ヒバクラ岳〜割沢森〜桃洞沢(ブナの沢旅事始め)

2006年10月1-2日

山の楽しみ方は千差万別。高い山、険しい山のピークを極めればこの上ない達成感が得られるでしょう。また、深い森に分け入り樹林の美しさや渓流のせせらぎに幸せな気持ちを感じることもあるでしょう。ブナの森が大好きと、ひょんなことから意気投合したakoとYさん。

では一度一緒にブナの森に行きましょうと選んだのが奥森吉でした。一日目はヒバクラ岳からブナの原生林、割沢森を歩き、二日目は桃洞沢を散策する計画を立てました。Yさんは沢登りの経験がなかったのですが、桃洞沢の大滝下までなら初心者でも大丈夫なので、一度沢から森を歩くことの素晴らしさを体験してもらうことにしたのでした。

9月30日

無料航空券を使い最終便で大館能代へ飛び、レンタカーで奥森吉のオートキャンプ場へ。きれいに整備された広いキャンプ場は車が一台も止まっておらず閑散としている。休憩所の近くにテントを張って仮眠。

10月1日

クマゲラセンターの駐車場に移動して、まずはヒバクラ岳を目指す。登山口への道が2万5000分の1の地図とは違っていて少し迷う。登山道を登るにつれ山が色づき始める。道はヒバクラ岳山頂を巻くようにつけられており、しだいに高層湿原となる。森吉山が大きな姿を見せているが、ずいぶん遠そうだなぁ。

森吉山のブナ林はスキー場開発で多くが伐採されている。そんなこともあってあまり触手が動かない。割沢森方面へと進む。途中、奥森吉のブナの原生林を俯瞰できる気持ちのいい草原で昼食とする。まるでピクニックのようにYさんのザックからは食べ物が次々とでてきた。当然だが、いつもの沢登り山行とは様子が違う。けれど、心休まるこういうハイキングもいいものだ。少しずつ高度を下げるにつれ、登山道はブナロードとなっていく。

大きく白い幹をのばした美しいブナが林立するすてきな森。何度も立ち止まり見とれてしまう。割沢森は展望のない森の中。さらに高場森へ進むと桃洞沢の源流部となり、桃洞、佐渡スギの原生林に分け入るのだが、地形がとても複雑で地図には道が表示されていないため、簡単に入れるところではないようだ。

割沢森から少し進んだところにある分岐をクマゲラセンターへ下る。この道もずっと素晴らしいブナの道。途中きのこ狩りのお年寄り夫婦とすれ違っただけで、晴れた日曜日だというのにとても静かで贅沢だ。予想以上に素晴らしいブナの森を気持ちよく歩くことができ二人とも大満足で下山。クマゲラセンターを見学してから森吉山荘へ向かった。

10月2日

翌朝はおにぎりを作ってもらい早朝に出発。いよいよYさんの沢始めだ。この日に備え、一通りの沢装備を買い揃えてきたようだ(というか、買いなさいと強引にアドバイス)。再びクマゲラセンターに車を止め、桃洞沢への遊歩道を行く。一部は昨日歩いたところだが、もっと歩きたいほどすてきなブナの散策路です。

桃洞沢分岐から沢に下りる。ナメ床をさらさら水が流れている。初めて足を水につけるYさん。最初はおっかなびっくりの様子だが、少し歩いて沢靴の感触に慣れてくるにつれ快適さがわかってきたようだ。ヒタヒタヒタ・・・谷は深いが両岸は開けて明るい。紅葉が始まり木々は色づいている。秋田杉の緑がアクセントをそえとてもきれいだ。

所々に甌穴があり、ナメにメリハリをつけている。左岸から多段のナメ滝をかけた枝沢が入るが、とても芸術的だ。さらにヒタヒタ進むと、うわっ、桃洞滝です。写真で何度も見ていたが、実物となればまた感慨は格別。休憩してああだこうだと観賞し、さて、これからが問題であった。この滝は左岸にさりげなくステップが切ってあり簡単に登れるが、なにしろYさんにとっては始めてのこと。

心積もりでは、様子を見て少しでも本人が不安を感じたらここで引き返すことにしていた。けれど、ステップに近づいてみて大丈夫だという。水量が少ないことが幸いしたのか滝の威圧感はないようだ。縦走では私なんかよりよほど経験者だから慣れているのだろう。問題なく滝上に出ると、沢はさらに滑らかなナメ床となり、Yさんも大喜びだ。

ところどころ出てくるへつりの斜面も難なく歩き、ちょっと難しそうなところにはなにげなくステップが切ってある。続けてあらわれる中ノ滝と男滝は一見難しそうだが、トラロープがかかっていた。男滝から上は沢幅も狭まり、すぐに二俣となる。赤水沢へは左を行くのだが、入り口は小川のような様子。少しのぞいてみて戻ることにした。

男滝の下降では、Yさんに懸垂下降の練習をしてもらう。最初はぎこちなかったが、二度目からは慣れて面白いという。初めてなのに滝も登ったし、へつりも平気。懸垂下降もスムーズだ。ふむふむ、これは有望かもしれないと内心期待をかける。滝下の中洲河原でコーヒーを沸かして一服してから沢を下る。

桃洞滝の下りが心配で、私は責任を感じてかなり緊張。三点確保を忘れないようにと下降時の注意点を確認してから慎重に下る。無事におりてほっとする。このころからポツリポツリと雨が降り出すが、気になるほどではない。途中からは遊歩道に上がり、ブナの大木の下でおにぎりの昼食。笹の皮にくるんだすてきなラッピングだった。

しっとりとした森を通って駐車場へもどった。最後のお楽しみは、秘湯杣の湯だ。江戸時代の旅行家、菅江真澄も立ち寄ったという由緒ある温泉らしい。ゆっくりと湯につかり、二日間の素晴らしいブナの森の散策をもう一度なぞってみた。

追記(2008年10月)

こうして「ブナの沢旅」が始まったのでした。桃洞沢で沢登りに関心を持ったYさん。私の思惑通りです。年内にトレーニングをかねて丹沢の葛葉川とモロクボ沢へ行き、広沢寺で岩トレをして翌年につなげていきました。あれからちょうど2年。頼もしくなったねと言ったら、リーダーが頼りないからね、といわれてしまいました。まだまだひよっこですが、すてきなブナの森を求めて沢旅を楽しみたい、そして想いを共有できる仲間をふやしたいと思っています。

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