしてゆっくりしてみたい(と妄想)。

 

 

 

テントサイトに戻ると干しておいたテントやタープも乾いていた。ここは朝から日当たりが良くて気持ちがいい。二度目の朝食とコーヒーで一服後出発する。最後の訪問地は鞍掛峠だ。下ってきた枝沢に入り顕著な二俣で鞍掛峠に詰める枝沢に進む。前日の沢とは渓相が全く違う。両岸が開けとても穏やかな沢だ。青空とブナがあればいい。

登山道が近づいたあたりで窪から斜面に取り付くと、あちこちにブナの大木がそびえている。枝沢の源頭部は守門岳を望むステキなブナの森だった。登山道にザックを置いて鞍掛峠まで一足ほど。八十里峠が知られているけれど、実際には鞍掛峠が八十里で一番峠らしい峠だと思う。只見側から下田へ峠を越えると景色が一変し、まずは正面に粟ヶ岳が目にとまる。自然と青里や矢筈にも目をこらす。粟ヶ岳はまた行きたい山で、白山から縦走してみたい。暖かい日よりで、峠を抜ける風が心地いい。ちっちゃなお社に手を合わせ、さあ帰りましょうか。

田代平までは展望のいいブナの道がつづく。黒姫・守門・烏帽子に抱かれた破間川源流への沢筋を幾度も見下ろしながら進む。沢筋を横断するところでは多くに八十里古道の石積が復元されていた。じっさい5年前に八十里峠の只見よりの道で、土に覆われた石積を掘り起こす作業に遭遇した。崩壊した道の付け替えも含め、見えないところで地道な作業がされており、そのおかげでいつも歩き通すことができることに感謝したいと思う。

快晴の週末なのに誰にも会わない贅沢な山旅。ただ、一組地元のキノコ狩の男性二人と話す機会があった。自分達だけのナメコの群生地があるらしく毎年八十里に来るらしい。最初は私たちのクマ鈴だけが聞こえてライバル(または同業者)と思ったのか偵察に来たところ、キノコには縁のなさそうなハイカーで安心したのだろう。ちょうど沢から這い上がる足場の悪いところで、手を貸してくれ戻っていったので少し妙な気がしたが。。

田代平から五味沢林道に進むが、ぬかるみがひどかったので沢靴のまま歩いた。地元の人は長靴を履いていた。知らずに登山靴だと酷い目に遭うので(要注意)。通年の状態だと思われる。林道をテクテク歩いて山道から車道終点の新しい橋まで戻ると車が2台とまっていた。林道入り口で一般車通行止めになっていたので私たちは歩いたのだけれど、地元の人はきっと入るだろうと思っていた通り。靴を履き替え休んでいると、件の二人組が戻ってきた。すると一人がビニール袋いっぱいのナメコを持ってこちらにやって来て手渡し、車で去っていった。

なんの縁もゆかりもないのにと思いながら、思い当たる節もなくはなかったが、もちろんお礼とともに喜んでいただいた。本当にたくさんのナメコ。帰ってあれこれ調理して美味しくいただきました。ありがとうございました。秘密のナメコ群生地、出会った場所や登山道から聞こえた彼らの声から察するに、きっとあの辺と、あの辺ですね。

どこの山行が一番好きかと聞かれたら、そんな野暮な質問には答えられないと思うけれど、たぶん八十里越ではないかなあ〜、丸山岳とは違う意味合いで。そんな風に思えたいい山旅だった。

 

 

 

 

 

 

 

五味沢林道入口9:30ー八十里峠12:00/12:20ー田代平13:10ー破間川幕営地15:30//9:45ー鞍掛峠11:20ー五味沢林道分岐13:00ー車道終点ー林道入口15:50