ブナの沢旅ブナの沢旅
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2011.08.08
野呂川シレイ沢
カテゴリー:

2011年8月8-9日

 

初めて南アルプスの沢へ行ってきた。ブナの沢旅ではこれまで、どちらかというと地味で静かな沢へ行くことが多く、有名なアルプスには縁がなかった。とはいえ、スケール感があってさほど難しくない美しい沢もいくつかある。これからは新しい山域へも足をのばしてみようと思う。今回はその第一歩だ。

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甲府駅から広河原行きのバスは始発が早朝4時発。つぎは9時までないので前夜発にすべきか迷ったが、一日で稜線に抜けるつもりがなければ朝発でタクシーを奮発すれば10時ころに入渓しても予定のテンバまで行けそうだ。

ということで、8時前に甲府駅で待ち合わせる。タクシー乗り場へ行こうとしたら運転手らしき人に声をかけられ広河原へ行くのかと聞かれる。大きなザックを背負っていたからだろう。シレイ橋までの料金を確認したところ12000円くらいだというので、この金額を上限とすることを条件に乗車する。もっと交渉をすればよかったか。

メーターを途中で止めてもらってシレイ橋で降り、さっそく下降点を確認しようとすると工事中で立入禁止の看板が目に入る。一方、タクシーの運転手は私たちを下ろすと自分も車から降りて橋から見える滝を見あげ、こんな所を登るのかと驚いて、しきりにやめろと説得にかかる。最近救急車で運ばれた人もいるなどと言い出すが、シレイ沢に行くことは最初から伝えていたので、それならばタクシーに乗せなければいいのにと思う。私たちは沢登りの経験がたくさんあって慣れているから大丈夫と、今度はこちらが説得して帰ってもらう。

沢支度をしていると、今度は工事関係者がやって来て、この看板を見なかったのかと問いただされる。すかさず、見ましたが自己責任で行きますと、(相手に隙を与えないよう)毅然と応えた。すると少しの間をおいて、滝の上で工事をしているので落石の危険があり橋下へは降りられないので作業用の階段を上って行くように指示を受け、一件落着。

小松原沢の前例があるので、もしかたくなに入渓禁止と言われたらどうしようかと一瞬ひやっとしたが、今回は大丈夫だった。ちなみに、工事は崩壊地を森林へ復旧するための工事と記されており、期間は6月28日から11月25日までとある。平日に入渓する場合は注意が必要だ。

鉄パイプの階段から山道をたどり、吊り橋の下で沢に降りた。さあ、いよいよシレイ沢への入渓だ。最初に橋から見上げた滝は荒々しく、先週の葛根田川の穏やかな渓相とのギャップに少し戸惑っている自分に気付く。気のせいかちょっとした急登にも心臓がパクパクする。

すぐに登れない5mCS滝となり、左から巻く。以降、登れない10m前後の滝がつぎつぎとあらわれ、最初はおおむね左から巻く。シレイ沢は人気の沢なので登れない滝には巻き道がしっかり付いている。けれど、すべてが簡単明瞭というわけではなく、頼りすぎてしまうと間違った踏み跡に紛れ込んでしまう。まだルート工作には自信がないので、今回も巻き道を正しく見つけて間違わないことを自分の課題にすえたのだが・・・

ゴルジュの連瀑帯を過ぎると沢は開けて明るくなり、登れる小滝、ナメ滝もあらわれて心が落ち着いてきた。川原の砂床には砂金らしきものが陽の光を浴びてキラキラ輝いている。あとである記録を見たら雲母らしいとのこと。

6mの直瀑は滝の裏側を通過。少し濡れるが楽しい。先頭をいくchieさんは、小さな滝はできるだけ巻かずに突破を試みるが、私は苦戦して空身で登ったり、お助けを出してもらう。一箇所、右壁がかぶり気味の所ではレイバックで突破したので驚いてしまう。やっぱりクライマーはやることが違うと、しきりに感心するが、当然まねはできない。ザックを荷揚げした上に、途中で見つけた残置ハーケンにシュリンゲを通してなんとか通過。

高巻きでも一箇所、右から巻いて滝口へトラバースしようとしたら先が崩壊していたためさらに樹林の斜面を登ってしまい沢へおりられなくなる。そこで崩壊していたトラバース地点まで戻ったところ、一段上に倒木で見えなかった細いバンドがあり、ここをたどったら沢へ導かれた。ここで30分ほどのロスタイム。

気を取り直して進むと樹林ごしに美しい15m多段滝が見えて来た。右から巻くとさらにその上の小滝も巻くことになり右俣へ。2030mの二俣を右へ進むとふたたび12m、15mの立派な滝が続く。どちらも左から明瞭な巻き道をたどって滝上へ。つづくトイ状のナメ滝を越え8m滝を左から小さく巻く。しばらくは穏やかなナメとなり、こんな具合にもっと続いてくれればいいのにと思ってしまう。なんだか気が休まらないのだ。

すぐに行く手に25m大滝が見えて来た。近づいて見上げた滝は美しく、迫力がある。このあたりから岩は白い花崗岩が目立つようになり、雰囲気が明るくなる。左から巻くと左岸に白いスラブ壁が広がり、樹林をはさんで真っ白な一条の白い滝が目に飛び込んできた。いよいよシレイ沢のハイライト、30m白い滝へたどり着いたようだ。

ここで、どちら側から巻くかで二人の意見分かれる。chieさんは左岸のスラブを登ろうというが、私は絶対に右岸の樹林を大高巻きすると互いに譲らない。地形を見上げながら右岸はかなりの大高巻きになるし、左岸のスラブはロープを出すという。そこで妥協案として、右岸滝下のスラブ斜面から取り付いて樹林を小さめに巻くことを提案し、折り合いをつける。

近づくとけっこう傾斜があるのでchieさんがロープを引いて空身で登る。出だしの1,2歩が難しく、ゴボウで登った。樹林に入ると下から続いている明瞭な巻き道があり、そこをたどってぴたりと滝の落ち口へ降り立つことができた。途中トラバースするところが少しわかりにくく、踏み跡が複数あった。

落ち口から上は穏やかなナメとなり、核心を終えてホッとする。すぐに2180mの二俣となり、右へ進む。右俣出合いの滝は左俣との中間尾根に巻き道があり、トラバース気味にたどると15m滝が見えて来た。いったん滝下へ降りてみる。両岸が岩壁の滝もなかなか見応えがある。左手前の岩壁をよじ登ると下から続いている巻き道に合流した。

そろそろお目当てのテンバがあるはずと、注意しながら進む。右手の一段高くなった岩陰に白い平地がみえので、思わずここだ!と思う。事前情報通り最高のテンバだ。白砂で整地されていて真ん中に倒木があってベンチのよう。反対側はやぐらまである焚き火スペースで、完璧なセッティング。先に進んでしまったchieさんを大声で呼んで行動を終える。無事に予定通りのテンバにほぼ予定通りの時間で到着できた安堵感で、二人で手を取り合って喜ぶ。

さてと、さっそくテント設営の準備にかかる。今回は新しく購入した一人用の自立型ツェルトにしてみた。夕立が予想されるのでタープを念入りに張る。着替えてさっぱりして、さあ焚き火の用意と思うや雨が降り出し、大降りとなって雷がとどろく。焚き火は諦めるが、テントを張ったあとでよかった。ビールで乾杯して一日の行動を振返る。高巻きで一箇所ロスタイムがあったけれど、概ね予定通りということで及第点をつける。そのうちに雨もやみ、夜中には星が出ていた。

shirei1 shirei2

翌朝は6時過ぎに出発する。しばらく進むと5m幅広滝があらわれ、手前の左岸にテンバがあった。さらに進むと右手に苔むした岩壁から水がしたたり落ちていて美しい。少し上にも展望は抜群だけれど増水に耐えられそうにない小さなテンバがあった。やっぱり私たちの白砂テンバが一番だったと思う。次第に沢が岩壁のようになるが階段状なので越えられる。水が涸れそうになったところで水をくむ。

2350m二俣を右へ進むと垂直の枯れ棚に阻まれる。右から樹林に入って高巻き、そのまま沢に戻らずコンパスで方向を確認市ながら樹林帯の斜面を登る。ときどき明瞭な道がジグザグに付いているが、かまわず歩きやすいところを直登していく。どうしても右に寄ってしまい、その都度修正する。薬師岳北西の鞍部をめざしたのだが、気をつけていても右寄りになってしまう。

樹林帯を抜けると左手に観音岳の稜線が見渡せる。上はハイマツの藪が手強そうなので左にトラバースして白ザレの斜面へ。白ザレの向こう側は低灌木になっていたが、chieさんは岩稜帯の方が簡単だという。どうも岩が出てくると避けようとしてかえって悪いルートに突っ込んでしまう。ザレも上部はそれほど崩れることはなく、簡単で快適な岩登りだった。

登山道間近になったところで大人数のパーティが見えた。一足先に抜けたchieさんがルートを説明するとみな大いに感心し、あとから続いた私が登山道へ抜けるところでは全員が拍手をして迎えてくれた。照れくさかったけれど、うれしくて感激だった。なんという晴れがましいフィナーレだろう。chieさんとも握手をして喜び合う。目の前には北岳がどんと構えている。大樺沢はいまだ雪渓に覆われていた。

時間はたっぷりあるので、濡れたものを乾かしたり着替えたりと、登山道脇で店開きとなる。この間もつぎつぎと登山者が通過する。学生ワンゲルパーティも多く、若い人たちを見ると嬉しくなる。予定よりも右寄りに抜けたため、薬師岳は目の前だ。

だだっ広い山頂はとくに感慨もなく人も多かったのですぐに下山する。ピンク色の可憐な花のタカネビランジがあちらこちらの岩陰に咲いていた。登山道は傾斜は緩く歩きやすいが、何カ所か登り返しがあり、そのたびにペースが半減する。登りの筋力をつかい切ってしまった感じだ。

御室小屋で最初の休憩。とてもなつかしい。初めての雪山体験が鳳凰三山だったのだ。御室小屋にテントを張って2泊した。稜線の強風に耐風姿勢を取りながらやっとの思いで観音岳にたどり着き、ウルウルしたことを今でも覚えている。

イチゴ平からの下り道はお花畑になっていて、すれ違った中高年パーティのリーダーが花の名前を教えてくれた。そしてまじめな顔でこう言った「この花は薬草なのですよ。むかし、兄が弟にこれは貴重は薬草だから誰にも話すなといったのに、弟は他の人に教えてしまった。それで兄は怒って弟を斬り殺してしまった。だからオトギリというんですよ」

へえー、そんな逸話があるんですかーと真顔でいったら、すました顔で、これで花の名前覚えたでしょ、だって。ガイドさんがこんな風に花の名前を教えてくれたら受けるだろうなあと思った。

夜叉神峠まで下れば、もう少しで終点の登山口。予定していた3時台のバスにも十分間に合うので長い休憩をとる。正面には白根三山が鎮座するビューポイントだ。そしてひと下りで登山口に降りたった。水場も東屋も店もあったので、着替えたり汚れたザックや靴を洗ったり。そして冷たい飲み物で喉を潤しているうちに甲府駅行きのバスがきた。

いやいや、初の南アルプス沢登り。さすがにスケールが大きい。滝を登ったとか巻いたということなど関係なく達成感が得られた。沢旅的な穏やかさや安らぎとは違うが、いろいろな山域を経験して多様性を知ることは、ほんとうに自分のやりたいことを理解する助けになる。その意味で新しい一歩を踏むことができたと思う。(chie、ako)

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8日 シレイ橋9:50-二俣-白い滝14:45/15:00- 奥の二俣15:53-テンバ16:10

9日 テンバ6:10-登山道9:40/10:20-夜叉神峠登山口15:20