ブナの沢旅ブナの沢旅
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2019.10.19
天狗角力取山〜障子ヶ岳
カテゴリー:備忘録

2019年10月16〜17日

各地に甚大な被害をもたらした台風19号の後では沢という選択はありえない。一方かねてより紅葉の季節に朝日連峰の山を歩いてみたいと思っていた。紅葉のタイミングもよさそうだ。朝日に関してはまったくの門外漢というか初心者なので、最初に選ぶのはどのコースがいいのか地図をみながらしばし迷った。日程は天候の安定している2日間なので、まずは大朝日岳だろうかと思いつつ、あまりにメインストリートすぎてしっくりこない。

すると若い時に朝日連峰を縦断したという仲間からめずらしく提案があり、天狗角力取山から障子ヶ岳はどうかという。メインコースから外れて静かだろうし、3月に行った赤見堂岳からみた端正な姿の障子ヶ岳を思い出し、すんなりと受け入れることができた。地元の人は日帰りもするらしいコースだが、余裕をもたせたい。それに天狗小屋にも泊まってみたい。ゆったりとした山旅がしたかった。

テントも沢道具も不要なので気分的にも体力的にも楽なのがうれしい。当日朝発で山形駅からレンタカーで大井沢の登山口へ向かう。平日ながら数台駐車しており関西方面のナンバーもあった。最初は植林帯を緩やかに登っていく。登るにつれ木々が色づきはじめブナ林となる。途中からトラバース道となり何度か小沢を横切る。水場に事欠かないコースだ。

小さなアップダウンを繰り返してちょっとした広場のポコに乗ると「猟師の水場」と書かれた標識が木に吊られていて、奥に小沢が流れていた。猟師が山に入るのは雪がある時だから水場は埋もれているはずなどとアマノジャクなことをいいながら気持ちよく一休み。焚き火でもしてのんびりしたくなるところだ。朝日連峰は基本は自然保護地区に指定されているが、一定の区間に限ってはある種の利用が可能であるらしい。竜ヶ池付近は保護規制が緩和されていた。

さらに緩やかに登っていくとブナ林を抜けて低潅木帯となり展望が開ける。雨量観測所付近は展望も良く、真っ赤に色づいた山並みに囲まれている。障子ヶ岳もちょうど紅葉全盛のようで、1500mに満たないとはいえピラミダルな姿が凛々しく美しい。南面には朝日連峰の山々が広がり奥に大朝日岳がひときわ高くそびえて見える。

 

 

 

メインの縦走路分岐となる粟畑への登りは石畳の道なのが意外だった。いかにも人工的に敷き詰めた様子でまるで山寺の参道のようだ。由来を知りたいと思う。縦走路から一段下がった広い窪地には天狗小屋が見えてきた。なんて素敵なロケーションだろうと初めての山小屋にワクワクする。小屋の分岐付近の平坦地には天狗角力取山にちなみ誰が作ったのか石で土俵ができていた。おもわずシコを踏む真似をするが、なさけないことによろめいて踏ん張れない。などと遊びながら山頂へひと登り。山とはいえない丘のようなところだけれど、私にとっては朝日連峰の登山道を経た初めての山となる天狗角力取山なのだ。

天狗小屋へは来た道を分岐まで戻らずに地図にあるトラバース道を辿ろうとしたがロープが張られていて今は利用されていないようだった。小屋への下りも石畳で階段もあり、よく整備されていた。先客がいてもおかしくないが、この日の泊まりは私たちだけだった。とてもきれいに利用されている様子がわかる。ただ残念なことに水洗トイレは使用不可になっていた。小屋で一番興味を引いたのは「天狗文庫」と命名された書籍、特に「岳人」の1960~70年代の古いバックナンバーが揃っていることだった。今では図書館でも見られない貴重な資料で、旧「中田文庫」とあるので、中田さんという方が寄贈したものだろう。

小屋泊まりなのでテントの整地も焚き火の準備もない。水場も近くて便利だ。時間がたっぷりある。食事の準備まで岳人の古い雑誌をみたり、朝日軍道の調査記録をみたりしてのんびりする。宿泊者名簿には、みなさん丁寧に名前や住所、電話番号まで記入してあり驚く。もちろんこのようなところで悪用も何もないだろうが、こうした個人情報が無防備にさらされているのは下界ではちょっと考えられないことだと思ってしまう。とはいえ名前と簡単な住所だけは記入した。そして数日前に数少ない相互リンクサイトの山人モコモコさん達がやはり宿泊していたことを知った。ボチボチ二人の山旅を再開されたようでよかったと思う。

スペースがあるので思いっきり店開きをして食事をはじめるが、6時前には真っ暗になり日の短さが身にしみる。外に出ると麓の明かりが広がり、星もでている。翌日も秋晴れを期待して初日を終えた。

 

 

 

爽やかな朝だった。太陽が山々を照らし始めたので外にでてみると眼下は一面雲海が広がっていた。朝食を済ませると山小屋は出発の支度も簡単だ。予定の7時よりも早く歩き始める。燃えるような紅葉に囲まれた登山道を粟畑まで戻り、障子ヶ岳へ向かう。

登山道があるので楽かと思いきや、東側がザレた痩せ尾根のトラバースが多くヒヤヒヤする。おまけに遠目にはわからなかった尖った小さなポコがいくつもあり鞍部の障子池まで意外と時間がかかった。最後の登りは見かけほど急ではなく両端が潅木なので安心だった。ようやく山頂へつくと360度の展望で、朝日連峰の大伽藍といった山並みが広がる。八久和川の谷を挟んで以東岳が近い。つぎがあるならば、以東岳をめぐる縦走を計画してみたいと思う。

山頂の先にある障子ヶ岳北の肩のような小峰からは急降下の道だ。東側が谷底まで切れ落ちたスラブの岩壁で恐ろしげだが、その迫力と紅葉の美しさに魅せられる。沢底には雪渓が残っており、いつ雪が降ってもおかしくない季節なので万年雪になるのだろう。小さなアップダウンを繰り返しながら紫ナデまで来ると、大桧原山から赤見堂へ続く尾根と別れる。こちらの尾根は一見穏やかそうで残雪期に歩いてみたいけれど、雪の状態によっては厳しいに違いない。

1196m峰からは潅木帯から樹林帯に入るが急降下が続いて気が休まらない。少し下ったところのザレた赤土の急斜面で仲間が滑り転げた。最後は登山道を外れて姿が見えなくなり慌てたが、おでこに擦り傷ができた程度で止まって事なきをえた。まさにヒヤリハットのインシデント。すべてを加齢のせいにするわけではないが、このところ連続していることを重く受け止めなければならない。

急斜面の下りは相変わらずだが、道は歩きやすくなり沢の音が大きくなりだした。短い間だが沢筋の斜面にはすばらしいブナの原生林が広がっている。沢に降り立ち渡渉をすると「出合吹沢」の標柱があった。ザックを降ろして顔をあらい一休み。ここからは沢沿の作業道を進む。障子ヶ岳登山口の標識にタッチしてお疲れさま。車道をテクテク歩いて駐車地点へ戻った。

それほど楽なコースではないと感じたのは、あまり調べもせず登山道があるから楽だろうというなめた気持ちの裏返しなのだ。今振り返れば、変化に富んだ紅葉真っ盛りの山歩きを存分に楽しむことができた。初夏の緑豊かな花の季節に再訪したいと思った。

 

 

 

 

 

登山口10:40ー天狗角力取山15:20ー天狗小屋15:30//6:45ー障子ヶ岳8:50ー紫ナデ10:20ー出合吹沢13:20ー登山口14:00