ブナの沢旅ブナの沢旅
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2018.08.03
中ノ岐川北岐沢〜鬼怒沼
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2018年8月2-4日

連日の猛暑で山行意欲もそがれるほどだが、週末をのがすとしばらくチャンスがなさそうだ。重い腰に鞭打って(なんて大袈裟だけれど)久しぶりに尾瀬の沢を計画した。最近はいつも準備をして出発するまでが核心のような気がする。一度出かけてしまえば、あのおっくうさはなんだったのだろう。。となる。

尾瀬には易しくてきれいな沢がたくさんあるが、ほとんどが流程の短い日帰り沢だ。今回遡行した北岐沢も沢自体はそれほど長くはないのだが、アプローチと下山路が長いため、ゆっくり沢泊するのにちょうどいい。今回はさらに鬼怒沼から奥鬼怒最奥の手白沢温泉に立ち寄り、翌日軽いハイキングをしながらバスが使える女夫淵温泉に下る計画だ。

入山は大清水なので、上毛高原駅から大清水行きのバスに乗る。バスを待つ間に話好きの(私より)年上の女性から耳寄りな情報を得る。関越交通バスの3000円のパスは4350円分使えるとのこと。お買い得感が半端でないと喜んで購入。今まで谷川方面に行くときは現金を支払っていたので、知っていれば随分と節約できたと思うが、これからでも遅くない。(ただし、パスの販売は在庫がなくなり次第終了となり、ICカードに切り替えるとのこと。)

大清水に来たのは何年ぶりだろう。平日とはいえさすがに多くのハイカーで賑わっていた。中ノ岐沢沿いの林道を歩いて行くと、前方に黒く動くものが見えて緊張が走る。立ち止まって笛を吹いたりしたが、すぐに走り去る気配もない。クマだとすれば子グマのようだが、他に真っ黒な動物がいるのか定かでない。親グマが近くにいるかもしれないと、しばらく様子をみていると姿が見えなくなった。意を決してこわごわと通過した。

林道が大きく南にカーブするところが入渓点となる。尾瀬は下界に比べればはるかに涼しいが、1時間半のゆるやかな登りでぐったりとしてしまう。沢装備をして笹やぶ奥にある小沢を下ると北岐沢だ。初めて来てから9年もたった。翌年には奥鬼怒の魚沢を遡行して北岐沢を下った。最近は毎度リユニオンの沢旅になってしまったけれど、それもまた楽しいものだと思えるこのごろ。。

深い森の中を流れるゆったりとした渓流の雰囲気がすがすがしい。幾つかの小滝を越えながら進む。以前はワイヤーがかかっていたのっぺり岩の2条5m滝は滑りそうで少し緊張しながら登った。遡行を始めたのが昼過ぎだったので、途中ソーメンタイムをとる。いそぐ旅ではないと、入渓早々にくつろいでしまう。

 

その後は見栄えのする滝が続くようになるが、いずれも左右どちらかが登れる。ナメとゴーロがしばらく続き、右岸に大崩壊した斜面を見上げる。少し退屈感がでてきたところで前方に二俣出合の大滝が見えてきた。短い廊下をへつって滝に近づいてみる。北岐沢には不釣り合いな滝を見上げ飛沫をあびると肌寒いほどだ。ご挨拶を終えて少し沢をもどり、左岸の巻道に入る。小尾根に乗ると左俣の連瀑がのぞめるようになる。そういえば2009年に最初に遡行したときに参考にしたのは「その空の下で。。。」だった。ここで、moto.pさんとひろたさんはこの(左俣の)連瀑をフリーで登ったんだなと、滝を見ながら思い出す。その二人ともが今はいないなんて。。。

大滝を巻いて沢に降りると渓相は一変し、明るい岩盤の平滑となる。これまでの印象ではそれほど荒れた感じはなかったが、一ヶ所倒木帯を通過する。倒木が散らばっているよりはいいかな。右岸に赤茶けたナメ滝をかけた枝沢がみえると、緑でふかふかそうな段丘に目が止まる。時間は3時半。いつもならもっと進むところだ。北岐沢の定番の幕営地といえば、前回泊まった1770m二俣なのだが、そこまで進むと翌日に見所がなくなってしまうので、今回は好天が予想される翌日にきれいなところを歩きたいこともあり、別の場所に泊まるつもりでいたのだ。

上の幕営地よりも広々としている。さっそくザックをおろして初日の行動を終えた。これからが沢泊まりのもう一つの楽しみで、テント設営後はせっせと枯れ木を集め焚き火を熾す。いつも思うのだけれど、どうして焚き火は人の心に響くのだろう、と。あたりの森に青白い焚き火の煙がたなびく。わずかに風向きが変わっているからか、煙のたなびく場所が変化していく。虫がまったくいなくてとても快適な夜だった。

 

 

目覚ましをかけずにいたら珍しく5時過ぎまで寝過ごしてしまう。涼しくて快適だったからだろう。急ぐこともない。くすぶっていた残り火で小さな焚き火を熾し、傍で朝食をとる。予想どおり朝から快晴だ。

さっそく明るいテラコッタの岩盤帯となり、階段状の滝を快適に登る。1650m二俣を右へ進むと次々と小気味好く小滝があらわれ、いよいよハイライトともいえるゆるやかな傾斜のナメが延々と続く。思わず、こんなにいい沢だったっけと口をつく。朝日が沢を照らしきらめくが、写真にするとコントラストが強すぎてその良さがでないのが悲しいところ。

以前泊まった1770m二俣のテンバを覘いてみる。まだ今シーズンの利用者はそれほど多くないようで、枯れ木がたくさん積まれていた。整地具合はさすがだが、景観はこの辺りから激変してあまり美しくない。今回泊まったテンバの方が広くて沢の雰囲気もよかったと納得する。

右俣へ入ってからは小松湿原への登路ぐらいの気持ちで淡々と進む。最後の二俣が間違いやすいところだ。ここは右沢へ入るとすぐに湿原の入り口となる。泥沼にはまり込まないよう慎重に足元を確認しながら湿原へ。

沢を登って湿原に至る。これは沢旅の隠れたテーマであり、尾瀬にはそんな憧れを満たしてくれる沢が多い。小松湿原は池塘もない小さな湿原だが、樹林に覆われた沢からぱっと視界が開けて広がる開放的な空間にはいつも何かの感動がある。

しばらく時間を過ごした後小さな沢沿いのはずれで靴を履き替え、稜線の登山道へ。次なる目的地は鬼怒沼だ。針葉樹林帯の登山道はちいさなアップダウンが幾つかあり、次第に暑さでばて気味となる。鬼怒沼山をトラバースしたところからようやく下り基調となり、赤テープに導かれて避難小屋に通じるショートカット道へ入る。

鬼怒沼は標高2000mを超え、日本一といえる高層湿原とのこと。印象深い懐かしい風景が広がる。花の季節は過ぎていたが、大きな池の向こうに見える日光白根と根無草山、大嵐山のラインが美しい。まるで白根山にまで続くように見える木道を進み、池のベンチでくつろぐ。ただ、雨が少ないのか、全体に湿原が乾いているような印象をうけた。小さな池の周りでは一部干上がっているところもあった。

鬼怒沼をぐるっと一周したのち、今回は奥鬼怒側に下山する。尾瀬は交通の便が悪いので車が便利なのだが、公共の交通機関の場合、このように起点に戻る必要がないコース選びが出来るメリットもある。2時間ほどで日光沢温泉の登山口へ降り立った。

 

 

普段ならばここで下山となるのだが、手白沢温泉へはさら山道を歩く。標識には30分とあったが山道はとてもそんな時間では無理だ。一旦日光沢温泉に降り立ったところで気が緩んでしまい最後の小一時間がとても辛かった。途中のブナ平には伐採を逃れた大きなブナ林が広がっていた。ベンチに腰掛けて一休み。とても雰囲気のいいところだった。やっとのことで手白沢温泉に到着し、なにはともあれ温泉に直行した。

大清水10:15ー入渓点12:00ー幕営地15:30//6:45ー1770m二俣8:30ー小松湿原9:30/10:00ー登山道10:25ー鬼怒沼12:45/13:30ー日光沢温泉15:15ー手白沢温泉16:20