ブナの沢旅ブナの沢旅
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2010.04.03
鍋倉山~牧峠(信越トレイルーpart1)
カテゴリー:雪山

2010年4月3-4日

 

先月の守門・黒姫ではホワイトアウトに尻込みして山頂を目前に引き返し、心残りの山行となった。そこで今回はその時の消化不良メンバーで、といっても自分だけかもしれないが、人気のブナ山である鍋倉を中心に、信越トレイルの一部を縦走する機会をえた。

今回の集合場所は、はじめての本庄早稲田駅。kukenさんにピックアップしてもらい、上信越道を経て鍋倉山の取り付き点である温井集落へ向かう。すでに多くの車が駐車しており、さすが人気の鍋倉山と、感心することしきり。予報があまりよくないので、一日目は巨木の谷でブナの大木に対面し、尾根のブナ林を楽しむ心づもりだ。

人が多く入っているのでルートも明瞭。田茂木池はほとんどが雪に閉ざされ大雪原のようだ。雪原を横断して田茂木小屋へ向かう。小屋の裏に大きな杉の木があり、ここが尾根の取り付きの目印となる。谷を挟んで両岸の尾根とも登られているようだが、巨木の谷へは左岸尾根がアプローチとなる。

しばらく登るとガスが出て小雪が舞い始める。歩き始めたのが遅いので、早くも滑り降りてきたスキーパーティと話をかわす。視界が悪いので彼らのアドバイスに従って目の前の斜面を直登することに。吹雪となってほとんどホワイトアウト状態になるが、心配になるころ傾斜がゆるんで左手の先にうっすらと谷筋が見えてきた。

トラバースして左岸尾根に乗るとトレースがあった。少し下ってみると広い盆地状の源頭部だった。ここが巨木の谷に違いないと下っていくと人の声が聞えた。幸いガスがはれて谷の全容が見渡せるようになった。

まずは森姫を探す。それらしき大木に近づくが確信が持てない。帰り始めた先行パーティのリーダーに聞いたところ、間違いないという。意外と簡単に見つかった。近づいてみると確かに群を抜いた巨木だが、事前情報の予想通り老朽が進んでいて元気がない。上部は枯れかけている。頑張れ、森姫!

森太郎はそこから200mほど上にひときわ大きな存在感を示している、こちらはまだ元気そう。感激の対面を果たすことができてうれしい。近づくと本当に大きい。日本で6、7番目に大きなブナということで、胴回りは数メートルほどか。巨木の谷はおとぎ話の世界に出てきそうな素敵な異次元の空間。

初日の目標が達成できたので、森太郎の脇で食事を取りながらしばしくつろぐ。ふたたび雪が降り始めたが、幻想的で美しい。左岸尾根に戻り、山頂を目指す。すぐにブナの尾根となり、霧氷のブナ林が美しい。完全なブナの純林で、姿勢よく真っ直ぐ天空に延びて枝を広げ、樹肌が白く端正だ。ブナ林は山頂近くまで続いている。途中視界が開け、これから進む関田峠方面の稜線が見渡せた。たおやかでなんと魅力的なことか。

ひと登りで山頂へ。ずっとガスが出たり晴れたりの繰り返しながら、山頂に着いたときは再びガスが晴れ、稜線がエレガントで美しい仏ガ峰方面を見渡すことができた。けれど展望もつかの間、あっという間にホワイトアウト。山頂は広く、進むべき方向も尾根筋がはっきりしているわけではない。コンパスで慎重に方向を定めて下る。薄いスキーのトレースがあるので間違いないだろうと進むが、鞍部近くでいつの間にか南西方向の枝尾根に進んでしまった。尾根が痩せ、おかしいと思ってコンパスを見て気がつき、あわてて戻る。

このあたりでkukenさんは、視界も悪いしビバークしようかと提案するが、主尾根にもどれば大丈夫と強気の却下。戻って再び地図とコンパスをにらめっこ。時折うっすらと尾根らしい樹林がみえる。地図で見るよりかなり意図的に北にすすむような気持ちでようやく黒倉山方面へ。

こんもりとした小山で再び読図に頭をひねる。視界があればまったく問題ないコースなのだが、尾根が広がっているだけにわかりにくい。まさに実地の読図テストなり。ちっとした雪庇の山を越えていくと、突然太陽が出てガスが消えた。そして真っ白いブナの樹氷に覆われた鍋倉山が美しい姿をあらわした。この劇的な変化は、まさに感動の一瞬だった。二人で読図を頑張ったご褒美だねと喜び合う。

緩やかに下って筒方峠へ。ここからはさらに尾根が広がり、どこでもテントが張れそうな地形となる。関田峠まで進んで茶屋池方向に少し下った大ブナ林帯で幕営する予定だったが、ガスが晴れず4時近くなったので適当なところで行動を終えることにした。筒方峠先の二重山稜を右方に進んでしまった(主尾根は左)が、眼下に緩やかな台地状の場所が見えたので、そこに下って幕営。

整地をしっかりしてとても快適なテンバとなった。ビールで乾杯後はあれこれ準備した前菜とキムチ鍋で温まり、満たされた気持ちと明日の快晴を信じてシュラフに潜る。夜中に外にでると月が出ている。星も見える!これで晴れを確信してふたたびお休みなさい。

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朝はのんびりするつもりだったが、快晴につられて5時過ぎからテントの周りで予想外の展望にはしゃぎまわる。鍋倉のたおやかなブナの尾根が麓まで延び、スキーのシュプールが見える。眼下の千曲川の川面には霧が立ち込めとても幻想的だ。見上げれば恐ろしいほど真っ青な空・・・すべてが完璧な一日の始まりだった。

主稜線に戻るため枝尾根の鞍部に乗ると反対側は広い雪原台地となっていて思わず歓声。振り返ると樹氷のブナ林が朝日に映え、それはそれは美しい。うっとりしながら進んでいくと、すぐに右手下に茶屋池が見えてきた。小屋も見える。時間もあるので下りて行きたかったが、少し斜面を下って眺めるだけで諦める。

地図にある湿原台地は緩いカール状の真っ白な雪原。稜線からは西に妙高・火打山の高峰が、東南には苗場山や鳥甲山。そして上越国境稜線がはるか彼方に白く浮かんで見える。素晴らしい展望に、うわぁーとか、うおぉーとか、二人とも感激で言葉にならない。大きく枝を広げたブナが真っ白な雪原に美しい影を投げている。すべてがなんと芸術的なことか。

関田峠では反対側の小山から2人パーティが下ってくる姿が見えた。手を振ると応えてくれた。新潟から来たという山慣れした年配者で、去年信越トレイルを全コース歩いたと言う。きっととても気に入っての再訪なのだろう。予想以上に素晴らしいコースなので私も是非全コースをトレースして見たいと思う。

関田峠からは緩やかなアップダウンを繰り返しながら下ってゆくのだが、少し冗長な感じになってくる。と同時にスノーモービル隊が登場し、うるさいことこの上ない。大型バイクのようなすごい馬力で稜線の急斜面も登ってくるのだからたまったものではない。おじさん達も自覚しているようで低姿勢だったが、騒音や排ガスに何の規制もないのだろうか。

牧峠に近づくと前方に菱ケ岳の顕著な姿が遠望できるようになる。その先の天水山が信越トレイルのいわば始発点。いつかきっと・・・。そうそうたる山並を抱える長野県と新潟県の中では目立たない存在で、昭文社の登山地図ではどこにも収録されていないし、地図を見るとちょっとした丘陵にしか見えないが、実際に歩いてみると予想以上に素晴らしいコースであることを実感。

それというのも日本一の豪雪地帯に位置していることが大きいのだろう。なだらかな山並の山腹がすべてブナの純林で覆われているというのも特筆すべきだ。ブナしかこの豪雪に耐えられないからだという。

牧峠の先の1011m峰は360度の展望がすばらしいとあったので、ここを登ってから下る予定だったが、kukenさんはその気がないようで、トレースにそって峠手前の尾根を下っていってしまう。登りたいなあ~と水を向けてものって来る気配なし。未練たっぷりに諦めて急斜面を下ると林道と交差。

急斜面をトラバースするルートをさけ、別ルートの小尾根を下る。林道に下りる前に雪原を見下ろしながら昼食の休憩をとり、最後の余韻にひたる。土倉集落の車道でシューをはずし、長い長い車道を歩いて車をとめた温井集落の除雪終了点まで戻った。

信越トレイルはブナのトレイルということを知り、かねてから関心があった。去年計画を立て、信越トレイルクラブが発行した地図も買い揃えて準備をしていたのだが、他に行きたい山が目白押しで後回し状態が続いていた。けれど今回実際に歩いてみて、予想以上に素晴らしいコースであることが実感でき、是非全コースを歩いてみたいという新たな願いが生まれた山行となった。

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4月3日 温井集落10:25-巨木の谷12:30/13:30-鍋倉山14:30-黒倉山15:15-関田峠手前1100mテンバ16:10

4月4日 テンバ8:10-関田峠8:50-牧峠10:45-土倉13:00-温井集落13:55