ブナの沢旅ブナの沢旅
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2019.04.14
羽後朝日岳〜和賀岳(中退)
カテゴリー:雪山

2019年4月12-14日

和賀岳というのはわたしにとって東北のブナの山の象徴のような存在だ。登山道はあるのでその気になれば無雪期には日帰りもできるのだが、なぜか沢と雪山にこだわっている。これまでに、夏の沢では大鷲倉沢から初めて山頂に立ち、積雪期には高下岳を経て雪の和賀岳に立った。どちらも山頂までの道のりが思い出深い。

一方3年前の3月に羽後朝日岳〜和賀岳の縦走を計画したが初日の悪天で羽後朝日岳だけとなった。少し頑張れば和賀岳にもとどいたという残念な思いがあり、今回初心貫徹の気持ちで再度トライすることにした。

予報では3日間まずまずの天候だったので期待できた。本来なら二泊すれば朝発で十分なのだが、直前に一定の降雪があったので前回の南会津恵羅窪山の時のように新雪ラッセルで時間がかかるかもしれない。万全を期して前夜発とし、盛岡駅でレンタカーを調達し現地で仮眠とした。

羽後朝日岳は以前「岳人」のマイナー12名山にあげられていたが、積雪期には日帰りで登られている山だ。貝沢集落終端の林道脇に車数台分の駐車スペースがある。3年前に歩いているのでなつかしい。降雪直後なのでトレースも消えている。まっさらな新雪の尾根を登る。最初は植林帯だが700mを越えるとブナの純林となる。シューで快適に登る。1000mで南の尾根と合わさると尾根が広がり傾斜も緩んですてきなブナの森となる。右手にはモッコ岳と沢尻岳に続く稜線が白い。

 

しばらくは標高を上げずに緩い尾根を進む。東側の雪庇がものすごい。ちょっと飽きる頃灌木帯を抜け一面真っ白な雪原斜面となる。真っ青な空を見上げながら無垢の雪原を登る気持ちよさ。沢尻岳に立つと四方が素晴らしい展望で、高下岳、和賀岳、羽後朝日岳が遠近をつけながら並んでいる。何度見ても感嘆の声がでる眺めだ。

前方には大荒沢岳が大きくそびえ、その後ろに美しい山容の羽後朝日岳が奥ゆかしくたたずんでいる。その横には生保内川源流を囲む山々が真っ白に侍るように控えている。これから登らせていただきますと、とても厳かな敬虔な気持ちになったのが不思議だ。

東側に目を向けると遠くに岩手山と秋田駒が大きな存在感を示している。秋田駒から続く稜線を追っていくとモッコ岳からこの沢尻岳につながる。ここは分水嶺なのだ。もう少し早い時期に天候と日程条件がそろったならば仙岩峠から入山して和賀岳までなどと壮大な計画も引き出しにしまってある。でも3月~4月初旬で好天の3泊4日なんてありえるだろうか。

 

 

本命に向かう前に気がそれてしまったが、さてここからだと気を引き締める。雲が多くなって来たのが気になるが崩れることはないはずだ。一旦鞍部まで下り少し傾斜のあるポコを越えて大荒沢岳にたつ。ひとまず不要な荷物をデポして空身で朝日岳に向かう。

山頂直下は等高線は緩やかなのだが雪庇で直接下れないため灌木帯を絡んで下る。鞍部は3年前にテントを張った場所だ。あの時は登りの尾根でラッセルに苦労して時間がかかりギリギリで山頂にたどり着いたのだが、今年は順調だ。2時前に山頂についた。生保内川源流地と書かれた山頂標識が出ていた。沢からたどるのはもう無理だろうけれど、雪山にまたやってくることができたと感慨深い。翌日歩く和賀岳を望みながら目を細めて思う思い。風が少しおさまってきたので山頂でティータイムを取ることができた。ささやかな幸せの時間を過ごし山頂を後にする。

大荒沢岳にもどりながら幕営地の相談をする。少しでも翌日の行動時間を節約するために先に進むか、山頂にデポして軽身で往復するか。雪の状態がそれほど悪くないことがわかったので予想外に時間がかかることはないだろうと後者に決める。山頂から少し下った平坦地を整地してテントを張ることに。展望抜群のテンバだ。風が強くテントの設営に苦労するが中に入れば快適な空間だ。夕日が沈む頃和賀岳が赤く染まり、遠くには鳥海山が浮かび日本海が光って見える。順調な出だしに乾杯し明るいうちにシュラフにもぐって初日を終えた。

 

 

早朝に外をのぞくと一面のガスで何も見えない。予報は曇りと晴れマークだったのでのんびり朝食をとって様子をみるが一向に変化がない。テントを置いてピストンするためにはあまり停滞していられない。かといって全てを担いで進むと悪天が続いた場合のリスクがある。あれこれ思案しているうちにガスが薄れてきた。周りの灌木にはびっしりと樹氷がついていた。晴れていれば綺麗なのだけれど。。先行きが読めない不安はあるが、このまま停滞しているより、可能性もあると日帰り装備で出発することにした。

風が強く雪も降ってきた。なんだか悲壮感漂う出発となった。まずは緩やかに鞍部まで下る。濃くなったり薄くなったりするガスの中を淡々と進む。1260mポコを越えると尾根が細くなり西側には大きな雪庇がせり上がっている。視界が悪いので雪庇によらないよう慎重に進む。時々強風で足が止まる。飛ばされそうで怖くなりピッケルを出す。一瞬のま根菅岳が聳え立っているのが見え、和賀岳への分岐に近づいた。

西に曲がる尾根の下降点を確認するが、ここまでという気持ちになる。仲間に相談すると考えていることは同じだった。強風とガスの中を進んでも楽しくないし修行する気もないので引き返すことに決めた。納得の撤退だ。

 

戻ってぺしゃんこにしたテントを再びおこし中で一息つく。凄まじい風でテントのありがたみを改めて感じる。撤収作業も一苦労だったが、いざ出発という時になって完全なホワイトアウト状態となる。大荒沢岳山頂からはコンパスとGPSを頼りに恐る恐る足を踏み出す。前日のトレースは消えており、足元の雪面も境がわからない。広い尾根だとわかっていてもつぎの一歩で踏み外すのではないかという恐怖心にとらわれる。

前方に一本のか細い灌木が見えた時の嬉しかったこと。空と雪面の境がなんとなく見えてきて元気がでてきた。すると今度はこれもいい経験だなどと面白がるのだから、人の気持ちはゲンキンなものだ。ガスは相変わらずだったが沢尻岳に戻ってホッとする。山頂にはたくさんのトレースがあったが、ここで引き返したのだろう。前山分岐への尾根に入ると次第にガスも取れ麓は晴れているのがわかる。

前日は真っ白な新雪にトレースをつけて登ったのだが、尾根の様相はたった1日で大きく変わっていたのに驚く。和賀岳には届かなかったが、また来る理由ができたわけだ。初日に雄大な展望を楽しみ羽後朝日岳に立つこともできたし、ホワイトアウト状態の悪天を歩くという貴重な経験もできた。次回は貝吹岳から和賀岳まで縦走するのだと言って笑われる。

下山時には天候も回復し、さて残りの一日をどうしよう。翌日は晴れそうだ。高下岳から大荒沢川を挟んで対峙する和賀岳を眺めようかなどという案もでていたが、結局は日和って盛岡で美味しいものを食べて帰ろうというコンセンサスに落ち着いた。

 

貝沢集落駐車地点6:10ー沢尻岳11:25ー大荒沢岳12:50ー羽後朝日岳13:50/14:15ー大荒沢岳テンバ15:00//7:00ー根菅岳分岐ーテンバ9:30/10:50ー沢尻岳ー駐車地点15:10