ブナの沢旅ブナの沢旅
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2012.04.28
鳥井戸橋~1490 m 稜線~恵羅窪山~小手沢山~山毛欅沢山~三本山毛欅峠~小立岩
カテゴリー:雪山

2012年4月28-29日

 

どうしてもやりたい、やらなければならないと、ずっと気になっていた「一人山でテント泊」をようやく実現させた。(後から思えば、大袈裟ではあるけれど。。)2週間前、窓明山からいぶし銀のようなブナアルプスの山並みを見て郷愁がわき、是非また行きたいと心がざわめいた。そして、もうこれは行くしかないと決めた。最初は一気に2泊して城郭朝日山まで行こうか迷ったが、別途GW山行を控えており、いきなり欲張り過ぎと、はやる気持ちにブレーキをかけた。

ちょうど5年前の同じ日に歩いた同じコースを歩くことにした。気持ちが吹っ切れたせいか、準備をするうちに不安や心細さがワクワク感に。山毛欅沢山から恵羅窪山は春山「ブナの沢旅」のいわば原点で、思い入れ深い山域なのだ。

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遠い南会津の山へ1泊2日の短い山旅へ出かけるというのに、当日の朝はいつも山へ行く時よりも2時間近く遅く起きて家族と朝食をとってから見送られて自宅をでた。こんなこと初めてだ。それというのも4月までは、会津高原尾瀬口駅からのバスの始発が11時5分までない。前日に移動することも考えたが、最終バスがなんと3時。今回は山で泊ることが目的なので、まあいいことにしよう。

バスは数名の登山客を乗せて出発。こんな時間から山へ行くのだから皆テント泊なり民宿泊のようだった。運転手さんに伝えて鳥井戸橋の手前で下ろしてもらう。とんでもない所で降りたと思ったのか、乗客の女性が窓をあけ、ここから登るんですかーと大声で声をかけてきた。うなずいて走り去るバスに手を振った。

さあこれからがスタートだと気を引き締めるが、橋手前の広場は昨年9月の豪雨の爪痕が痛々しい。尾根に取り付くために瓦礫をこえ、小沢を見下ろし唖然とする。あるべき橋が崩壊し、鉄板の上を泥水がゴウゴウと流れている。Oh! My God!! あちゃ~。

なんとかならないかと少し沢沿いを登ってみるがとても渡渉できる水量ではない。まさかここで撤退するわけにいかないので、今度は伊奈川と合流する鳥井戸橋の下の方向を見ると、沢幅が広がって傾斜がなくなっている。橋の下には浅瀬もありなんとか歩けそうに見える。

道路の反対側から橋の下に降り、渡渉して枝沢が合流する地点まで行ってみた。う~ん、やっぱり無理かな。でもここを突破しないと人生終わり、みたいな気分になる。こうなったら濡れても何でもいいから渡ってしまおうと、意を決してジャブジャブ、ジャブン、ジャブ。やった~と、対岸に乗り上がる。水位はスネくらいでそれほど水圧もなくホッとする。なんだかもう山行の核心を終えた気分だ。

尾根の末端に乗ると踏み跡が続いており、カタクリやキクザキイチゲが咲いていた。ゴメン、今そんな余裕ないのと先へ進む。予想されたことだが、雪はまったく消えている。5年前はしばらく踏み跡をたどってから尾根に取り付いたが、けっこう急斜面だった記憶があったので、最初から藪尾根に這い上がる。

なにしろ歩き出したのが一日で一番暑い時間帯。この日はとても気温が高く、藪をこいでいるうちに暑さと渡渉の精神的な消耗でほとほと疲れ果て歩けなくなる。

息も絶え絶えに尾根に乗り、ザックを放り出して倒れ込む。ようやく傾斜が緩むと藪もなくなり、赤ペンキの印がついたブナがあらわれる。その後は歩きやすい尾根となり、見覚えのある小さな石の祠へ。

950mあたりからは待望の雪が出始め、1000m付近で赤岩橋からの尾根が合流してからは気持ちのいい雪尾根となる。最初は細かったブナもしだいに立派になって、ようやく山毛欅沢山本来の姿を取り戻したような雰囲気になる。

それにしてもここまでが苦しく長かった。いつもよりも重いザックと暑さに加え、渡渉や藪こぎで心身ともに消耗した。足取りは重かったが、雪がたっぷりつくようになってからは、これでどこでもテントが張れると思い、気分が楽になった。

出発前は山毛欅沢山の稜線に抜けて5年前にテントを張った1526mピーク手前の平坦地まで行こうと考えていたが、このペースでは無理なので5時をメドに行ける所までと決めた。30分毎に休みながらゆっくり歩き、景色を楽しむ余裕もでてきた。

1300m付近から尾根が広がり、西側の展望が開ける。2週間前に歩いた窓明山から三岩岳の大きな山容が見え始めたときはとても嬉しかった。この地味なブナの尾根からみると華やかな別世界の山に見える。とても気持ちのいい平坦地なので、一瞬ここでテントを張ろうと思ったが、タイムリミットまであと30分ほどあるので、もう少し進むことにした。

真っ青な空にブナが大きく枝を広げ、とても美しい景色が続く。1380mの台地からも三岩岳方面の展望がすばらしく、ここにテントを張ることにした。なんだか大変な一日だったけれど、感傷にひたる暇などない。一人であれこれやることがたくさんある。

微妙に傾斜している雪面を土木工事してテントを張り、荷物を取り出したり食事の準備をしたり、雪を集めて水を作ったり・・・それがけっこう楽しかった。さあ、すべて作業を終えたところで、心の友として連れてきたぬいぐるみのxx(いいトシしてこれで名前まで出したら我ながらちょっと~なので)とビールで乾杯。とてもステキなロケーションに大満足。

いつまでも外は明るく、ようやく暗くなり出したら今度は月あかりと星がまばゆい。なんだか初のテント泊をお日様やお月様、お星様に応援してもらっている気分で、おやすみなさいzzz

ぶなさわ1 ぶなさわ2

やはり眠りはいつもよりも浅く、朝が待ち遠しかった。昨日の遅れを取り戻すために5時半に出発。すでに太陽が燦々と輝いている。とても晴れやかな気分だ。朝のすんだ空気に三岩岳から大戸沢岳の展望がさえる。ひと登りで1490mのジャンクションに乗り上げる。ようやくブナのメインストリートに着いた。

さあ、ここからはザックを軽くしてブナアルプスを時間の許す限り自由気ままに歩こう。嬉しさがこみ上げる。不要な荷物をデポして、いざ出発。身も心も羽根がはえたように軽やかなり。東側の谷筋を見下ろすと幾重にも重なる山並みに雲がたなびき美しい墨絵の世界を作り出している。何度も何度も足が止まりなかなか先へ進まない。

以前に泊った1526mピーク手前の台地を懐かしい気持ちで通り過ぎ、鞍部へと下り始めると、なんと人の声が聞こえた。確かに人の声。そしてすぐ鞍部に緑色のテントが見えた。やはり他にも人が入っていたのだと嬉しくなる。鳥井戸橋があんな状態だったので、きっと別ルートで入山したはずと思い聞いてみることにした。

「こんにちは~、ちょっとお話ししていいですか~」と声をかけると女性が顔をだした。少し事情を話しているうちに、「ひょっとしてブナの沢旅さん?」とおっしゃるではないですか。もうビックリするやら嬉しいやらで涙が出そうになる。どうしてわかったのかなと思ったところ、なんとその女性は、以前にメールのやり取りをしたことのある「岳人」編集部のFさんだった。

あまりの奇遇に驚き喜びあい、コーヒーを頂きながら話し込む。彼女たちは27日に入山して城郭朝日山を往復してきたとのこと。鳥井戸橋の渡渉を諦めて赤岩橋の急斜面から尾根に取り付いたという。

楽しいひとときを過ごし、目的の恵羅窪山はどうでもよくなったが、この日も時間を決めて行ける所まで歩くことにした。なにしろ帰りのバスは3時のみ。復路は山毛欅沢山から三本山毛欅峠の尾根を通って小立岩に下る予定だ。安越又川の橋は通れるようだが、途中何があるかわからないので、かなり慎重に時間を読まないと不安だった。

話ができたおかげで気持ちが明るくなり、二人のトレースもあるので急に足取りが軽くなる。緩やかに起伏する尾根をきままに気持ちよく進むと、すぐに5本のダケカンバが目印の小手沢山の山頂へ。東側の展望にも変化がでて、今まで見えなかった会津朝日岳から丸山岳、梵天岳の稜線が見渡せるようになる。

鋸刃から大幽朝日岳付近の東側だけ真っ黒に雪が落ちていて稜線は藪で覆われている。その先の丸山岳は二つの丸いポコが真っ白で、手前には火奴山から丸山岳に続く尾根が近い。

3年前に火奴山から丸山岳に登った時のことが思いだされ懐かしい。南会津を愛する者にとって、丸山岳はいつでも特別な存在なのだ。またコースをかえて行きたいと思う。

小手沢山からも小さなアップダウンを繰り返しながら、ただひたすらブナだけのたおやかな尾根を延々と歩く。取り立てての華やかさは微塵もないが、なぜだろう、心引かれるのだ。気がついたら半ば諦めていた恵羅窪山が間近だった。

タイムリミットにしていた8時半少し前に広い山頂へ。とうとうまたやって来ましたよ-と、思わず独り言。膝を痛めて強行した5年前もここで引き返した。城郭朝日山はほんとうに遠い山だが、またやって来る口実ができたと思う。東側には3年前に登った古町丸山も近い。これまで登った山々に囲まれた山頂でしみじみしていると、一人で来たことを忘れてしまいそうになる。ほんとうに来てよかった。

ぶなさわ4 ぶなさわ5

ぶなさわ6 ブナサワ3

同じくらい時間をかけて来た道を戻る。あまりの長さに、こんなにも歩いた自分に驚いてしまう。ようやく荷物をデポした場所に戻り、ふたたび重いザックで歩き始める。山毛欅沢山へは雪庇をさけて西側の斜面をトラバース気味に登った。

山頂からは稲子山から坪入山、窓明山へと続く尾根が美しい曲線を描いており、その先に白く大きな三岩岳が聳えている。雄大な山並みを目にしながら快適に鞍部へ下ると、その先は尾根が痩せ、しばらくは藪尾根を西側から巻きながら進む。やはり荷が重いと足取りも重くなり、三本山毛欅峠までがとても遠く感じられた。

ようやく見覚えのある三本のブナが立つポコに乗り上げると、そこが小立岩に下る尾根の入り口だ。見下ろすと気持ちの良さそうななだらかなブナ林の斜面が広がっている。

ようやくアップダウンから解放され、あとは下るだけだ。あっという間に1200mまで下ると急斜面となる。要注意点だ。5年前はここで下る尾根をはずして山毛欅沢におりてしまった。慎重にコンパスを振りGPSで確認。

急斜面が終わると突然雪がなくなる。ここでずっと履いていたワカンをはずし、最後の休憩をとる。しばらく下ると藪がうるさくなったので少し右寄りに藪をさけながら下った。

いつの間にか尾根が判然としない急斜面となるが、しばらくは地図でもそうなっているしGPSでも方向はあっている。それで油断してしまった。尾根からかなり右寄りにずれてしまったことに気付く。かなり急斜面を下ってきたので登り返しは辛いと思い、トラバースして尾根に戻ることにした。

灌木のない落ち葉に覆われた急斜面のトラバースはもともと苦手なのに横着をしたのが悪かった。案の定スリップしてしまい、うつぶせの格好でどんどん落ちて行った。なんだかすごいスピードで手も足もでない。

しばらくは滑りながらも下の斜面が見えていたのに、急に見えなくなって焦る。まずいっ。必死で体を地面に押しつけ、藁をもすがる気持ちで落ち葉をつかんだりして抵抗すると、なんとあと10㎝という位置で止まった。夢中だったので恐怖とか何とかの感情はなく、とにかく踏ん張って態勢を立てなおす。助かった~。

ああ、これでバスには間に合わないだろうな。でも助かって帰れるのだからいいことにしよう・・などと思いながら、少し足下が安定したところで一息入れ、登り返して本来の尾根に這い上がった。ストックは途中で1本だけ回収できたが、ザックのバックルが外れて壊れていた。肩にずしりと重荷を感じながら、ひたすら尾根を下る。どうしてこんなことになったのかとしきりに反省し、くやむ。

地図にも出ないような細かな尾根がたくさんあり、ほんの少し角度がずれるだけで大きく離れてしまったのだ。面倒がらずに確かな地点まで登り返すべきだった。などと思っているうちに最後は尾根も緩やかになりあっさりと山毛欅沢出合いに降り立った。ここも豪雨の被害がひどかったようで、橋は全壊ではなかったけれどかなりダメージを受けていた。安越又川沿いの林道もずたずたに崩壊し、復旧作業中だった。

なんだか最初と最後が鬼門となってしまったが、無事に小立岩のバス停にたどり着いた。バスが到着するまで時間があるので、なりふり構わず路上で堂々着替えたり、荷物を整理したり。嬉しいとか苦しいとかの気持ちはなく、淡々としていた。そしてバスに乗り、山が遠ざかっていくうちに、じわじわと達成感がわき上がってきた。

感傷にひたるセンチメンタルジャーニーとはいかなかったが、一人で山に泊り、すばらしいブナのプロムナードを歩くことができた喜びをずっと忘れないだろう。

ぶなさわ8 ぶなさわ9

28日 鳥井戸橋12:10-1380mテンバ:16:55

29日 テンバ5:30-1490 m 稜線デポ5:55/6:05-出会いの1526m 鞍部6:25/6:45-恵羅窪山8:23/8:40-小手沢山10:05-1490mデポ10:40/11:00-山毛欅沢山11:20-三本山毛欅峠12:13-小立岩バス停14:40