ブナの沢旅ブナの沢旅
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2021.04.06
窓明山〜丸山岳(往復)
カテゴリー:雪山

2021年3月31日〜4月3日

毎年雪山シーズンになると南会津へ足を運び、展望が得られると真っ先に丸山岳を探す。そして行きたいといつも思う。2009年に初めて火奴尾根から登って以来、沢と雪山で何度か山頂を踏んでいる。山を始めてからほぼ3年に一度くらいだろうか。前回は2018年4月に念願の奥只見村杉岳からたどった。あれから3年。今年は是非行きたい。もう行けないかもしれない。もうこれが最後かもしれない。そんな思いに駆り立てられるように丸山岳へのチャンスを待った。

交通事情や体力の制約のため3泊必要だ。悪天候は避けたいので三日は好天が続く時に所用がないというややハードルが高い条件をクリアしなければならない。その機会をとらえ満を持しての山旅となった。

当日の朝、会津高原尾瀬口駅から相変わらず他に乗客のいないバスに乗り窓明山登山口で降ろしてもらう。今年は新年早々豪雪となり一月末に来た時は積雪が相当あったが、今はほとんど消えている。細尾根に乗り上げると雪はなく1000mで尾根が広がるまで夏道となる。ザックはいつもより重いが、おかげでコースタイムははかどり順調に巽沢山へ。前回埋もれていた山頂標柱を確認して家向山へ進む。

こちらも所々夏道が出ていて驚く。ブナの木の雪線から察すると一月よりも1-2mほど雪が少ないようだ。当初は鞍部を越えて広がるブナ林でテントを張るつもりだったが順調に進んだため5時くらいまで歩けば山頂に届きそうだった。けれど次第に風が強まってきた。強風のテント泊ではつい最近苦い思いをしている。樹林帯が途切れる1620mあたりの平坦地で初日を終えることに決め強風に煽られながらテントを設営。

ともあれ順調に初日を終えたことを喜び入山祝いの乾杯。今回初めてラジオやスマホの充電器を持参し、私たちにとっては久しぶりの長い山旅に備えた。食料も数品は確保しつ軽量化を心がけた。心配すればキリがないが、一日ずつを丁寧に過ごせばいいのだと言い合いシュラフに入った。

 

朝から快晴だが少し霞みがかっている。数日前から報告されている黄砂の影響だろうか。那須方面から朝日がのぼる。幾重にも濃淡をつけて重なる南会津の山並み、2週間前に登った枯木山を目に留めながら窓明山山頂へ。ここまでは馴染みのルートだ。清々しい朝の空気を感じながら山並みの最奥に頭が見える丸山岳を見渡す。ようやく実現できた、これから行くからねと軽く心でうなずき坪入山へ向かう。

 

鞍部へ向け下るとすぐに雪庇が崩れてヤブがでている。連休の頃はここの通過にいつも苦労しているところだ。まだそれほどひどくない。上部のヤブを越えれば広尾根を下って登り返すだけ。坪入山までは古いトレースが見られた。城郭朝日山へと続くたおやかに波打つブナ街道を目で追い、いよいよ最奥部へすすむ。

樹林の急斜面を少し下ると無木立のうねった細尾根下りとなりピッケルにかえる。見かけほど悪くないが両岸が急斜面で緊張する。怖いのは怖いと思う気持ちだと米国某大統領の言葉が脳裏をよぎり、その通りだと思いながら通過。仲間はまったく平気なようで鞍部で待っている。登り返して一息つき、今日の核心が終わったと安堵する。

しばらくは奥利根、奥只見の山並みが広がる絶景の尾根を快適に下ってブナの原生林広がる最低鞍部へ。まだヤブは出ていない。黒谷川の東実沢源頭部を見下ろす。駈けおりたくなるほどメローな斜面。以前東実沢右俣から西実沢左俣を下って周回するコースに憧れのようなものを抱いていたことがあった。今回のコースは二度目なので、別ルートを検討してもみた。地図を見ると稲子山から梯子沢方向に落ちる尾根があり、対岸には火奴尾根に詰め上げる尾根が緩やかに伸びている。前回も目に止まったところで、ブナ林が整然と並んでいた。けれど沢筋の地形は地図で予想できない場合も多いためリスクは避け、確実で安全なメインルートに決めた。

鞍部から高幽山までが長くて気温も上昇し辛かった。そろそろ山頂かなと登り上げるたびにその先がまだ続いている。精神的によろしくない。やっとのことで高幽山へ。ここまでが二日目に進む最低ラインと決めていたのでクリアでき安堵する。

梵天岳へは気持ちのいい広尾根だ。何度歩いてもいいところで、丸山岳への登路中一番好きなところだ。軽やかにドンドン下って距離を稼ぐが疲れもでてきた。1617m付近に黒木の平たん地が見える。そこにテントを張ることにして鞍部から軽く登る。

展望も良く整地不要の好適地。といってもいたるところテン場適地ではある。テントに入りああ疲れた〜と、小一時間ほど昼寝を決め込む。春の水づくりは水分たっぷりの雪なので早い。3泊は久しぶりで前回の村杉岳からの丸山岳以来。そもそも丸山岳だからこそ耐えられる3泊分のザック荷重だ。食事は軽量化を図りながらもいつも5−6品は用意してお腹を満たして気持ちを満たす。外に出て未丈と越駒の間に日が沈むのを見届けシュラフにもぐる。明日はようやく丸山岳だ。

 

 

 

テントはそのままにして空身のザックで軽やかに出発する。梵天岳は目の前だ。地図上の山頂は登り上げた尾根から少し東に引っ込んでいるのでいつもパスしてしまう。火奴尾根分岐から尾根は北に向かう。気持ちが前のめりになっていたせいか、手前の似た形状のポコを分岐と勘違いして北向の尾根を少し下ってしまう。すぐに気づいたのでご愛嬌のロスタイム。火奴尾根分岐は2013年5月にテントを張った場所。火奴尾根は最初に丸山岳に登った尾根。あれこれと自分の丸山岳巡礼ともいえる山旅の軌跡が思い出される。

丸山岳が近づくが、見かけよりも小さなポコのアップダウンがあり容易にはたどり着けない。焦らされているような、楽しみはゆっくりと味わうように仕組まれているような、気がする。なにはともあれ幸せ気分一杯だ。いつも写真を撮る山頂手前ポコの鞍部で立ち止まる。沢遡行してたどり着く池塘群の平坦地だ。この風景が私に取っての丸山岳だといっても言い過ぎではない。

 

 

 

そしていよいよ大きくまん丸い山頂へ一番乗り。登路の尾根はずっと展望がよかったけれど、山頂360度のパノラマは別格だ。やはり会津朝日岳からの尾根筋が真っ先に目に入る。大幽朝日岳までは気持ちよさそうな雪尾根だけれど、その先のヤブが次第に濃くなっているのがわかる。自分には不可能ではないにしても恐ろしく時間がかかりそうだし、そこまでしてこだわることもないという気持ちだ。つぎに村杉岳から続く山並みを一つずつ目で追う。運動場のような倉前沢山からヤブ尾根を越えて見えるあの小さな白いポコは大熊峠。ブナ林の雰囲気のいいところだった。袖沢乗越はちょっと山に隠れて見えないけれどと、たどった道を確かめるように一人で喋り続ける。

少し残念だったのはやはり黄砂の影響か、会越方面の山並みが霞んでいたことだった。尾瀬、奥利根方面の山並みは改めて記す必要もないだろう。たださらに遠方の群馬、谷川方面は一面雲に覆われていた。あとで知ったがあまり天気はよくなかったようだ。狭い山域でも随分と天候が違うものだということを改めて実感する。これが雪の丸山岳の最後かもしれないと思うと山頂を去りがたい。最後にストックをクロスして気持ちのけじめをつける。春うららの稜線漫歩を楽しみテントにもどった。

 

 

 

一服後テントを撤収し、いよいよ帰路につく。といってもあと一晩山に泊まらなければ帰れない。ふたたび重くなったザックを背負い出発。鞍部までは気持ち良く下るが、高幽山への登り返しがつらい。い〜ち、に〜い、さ〜んと、一歩ずつを牛歩以下の歩みで登る。足を動かしていればいつかはたどり着くものだ。高幽山を越えると見渡す山並みが白銀の峰から黒木の峰に変わり眼下にはブナ林がひろがる。今宵はブナに囲まれたところで寝ることにしよう。

最低鞍部を目指したが途中1600m付近の踊り場に枯れ枝がたくさん散乱していた。そこで焚き火ができると喜び、急遽ザックをおろし行動を終えることにした。今年初めての焚き火だ。太い木はないけれどせっせと枯れ枝を集め無心に火を熾す作業が楽しい。風もなく暖かい夕暮れだったので焚き火のそばで夕餉の第一部。無事に丸山岳に行くことができたことを仲間にもお天気にも感謝して乾杯。

 

 

いよいよ最終日となった。3日分の食料を空にしたザックが軽くなったのと体が慣れてきたのとで疲れをあまり感じない。いつもは一泊でも体が痛いとか足が重いなどといっているのに不思議だ。きっと気持ちが高揚したままなのだろう。丸山岳恐るべし。帰ったら燃え尽き症候群になりそう〜、などと仲間に話すと、2、3日だけだろ、なんて突き放した言い方をされてしまう。

最低鞍部からの登りが朝一のアルバイトだが、朝は涼しく雪も締まっているのでそれほど辛くない。遠ざかる高幽山と奥の丸山岳を時々振り返ったり、眼下のゆったりとしたミチギノ沢や梯子沢源頭部に沢シーズンへの思いを重ねる。ミチギノ沢から御神楽沢は山トモたちと約束してからずっと懸案となっている。今年行けるだろうか。

行きに緊張した波状型の細尾根を登って樹林帯に入れば本日の核心しゅうりょう。坪入山に戻るといつもの南会津山行だ。一仕事終えた気分でブナ街道に目を向ける。今度骨休みに行こうかな、なんて思ってしまう自分におかしくなる。燃え尽き症候群だって言ったはずだから。

窓明山に戻ると途端にトレースがふえていた。そういえば土曜日だ。単独スキーヤーがやってきたり、三岩岳方面からも単独者が見える。出発前の予報に反して最終日も好天が続いている。春山謳歌の窓明山からは滑るように雪尾根を下りブナ林で憩いながら登山口におり立った。

 

 

 

窓明山登山口11:10ー家向山14:40ー1620m幕営地15:50//5:45ー窓明山6:35ー坪入山8:20ー高幽山13:05ー1617m幕営地14:45//5:45ー梵天岳6:30ー丸山岳9:00/9:40ー幕営地12:10/13:10ー1530m幕営地15:50//5:40ー坪入山9:15ー窓明山11:15ー家向山ー登山口14:50