ブナの沢旅ブナの沢旅
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2011.07.31
小和瀬川中ノ又沢スズノマタ沢~葛根田沢中ノ又沢下降~戸繋沢
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2011年7月31日~8月1日

 

豆焼沢では予想外に苦戦したため、心からくつろげる沢旅を求めて東北へ向った。何度か訪れているなじみの山域なので、コースを工夫してみた。今回は秋田県側の小和瀬川を遡行して南八幡平の登山道に抜け、岩手県側へ下って葛根田川へ。翌日は支流の戸繋沢を遡行して再び登山道に上がり、大白森の高層湿原を越えて秋田県側に戻るという変化に富んだ周遊コースだ。

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前夜のうちに現地入りして玉川ダム展望台を仮眠場所とする。行き当たりばったりで見つけた場所だが、ウォシュレット付きの新しく立派なトイレ設備がある快適な場所だった。満天の星空で、翌日の好天を確信して就寝。

翌日は長い行程なので5時には出発。小和瀬川林道へ入り、中ノ又林道出合に駐車してしばらくは林道を歩く。タツノクチ沢出合あたりで入渓を予定していたが、沢に降りられる雰囲気ではなかったので林道をさらに進むと山道となる。この道をたどれば上流の取水堰堤につながるらしいが、それでは中ノ又沢の遡行が短くなってしまうので、山道が枝沢を横切るところで沢靴に履き替え、ナメの枝沢を下ることにした。

中ノ又沢に降り立った所は、ちょうどゴーロがナメ床に変わるところで、さっそく前方に森吉の桃洞滝のミニチュア版のようなナメ滝があらわれた。いい所に降り立ったと喜ぶ。沢に朝日が当たりはじめた所で、沢水が燦めいている。小滝やナメ滝が続き、予想通りとても穏やかな渓相に心が和む。

沢幅一杯のナメ滝を越えると上はさらに沢幅が広がり好感度はさらに高まっていく。沢が左に曲がるところの5m滝は左壁をトラバースして越える。傾斜の緩いデコボコのスラブ滝を楽しく登って少し進むと突然人工物があらわれる。取水堰堤だ。事前に知らなかったらビックリ、ガッカリしただろう。

堰堤上はほとんど水がなく一瞬心配になるが、すぐにきれいな沢に戻った。というより、堰堤下部よりもさらにすばらしい渓相になったのだった。沢が右に曲がる所にあらわれた幅広スダレ滝はウットリとする美しさ。右側の水流沿いを気持ちよく越えて行く。

いったん両岸がひらけて開放的な岩盤の沢床となると、すぐに二俣となる。ここからは右のスズノマタ沢へ進む。沢は少し小ぶりになるが、緑の森と白い水流が木漏れ日を浴びて輝いている。なんて素敵な沢なんだろう、なんて気持ちがいいんだろうの繰り返し、のみ。

そしてスズノマタのハイライト!大深沢のナイアガラの滝を小ぶりにしたような美しい幅広スダレ滝の登場だ。小さな沢に不釣り合いな立派な滝に歓声。予想外のことで興奮気味となる。左側から簡単に越えられる。滝上もナメ、ナメ小滝が続き、もう頬が緩みっぱなし。悪い所がまったくなく、心から和んで穏やかに歩けるのがうれしい。たまにはこういう沢旅もなくちゃね。今回は大当たりだ。

適当なところで昼食の大休憩。今回はソーメンでなく冷やし中華にしてみた。具をたくさん入れて本格的仕上げ。なかなかでした。850mあたりからようやく傾斜が増し、苔むしたゴーロ滝をぐいぐい登って行く。最後まで水量豊かで楽しく登って行くと最後は窪となり、ほとんど藪こぎなしで曲崎山と大沢森の鞍部近くの登山道にでた。

すこし大沢森方面に進み、地図で沢型が明瞭な所から葛根田川中ノ又沢を下降する。登山道から薄い藪をかき分けて中に入るとすぐに窪が見つかる。地図で見ても傾斜が緩く、とても長い行程であることがわかる。上部に小滝が2,3あっただけで、ひたすら何もない川を下っていく。とくに800から900mの間は下っても下っても高度が変わらず、めげそうになる。

両岸はブナの原生林が広がる静寂の森だ。時折イワナが足下を走りすぎていく。小和瀬川ではまったく見られなかった魚影だが、葛根田川の中ノ又沢は多分釣り師の沢なのだろう。いい加減に飽きて来たころ突然のように幅広のナメ滝があらわれ、渓相が一変。ここからはナメ滝の連瀑となり、ようやく沢登の沢らしくなったところで本流出合となる。ふうっ、ようやく本流へたどり着いた。

なつかしい葛根田川。本流はさすがに大きく立派だ。何もない中ノ又沢を延々と下ってきたあとだったので、なんだかとても感動する。前回は小雨模様だったので、美しさも今ひとつだったが、今回はまだ陽が高く水面が燦めいている。やっぱりきれいだなと思う。ハイシーズンとはいえ他のパーティと会うこともなく、静かな沢歩きだ。2年前の遡行の印象を上書きするかのように、じっくりと味わいながら下っていく。

大石沢出合い手前100mくらいの所の左岸に広い川原があらわれ、いかにもテンバという真っ平らに整地された砂地が目にとまる。増水には耐えられそうにないが、連日晴れ予報なのでここで泊ることにした。なんとか流木や枯れ木を集め、焚き火のしたくに取りかかる。今回はあっという間に火を熾すことができほっとする。広々とした川原でゆったりと食事を取りながら、掘り出し物のような沢の話題に盛り上がりながら、長い一日を終えた。

 

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夜中に小雨となるが、明け方にはやんだ。予定通り6時に出発。最近は朝もてきぱき段取りが良くなっている。すぐに大石沢出合いとなる。あまり快適そうなテンバは見当たらなかったので、手前の川原に泊ったのは正解だった。

大石沢に入ると、葛根田川よりも葛根田らしい渓相が広がり、心浮き立つ。ほとんど事前情報がなかったので期待度も低かったからか、二人とも朝から頬が緩みっぱなしだ。この美しい渓相がずっと続くなんて、話ができすぎという気持ちが心の片隅にあるものだから、ことあるごとにもう終わりよね、を繰り返す。

戸繋沢出合の二俣につくと、左の大石沢は突然黒ずんだ大石のゴーロ沢となる。一方の戸繋沢は依然葛根田の渓相を保ちつづけている。しばらく進むとミニゴルジュとなり、右岸の枝沢が大岩の滝となって流れ落ちている。へぇ-、こういう変化もあるのか。なかなかではないですか。青白い岩盤の沢床に所々石がたまり、きれいな模様を作り出している。

ゆったりとした、何もないけれど美しい流れの中を幸せな気持ちで進んで行くと、突然行く手に沢幅一杯に広がるスダレ状滝が見えて来た。ここでも予想外の展開に大喜び。幅がありすぎて写真に収まりきれないのが残念だ。一見登れそうだが、かなりのシャワークライムとなる。そこまで無理することないよねという、我々の常套句を振りかざし、少し戻って左岸から巻く。滝上には予想通りナメが広がっていた。

金掘沢出合を分け、左の戸繋沢本流へ進む。さすがに沢は小ぶりとなり、岩盤が赤茶けてくる。ときどき小滝があるものの相変わらず穏やかな流れで、次第に両岸の森はブナが卓越する森となる。源頭部では地図で認められる以上に二俣があらわれる。1063m鞍部にでようと慎重に進んだつもりだったが、少し上がったところに抜けてしまう。どこかで見逃した分岐があったようだ。とはいえ、ほぼ予定通りであることは間違いない。鞍部まで下ったところで沢装備をとき、一服して第二ラウンドの縦走へ。

 

 

 

鶴ノ湯へ下る分岐を通り、しばらく進むと木道となって小白森山の湿原へ導かれる。湿原はリュウキンカが目についた程度で他にあまり花は見られなかった。急登にあえぎながら大白森山の広大な高層湿原へ。初めて女性3人組とすれ違い、まあ、30キロもありそうなザックだこと、なんて言われてしまう。その半分もございません、とは言わなかったが。

大湿原の真ん中にしかれた木道をたどる。ガスが出始めて展望は得られなかったが、これまでずっと森の中をたどってきたので、ひらけた湿原の幻想的な雰囲気が新鮮だった。大白森避難小屋に立ち寄ってみる。とてもきれいで快適そうだ」。立派なストーブがあり、残雪期に訪れてみたいと思った。広大な雪原とブナ林、晴れていれば最高だろうなあと、妄想がふくらむ。

ブナ林の中を下っていくと分岐となり、そこを左に登っていくと去年の10月に秋田県側から登って来た999mの小さな標識がある道と合流。ここから一気に下って行く。ものすごい急坂でたるむところが一切ない。とたんに弱点が露呈して急にペースダウン。沢筋に降り立ったときにはぐったりしてしまう。沢を渡渉して地図では林道となっている草ぼうぼうの山道をたどる。秋に歩いたときと雰囲気がちがうので心配になるほど道は草に隠れていた。

山道は仮払いも行われてすっきりしているのにおかしいという話から、いろいろと憶測が飛ぶ。立派な道ながら地図では点線で、標識も999mのみ。きっとタケノコやキノコの山で部外者にはあまり入ってほしくないのでは、とか・・・そういえば坂道の途中にくくりつけてあった台車がふえていたね、とか。

ようやく車止めに到着。お疲れ様~といいたいところだが、ここからさらに車を置いた中ノ又林道分岐まで6kmほどの道のりだ。二人とも考えることは同じで、ザックをおいて車で取りに戻ろうということになった。ザックを下ろすと羽が生えたように身軽になる。どんどん下っていくと、が~ん。土砂の押し出しが道をふさいでいる。どう見ても車では無理。ということで、諦めて戻る。めげても仕方ないので、最後のカラ元気を振り絞る。

とてもいい沢旅ができたことを慰めとするが、バテるものはバテる。道ばたに座り込んでいると、なんと軽トラックがやって来て、おじさんが声をかけてきた。立ち話をすると私たちのコースにとても関心を持ったようで、いろいろと質問攻め。そして、なんと駐車した所まで送ってあげようという、神のお慈悲のような一言。もううれしさに小躍りしながら飛びつく。こうして長い林道歩きから解放され、いったんは諦めた温泉にも立ち寄ることができたのだった。

たちよった「はなかげの宿」は、ダム湖に沈んだ宝仙小学校の分校を再現させた建物で、一般の温泉宿とはひと味違う雰囲気のリゾート風の宿だった。ここでも本来なら一般入浴は3時までらしいが、特別のはからいで宿泊客よりも先に温泉に入らせてもらうという好意を受けた。

あまり知られていない美しい沢とブナの森、人情味あふれる好意の数々にふれることができた、会心のみちのくの沢旅であった。

 

7月31日

中ノ又林道出合5:35~550m入渓点6:55/7:25~スズノマタ沢出合9:25~1080m稜線12:30~葛根田川中ノ又沢下降~葛根田川出合16:00~大石沢出合手前のテンバ16:35

8月1日

テンバ6:02~戸繋沢出合6:30~金掘沢出合8:28~1030m稜線10:25/10:55~鶴ノ湯分岐11:30~大白森12:47~大白森避難小屋13:15/13:30~999m分岐14:05~林道終点15:10~途中でヒッチハイク~中ノ又林道出合16:00