ブナの沢旅ブナの沢旅
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2022.03.12
尾白山〜古町丸山(撤退)
カテゴリー:雪山

2022年3月4-5日

今回の山行は不本意にもトピックが巨大クラックの転落と脱出になってしまったが、偉大な里山である尾白山と古町丸山のブナと展望を楽しむシューハイキングとなるはずだった。二日目は午後から天候が崩れる予報だったのでテント泊ながら実質は日帰りコースを選んだのだ。本来なら毎年訪れている山毛欅街道方面に行きたかったが、もっとゆったり時間が取れる時に先送りした。

交通の便が悪いので車を利用したが大雪のため登山口のある集落はどこも駐車スペースがない。かろうじて見つけたスペースも除雪車が入る場合は使えないが、隣の家の方に声をかけ大丈夫と了解をもらって駐車させてもらった。小塩登山口に近かったので取り付き場所を変更し、林道を小一時間ほど歩いて尾根に取り付いた。道標もなにも埋もれているので登山道と言っても無きに等しい。駐車広場からは新しいスキートレースがあったのでちょっと期待したが、滝沢川沿いの林道をさらに奥に進んでいたので尾根からはノートレースとなる。

雪はそれほど沈まず、まずまずのペースで登っていくが、所々雪庇の壁ができていて迂回しながら進む。宮沢登山口と合流するあたりから尾根は一本となる。10年以上前の3月20日頃に来た時は痩せ尾根の登山道は多く雪が消えていて順調に登ったが、今年はとても雪が多い。1100mを越え西向の尾根に乗り上げるところは雪庇の雪壁ができていた。西よりの隙間の雪を崩して尾根に乗り上げると北側の展望が開け、正面に大博多山が見える。

前回はこの辺りでテントを張ったが、もう少し進むと山毛欅の広尾根になり残念な思いをした記憶があったので、緩やかにくねったクリーミーな細尾根を越えさらに進む。記憶通りポコを越えると景色が一変して穏やかなブナの台地となり心が和む。できるだけ進んでおきたかったので、もうすこし先の広尾根までと思ったが、仲間がいつになく疲れた様子だったので、ザックをおくことにした。今までの雑然と痩せた五葉松の尾根とは違いとても快適なテントサイトだ。風もなく整地も楽だった。夜は星がでており翌朝の好天が期待できた。

 

 

 

 

 

厳冬期はテント内に薄く氷が張り付くが、今回はほとんど乾いていた。夜中も比較的暖かく確実に春の気配が感じられた。古町丸山を往復して午後の早い時間に下山したかったので早出を心がける。けれどのんびりしたつもりがなくても時間は過ぎ、日が昇り始めていた。雪も締まっていて快調にブナの尾根を進む。前方に1278mの小ピークが近づき南斜面には大きく雪庇が張り出している。

いつの間にか先を進んでいた仲間が見えなくなり大きな声が聞こえてきた。さてはクラックにはまってしまったのかなと思い駆けつけた。この時はよくある踏み抜きくらいにしか思わなかったのだが。。

 

 

仲間はこれまで経験したことのない深いクラックに落ちてしまったのだった。転落の場面を目撃はしなかったが、雪庇が薄くなっているところを踏み抜き穴に落ち、まずはクラックを串刺しにしている枝に引っかかり、それから持ちこたえられず数メートル下に落ちた。穴の中は両側はまるで石切場のような硬い垂直の雪壁で、前方の上は開いて光が入っていたが、下半分は急傾斜の硬い雪壁。上からは雪庇が張り出していて最初は近づけず、中の様子は落ちた穴を細い木に捕まって上から少し見下ろす程度だった。

脱出は前方の傾斜壁をスコップで崩して這い上がるしかないように見えたが、雪が固くてスコップがさほど役に立たない。上からおりられないかと行ったり来たり探りを入れるが目処たたず。しばらくは手の打ちようがなく時間がたつ。まさか救助要請になるのか。。という思いがよぎる。なんとか下って助けなければとおり口をさぐる。スコップと補助ロープは転落した仲間が持っていて私は空身だった。もしロープを持っていたら対処できたかといえば、支点が作れずゴボウ登りもありえず、離れた場所の木では雪庇を落としかねず。。。

そうこうしているうちに、ストックでつついたり足場を踏み固めようとしたりしたせいか突然目の前の雪庇が幅3mほどストンと崩落した。驚き焦って下にいた仲間が埋もれていないか声をかけると返事があり、大丈夫だけれど左足の上にブロックが落ちて抜け出せないとの声。手でまわりの雪を取り除き足が動くようになるまでしばらく時間がかかった。

一方崩壊した雪庇がブロックとなって急斜面の雪壁に落ち込み段差ができた。入り口が明るく広くなった。そこで意を決して上部のブロックに滑り落ちるようにずり下りた。これで下にいる仲間が見えるようになりクラックの状態もわかった。そこでようやくクラックの様子をカメラにおさめることができた。

ブロックが硬い雪壁を覆ってくれたので下から這い上がれそうだ。けれどザックやシュー、スコップなどが雪に埋もれてしまったという。下に降りて一緒に掘り起こそうと思ったが、時間がかかるし何よりも早く脱出したいとの強い訴え。なんとか無事に脱出することが最優先だ。ブロックの上まで上がってきてもらい合流して少しホッとする。ここからさらに人の背ほどの段差を這い上がらなければならない。私がずり下りた側は垂直で難しいため反対側の雪が柔らかな傾斜壁を踏み固めながら慎重に上がって雪面に乗った。1時間半ほどの脱出劇だった。天気が良く時間もたっぷりあったためそれほど悲壮感はなかったのが救いだった。

 

 

 

撤退を言うまでもなく即座にその場を離れテン場にもどった。テントを撤収し荷を仕分けした後はコーヒーを沸かして二回目の朝食をとりながらまずは無事を喜んでくつろぐ。双方に反省がある、いろいろと考えさせられる体験となった。

仲間に対しては、限りなくクラックが疑われるルートに突き進んでいるように見えて正直なところ唖然とせざるをえなかったと伝えた。話を聞けば、自分でも樹林側に向かおうと意識はあったのにボッーとして歩いてしまったという。前日からの疲労感が尾を引いていたのかもしれないと。確かにそれほど大変なコースではないのに息切れして辛そうに見えた。さらに聞けば、今回の山行も疲労感が取れない状態だったという。

私は自分の気持ちばかりを優先させ、馴れ合いも手伝って仲間のことは自分と同じ状態くらいにしか思っていなかったと思い知らされた。また今回のような場面に直面した時、どう対処すべきかも実はわかっていなかった。場当たり的に雪庇の崩落の『おかげ」で何とかなったけれど、場合によってはブロックの直撃を受け危なかったと思う。

さて、仲間はザックやシューなどを埋没させてしまった。けれどテントサイトからのピストンだったので、中には多少の行動食と飲料だけで貴重品のバッグは無事だった。下山はザックの中袋を担いで事足りた。これで編笠をかぶれば昔の行商人みたいだなんて冗談をいう余裕もあった。自分たちのトレースをたどり昼には下山。駐車の便を図ってくれたお宅に挨拶をして帰路に着いた。

 

 

振り返れば尾白山〜古町丸山はなぜか因縁の山旅ばかりだ。最初は山行日を(どちらかが)間違え、合流して歩き始めたのが午後3時半。一般には行動を終える時間だ。けれど寡雪のおかげで明るいうちに何とか今回とほとんど変わらない地点まで進み、翌日は古町丸山から山毛欅沢山経由で下山した。2回目は城郭朝日山からの下山路として歩いたのだが、尾白山からの痩せ尾根のアップダウンに難儀して這々の体で薄暗い林道に降り立った。そして3回目はクラックへの転落。

いつも何か起きる因縁の低山里山。だからこそ一見平凡な特にきわだった魅力があるわけでもない里山でも記憶に残る山になる。後日、残雪期に現場検証がてら撤退したコースにプラスしたブナの山旅をしたいと伝えると仲間にイヤだと言われてしまった。けれど無雪期になったら藪に残置したものを回収しなければならないと合意。いろいろと宿題ができたけれど、それも含めて山と付き合う気持ちは変わらないだろう。

小塩登山口11:30ー1140m幕営地15:45//6:20ー1200m6:50/8:20ー幕営地8:30/9:40ー小塩登山口12:15