ブナの沢旅ブナの沢旅
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2023.03.11
舟鼻峠〜三引山〜博士峠〜博士山
カテゴリー:雪山

2023年3月6-8日

10年前、舟鼻峠から茫漠としたブナ台地をさまようように越えて横山から神籠ヶ岳まで歩いた。その時、途中の三引山から北にのびる尾根を辿ると博士峠にいたることを知り、つぎは舟鼻峠から博士峠まで歩いて博士山に登ってみたいと思った。翌年ある合同パーティによるチャンスが訪れたが、悪天で流れた。その後はいつのまにか忘却の彼方に。。。

ちょうど10年の節目というわけではないけれど、かつての計画をよみがえらせた。10年前と同じようには歩けないことを考慮して3日間の日程を確保してゆったりとしたブナの山旅へ。ひたすらあまり変化のないブナの雪原台地の逍遥を楽しんだ。途中でテントを張って雪で閉ざされた博士峠に降り立ち、王博士をへて博士山へ向かった。

会津田島駅からタクシーで舟鼻トンネルの昭和村出口へ。出口脇の除雪の壁に乗り上げてシューをはき3日間の山旅に出発する。少し戻ることになるが、まずは舟鼻峠に立ち寄った。舟鼻峠から三引山までは歩いているので分岐点となる三引山へ直接至る方法もあるが、愛着のある舟鼻峠から出発したかった。峠の雪原広場の真ん中にたつと思わず、「ここが私のアナザースカイ」と口をつく。

しばらくは旧道沿いに進み、舟鼻山元の標識から山に入る。10年前と同じようにできるだけ地図とコンパスで読図をしながら歩こうと申し合わせる。白森山の麓をトラバースしてからは目立った目印もなく、緩やかな等高線の山と谷が複雑に入り交じった地形が続く。

時々微妙に違う方向に引き込まれそうになりながら、ちらっとあんちょこを見ることもしばしば。けれど頻繁に方角を合わせれば、行く手を遮るポコや谷間は波打つようにおだやかなので、ほとんど無視して進むこともできる。

10年前は、茫漠とした雪原台地の逍遥に、歩いても~歩いても~小舟のように~ わたしは揺れて、揺れてあなたの腕の中〜♪と、懐メロが頭を駆け巡った。今回、こんなところを2回も歩くなんて物好きだな、何がいいのだろうと思いながら湧き出てきたのは、以前から好きなseven daffodilsだった。(どちらも古い歌で歳がバレバレ。。)

♪I may not have mansion, I haven’t any land
Not even a paper dollar to crinkle in my hands
But I can show you morning on a thousand hills
And kiss you and give you seven daffodils♪

高い山や深い谷はないし展望もない、何もないメリハリのない地形だけれど、なんとか生き残った大きなブナたちがいるという気持ちと重なったのだろう。三引山手前の小山を登るあたりはブナ林がとてもいい雰囲気だ。

どこが山頂かわからない三引山だが、地図の山頂マークでザックを下ろし、さあここが出発点。方向を変え北に向かう広尾根を気持ちよく下っていくと東側に展望がでてきた。先月登った横山方面が見渡せる。少し早いけれど急ぐ山旅ではないと、ここでテントを張ることにした。

 

 

 

 

 

今年は今回だけでなく厳冬期の1月2月とも暖かい夜となり、テント内は結露や氷結がまったくなかった。私たちにとってこんな冬は初めてだ。風もなくテントの設営、撤収もスムーズで快適だった。相変わらずの平坦な広尾根を進んでいくと境界尾根の西側がカラマツの植林帯となり、境界線上のブナには所々マーキングが見られるようになる。

さらに進むと谷筋の源頭部がえぐられ道路工事らしい杭があらわれる。このような場所で林道工事が今でも行われているのに驚くが、地図を見ると尾根の両側の谷沿いに途中まで道が伸びている。それを両側から繋ごうとしているようだ。

1152mポコでは林道が横断している。近づくとまるで国道並みに切り開かれた雪原が続き、林道横断点付近からはスノーモービルのトレースがあらわれた。ゆるやかな地形なので林道に沿って麓から容易に上がってくることができるのだろう。ちょっと興ざめだったがよそ者の身勝手な思いなので、トレースだけで済んでよかった。(以前信越トレイルを歩いた時は鍋倉山近くの茶屋池で轟音を立てて走行する様子を目撃したこともあったからだ。)

少し標高を上げていくとブナの自然林が復活し博士山方面が見渡せるようになった。ようやく見渡すゴールながら、まだまだ遠いなあと思う。1168mと1160mポコから鞍部に下ると林道が横断する。今度の林道は地図の実線で車の標識もある比較的広い道路だ。そういうところには必ずスノーモービルの跡。

前方の細尾根は雪庇の急斜面なので山頂下の林道をたどって1126mポコに戻った。尾根筋は雰囲気のいいブナ林帯だった。下ると地図と実際の地形がすぐには合致しない複雑な起伏帯となる。風が出てきたので窪地に入り込みコーヒータイム。博士峠も間近だ。

再び林道が近づいてきたところで杉林の斜面から林道へ下り、雪に閉ざされた国道401号線の博士峠についた。毎年冬季は閉鎖される道路だが、現在幾重にも曲がりくねった国道を迂回する博士トンネルがほぼ完成しており今年中の開業を目指しているという。そうなれば無雪期も旧道の利用者はいなくなり、いずれ廃道化してしまうのだろうか。

 

 

 

いよいよ最終ラウンドの博士山へ。4年前に1138mの尾根先端から王博士を越えて博士山に登ったが、博士峠からのルートがどのようなのか楽しみだった。地図から予想した通り急登箇所が二箇所あるが、あとは穏やかなブナの森歩きといった雰囲気だった。途中に東北電力の雨量観測小屋があった。今でも現役なのだろうか。

最初の急登はシューのまま取り付き難儀したため途中でアイゼンに変えたらだいぶ楽になった。1250m付近からの急登をやり過ごすと以前登った尾根と合流し、傾斜の緩やかな広尾根となる。王博士まではすぐだったが、テントを張れる場所が限られるため山頂下の平坦地でザックをおろした。

 

 

 

博士山は日帰りの山だけれど、ようやく三日目にして山頂をめざす。予報では気温が上昇するらしいので早立ちを心がける。朝日が登る様子を眺めながらまっさらな雪尾根を登るのはとても気持ちがいい。王博士は東面の雪庇が発達しており際に近づくのが怖い。天空の回廊のような尾根を見渡しながらまずは鞍部にくだる。急斜面なので樹林側にそって回り込む。広い鞍部から見渡す博士山はゆったりとして優しい山容だ。積雪期は王博士経由のルートが一番美しいと、最初に訪れた時の印象通りだ。

博士山までは意外と距離があるが、谷の源頭部はスキーヤーが好みそうな緩斜面。シューでも駆け降りたくなるほど魅力的なフィナーレを迎えて山頂に這い上がった。最後は雪庇に乗り上げたので文字通りの這い上がり。南会津から会越、飯豊方面までの展望がひろがるが、暖かいせいか霞んでいたのが残念だった。

山頂の片隅でザックを下ろし休憩がてら下山路を相談。1476mから一般的な鹿沢右岸尾根をくだるか、黄金沢右岸尾根をくだるか。時間の余裕があるので少し長い黄金沢コースにも惹かれたが、時間の余裕から別の欲がでてきた。予定よりも一本早い電車で帰ることができそうだと、一般的な下平ルートに決めた。

東面の尾根歩きは初めてだが最初は雪庇のヤセ尾根がつづき景色はいいけれど快適とは言えなかった。1300m付近からようやく尾根が広がる美しいブナ林となり、こんな尾根歩きを期待していたのだと心なごむ。快適に下るとすぐに林道横断点となり、しだいに植林帯の急斜面にかわっていく。小さな枝尾根が多くルートが判然としないが、方向さえあっていれば沢に下れる。おそろしい急斜面だが植林帯の中で雪も適度に緩んでいるためそれほど緊張もせずに鹿沢におりたった。

ヤレヤレと安堵し、沢沿いに進むと明確な林道があらわれた。あとはテクテク歩くだけ。最後は正面に志津倉山を臨みながら広い雪原を突っ切って車道にでた。林道横断点から田島駅までのタクシーを手配していたのだが、正確な場所の指定ができなかった。すこし心配だったが、ものの数分もしないうちに舟鼻峠まで乗ったカラフルなきみどり色のタクシーが見え、大きく手を振った。

 

 

 

 

 

 

 

舟鼻トンネル10:15ー舟鼻峠10:45ー三引山14:40ー幕営地15:20//6:20ー博士峠11:05ー王博士下幕営地14:40//6:20ー博士山8:20ー鹿沢11:30ー県道11:55