ブナの沢旅ブナの沢旅
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2020.03.10
阿能川岳〜小出俣山
カテゴリー:雪山

2020年3月8~9日

長年いつかはと気にかけていた阿能川岳から小出俣山の稜線歩き。ようやく宿題を一つやり終えた。阿能川岳は「ブナの沢旅」で雪山を始めた2年目に登り、初めて目にした谷川岳からマナイタグラ山稜の展望に印象付けられた。雪山を本格的に始めたきっかけの一つになった山と言えるかもしれない。始めたばかりは怖いもの知らず。力のある仲間にめぐりあえたこともあり次々と実力以上の雪山を経験した。

それから3年後には小出俣山から阿能川岳の縦走を計画した。準備しているうちに、隣にある魅惑の山稜に目が釘付けになり行けそうな気がした。そこで現地判断ということで、小出俣山〜阿能川岳と俎嵓山稜の2プランをもって小出俣山へ向かった。快晴無風という絶好のコンディションに助けられ、今振り返れば大胆不適な若くもない若気の至り(?)で俎嵓山稜から谷川岳へ抜けた。そんなわけで小出俣山から阿能川岳の縦走は、それ以来気になりつつ10年近くの歳月が過ぎた。

当日朝発の新幹線はやはりコロナウィルス対策の影響か日曜日にもかかわらずすいていた。今回は入山と下山口が離れているのでタクシーを利用し、水上駅から阿能川岳登山口(といっても登山道はなく積雪期限定の山)となる仏岩ポケットパークへ。もう驚きはしないが、沿道に雪は皆無だ。運転手さん曰く、暖冬のため降雪しても次の降雪までに雪がとけてしまい積もらないのだとか。

幸いポケットパークから植林帯に入ると雪はあり最初からワカンで登る。赤谷越までは吾妻耶山の登山道をたどり、ここから一直線に北に伸びる尾根に進む。小さなアップダウンが多く南面の斜面には雪がない。おかげで鉄塔まではトラバース道の巡視路をたどることができた。

どんよりとした曇り空で、山々は雲海に包まれていてそれなりの風情がある。鉄塔からはブナ林の広い尾根で気持ちが良いが、途切れて細尾根になる。阿能川岳に登った時も緊張して苦労したことを覚えているので、いよいよ難所だなと思う。10年経っても進歩がないようで、同じように緊張して苦労する。2箇所いやらしいところはどちらも下りなので、周回コースの場合は出発を小出俣山にしたほうが通過しやすいのだろう。

三岩山は文字通り小さな烏帽子岩が3箇所ある山で、こちらはいずれも基底部を巻いて容易に通過。ようやく尾根も展望も開け開放感に包まれる。阿能川岳が間近に迫った展望のいいポコで憩いのひととき。谷川岳も近い。俎嵓も見えてきた。ああ、久しぶりにまたやってこれたと、喜びを感じる。

当初、幕営地は小出俣山へむかう尾根のどこかに予定していたが、阿能川岳の山頂が広々としていたため山頂にテントを張ることにした。谷川本谷を挟んでマナイタグラが真正面に見える絶景ポイントだ。ただ積雪量が少ないせいか潅木の見え方が多いと感じた。

気温は高く外で作業をしていても寒くない。しばらくすると山並みがどんどん雲に消えて視界がなくなる。ところが日の入りの頃に外を覗くと今度は雲の上から夕焼けの赤い雲が広がり始め、翌日の好天を予感させた。満月に近い月が煌々と輝き、麓水上の街灯り、さらにはるか遠くには関東平野の明かりがチラチラ輝いている。やっぱり山で寝るって素敵なことだなと思いながら初日を終えた。

 

 

目覚めると武尊山から赤城山方面が赤く染まり初めていた。雲ひとつない快晴の気配で、谷川岳から俎嵓山稜がくっきりと白い輪郭を描いている。妙義山のギザギザの奥、秩父の山並をえて富士山が頭を出している。ブルーのグラデーションが美しい。とても清々しい朝だった。

山頂を後にして三岩山分岐から小出俣山へ向かう尾根に向かうと、見渡す尾根に一筋のトレースがみえる。週末も好天だったので縦走者がいることは予想できたが、新しいトレースなので昨日のものらしい。しかもツボ足で日帰り縦走のようだった。見えざる先行者に興味をもち、それほど若くない山慣れした健脚者かなどとあれこれプロファイリング。

小雪のために尾根の雪庇はそれほど幅広くはないが、概ね快適な稜線漫歩といったところだ。南側の眼下には赤谷湖と猿ヶ京温泉街がよく見える。すぐに谷川岳は見えなくなりオジカ沢の頭から俎嵓山稜をはさんで万太郎山とちょこんと尖った東俣ノ頭が目につく。さすがに真っ白で凛々しい。さらに進むと小出俣山が大きく迫る。小さなピークは潅木が出ており、斜面には笹原もみえる。

絶景を楽しみながら徐々に高度を上げていく。山頂が近づくと一面真っ白となり傾斜がます。山頂から北に伸びる尾根に乗るところで立ち止まる。トレースは急斜面の尾根に乗らずその下をトラバースしている。おそろしいルート取りだと思っていたが近づくと、尾根に乗るには雪壁を乗り越えなければならず、クラックもできている。どうしようか迷ったが、トレースをたどることにした。途中に軽くデブリが流れた跡があったり高度感があって緊張したが、難しいということはなかった。緩やかで広い尾根に乗り上げてホッと一息つく。ここをツボ足で通過とは。。

山頂下には大小のクラックが走っていた。以前来た時は4月中旬だったけれどクラックのない堅雪の快適な広尾根だった。やっぱり温暖化は進んでいるのか、今年が例外なのか。山頂に近づくと途端にトレースが賑やかになり、週末に何パーティか入ったことをうかがわせた。360度の素晴らしい展望だ。記憶を手繰りよせながら俎嵓山稜を目で追う。トレースは見られない。雪の状態によって難易度は大幅に変わるし、私たちがたどった時はコンディションがよく無理なく通過できたが、そう甘くないのだろうなと思う。

岬の先端のような山頂は落ち着かないので手前の丸く広がった一角に腰を下ろし、あらためて展望を楽しみながらのティータイム。まだ10時なのでこのまま下山するのも惜しい気がするが、ようやく阿能川から小出俣をつないで歩けたことを喜んだ。

気温がどんどん上がっていることがわかる。手元の温度計はなんと16-17度!快適な雪尾根下りだが次第に腐れ雪となる。気になっていた1400m付近のクロベの岩峰トラバースはトレースあるものの雪が腐って踏み込むと崩れそうでヒヤヒヤしながら通過した。

オゼノ尾根は阿能川岳上りの尾根と違って一気に千曲平に落ちていく。腐れ雪にはまりながら900mまで下ると雪が消えてブナと笹原の広尾根となる。少しずれてしまったが最後は植林帯に降り立ち、31番標識のところで林道にでた。なんだか懐かしい気持ちにさせられる千曲平。暖かい日差しを浴び、あらためて春の到来を感じさせた。

 

 

 

 

 

 

仏岩ポケットパーク9:00ー阿能川岳15:45//6:40ー小出俣山10:00/10:20ー千曲平13:15/13:40ー林道ゲート14:35