ブナの沢旅ブナの沢旅
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2022.04.05
守門黒姫〜破間川源流〜田代平〜八十里峠
カテゴリー:雪山

2022年4月5-6日

二つの計画案があったが直前になって只見線が大白川〜只見駅間が4月8日まで不通になっていることを知った。一つは只見線を利用する予定だったため、もう一つの破間川周回を先行させたが、時期的にはその方がよかった。今年は大雪なのでタイミングは大丈夫だと思っていたが3月に入ってからの融雪が早まったようでもっと早い時期の方がよかったくらいだった。

ゆったりとした山並みの雪尾根から沢の源頭部を見下ろすと、うっとりするようなメローな斜面に魅せられることがある。7年前に黒姫から袴腰の雪稜を歩いた時に見た破間川源頭もその一つだった。その心象風景を実現させようと再度黒姫に向かった。前回は大雲ヒュッテに前泊したが、今回は比較的短い(と、この時は思っていた)行程なので当日の朝、浦佐駅から現地に向かった。

平日ながら除雪終了点の車道脇にはすでに10台以上も駐車しており、東京や関東圏のナンバーが多かった。黒姫パーティもいると思ったがすべて浅草岳方面だった。雪面をトラバースして橋を渡りしばらくは林道を進む。出発が遅いので早くも雪が腐っており、暑さがこたえる。沢に下りてからも日陰がない開けた雪原の開放的な景観がつづく。振りかえると浅草岳がゆったりと大きく尾根を広げている。

斜度が増して源頭から尾根にあがるとさらに開けたブナ台地となり、ここにテントを張ってしまおうかと思いたくなるほど気持ちのいい所だった。コース取りはどうにでもできそうだが古いトレースをたどって楽をする。稜線下の最後のブナ林の木陰で大休止後、1328m鞍部を目指して長いトラバース。見下ろせば真っ白な広大な雪原台地が広がる。スキーヤーにはたまらない斜面なのだろう。

 

 

 

山頂稜線に乗り上げると北側の展望が開け破間川源頭と対岸の烏帽子山が近い。ここからは急斜面の下りやナイフエッジの記憶が生々しい。さっそくの激下りは仲間がバックステップで先行する。こういう時私は腰が引けてしまう。黒姫はずんぐりゆったりとした山容なのに、たどり着くまでの稜線が細くくねっていて振り返ると美しいフォルムを見せている。

最後はまん丸い山頂へ。全然違うけれど丸山岳の最後みたいだなどと言いながら丸く広い斜面を登る。黒姫は遠望すると形の整った守門の隣のずんぐりした小山にしか見えないが、山頂からの展望はなかなかのもの。久しぶりに会越の山並みを目にして忘れかけていた何かが反応する。粟ケ岳から矢筈岳さらにずっと奥には御神楽と飯豊山脈がならぶ。翌日向かう田代平が眼下に近い。浅草岳方面も最奥に越後三山や燧ヶ岳、特徴的な未丈や荒沢岳など贅沢な山並みだ。

風もなく穏やかな天候のため山頂にテントを張ることに不安はなかった。久しぶりの山頂テントだとはしゃぎよろこぶ。整地は不要で快適な幕営地となる。テントから袴腰に落ちる夕陽を眺めながら贅沢な気持ちで食事を楽しんだ。

暗くなってからは新潟平野の夜景が眼下にきらめき、まるで大都会のようだ。さらに真っ暗な山あいに国道289号の橋梁の灯りが見えてその近さが意外だった。また南側の山あいにも不釣り合いな灯りがキラキラ見えたのは奥只見スキー場だろうか。久しぶりの山頂夜景に興味が尽きなかった。

 

 

 

 

今回の山旅は初日がアプローチで二日目がメインディッシュとなる。地図からの予想通り山頂から北に向かう尾根を緩やかに下る。烏帽子山の東方向の稜線を追いながら下ると顕著な鞍部となる。八十里越で越えた鞍掛峠だ。積雪期に山の上から見下ろすなんて思ってもいなかったのでちょっとした感動だ。八十里越に関係することになるとざわついた気持ちになるのはなぜだろう。

1200mあたりからは等高線が詰まってくるがブナの森の雰囲気に包まれており雪も適度にもぐるので快適に下る。曇り空のモノトーンなのが残念かもしれない。正面の烏帽子山は八十里越の登山道から見上げるのと違いブナ林の緩やかな尾根を幾重にも落として優雅なたたずまい。守門岳からの稜線もしっかり雪で繋がっていて一見悪そうに見えない。

破間川源頭841m付近に下り立った。予想よりも広々とした源流で全体が河岸台地のようだ。振り返るとさらに上流までゆったりとした空間が続いている。地図では892m二俣も等高線がゆるいので、こちらに下ってもよかったかなと思う。

 

 

 

しばらくは主に左岸の段丘に沿って緩やかに下る。広々と気持ちのいい雪の源流歩きが続く。ところが鞍掛峠に詰める枝沢をすぎて沢が南に向きを変える所で水の音が大きくなり行き詰まる。雪が切れ落ち雪壁に囲まれたプールのように沢が出ていた。両岸は狭まり傾斜が強いためトラバースはできない。どうしてここだけ穴があいているのか不思議だったが、少し戻って高巻くことにした。

緩やかな小尾根を乗り越して田代平に詰める枝沢出合の少し上に下った。あたりは雪に覆われた広い空間になっていたが沢の奥に水の音がする。いやな予感を抱きながら登っていくと案の定滝がでていた。巻くのも容易ではなさそうだが右岸の斜面は確保なしでは滝壺に落ちそうで恐ろしい。

ということで再び右岸手前から高巻く。危なくはなかったけれど藪が出ていたりで沢に戻るのに手間取ってしまう。ヤレヤレ悪場は終わったと傾斜の緩んだ沢を登ると一気に視界が開けるが、一面デブリに覆われた光景に目を丸くする。すでに時間が経過しているようでデブリは固く、まるで沢の大岩ゴーロを通過するような感覚でやり過ごす。

 

あれやこれやでようやくたどり着いた田代平だった。最後は予想外の事態に手間取ってしまったが、このころから青空が広がり始めた。当初は前夜発で田代平にテントを張ることも考えたが、実際に立ってみるとだだっ広い(だけの)田代平より黒姫山頂の方がよかったと言い合う。振り返って見える守門と黒姫の姿に慰められる。3年前に田代山の稜線からいく筋にも沢の流れが見える田代平の雪原を見下ろしたことが記憶にあたらしい。

さてと腰をあげ、最後の目的地となる八十里峠に向かう。田代平を横断して林道に出ると古いスキーのトレースがあった。林道沿いに登ってきたのだろうかと興味を引かれながら林道を離れ、峠に向けて丘陵を直進する。一昨年6月に八十里越を歩いた時は何度か道を見失い迷ったところも雪があればどこでも歩くことができる。

八十里峠は木ノ根峠が正式名称のようだけれど、八十里峠と呼びたい。積雪期はあまり風情のないただの窪地なのだが、一時は危ぶんだ周回の旅の終着点なのだ。ようやく余裕もでて長めの休憩をり、あれこれ思い出にひたる。

 

 

 

無雪期には「八十里古道入口」の小さな標識が埋められていた境界尾根を登る。丸倉山から東に山並みを追うと1032mの前山が目立つ。とすれば、東に赤崩峠、北に見えないけれど新山峠という位置付けで、左奥が五兵衛小屋かしら、中の又山は見えないななどと、なかなか行けていない只見の奥山を思う。

浅草岳に至る境界尾根は残雪期に藪で苦労したが、さすがにまだ雪で繋がっているようだ。990mから境界尾根を離れて南に下る尾根にのる。一帯は緩やかなブナ林でとても雰囲気がいい。そのまま下ると岩マークのポコに当たるので適当な所から沢を下ると平坦な湿地帯となる。かなり木も生えていて地図の示す湿地ではなさそうだ。

ふたたび顕著な尾根に復帰するところで迷う。地図と実際の地形が一致しないためGPSに頼りっぱなしとなり情けない。いつまでたっても読図がへただ。よくわからないまま本流沿いの尾根筋を意識しながら進み、最後は窪地を下ると林道に下り立った。読図に自信がなくなり雪が深くて林道かどうかも不安だったが、前方に電信柱が見えたのでようやくホッとする。

左沢出合の橋を渡り浅草岳方面からの林道と合流するとおびただしい数のトレースがあらわれた。疲れも手伝い長い林道を淡々と下ると除雪終了点の建物が見えてきた。田代平への詰めで手こずりはしたけれど、以前から気にかけていた破間川源流周回をやり遂げ、私はこういう山旅が好きなんだと心から思えたのだった。

 

 

 

駐車地点10:00ー1328m鞍部15:00ー黒姫16:30//5:50ー破間川7:00ー田代平9:30ー八十里峠10:45ー林道15:00ー駐車地点15:45