ブナの沢旅ブナの沢旅
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2017.03.11
稲子山〜山毛欅沢山
カテゴリー:雪山

2017年3月11-13日

 

このところ南会津の山が続いたので、当初は1泊で土樽から登る山を予定していたのだが、天候と週明けのスケジュールの関係から、日程が久しぶりに週末となった。となると目指す山並みは全部でないにしてもきっとトレースがあるだろう。けっこう人が入るかもしれない・・・以前ならそんなことはあまり気にしなかったが、近年、特に今年に入ってからはトレースのない山ばかり。その気持ちよさに慣れてしまい、週末に行くのは避けたいと思うようになった。

直前のことだったので新しく計画するには準備が足りない。というわけで、苦しい時の南会津だのみ…ではないけれど、2年前にやはり一人で歩いたブナ街道の南半分を歩くことで最終決着。2週間前の雪の状態からすれば、1泊で行けるのではないかと軽く考えたが、同行者のアドバイスにより月曜日を予備日として出発した。

いつもなら浅草からの東武線は下車駅の改札に近い2号車に乗るのだが、好天の週末は混むのではないかと1号車の、ザックの置けそうな先頭に向かった。するとやはり登山者の姿が見える。さらに前に進むと、なんだか見覚えのある顔の男性がこちらに気づいたのかニコニコしている。

まあ、なんという奇遇でしょう。その人たちは山人さんとモコモコさんだった。うれしい再会に話がはずむ。それにしても二人ともとんでもなく大きなザックで、合わせると私の体重と同じくらいなのだ!わがパーティでは、どうやったらあれだけの重さになるのかと興味津々。sugiさんが「akoさんを背負っていくようなものだ」と言ったのには笑ってしまった。互いにこだわりの山行(彼らは栃木の県境尾根をつなぎたいとのこと)を楽しみましょうと挨拶をして、我々は会津高原尾瀬口で下車。

バスにけっこう乗客がいるのはうれしい。自治体の補助を得ているとはいえ、かねがねバスの採算を心配(なくなっては困るという意味で)しているからだ。小立岩で下車し、集落を抜けて林道除雪終了点へ。すると車が一台停まっていた。それも多摩ナンバー。案の定、単独のスキートレースが付いていた。な〜んだ、という気持ちと、正直ちょっと助かったかな、という気持ち。(後々、大いに助かったのだった。)

ここ2週間の間に一定の降雪があったようで雪が締まっていない。スキートレースをたどってもシューがかなり沈む。早々と、当初の坪入山を回るという楽観的なコースは無理だと思い始める。林道をしばらく歩いて尾根に取り付く。1200mまでは急斜面が続き、しかも尾根が凸凹して素直に尾根通しには進めない。先行するスキートレースからも苦労の跡がうかがわれる。このトレースがなかったら、小沢山の稜線までたどり着けなかっただろう。

1200mを超えると傾斜は緩み、尾根も広がる。どんよりとした空で風が強くなり、先行者のトレースも消えがちとなる。三本ブナ峠の稜線から小沢山方面に向かう。2年前は小沢山を越えた展望の良い平坦地まで進めたが、時間的にそこまでは行けそうもないので、山頂手前1430mの平坦地で行動を終えた。

相変わらず風は強いが、2週間前の同様の経験が生きたのか、スピーディにテントを張ることができた。食事をしながら翌日の相談。当初の予定は到底無理なので、稲子山の本当の山頂を往復して山毛欅沢山を経由して鳥井戸橋へ下山することに決めた。これまでは、稲子山は通過点のため、山頂下から隣の尾根にトラバースしていたのだ。夜は月明かりで一晩中明るく、ブナが影を落としているのがよく見えた。

 

テントはそのままにして6時過ぎには出発する。まずは稲子山の鞍部に下降する。ここからが急登となり、スネから膝ラッセルが続く。細長い山頂の雪庇がものすごく発達しているのが見える。あそこを突破できるのか不安になるが、近づかないとわからない。無風好天が味方だ。東壁には所々亀裂が入っていて崩れるのも時間の問題のよう。

いよいよ無木立の山頂下へ。雪庇が少し薄くなっているところを目指して登る。最後はsugiさんがスコップで雪庇を崩していく。直前に右側の雪庇が崩落するのを目撃したとのことで衝撃を与えず静かに崩していた。なんとか這い上がると、上は予想外に細い雪堤だった。坪入山に続く尾根が一目で見渡せる素晴らしい展望だ。ここでも十分な気もするが、せっかくだからと、地図で三角点のある1606mの山頂を目指す。

 

 

北に向かって小さなポコを二つ越えるともう先がなかったので、そこを山頂とみなす。東側は雪庇が大きく近づきたくない。この先を下ると木内木山と地図に名前の出ている山があり、残雪期に登った記録があるが、とても時間の余裕がないし、林相もそれほどではないので未練はない。

崩した雪庇の下りが心配だったが、大したことはなかった。下りは早いが、鞍部からの登り返しでスローダウンする。テン場に戻り、テントを撤収して山毛欅沢山へ向かう。きれいで気持ちの良い雪尾根ながら、次第に小さなアップダウンがこたえる。疲れて気持ちが投げやりになったのか、潅木を避けるために楽な雪庇側に少しだけ回ったところ、さっそく割れ目に胸まではまってしまう。胸で止まったけれど足は中ぶらりんの状態で、下を覗くとかなり深い。危ないところだったと戒める。

山毛欅沢山が近づいてきたが、越えるとしばらく適当な幕営地がないのと、疲れで、山頂手前の平坦なところで行動を終えることにした。展望も良くなかなかの立地だ。今回は風がなく設営が楽だ。とても疲れたのは、雪の具合を甘く見ていたからだろう。雪質は2週間前から真冬に逆戻りした感がある。それでも稲子山に登ることができて嬉しい。

 

 

夜はそれほど冷え込まず、いつも朝はテント内に張り付く氷もなく乾いていた。簡単に朝食を済ませ、6時前に出発。すぐに山頂となるが、雪庇が発達していて残雪期とは様相を異にしていた。2週間前に登った尾根を下る。何度歩いてもブナがステキな尾根だ。男鹿岳方面の県境尾根に雲海が出ている。山人さんたちは今頃どの辺りを歩いているのだろうか。

途中sugiさんがめまいを感じたというのでしばらく休む。今回は最初から疲れているように見えたので少し気になっていた。何しろ今年に入ってからは私よりも山に行っているほどで、張り切りすぎではないかと話す。時間はたっぷりあるので休憩を頻繁に取りながら下る。深瀬沢の橋が見えた時はなんだか長い旅から帰ってきた気持ちになる。2週間前にあの橋を登って城郭朝日へ。そして今度は稲子山から下って戻ってきた。

今年は1月2月3月と続けて同じ山域に入るという、例年にないパターンとなったが、これまで残雪期限定の山だと思い込んでいた大好きな山に、雪が一番きれいな時期に訪れることができた。地元の方の話では、2月後半に一時的に雪が締まってどこでも歩ける時があったという。そういう稀な好条件の時だったからこそ前回は城郭朝日山に行くことができたのだろう。今回はそのことを身を持って知ることができたわけだが、どんな時、どんな状態でも、南会津のブナの山は期待を裏切らない。

 

 

3月11日 小立岩11:05ー尾根取り付き11:50ー稜線15:55ー小沢山下1430m幕営地16:25

3月12日 幕営地6:15ー稲子山10:40ー幕営地13:30/14:00ー山毛欅沢山直下1500m幕営地16:25

3月13日 幕営地5:50ー山毛欅沢山ー下降尾根分岐6:25ー鳥井戸橋9:50

P.S  最初のスキートレースがなかったら、稲子山さえ到達できなかったでしょう。トレースの主はどこへ向かったのか、稲子山の雪庇を崩した形跡はないので途中で沢筋から坪入りの尾根に乗ったのでしょうか、ね。