ブナの沢旅ブナの沢旅
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2022.06.04
参詣古道〜根本山
カテゴリー:ハイキング

2022年6月4日

なかなか思うような沢旅ができない。そんな時は沢にこだわらず面白そうなハイキングだっていいじゃないかと、安蘇山地根本山の参詣路に注目した。沢沿いの道なので沢を歩いたり登山道を歩いたりと、かつて人々が根本神社参詣のために歩いた古の道を歩いてみることにした。

根本沢自体はゴーロ沢で沢歩きだけではそれほど魅力があるとは思えないが、沢から根本山神社に至る参詣路として歩くととても興味深い。根本沢は桐生川源流林として今では自然保護の対象にもなっているようだ。登山口には立派な案内板が立てられ解説とともに参詣路の詳細図もある。

 

しばらく沢沿の林道を進むと沢コースの登山口があり、いきなりロープの急登となる。その後は穏やかな、いかにも古の参詣路といった雰囲気のトラバース道となり緩やかに沢を横断する。ずっと登山道を歩くのもつまらないのでここからしばらくは沢歩き。概ねおだやかなゴーロで時々段差があらわれる程度だが両岸が開けた自然林で雰囲気はいい。かつての参詣路をしのばせる石丁が並べられており道が沢に近いところでは幾つか認めることができた。

 

 

 

 

 

沢が大きく東に曲がる木根畑沢出合870m前後からは沢の中に石塔や石祠が見られ、突然のように沢沿に石段まであらわれる。登ると杉の大木が並び、いかにも参道という雰囲気となる。つぎの二俣は籠堂の跡地で石灯ろうが残っていた。足元にはかつてこの先の男坂に設置されていた鉄梯子が置かれていたが、これは数年前に地元の有志が登山道整備の作業で見つけて掘り起こしたものだという。また古文書からとった江戸期の根本山神社境内の絵地図が掲示されており興味深い。

 

 

 

日光足尾山地は古くからの修験道がたくさんあることは知っていたけれど、その隣の安蘇山地、根本山神社も歴史が古く、険しい山肌に祠や石像などが何箇所も設置された。少し進むと男坂と女坂の分岐となり、男坂に進むと水涸した陰険な雰囲気のゴルジュとなる。ほんとうにこんなところが参詣路だったのだろうかと思いながらよじ登ると、見かけほど悪くはない。ロープや鎖もある。近世には参詣者で賑わったという。けっして容易な経路ではないはずだが信心とは強いもので、道が険しければ険しいほどご利益が大きいと信じられていたのかもしれない。

崖の途中に祠があり、ここからルートが旧道と新道にわかれる。旧道には江戸時代からの鎖が残っていた。新道の方が険しさは少ないらしいが、古道探索なので旧道へ進む。ロープが張られており江戸時代からの鉄の鎖は腐食しているため使用しないようにとの注意書き。谷筋は恐ろしく急峻だがしっかりした岩角を三点確保で容易に登れる。

一旦小尾根に登り上げると鐘撞堂と奥に根本山神社本社が建っており、こんなところにと驚く。本社は鐘撞堂の奥にありそこまで踏み入らなかったが、後になって覗いておけばよかったと少し残念。一服する間もなく行く手にそびえ立つ岩尾根にとりつく。ここも鎖が張られているが、ホールド、スタンスがあり掴める木の根もたくさんあって楽しい岩登りと言えるかもしれない。

獅子岩と呼ばれる展望台に立ち寄り、さらに登って行くと根本神社奥社があらわれる。ミニチュア版のようだが、よくもまあこんなところにと思うこと、これが何度目だろうか。

 

 

 

 

しだいに傾斜が緩み普通の登山道らしくなって行者山(峰の平)に着いた。ようやく一息つくことができ、朽ち果てたベンチに腰掛けて遅めのランチタイムとする。当初は根本山からさらに熊鷹山を経由して下山する計画だったが、予想を超えるアドベンチャーにお腹がいっぱい、時間もいっぱいになる。せめて根本山だけは踏むことにしてのんびりしていると、途中で出会ったファミリーが登ってきた。

小さな男の子連れでクライミング完全装備のお父さんがロープを出しながら登ってきたようだ。男の子に「ここを登ってきたなんてすごいねー」と感心して話しかけると、気さくな男の子は、なんてことないよーと言わんばかりに自分のことを話してくれた。4歳から登っていて今は6歳なのだそう。

彼らが去った後、岩登りでも大人の目線と子供の目線は違うので、大人が思う以上に平気で登れるのかもしれないなどと言い合う。そういえば昔の話だが、丹沢の広沢寺で岩トレをしていたある時、子連れファミリーが隣でロープを出していて男の子が大泣きしていた。その時は最初、登りたくないのに親に言われて嫌なのかしら、怖いのかしらなんて思った。ところがよく話をきくと、あるルートが登れなくて悔し泣きしているのだという。それでいたく感心したことを思い出した(と、脱線)。

根本山は樹林に囲まれ展望のない平頂だった。とりあえず来ましたという写真をとって引き返し、中尾根を下る。緩やかな歩きやすい尾根だが最初は植林帯で味気ない。1000m付近からは自然林を下ると950mあたりで突然左手斜面から黒く動く小動物があらわれ咄嗟に子グマだ!と緊張が走る。仲間は先に進んでいたので丁度二人の間くらいの位置だ。子グマといえば母グマが近くにいるかもしれず、子連れのクマは危険だと刷り込まれているので慌てて登山道を後ずさりしながら戻り笛を鳴らす。

あれこれ音を立てても子グマは逃げようとせず何とこちらに向かって登ってくる。逃げると逆効果だと思い静かにしていると近寄ってくる子グマは生後2-3ヶ月ほどで小さくぬいぐるみのように可愛く恐怖感がわかない。けれどいつまでもじっとしていると母グマがあらわれやしないかと気が気でない。こうなったら立ち去るしかないと足を踏み出すと子グマがまるで足元にじゃれてくるような仕草をする。母グマの恐怖さえなければ抱き上げたい気分にもなる。

足元の子グマを避けながら歩き出すと子グマはちらっとこちらを見上げながらすれ違って上に登り始めた。振り返ると背中が見える。ようやくホッとすると同時に慌ててカメラを取り出すと仲間にそんなことしている場合じゃないと叱られながら、かろうじて一枚。

そそくさと下ると何と子グマはクゥークゥー泣きながら引き返してくる。まるで甘えているような鳴き声を背に一目散に下って安全圏へ。そしてあたらめて振り返ってみた。ひょっとしてあの子グマは母親とはぐれたのではないかとか、母親に何かあったのではないかと。。。あれこれ子グマの話題で盛り上がりながら駐車広場に戻った。

そんなわけでちょいワルの参詣路や子グマとの遭遇など予想外にエキサイティングなハイキングとなったのだった。

 

 

子グマのことが気になって他に目撃者がいないか検索したところ、5月末に登山口付近での目撃情報やYMAPに私たちの二日前と翌日に子グマに遭遇した写真記録が掲載されていた。場所もほぼ同じ900m前後の尾根だ。何日も続けて母グマと離れて遊びに出かけたとも思えず、やはりはぐれたのだろうか。その後の所在が気になるところだ。

登山口10:15ー籠堂跡12:50ー鐘撞堂(根本山神社)13:25ー行者山14:05/14:30ー根本山14:50ー950m子グマ遭遇ー登山口16:15