ブナの沢旅ブナの沢旅
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2019.10.10
松木川三沢〜黒檜岳〜大平山南東尾根
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2019年10月9〜10日

当初は三連休直前の11~12日を予定していたのだが、台風19号が関東直撃する可能性が高くなったため急遽予定を繰り上げた。先週末の大ゴ沢からなか3日しかあかないため最初は迷った。日帰りにしようかとも思った。けれど先行き不透明な天候の中で好機を逃したくないと強行したのだった。

東武日光駅からレンタカーで足尾の銅(あかがね)親水公園へ向かう。前回この駐車場を利用したのは4年前。駐車場で仮眠して翌日大平山南西尾根を登り大平山から社山へ向かった。12月初旬で前日に降雪があったため稜線は雪化粧をしていた。中禅寺湖と男体山を背景に広く安穏とした雪尾根が好印象だった。

駐車場からはゲートをまたいで松木川沿の林道を歩く。「足尾の山に緑を取り戻し、土砂災害を防ぐ」という大きな看板のもと大規模な工事が行われていた。足尾銅山時代の集落、松木村跡の碑を通過し、ところどころ落石の押し出しに覆われた道を進んでいくと松木川対岸の岩峰群が迫ってくる。目指す三沢出合まではかなり距離があるが、見上げる景観に圧倒されながら飽きることがない。

 

自然に回帰しつつある林道の踏み跡が途切れると川原に導かれる。ここで沢靴に履き替え、さらに川原を進む。対岸にウメコバ沢を見るとすぐに六号ダムの堰堤があらわれる。平成6年完成とあるのでそれほど古くはない。かつてはここまで車で入れたらしい。右側から越えるとすぐに三沢出合となる。いよいよ出発点だ。ハロゥ〜やってきましたよ〜と声をかけて三沢に入る。しばらくはだだっ広い川原だが、沢が狭まって湾曲した先を見て思わずワオー!

溪相が一変し、美しい多段のナメが続いている。何もない沢だと思っていたので予想外の歓迎に顔がほころぶ。青々と深そうな釜も真ん中が浅くなっていて通れる。きっとこれが最初で最後だろうからゆっくり味わおう、などと言いながら進む。上段はナメがツルッとしていて少し怖い。乾いた岩壁沿に上がっていく。ナメが終わると再び両岸が切り立った川原となる。大岩ゴーロを進むと再び沢幅が狭まり前方に滝が見えてきた。

左手の滝はとても登れず巻きも難しい。右側の大岩からも水が流れているが左から取り付いて大岩の上に上がる。すると奥に小ぶりな2段ツルツルの岩溝があり水が流れている。ここを上るしかないと、空身でビジョ濡れになりながら這い上がる。ザックを回収して沢にもどりホッとするが、濡れて寒くなったので日が当たる川原でガスを出しコーヒーで心身を温めることにした。

もう何もないだろうからいいアクセントになったなどと言いながら日向ぼっこのティータイム。確かにそれ以降はずっと広河原のゴーロ歩きとなる。前方に一筋の白いものが見えた時はまさかあの滝を越えるのかと一瞬不安になったが、枝沢の出合の滝だった。地図で見ると10m直瀑で出合う左俣は見るからに険しそうな地形をしている。これまで入渓した人がいるのだろうか。

飽きるころナメや小滝が出てきては川原歩きを繰り返す。両岸は樹林の段丘が多いので沢沿いの歩きやすいところをたどって距離をかせぐ。ゆったりとした地形ながらなかなか平坦地はみつからない。1200mを超えたあたりから幕場を探しながらの遡行となる。沢から少し離れるが近くに細い流れがあるまずまずの平坦地をみつけ、ザックを下ろした。せっせと草刈りをして石をどけると立派なテントサイトになった。焚き火の枯れ木は事欠かずすぐに集まった。

釣瓶落しの秋の空というが、6時前から暗闇がしのびより、焚き火の赤々と燃える火が鮮やかだ。自分にとって未知の沢を自分の目で見て歩くことは、どんな沢であれこの上ない充足感をあたえてくれる。滝なんてなくてもいい。沢旅はこうでなくては。。と思う。今シーズンは思うようにならなかっただけに静かな喜びに満たされる。

 

 

 

 

翌朝も快晴のなか出発する。沢に日は当たらないが振り返ると庚申山が日に照らされて明るく見える。相変わらずのゴーロ歩きだが全体の溪相がいいので悪くない。1550mからは沢幅が狭まり傾斜もまして普通の沢らしくなる。詰めはいくつかルートがあるが、水流を忠実にたどる。1700mを越えると両岸が開けて源流のおもむきとなる。とても穏やかな小川風情の光景だ。最後の二俣は左が黒檜岳直下に続くが、緩やかな傾斜の右に進む。水が枯れたとこで靴を履き替える。針葉樹林の森が広がり藪は皆無。登るにつれ笹原が広がる庭園のような斜面となり1954m鞍部にでた。

茫漠とした尾根だがよく見ると足尾の山に共通するブリキの標識が木に打ち付けられていた。ザックを置いて黒檜岳まで足を運ぶ。ところどころテープもありけっこう歩かれているようだった。山頂は樹林の中で山頂板がなければわからないほどだが、とりあえず上り詰めたというささやかな達成感を得る。

 

 

 

ザックを回収して大平山へ向かう。社山分岐で樹林帯から南側が開けた笹尾根となり皇海を最奥に足尾の山並みが広がる。とても雰囲気のいいところだ。大平山へは笹原の踏み跡を辿るがところどころ笹が深くなる。大平山には手書きの簡素ながら味わいのある標識があった。きっと足尾の山を愛する人がつけたのだろう。

大平山南東尾根を下る。笹原の気持ちの良い尾根で展望もいい。社山の南尾根を下った時も気持ち良かった。きっと県境尾根南側の尾根はどこも同じような雰囲気なのだろう。登山道はないしテープ類も一切ないが、笹原についた一筋のトレースをたどる。時々見失うが尾根通しに下るとどこかで合流する。1355m地点で林道終点にぶつかる。地図では林道はくねくね遠回りに見えるので当初は尾根をしばらく下ってから林道に降りつつもりでいた。けれどこれまで意外と時間がかかり気疲れもあったので、長いけれど気分的にラクな林道を歩いてみることにした。

最初は瓦礫の押し出しもあったが、下るにつれ状態も良くなってどんどん下った。確かに長かったが意外とはかどり、駐車場まで2時間ほどで戻ることができた。まあこれもいい経験だ。よくもまあ沢という沢すべての奥の奥まで林道を通し堰堤を作ったものだ。手を加えれば加えるほど崩壊の進み具合も大きいということを目の当たりにした。これからどうなっていくのだろう。足尾は地味な山域で華々しい何かがあるわけではないが、その歴史を思うとなぜかほっておけない気持ちにさせられるのだ。

お疲れさま、なんだかんだと楽しかった、また来るからね。

 

 

 

銅親水公園9:30ー三沢出合12:15/12:30ー1250m幕場15:50//6:30ー稜線11:15ー黒檜岳11:30ー大平山12:20/12:45ー林道終点15:00ー銅親水公園17:10