ブナの沢旅ブナの沢旅
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2012.04.19
蓬沢~七ツ小屋山
カテゴリー:雪山

2012年4月19日

 

しばらく山に行けなかった仲間が1日だけなら時間が取れるというので、南会津から中三日でふたたび山へ。行先は、まだ雪がたっぷりある上越方面とした。一昨年の暮れ、雪山での初めての単独山行で谷川岳に行ったとき、下山時に立ち寄った熊穴沢避難小屋で話を交わした地元の若者が、一人でも安心していける「いい山」として七ツ小屋山や蓬峠の名前を挙げたことが、ずっと記憶に残っていた。いつか行こうと思っていた。

3月末に白毛門から遠望した蓬峠から七ツ小屋山方面の国境稜線は、目の前の一ノ倉谷のおどろおどろしい岩壁とは対照的に、真っ白なクリームのように穏やかでエレガントな山並だった。

前夜のうちに土樽から蓬沢沿いの林道車止めまで進んだ。翌朝は6時前に出発。少し進むと除雪が終わり、ここでワカンをはいて夏道沿いに進む。もう春なのだなあ~。早朝にもかかわらず雪面はやわらかい。沢は雪解け水でゴウゴウと泡立っている。予報では曇りだったが、嬉しいことに晴れている。

振返ると棒立山からタカマタギに続く山並みが朝日に照らされて見える。いったん植林帯に入った道がふたたび沢沿いにもどると開けた雪原が続き、とても開放的だ。前方には食べてしまいたくなるようなもっこりとクリ-ミィーな山並が霞んで見える。

クロガネ沢出合も広々とした雪原で、沢の源頭を見上げると雪がはがれ落ちた小粒な鋭峰が目に止まる。クロガネノ頭だろうか。足拍子岳がその先にちょこんと頭だけ見せている。

蓬沢を取り囲む山並みの斜面はすべてブナの疎林で、枝の芽が煉瓦色に萌えている。なんて開放的で伸びやかな光景か。

950m付近で沢沿いから離れて左手に張り出した小尾根にのる。尾根は登るにつれ緩やかに広がり、ブナの疎林がとても美しい。コマノカミの頭からシシゴヤノ頭に続く尾根はまだ真っ白だ。

蓬沢をはさんだ対岸には武能岳西尾根が長く緩やかな尾を引いている。1箇所注意するところがあるらしいが、ここもいつか歩いてみたい尾根だ。地図からはなかなか想像がつかないのだが、この枝尾根は終始四方が展望台のようで、ちょうど大きな舞台の真ん中に張り出した花道のよう。振返るたびに、その展望に息をのむ。

10日前に登ったばかりの日白山が控えめに頭を見せ、平標山へ続く尾根には両翼を伸びやかに広げた二居ノ頭が小さいながら存在感を示している。日白山は往復せずに二居ノ頭から下ればよかったとちょっと残念に思うが、あの時はあれで精一杯だった。

地図に謙信ゆかりの道と書かれた稜線が近づくと、つい先日の窓明山の登りを彷彿とさせる無木立の真っ白なスロープとなり気持ちが高まる。けっこう斜度があるが、斜面は広く下は雪原台地なので安心感がある。

尾根にのると双似峰のようなシシゴヤノ頭が適度な雪稜を見せている。威圧感はないので次回はこちらの稜線を歩いてみたいと思う。ようやく国境稜線への最後の登りとなり、左手には七ツ小屋山も見えて来た。う~ん、確かに遠いなあ。ようやくジャンクションピークに乗り上げると、今まで見えなかった東側の展望が広がり、その雄大さに感激する。

朝日岳を目の前に、笠ケ岳から白毛門を見渡す。ここから見る白毛門はビッグブラザーの影に隠れておとなしくしているやんちゃ坊主のようだ。随分いじめられたからねー。

七ツ小屋山への最後の登りにそなえ、ここで一休み。なんだかもうお腹一杯になるほど展望を満喫したが、初心貫徹。湯桧曽川へ向けてメローな斜面が広がっている。スキーヤーならずとも駆け下りて行きたくなるほど気持ちよさそうだが、本谷をずっと下れるのだろうかなど、知らないことがたくさんある。

尾根は夏道が出ているので、少し下った東面の雪原を緩やかに登る。まさに春うらら♪と口ずさみたくなるような穏やかさ。谷川連峰の山々も、ようやく厳しい冬の季節から解放され、厚いコートを脱いで春の訪れを喜んでいるように見える。進むにつれ清水峠を挟んだ鉄塔が2箇所見えて来た。ウットリするほどまろやかな斜面が広がっている。

思ったより早く七ツ小屋山の山頂へ着いた。さらに北側の展望が広がる。大源太山の東面は完全に雪が落ちて真っ黒だ。夏道通しで行けそうな気分にさせられる。なんと白毛門から朝日岳、柄沢山をへて巻機山に続く稜線がすべて見渡せるではないか。積雪期限定の人気のコース。いつか歩いてみたい。風が強くなってきたので、ジャンクションまで戻って休むことにした。

もう登らなくていいと思うと気が楽だ。雪原の下りはこの上なく快適で、あっという間にジャンクションへ。ケーキを食べながら四方の山並みを眺めていると、このまま下るのが惜しくなる。日帰りは手頃でいいけれど、やっぱり山に泊って夕暮れや朝焼けの姿を見たいと思うし、思い出の濃さが違ってくる。次回はきっとテントをかついでこようと思う。

シシコヤノ頭からコマノカミノ頭へ続く尾根をたどるとクロガネノ頭から足拍子へ続く、ワクワクするようなミニ雪稜コース。もっと雪山に慣れたら歩けるかな、なんてまたしても妄想が始まった。なのに現実は、いまだ雪壁の下りとなると及び腰。Yさんはスイスイ下っていった。記録でみた中年女性Pは尻セードしているというのに、だ。

大斜面を下ったところの広い台地があまりにも気持ちがいい所だったので、休んだばかりだったけれどティータイムを宣言。お湯を沸かして温かいコーヒーをすすりながら至福のひととき。一仕事をやり遂げ、好きな山々に囲まれて過ごす時間は何ものにも代えがたい。とっておきの山行がまた一つふえたことが嬉しかった。あとはブナの疎林尾根を気持ちよく下り、少し冗長に感じた林道をたどって駐車地点に戻った。

積雪期の蓬沢はおもにスキーヤーの遊び場になっているようだが、国境稜線までのルートはとくに悪いところもなく、穏やかな雰囲気がつづく、珠玉の雪山ハイキングコースだ。来年もきっとまたやって来ようと思った。

林道車止5:45-クロガネ沢出6:45-国境稜線10:25/10:40-七ツ小屋山11:30/11:40-国境稜線分岐12:20/12:30-1350m 台地13:00/13:15-林道車止15:10