ブナの沢旅ブナの沢旅
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2019.04.26
村杉岳〜大川猿倉山
カテゴリー:雪山

2019年4月20~22日

先週の東北遠征は二日目の悪天であえなく撤退し、予定を繰り上げて下山した。そこで再度三日間の予定で、ブナが印象的な村杉岳のその先に足を延ばしてみようと大川猿倉を計画した。

週末は出発点である奥只見丸山スキー場まで休日限定の無料バスが使えるが、帰りは平日となるため浦佐駅からレンタカーを使った。スキー場の駐車場はほぼ満車状態で、早くも連休の前哨戦といった雰囲気だ。電源開発道路に入るとところどころデブリの山だがそれほど積雪はなく、ほぼ川原を歩くことができた。最初に歩いた時は山腹から只見川まで雪の斜面で緊張のトラバースだった。

青い上大鳥橋を越えたところで昼食をとる。今回は村杉沢右岸尾根を登るので白滝沢からさらに進む。前回のトラバースは左手の崖下が只見川なのでさらに緊張したのだが、一部道路がでていた。村杉沢は念のため補助ロープを手に渡渉した。実際には問題なかったが、これ以上水量が多いとむずかしそうだった。

雪が剥がれた急斜面を登って尾根に乗る。登るにつれて大木が点在するすっきりとした雪尾根となり、振り返ると眼下には青い只見川、対岸には未丈と毛猛に続く山稜が存在感を示している。さらに登ると燧ヶ岳が聳え、越後と会津の山並みが広がる。贅沢な景色を背にブナの尾根をゆっくり登る。

冬の間はずっとスノーシューのヒールリフターを使って登りが楽だった。そのためか自分の足だけで登る今回はシンドイ。1000m付近で尾根が広がり、すてきなブナの台地となる。尾根筋が細くなると地面が出て、谷側を絡むように明瞭な踏み跡がある。こんなところに径らしきものがあるのかと驚くが、どのように下から繋がっているのか興味深い。もしたどることができるなら、村杉のブナの新緑を見ることもできるのではないか。そうしたらどんなに嬉しいことだろう。

などと夢想しながら進むが、このペースでは到底1508mポコにはとどきそうにない。まあのんびり行きましょうといいながら、1200mで足が止まる。ああ、ここだ、彼らだ。前回下ってきた時に思わず立ち止まった所だ。大木、巨木が点在する尾根なのだが、ここだけは平坦な台地に、明らかに他のブナとは違うオーラをもつ長身で端正で風格のあるブナの一群が佇んでいる。と、少なくとも私はそう感じている。(前回写真をみたある越後の山トモには、たいしたことないと一蹴されたが、こればかりは実際に見た人だけが感じられるものかもしれない)

思わずここに泊まりたいとザックをおろす。行動を終えるには手頃な時間になっていた。ずっと記憶に残っていたブナとの再会を喜び、間に入って仲間に加えてもらう。一段上がった見晴らしのいい所にテントを張り、夕日の沈む頃赤く染まる山々を眺めながら、いいスタートを切ることを喜んで初日を終えた。

 

 

 

初日にあまり高度をあげることができなかったため、高曇りの中早めの5時半に出発する。狭くなった尾根に枝を四方に広げたブナが整然と並んでいる。村杉岳の南西斜面にはブナが点在して緩やかに沢の源頭部に落ちている。1449mの稜線に乗ると展望が広がる。前回はナイフエッジになっていた細尾根を登って1508mのポコへ上がる。ここが二日目の出発点となる。

テントやシュラフをデポし、日帰り装備で大川猿倉山に続く尾根に向かう。遠望する限りでは雪が繋がっており、意外と近くに見える。その先の猿倉は黒く尖っている。さあ、私たちにとっては初めての領域だ。とても見晴らしのいい尾根で、東側は丸山岳から会津朝日岳、高倉山の山々、西側は未丈から毛猛、さらに浅草岳、守門を見渡しながら、最初は緩やかに快適に下っていく。

東側の雪庇の張り出しがものすごい。100mほど下って傾斜がきつい下りになると雪が割れて尾根通しには進めなくなる。ストックをピッケルにかえて西側斜面から回り込む。その先もところどころ割れた雪のギャップで状態が悪く手間取る。宿の塔で一息つけるかと思っていたが、ポコが雪庇で不安定になっていた。それでもじわじわ近づいている。

山頂手前の最低鞍部まで痩せ尾根が続く。雪庇が割れてズタズタの上、柔雪で踏み抜きが怖い。突然先が切れ落ちて行き詰まる。こういう状態にはほとんど遭遇したことがないためうろたえるが、ここを突破しないと進めない。ロープをだし、まずは仲間が雪壁を巻き下るがとても怖い思いをしたようだ。下から見上げると壁をバックステップで下った方がいいという。意を決して文字どおり垂壁をバックステップで下るが、柔雪の層があってこちらも恐ろしい。

目指す猿倉は近いように見えて上からは見えていなかった小さなポコがいくつかあり、そこを下る度に苦労する。あと一つポコを越えれば山頂下の最低鞍部というところで再び行き詰まる。割れた雪のギャップを下るのに、雪庇が張り出した東側が数十センチほどの幅で下と繋がっているだけで、他に自分たちが下れそうな所がない。けれど踏み抜きが怖くて下る勇気がない。時間がどんどん過ぎていく。

こういう時は、思い切りの悪い私を仲間がやんわり説得するというのが、いつものパターンとなる。たとえここをクリアしてもまた同じ事態に遭遇する可能性もあり時間切れとなる、ここまでにしよう、と。自分の不甲斐なさに情けなくなるが了解して引き返すことに決めた。一瞬くやしかったけれど、うんとこだわっていた山ではなかったのですぐに気持ちを切り替える。ずっとコンパニオンだった丸山岳に向かって、きっと私たちのこと笑っているよね、こっちに来ればよかったのにって。などと冗談をいいながら、自分たちのトレースをたどる。垂直の雪壁では蹴り込んだ所に空洞があって崩れヒヤヒヤする。こんな状態なので引き返したのは正解だったのだろう。

1508mデポ地に戻り午後の進み方を相談する。翌日は村杉岳を越えて倉前沢から下る予定だ。先に進むこともできたが、今年初めての焚き火をすることを優先させた。尾根上には枯れ木がほとんど落ちていないので村杉岳手前鞍部から少し下ってみた。山頂直下とは思えないゆるやかな台地状の斜面にブナの森が広がっている。多少の整地をしてテントを張り、枯れ木をかき集めて無心に焚き火を熾す。この時間がたまらなく好きだ。それほど盛大とまではいかなかったが、日が沈むまでの何時間かを焚き火のそばでビールを飲みながらまったりとした時間を過ごすことができた。

 

 

 

朝方近くに雨が降り出してきた。こんな山の上でも雨になってしまうほど夜も暖かく気温が高かった。朝方曇りで9時からは晴れの予報を信じ、朝食後はしばらくテントで待機する。外はガスでブナの森が幻想的だ。最近は天気予報に裏切られることが多い。最悪、霧雨の中を出発しなければならないかと案じたが、9時近くになって突然中で光を感じ色めき立つ。外を覗くとガスがはれ青空がでている。この時のうれしかったこと。。

急いで出発の支度をする。稜線に戻ると昨日撤退した猿倉方面が近く白く見えてちょっとだけ複雑な気持ちになる。村杉岳山頂に着くと週末に登ってきた人たちのトレースが幾つか見られた。昨年同じ時期に登った時は北側の縁は灌木の藪に覆われていたが、今年はその灌木がまだ雪の下だ。丸山岳方面はまだガスが取れきれていない。どこまでもたおやかでゆったりとした広尾根を見下ろしながら快適に下る。ブナの山旅はこうでなくっちゃと、昨日のことがあっただけに気持ちが安らぐ。

昨年テントを張った1395mポコは今年ならばそんな気にならないような形状なので、雪が多いのだろう。倉前沢山から丸山岳につながる痩せ尾根も去年は相当藪が出ていたけれど、今年の方が雪が付いている。翌日の雨予報は晴れに変わっており、温泉に泊まるのではなくこのまま行ってしまおうか、などと本気の冗談をとばす。

去年は気持ちが丸山岳に向かっていたのであまり感じなかったけれど、三羽折の高手付近はブナがとても美しい。こちらから見る村杉岳は両翼を広げた美しい山容で、1395mポコから見るグラビア的村杉岳とはまた違った良さが感じられると思った。倉前沢山に近づくと尾根が広すぎてかえって単調になってくる。気温がどんどん上昇していき雪面の照り返して顔が火照る。

地図の山頂地点手前のブナ林で腰を下ろす。ここでしっかりと読図を行い下るルートを確認する。明瞭な尾根ではないので方向を決めて下り始めると、先を行く仲間が声を上げた。何かと思いきや真新しい登りのトレースにぶつかったのだ。意外だったが、これで安心して下れると喜ぶ。尾根では出会わなかったので、丸山岳に向かったのかもしれないと言い合う。そして思わず空に向かって、トレースありがとうございま〜す!と呼びかけてみた。聞こえただろうか。

急斜面が続くがトレースはあるし雪は適度に緩んで降りやすい。途中微妙にトラバースして尾根を乗り換えるところも的確で、きっと慣れているベテランさんなのだろう。斜面のブナは太陽の光を浴びようと目一杯背伸びをしてすくっと長身だ。最後まで悪い所がなくブナ林が続き、白滝沢出合と大鳥橋の中間に降り立った。小川で顔を洗い汗を流す。このルートはなかなか効率も良くブナ林もいいので次回があれば登りに使ってみたいと思った。

3日前に芽吹きの兆しが見えたネコヤナギが芽吹いて淡い緑色の枝を広げていた。思う存分ブナの雪尾根を歩いて丸山岳もずっと近くに見えていた。ちょっと異質な体験もしたし終わってみれば楽しい山旅だった。ふたたび電源開発道路を歩き、最後100mほどの登りに顎をだしながら、広い駐車場の真ん中にポツンと一台待っていてくれた車にもどった。

 

 

 

駐車場9:40ー上大鳥橋11:30/11:50ー村杉沢出合12:40ー1200m幕営地16:15//5:30ー1508m7:30ー大川猿倉山手前11:15ー村杉岳鞍部14:15//9:30ー村杉岳ー三羽折の高手11:30ー倉前沢山12:15/12:30ー上大鳥橋14:20ー駐車場16:30