ブナの沢旅ブナの沢旅
▲トップページへ
2018.11.20
湊川志組川
カテゴリー:

2018年11月20日

6年前に高宕川を歩いた時、詰め上げた尾根の反対側に志組川という沢があることを知った。それまでも房総の沢は梨沢から始まり、キンダン川、土沢〜四郎治、折木沢、三間川などをあるいていて、どれも基本的には洗濯板のようなナメ沢だったので、志組川もきっと同じだろうと思った。

最近は近場のハイキングでは行く先に悩むことが多い。トレーニングと割り切ればどこでもいいけれど、やはり初めての山でワクワク感を味わいたいと欲がでる。そんなときに志組川のことを思い出したのだった。まあ何もない沢だということはわかっているが、どういう風に何もないのか知りたい。この、知らないところを知りたいという気持ちが私にとっては山へ向かう際に重要なのだ。

房総の山は超がつくほど低山の一見丘陵地帯のようなところだが、なかなか侮れない。細かなヤセ尾根がくねくねと地を這い回り、そこに地図にない道が縦横に張りめぐされている。素掘りのトンネルが尾根だけでなく沢でも、かつての川廻しの跡に見られる。見方を変えれば、とても興味深い山域なのだ。

今回は車を使ったが、内房線上総湊駅からバスも出ている。高宕山自然動物園の駐車場で支度をして沢に降りるとさっそく名物の大きな素掘りトンネルが目に入る。志組川の湊川への合流点となっている。トンネルの門をくぐって湊川にでてみると10mほどもある幅広のナメ床だ。きっと夏は家族連れで子供達が水遊びを楽しんでいるのだろう。

志組川を歩く場合、一般にはしばらく林道を進んで真ん中ほどのところで橋が沢を横切るところから入渓するようだが、せっかくなので最初からの「完全遡行」とする。ところどころゴーロ川原となるが基本的にはナメがつづく。

しばらくすると沢は深い淵となる。夏ならともかく濡れたくないので高巻くが、ヤセ尾根で崖となっているため降り口を探しながら少し尾根をもどり、傾斜が緩んだところから下るとかつての川廻しの跡だった。それほどきれいな渓相というわけでもないが、房総の沢らしく高い側壁の地層が興味深い。なにしろチバニアンの土壌なのだから。

細かく蛇行を繰り返すので思った以上に距離がある。林道の橋が見えるところまで2時間近くもかかったのは少し予定外だった。ほとんど高度を上げないので上流というほどでもないが、すすんでも一向に沢幅は変わらずかってナメが滑らかになっていく。水量がもう少しあるとさらにいい雰囲気ではないかと思う。

ほんのわずかに段差がでてきて申し訳のように小滝がでてくる。つるんとして一見登れなそうに見えるところにはかすかにステップが刻まれていた。地元で古くから利用されていたのだろう。途中何か所もかつて畑だったと思われる平坦地がみられた。植林帯は枝打ちされて整備されている。そして沢にはコンクリートの通路らしき跡もあり、埋められていたパイプが露出しているところもあった。何のためのパイプだったのだろう。

などと思いながら歩いていくと、なにやら硫黄の匂いが漂い始めた。沢床が青白く濁っている。水は冷たいけれどどこかに温泉が湧き出ているのだろうか。ブクブクと硫黄成分が湧き出ている「源泉」がでてきた。昔はもっと温かだったのかもしれない。

白壁の大岩壁を見上げたり、沢床のパイプや硫黄成分を眺めたりと、ふだんの沢とは違う興味を引き出してくれる沢だ。おまけに太陽の光が差し込みきらめくと沢がステキに変身してくれた。ようやく150mまで標高をあげると三つ又となる。もう十分すぎるくらい沢歩きを楽しんだ。ここから対岸の尾根に取り付いて登山道にでることにした。

靴を履き替え、久しぶりに本格的なうどんを作ってのんびりする。原点回帰の感じだろうか。地図ではどうということもなさそうな尾根だったが、登って予想を裏切られる。地図に出ない小さな岩壁が続くヤセ尾根で、ちょっと危険な匂い。ここが今回の核心だったが、テープもあり確かに歩かれている尾根だ。

登山道に出た時には2時をまわっていた。高宕山直下ではあったが釣瓶落としの晩秋だ。前回登っているので山頂はパスすることにして、地図にはないがしっかり標識のある登山道へ向かう。こちらもバリエーションルートのようなもので、林道に降り立った時はホッとした。あとは里山の風景を楽しみ、天然記念物に指定されているという高宕山のサルに出会いながら駐車場に戻った。

あれこれと、なかなか侮れない房総の山。これからは冬の陽だまりハイキングを兼ねてもっと探索してみたいと思う。

 

 

駐車場9:00ー150m三つ又12:30/13:30ー登山道14:15ー駐車場16:20