ブナの沢旅ブナの沢旅
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2022.04.20
倉前沢山〜村杉岳
カテゴリー:雪山

2022年4月19-20日

ブナの沢旅らしくもなく、3年前村杉岳の奥にある大川猿倉岳をめざした。けれどズタズタの雪渓の壁を下ることができずにあえなく撤退。だから今回は再挑戦、ということは(いま風に言うと)1ミリも思っていない。柄にもないことはすべきでないとの教訓を胸に、ひたすら村杉のたおやかなブナの山歩きと焚火を楽しもうと現地に向かった。

村杉半島に上陸するには二つの苦手がある。一つはシルバーラインのトンネル。自分が運転するわけではないけれど、どうもあの洞窟のような長いトンネルは落ち着かない。もう一つは丸山スキー場から村杉半島に通じる只見川沿いの林道雪の片斜面のトラバース。いつになっても慣れずに緊張する。青い上大鳥橋が見えてようやく人心地つくというのがいつものパターンなのである。

 

橋から少し進んだ木陰で一休みしてから倉前沢山の尾根を登る。手前に張り出した斜面に取り付いて適当に登るとすぐに傾斜の緩んだブナの広尾根となる。なかなか雰囲気のいい尾根だ。1000mを越えると等高線が詰まり、それに比例するようにブナが整然と並ぶ端正な森となる。曇りがちだった空に青空も広がり気持ちいい。

再び傾斜が緩むと稜線が近い。前方に見える幾重にも枝を広げたランドマークのようなブナに迎えられる。思わず、またやって来たよーと声をかける。さらにひと登りで広尾根にあがる。尾根とは思えない広い雪原台地の真ん中に進み、ふたたび思わず、いいところだねえー。

あたりはどこも幕営適地だが、薪木が集められそうな場所を探しながら少し先に進む。鞍部の谷筋にでるとさっそく丸山岳がはっきり見えてよろこぶ。4年前に村杉岳から丸山岳に続く尾根をたどった時は細尾根の藪の通過で時間がかかったが、実際にはとても近いことがわかる。

丸山岳の展望も捨てがたかったが、焚火適地ではないため樹林際を整地してテントをはった。容易にたくさんの薪木が集まったのだが、なかなか火を熾すことができず諦めた。いつになっても焚火は下手だし雪渓処理もできないしと、進歩がない。それでも細々と続けていられるのが不思議なくらいかもしれない。

こんなことなら尾根上にテントを張れば良かったとは後の祭り。テントから10歩ほど上がって夕日で染まり始めた東側の山並みを眺める。丸山岳はさることながら梵天岳も大きく存在感のある山だ。日が長く、ようやく暗くなった頃シュラフにもぐる。風もなくとても穏やかな夜でぐっすり眠ることができた。

 

 

 

 

予報通り快晴の朝を迎えた。雪面は固く締まって歩きやすい。ブナ林の上に村杉岳の丸く白い山頂が見えてきた。振り返ると丸山スキー場の奥に奥只見湖を取り巻く山並みを見下ろす。私にとっては未知の山域だ。顕著な山容の荒沢岳だけがガスの中。

三羽折ノ高手からみる村杉岳の姿が優雅で美しい。ここから見える姿は文字通り丸山のよう。ブナ林が美しい。なにもかもが美しい。村杉岳から下る予定の尾根の向こうには毛猛山塊の山達が凛々しく見える。東の白戸川対岸の山並みに目を凝らす。会津朝日から高倉山の尾根はとても険しいらしいが、さらに西の姥ヶ懐付近は穏やかそうな雪尾根だ。洗戸沢に下る途中にはステキなブナの尾根になるらしいなど興味をそそられるが、向高倉南尾根も含め「アメとムチ」のラインなのだろう。尾根筋は黒々としたところが多い。やはり丸山岳は南会津側からがいいと思う。

そんな風に景色を見ながら山頂へ。今までで一番藪や灌木がでていた。少し東によるとすっきりとして猿倉山から横山、その奥には浅草岳と守門岳、東には御神楽岳も見える。会津朝日岳から大幽山への稜線は黒い小さなコブがいくつも並んでいる。未丈ヶ岳と奥の中の岳、越後駒も明瞭で贅沢な展望だが、自分にはどうも縁のない山々のようだ。未丈のJPなんて小指ほどの突起にしか見えず、あんなところを越えられなかったなんてと、滑稽にさえ思う。

 

 

 

 

 

 

村杉岳をあとにしてまずは1508mのポコへ向かう。一部尾根に藪がでていたり大きなクラックが何箇所かできていたりと、今年は様子が違う。年初は大雪だったのに急激に融雪が進んだせいなのだろう。1508mポコも藪に覆われていた。前回はここから宿ノ塔を経て大川猿倉山へ向かった。その尾根を横目に見ながら村杉沢右岸尾根を下る。毛猛から未丈の稜線を正面に見渡しながらの絶景稜線漫歩の始まりだ。村杉沢の源頭部もうっとりするほど緩やかなブナ林の谷。

 

 

 

ひとわたり展望を楽しんで下って行くと次第に尾根はブナが顕著となる。まっさらな雪面にブナの大木だけが整然と並んでいる。1200m付近でいったん展望の開けた雪原台地となるところが前回テントを張った場所だ。そして一段下がった広尾根が最初に出会ったときに感じたままを命名した「賢者の森」。ここのブナは他の村杉のブナと風貌が違っていると思うのは自分だけだろうか。記憶通りのままの姿をとどめていた。さっさと通り過ぎるのはもったいないので少し足踏みしながらティータイム。いつもつぎはここに泊まりたいと思ってしまう。

 

 

 

さらに下ると尾根が広がり枝尾根が派生してルート取りに気を使う。おまけに藪も出ているため下るべき尾根が見通せないためGPSとにらめっこすることしばし。只見川が見えてきたところで雪が繋がっている下りやすそうな斜面に舵をとりなおし、最後は村杉沢出合より少し奥の林道に下った。

村杉沢出合まで戻ると着地を予定していた尾根の先端は雪がない藪の急斜面だったので予定外の着地で正解だったようだ。一方過去2回は水がジャージャー流れていたコンクリート橋は完全に雪で埋もれたスノーブリッジ状態。今年は雪がなくなっているところと多いところのギャップが大きい。ともかく無事に林道に下り立つことができてホッとする。ところどころあらわれる土手のフキノトウを摘みながら上大鳥橋までもどる。木陰で一休みして橋を渡ると村杉半島とはお別れだ。

長い林道を歩いて行くと釣師が川原に下りていくのが見えた。その足跡をたどって行きに緊張した片斜面を難なく通過すると、別の釣師とスライド。少し立ち話をすると翌日21日が禁漁の解禁日とのことで、これから橋の奥まで行って翌日にそなえるとのこと。いつも解禁日にやって来る常連さんが6-7人いるのだそう。ダム湖では大きなイワナが釣れるそうですねと水を向けると、去年は53cmと56cmを釣り上げたと嬉しそうに話してくれたのが印象的だった。聞かれるまま山に登って泊まってきたというとすごいですねーなどと言われたが、それぞれが自分流の自然を楽しんでいると思うととても爽やかな気持ちになった。

 

 

 

 

奥只見丸山スキー駐車場9:30ー上大鳥橋11:50/12:15ー倉前沢山15:50ー幕営地16:15//6:00ー村杉岳8:00/8:30ー(村杉沢右岸尾根)ー村杉沢出合12:20ー駐車場16:00