ブナの沢旅ブナの沢旅
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2010.04.09
村杉岳
カテゴリー:雪山

2010年4月9-10日

 

今年の雪山で最大の念願だった村杉岳に行ってきた。マイナー12名山の丸山岳と毛猛山に挟まれ、田子倉湖の冠水により陸の半島となった「村杉半島」の、積雪期にしか登れない超マイナーな山だ。村杉岳の「衝撃的なブナの群れ」をこの目でみたいと、思いを募らせてきたのだが、問題はアクセス。

3月下旬のシルバーラインの開通を待ち、奥只見丸山スキー場から電源開発道路を経て「村杉半島」に上陸するのだが、道路は雪の急斜面となっており、そこを延々トラバースしなければならないのだ。フル装備での覚悟の山行だった。

日曜日の予報が悪かったので日程を金土にずらし、3月下旬に開通したシルバーラインを通って奥只見湖丸山スキー場へ。平日のせいか駐車場は閑散としている。最初からアイゼンをはき、駐車場脇の雪堤からデブリの散乱する緩い斜面を下って只見川沿いの電源開発道路へおりる。山の斜面はあちこちで雪がはがれ、春の気配が漂っている。

しばらくは平坦な雪道だが地図で岩マークが続くあたりから道が雪の急斜面となる。いよいよ恐怖のトラバースの始まりだなと気を引き締め、ピッケルを差しながら一歩ずつ慎重に進む。所々雪崩の跡もあり緊張の連続だった。沢を横切るところでは雪壁に阻まれ、スコップで土木工事さながら壁を崩して進んだ。いろいろな体験ができて楽しいなどと強がりを言っているうちに核心部は終わり、ふたたび平坦な雪道となる。

安穏に歩いて飽きてくるころ、ようやく青い上大鳥橋に到着。真正面に真っ白な毛猛の鋭鋒を見渡す気持ちのいい雪原でザックに腰をおろし、雪のトラバースを越えた安堵感と、これで村杉岳にいけるという期待感に満たされる。

 

ここから右岸道を進むが、白滝沢を過ぎるとふたたびいやらしい雪斜面のトラバースとなる。白滝沢と村杉沢の中間点あたりに緩やかに張り出した尾根が見えてきたので、ここから取り付くことにする。帰りは「衝撃的なブナの群れ」に会うため村杉沢右岸尾根を下る予定だが、村杉沢が渡れずに諦めたというトマの記録が気にかかり、ザックをおいて偵察することにした。少し上流に行くと沢の中にコンクリート道路が通っていて歩いて渡れそうだった。これで下りのルートも確認できてホッとする。

戻ってアイゼンをワカンに履き替え、斜面を登るとすぐにブナの大木が点在する広々とした森となり、心がはずむ。もう2時を回ってしまったが、5時ころを目途に行ける所まで歩くことにした。西よりに進みながら白滝沢右岸尾根にのると急斜面となる。息を切らして登るとしだいに傾斜も緩み、大木の森に巨木がつぎつぎと登場し始める。

どれも天高くまっすぐに聳え立ち、美しく枝を広げている。ここにも、あそこにもと、巨木に挨拶をし始めたらいっこうに前に進めない。すごい、すごいを連発しながら緩やかに登っていくと、尾根が東に向きを変えるところでブナに囲まれた台地となった。決めたっ。今日はここに泊ることにしよう。

樹林の間からは只見川の向こう側に未丈ケ岳が大きい。去年途中で引き返し、来週再チャレンジする未丈。パーフェクトなテンバだ。さっそくテントを張り、焚き火の支度。枯れ枝は豊富で苦労せずに火を起こすことができた。焚き火は、普段経験できないようなくつろぎと充足の時をもたらしてくれる。宵闇の中で燃え盛る火に当たりながらの夕食。今回は覚悟のアプローチを越えてきただけに、しみじみとうれしい。幸せだなあ~。スキー場の灯りが垣間見え、空には星が輝いていることを確認してテントに入った。

 

翌朝はいつもより早めの起床。すぐに明るくなり、鳥がさえずり始めている。春を感じられる時だ。焚き火の跡は雪が1mほどもえぐられておりビックリ。ずっとくすぶり続けていたのだろう。いつも素敵なテンバに泊れることに感謝して出発。尾根というより森のような斜面を登るとしだいに傾斜が急になり、耐え切れずに途中でアイゼンに履き替える。

1395mで丸山岳につながる主尾根に乗るとすばらしい展望が開ける。さっそく地図をひろげて山座同定。南には燧ケ岳が顕著な山容でその存在を誇っており、さらに奥には武尊山が真っ白いピラミッドのよう。会津駒から三岩岳の稜線が白い連なりを見せている。そして眼下の尾根をたどって行くと丸山岳に連なる。こんなに近いのかと、あらためて感慨無量。そして言うまでもなく、未丈はコンパニオンのようにずっと間近な存在だ。

なんて贅沢で素晴らしい展望だろう。でも、まだここは山頂ではなかったなと、行く手に目を向けると村杉岳の有名な「60メートル道路」の始まりなり。二人とも頬を緩めっぱなしの状態で交互に先頭を進み合う。やさしく真っ白でなだらかな雪面に、サクッサクッと足を踏みこむ心地よさ。できるだけ早い時期の、雪がきれいなときに登りたかったので、期待通りの素晴らしい雪原歩きに満足する。

 

頂上に登ると反対側の展望が目に飛び込んできた。まず目に付くのは、黒々とした猿倉山への稜線だ。力のある山岳会の人たちは田子倉湖から村杉半島に上陸し、横山~猿倉山を縦走して村杉岳に到っている。自分には到底たどれないコースだが、ここから先の丸山岳への縦走はいつか是非実現させたい。

鬼ケ面から浅草岳、さらに守門から黒姫と、今年登った山がみーんな見渡せる。ここから見ると何でもなさそうな黒姫。あんなところで撤退したなんてと、内心臍をかむ思い。毛猛の鋭鋒がさらに近づき、格好いい。未丈に登ったら次は毛猛に繋ぎたいなどと、しばし妄想にふける。

 

 

もっと山頂で展望を楽しみたかったが、風が強くなったので先に進む。お楽しみはまだまだ続くのだから。1508m峰へはちょっとしたナイフエッジの雪稜が楽しめた。地図で見るともっと広い尾根のはずだが、風のなせるわざか。面白いことにエッジを境にまるで線を引いたように東側斜面は真っ白できれいな雪なのに、西側は黄砂で黄ばんでいる。1413mから尾根は南に向きを変え、なだらかな尾を引くように伸びている。登ってきた尾根を対岸に見ながら、村杉沢の源頭部の斜面を覆うブナ林にほれぼれする。

真っ青な空と大好きな山ばかりの展望、そして素晴らしいブナの森。これ以上望むべくもない最高の山旅も終盤へさしかかるころ、ああっと息を呑み、思わず足が止まった。これか、これなんだ・・・目の前に台地が広がり、長きにわたりこの山を見守ってきた賢者のような風格と気品を漂わせた美しいブナが、群れをなすかのようにたたずんでいたのだ。この光景を目にしたものは誰もが、畏敬の念を持って「陶然と立ちつくし」「美しすぎる」とひれ伏すのだろう。来てよかった。会えて良かった。ここに泊ってしまおうかと、心から思った。

下るにつれ尾根は判然としなくなる。950mで慎重に地図を読み、村杉沢出合に下る小さな尾根を探す。沢が近づき尾根も明瞭になってひとまず安堵。読図もしっかりできた。沢に下りて火照った顔を洗い、沢水を飲んで生気を取り戻す。互いに労をねぎらい、お疲れ様の握手。まだ急斜面のトラバースという難所が残っているが、慣れとはありがたいもので、往路よりは怖さも薄らぎ、むしろ腐れ雪に難儀しながら長い道のりの往路を駐車場に戻った。

 

 

わが人生最良の日也、なんて言える日は滅多にあるものではないが、村杉岳はそう思わずにはいられない素晴らしい一日を授けてくれたのだった。

9日 奥只見湖駐車場9:40-上大鳥橋12:20/45-白滝沢右岸尾根取付14:10-1050mテンバ16:30

10日 テンバ6:30-村杉岳9:20/40-村杉沢出合13:05/30-奥只見湖駐車場17:00