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2012.06.28
笠科川スリバナ沢~笠ケ岳~笠科川本流下降
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2012年6月28日

 

前夜のうちに現地入りして津奈木橋から坤六峠方面に向い、最初にUカーブする手前の路肩に駐車して仮眠。翌朝の天気はまずまずの様子だ。当初は予報があまりよくなかったので、湿原に抜ける赤沢を考えていたが、直前で晴れ予報となった。それならばたまにはピークハントしようと、スリバナ沢から笠ヶ岳に登る周回コースに変更したのだった。

笠科川にかかる橋のたもとから踏み跡にそって沢へおりる。明るい花崗岩の岩盤なので、ゴーロでもきれいな感じがする。少し荒れていても気にならない。ゴーロの間に時々ナメ滝が出てきて悪くない。すぐにタル沢出合いとなる。奧に滝が見えてそそられる。笠科川上流では一番遡行価値が高いようだ。

スリバナ沢出合いまでは思ったよりも長く感じられたが、渓相はよく言えばミニ楢俣川の雰囲気。ちょっと褒めすぎかな。出合の左が本流で下降する沢だ。右のスリバナ沢は貧相な出合いの小さな沢で、沢床が黒っぽい閃緑岩となる。

すぐにきれいなS字状ナメ滝があらわれホッとする。その後もつぎつぎと小滝が続くが、沢幅が狭く所々ボサがかぶる。う~ん、こんな沢だったのかと思うが、すぐに気持ちを切り替え、今回のメインイベントは笠ヶ岳だもん。気にしない、気にしない・・・

沢が右に曲がるところの5m滝は階段状の右を登るが、滑っているので慎重に。イチリンソウやキスミレ、シラネアオイ、サンヨウカ、キヌガサソウが咲いていた。ほとんどあとで調べた名前だが、たくさん咲いていたので、これで覚えられた、と思う。

標高を上げると所々雪渓があらわれ、沢は雪解けを迎えたばかりのようだ。たぶんもう少しすると沢の周りも緑が豊かになり、花もふえるのかもしれない。スリバナ沢に入ってから2時間ほどで、ほとんど源流の小川風情となる。

1740mの二俣は左へ進み、その後頻繁にあらわれる二俣はすべて左へ。細いながら水流はつづく。1870mあたりで水が涸れ、沢は窪のようになって藪に消える。藪の薄いところを選んで行くと雪渓があらわれ楽をする。

最後にほんの少し軽く藪をこぐと小笠の南鞍部の登山道にでた。最後の藪もたいしたことがなかったので、スリバナ沢は笠ヶ岳へのバリエーションルートにできる沢だと思った。

まだ10時前だ。笠ヶ岳で展望を楽しもう。普段は沢を遡行するとそれだけで満足してピークハントはどうでもよくなるのだが、今回の沢は山頂を踏んでなんぼ、かもしれない。

 

 

 

歩き始めてすぐに樹林帯を抜けると前方に笠ヶ岳が大きく立ちはだかり、振返ると至仏山方面の展望が開ける。東方向には日光連山も遠望するが雲に覆われている。1箇所1.5mほどの厚い雪渓をトラバース。斜面にはチングルマがたくさん咲いている。これからがお花畑の花盛りという印象だ。

沢を詰めて花に出合う機会は少ないのでもの珍しく、写真をとったりあちこち立ち止まったりで進まない。白い綿毛で覆われた花びらの花に目が止まる。ほかの花とは立体感が違う。先にすたすた行ってしまったYさんを呼び止めると、これは日本のエーデルワイス、ウスユキソウだという。なにも知らないので素直に感激する。Yさんは早池峰で見たことがあるけど、ここのウスユキソウの方が厚みがあってきれいだという。山の斜面だけでなく登山道の沿道にもたくさん咲いている。きっとこれからお目当てのハイカーが大勢やってくるのだろう。少し進むと「笠ヶ岳西面野生動植物保護地区」のプレートあり、ホソバヒナウスユキソウ群生および雪田草原などの貴重な植生の保護地区に指定されていることを知る。

山頂直下の道標から山頂への登山道をたどる。岩稜帯のあちこちに可憐な花々がたたずんでいる。けっこう登りがいがあると思いながら山頂へたどり着く。至仏山の向こうに平ケ岳が大きい。楢俣湖とダムがよく見える。奥利根の山はまだ雪が多い。楢俣川ヘイズル沢の枝沢が幾重もの緩やかな谷を刻んでいる。ヘイズル沢もなかなか機会がつくれない沢だ。

山頂で展望を楽しみながらのんびり食事をとる。至仏山と燧が並んで見える。反対側では片瀬沼を見下ろす。シーズン中もとなりの人気の百名山ほど人混みはなさそうで、いい山だと思う。

笠ヶ岳はかつて、シナノキが水源となる山という意味で笠科山と呼ばれていた。地元では古くから笠科川が片品川の本流だと考えられていたという。(武田久吉の「尾瀬と鬼怒沼」は明治時代の尾瀬の様子をかいま見ることができて興味深い)

山頂をあとにして片瀬沼方向に下る。沼から少し下った鞍部付近で適当に藪に入るが、たいしたことない。歩きやすそうな所を選んで進んだらすぐに湿原あとにでた。今回のルーファイさえてるでしょと、Yさんに相づちを強要して自画自賛。

湿原を越えてすぐに窪から沢形があらわれる。あとはひたすら下ればいい。滝はなく、ゴーロ岩の小滝を淡々と下る。下りは単調なのがいい。滝の多い下降はそのたびに行く手が切れ落ちて気が休まらない。

いまだ新緑がういういしく、ヤシオツツジがあちこちに彩りをそえ、沢沿いには至る所にシラネアオイの群生があって見飽きることがない。すると見慣れない紅紫色の花の群生に目がとまる。近づくとクリンソウのようでもあるが違う。

どうしてこんな所にこれだけの花が咲いているんだろうと不思議な気もするが、秘密の花園を見つけたようで嬉しい。帰って調べたらオオサクラソウという、今では珍しい種らしい。これだけまとまって咲いているのは貴重かもしれない。

すっかり気をよくして下って行くとしだいに水量がふえ、沢幅も広くなる。岩盤が明るく本流の雰囲気になる。ナメ滝もあらわれ、俄然美しくなる。4段10m滝は下って見あげるとなかなか立派だ。どの滝も脇が階段状で緊張感なく下れる。

スリバナ沢出合いに戻って来た。ここからは来た道を戻るだけだが、午後から快晴となって日射しが出てきたため、同じ沢がまったく違って見える。ナメが日に照らされて光っている。こんなにきれいだったかなあと思いながら下る。緑もより鮮やかに感じられる。なんだか得をした気分になりながら橋から車道に上がった。

スリバナ沢は沢としてはパッとしなかったが、珍しい花に出会えたし、山頂の展望を楽しんだし、最後はきれいな本流で締めることができた。すでに思い出は美しい。そうだね、けっこういいコースだったなあ。

 

 

 

 

入渓点5:45-スリバナ沢出合6:50-小笠南鞍部9:55-笠ヶ岳10:45/11:20-笠科川本流下降点11:35-入渓点14:50