ブナの沢旅ブナの沢旅
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2010.09.19
鬼怒川黒沢魚沢~片品川中ノ俣沢北岐沢
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2010年9月19-20日

 

今回もずいぶん天気予報に振り回された。当初は8月に予定しながら天候不順で延期した東北の和賀山塊の沢に2泊3日で行く予定だった。なか日が多少天気がぐずつく程度なので決めたのだが、前日夕方の予報で突然秋田方面に低気圧が発生し、天候悪化。が~ん。急遽翌日の出発は見合わせ、仕切り直して転戦することにした。

というわけで、行きたい沢リストから、ナメが美しいという鬼怒川黒沢の魚沢をピンチヒッターに指名。この際スケールダウンは仕方ないが、奥鬼怒の沢を遡行して尾根を越え、尾瀬の沢を下降して大清水に抜ける。沢旅のテーマとしてなかなか良いのでは・・・その上、最近マイブームとなっている沢からの湿原巡りも楽しむことができる。こうしてあっという間に転戦プランが完成した。

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前夜、東部鉄道の川治温泉駅からタクシーで青柳車庫まで移動し、翌朝女夫淵行バスの始発に乗車。中途半端な移動のように見えるが、タクシー代を節約するための妙案なのだ。バス停のとなりには立派なトイレと休憩広場があり、快適に仮眠をとることができた。

女夫淵温泉は予想以上に規模が大きく近代的で、以前よりも風情が無くなったというのがうなずける。ここで沢装備をつけ、車止めのゲートを越えて黒沢林道を進む。途中で日光沢温泉方面への奥鬼怒遊歩道を分けるが、遊歩道は歩行禁止となっていた。魚沢出合の少し上流で林道から沢に下り、対岸の段丘を越えて魚沢に入渓。出合はぱっとしないが、ゴーロを少し進むと赤いナメとなり、さっそく前方に階段状8m滝があらわれる。

滝上からは小滝が続き、美しい6mスダレ状滝へ。右岸を小さく巻いて上がると沢幅一杯に緩やかな傾斜のナメが続いており、いよいナメワールドのはじまり、はじまり・・・といった風情となる。赤味を帯びたナメ床と白く波立つ水、樹林の緑が陽の光と調和してとてもいい雰囲気。

さっそく、いいねー、きれいだねーを連発しながらヒタヒタ歩いていくと前方の樹林越しに白い高い壁が見えてきた。近づいて思わず歓声!20mの2条ナメ滝だった。吾妻連峰の前川大滝沢の大滝を小ぶりにしたようだ。ナメだけじゃないんだ。なかなかやるじゃん、などとワクワクしてしまう。左岸の樹林沿いから簡単に登ることができた。滝上はさらに滑らかなナメがいつまでも続いており、まさに前半のハイライトであった。

ゴーロの混じったナメに変わってしばらくすると、両岸が切り立って沢幅が狭くなる。トイ状小滝を越えると奥に滝をかけたゴルジュがあらわれる。滝に取り付くには深い淵に入らなければならないし、滝は完全にシャワーとなるので巻くことに。右手の岸壁にある踏み跡をたどってかなり登り、細いバンドをトラバースするのだが、足下が切れ落ちているのでかなり緊張した。初心者がいる場合はロープを出した方がよさそうなところだった。沢に降りたときには心底ホッとした。

すぐにトイ状10m滝があらわれたときには、またかと思ったが、近づけば簡単に直登できた。そしてふたたびドーンと大きな滝が目の前に。2段18m滝だ。思わず、ええっ、ナメ沢じゃなかったのぉーと口走る。さあ、どうしようとルートを探す。

左手から取り付いて下段をシャワーで登り、上段は右手から巻くルートが見えてきた。けれど大シャワーのトラバースを日和って一段下の小シャワーで抜けたためあと一歩の手がかりがなく、あきらめて下から巻くことにした。巻きも途中のトラバースでかなりきわどいところがあり、ここでもロープがあった方が安心だと思った。

大きな滝はみな高巻きなのだが、簡単ではなく緊張の連続だったので、ある意味登りがいを感じることができた。その後も5m前後のナメ滝をつぎつぎと越えていくと、ふたたび穏やかなナメとなる。今度は黄色味を帯びた幾何学模様の沢床だ。高巻きを頑張ったご褒美のようだねといいながら、しばらく気持ちのよい沢歩きを楽しむ。

延々と続くナメがようやく途切れたと思うと、ふたたび前方に8m滝が壁のように立ちふさがっている。水流左手を少し登ってから樹林の窪に入り、上部は強引に木登りしながら落ち口にトラバースして抜けた。ヤレヤレと先へ進むと、今度は10mほどの扇型のナメ滝が頭上に見え、両岸が低くなって開放的な雰囲気となる。つぎつぎと、見応えのあるきれいな滝が続き、興味がつきない。予想以上の展開に、予定していたマンダノ沢よりもいいかもねなどと軽口がでる。

左から小さく巻き気味にスラブ登りを楽しむ。大岩の被さる小滝をこえると、さあ参ったかとばかり、ふたたび楚々とした黄ナメがこれまた延々とつづくのだ。ナメ沢をいろいろと歩いてきたけれど、三部構成のナメをもつ魚沢は、かなり遡行感度が高いといえるだろう。

何本かの数メートルのナメ滝とトイ状滝を越えると、三俣となる。左俣はゴルジュの中に15m2段滝をかけ、右俣は8m滝。奥まったところの中俣にはほとんど水がない。右の8mナメ滝を左から登ってみるが、落ち口がザラザラの左岸で手がかりがない。いったん降りて右から巻き気味に登るが、途中でスタンスの岩が崩れ、2mほど滑り落ちてしまう。膝を強打したが、しばらく休んで遡行継続。その後問題となることはなかったが、罠はどこに仕掛けられているかわからず、油断大敵。結局、中俣を少し登ってからトラバースして右俣の滝上に抜けた。

しだいに源頭部の雰囲気となり、水量も減って苔むした沢床を快適に登っていくとY字状の20mナメ滝に行く手をはばまれる。傾斜はあるが、フリクションをきかせて右側の斜面を登る。滝上から水が涸れるが、沢型を忠実にたどっていくと傾斜が緩み、最後は薄い藪の中に消えた。ここからわずかの藪こぎで黒岩田代の南端へ。今回はとても楽に湿原へ抜けることができた。小さな湿原だけれど、沢を詰めて到達したという充実感は何ものにも代え難い。しばらく雰囲気に浸かり、つぎの小松湿原をめざす。

 

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湿原から西へ進めば黒岩山の稜線に出るのだが、かなり登らなくてはならないので、2050mの高度をトラバース。ほとんど平坦な開けたシラビソの森をコンパスを頼りに南西方向へ向かう。一部笹藪に入ってしまったが、概ね歩きやすいすっきりとした森を抜けて登山道へ。テープがなければ通り過ぎてしまいそうな目立たない道だった。ここから2043m峰下の鞍部をめざす。去年の7月に小松湿原から詰め上げたところだ。今度は下って再訪するなんて、その時は想像もしなかった。

茫漠とした地形なので適当に斜面を下るが、一度歩いているので気持ちに余裕がある。途中急降下となるが、最短コースで湿原に降り立つことができた。最初にこのルートを思いついたときは時間的に大丈夫だろうかと、実は半信半疑だったのだが、なんとかここまでやってきた。尾根を越えて湿原をつなぐことができた。なんだかとてもうれしく晴れがましい気持ち。ただ少し残念なのは、広い湿原が部分的に鹿に荒らされ泥がむき出しになっていたことだ。これからどうなるのだろう・・・

さあ、時間も押してきた。北岐沢を下降して、テンバ予定の奥ノ二俣まで時間との競争だ。湿原東端の水が流れているところから下ろうとしたところ、最初に足を踏み入れたsugiさんが泥沼に沈みはじめビックリする。抜け出そうとしても抜け出せず、二人がかりで大騒ぎをしながらようやく窮地を脱出するという一幕も。あとはひたすら淡々と下り、なんとか5時に予定のテンバに到着。とても快適なテンバのため、すでに今シーズン多くの遡行者に利用されたようで、枯れ木がほとんどない。そのため焚き火は形ばかりのものになってしまったが、土壇場での転戦ながら予定通り行動できて大満足の一日となった。

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翌朝は小雨模様。予報と違うと文句を言いたくなるが、もし事前に雨だとわかっていたらきっと来なかったはずと、物事を前向きに解釈。模様眺めをするほどでもないので、予定通り出発する。多少水に濁りが出た程度でとくに問題なく下降をつづけ、予定よりも早く林道に上がることができた。

この頃には雨もやみ、大清水に着く頃には青空が戻ってきた。3時の新宿行きバスを予約していたのだが、時間がだいぶあるので1時前の上毛高原行きバスに変更。バスを待つ間、着替えをしてうどんを作り、短いながら変化に富んだ湿原巡りの沢旅を締めくくった。

いつも予定通りに行かないものの、その時の最善をつくして必ず満足のゆく沢旅を楽しめるなんて、ほんとうに幸せなこと。魚沢は予想を裏切らないすばらしい沢で、きっとこれからもっと多くの遡行者を迎えることになるのだろう。

 

19日 女夫淵温泉駐車場7:45-魚沢出合-三俣-黒岩湿原-登山道-小松湿原-北岐沢下降-奥ノ二俣テンバ

20日 テンバ7:00-林道10:30 -大清水12:05