ブナの沢旅ブナの沢旅
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2020.06.10
仁田元沢〜庚申山〜石塔尾根
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2020年6月9〜10日

徐々に移動制限が解除されているところから、山中泊再開の手始めに足尾の沢と展望尾根を組み合わせた山旅にでた。

東武日光駅からレンタカーで銅親水公園の駐車場へ向かう。平日ながらすでに何台も駐車していた。荒涼とした雰囲気の山並みも見慣れると、これが足尾の山なのだと受け入れてしまう。緑の再生が進んでおり、山腹が黄色い花(何だろう)で染まっていた。仁田元沢沿いの林道を1時間ほど歩き、対岸に渡った崩壊地を越えて沢に降りる。ここで沢靴に履き替え沢を進むと巨大堰堤があらわれる。足尾の堰堤はどこも巨大だ。左岸から巻いて2段になった堰堤を越える。

ここからが本格的な沢遡行となる。仁田元沢は沢登りの対象としては際立った滝もゴルジュもないゴーロ沢なのだが、数年前に下降した時に雰囲気の良さが印象的だった。今回は久しぶりの沢泊装備なので、気負わずのんびりできる沢がいい。水の青さと白い大岩と新緑が相まって心和む沢歩きだ。木漏れ日の中、何もないけどいい感じだねえ〜と言いながら穏やかな気持ちでゴーロ沢を歩く。

時々大岩ゴーロ滝があらわれるが、ほとんどが左右どちらからでも簡単に巻ける地形だ。左岸枝沢から落ちる滝は水量が少なく迫力に欠けていたが、続くトイ状ナメや次々にあらわれる釜の青さにみとれる。この沢は釣り師が多く入る沢のようで、途中の大岩に赤ペンキで「大イワナ」と書いてあった。こういうのはマナー違反だよねと言いながら通過する。

しばらく標高を上げずに蛇行を繰り返すが、1300m付近から様相がワイルドになる。大岩ゴーロ滝を多段に落としながら一気に標高を上げて1400mで一段落。再び溪相が一変し穏やかな台地状となって両岸が広がる。当たりをつけていた幕営地だ。左岸は緩やかで広い枝沢が出合っている。日帰り遡行する場合はこの枝沢を詰めて石塔尾根に抜けるルートがあるようだ。

中洲台地でザックをおろす。少し石がでこぼこしていたので丹念に整地をしてまずは快適な寝床を確保。つづいて焚き木集めに精を出し、火を熾す。今年初めての焚き火なので楽しみにしていた。特に何かをするわけではないけれど、小さな火のそばでゆったりと流れる夕餉の時間を過ごすのは至福の時なのだ。日が長いので暗くなる前にテントに入って1日を終えた。

 

 

 

夏の朝は早い。4時には明るくなりチロチロした残り火で小さな焚き火を熾しそばで朝食をとる。暑からず寒からず、日も長く緑はいまだみずみずしく、山旅には一番いい季節かもしれない。5時半には出発すると、すぐに沢にも日が当たり始める。両岸に笹原が広がる源頭部はとても穏やかだ。地形図では傾斜が緩いのでテンバ適地がありそうに見えるが平坦地は意外と無く、仁田元沢のテンバ適地は快適さという点では1400mの中洲が唯一無二といえるだろう。

最後の二俣は右へ進む。前回は笹ミキ沢を詰め上げて仁田元沢に下った地点だ。あの時はまたここを通るとは思わなかったが懐かしい。時に胸ほどの笹薮の踏み跡を辿って稜線に詰め上げる。ザックをデポして庚申山を往復してみることにした。実のところ関心があるわけではなく、こんな時でなければ決して登らない山だ。登山道はないが、踏み跡がありテープもあってけっこう登られているようだ。

地図で予想したよりも長い行程だったが、途中から見えた皇海山がとても美しい姿をしていたのが意外だった。皇海山の一般登山道は途中の林道が通行止めで再開の見通しがないため、100名山狙いで皇海山に登る人にとっては楽なルートが絶たれてしまったとのこと。皇海山はよく面白くない山だといわれているが、それは面白くないルートから登るからだと、「皇海山と足尾山塊」の増田宏さんが書いており、わが意を得たりの感あり。皇海山への登路は松木川や泙川湯ノ沢、小田倉沢などいくつか面白いコースがある。いつかそんなルートから皇海山に登りつめてみたいと思う。

庚申山は樹林の中で展望はないが、登山道を示す標識やテープがたくさん出てきて地味ながらメインストリートといった雰囲気。山頂にタッチしてすぐに往路をもどり、ザックを背負って二日目のハイライトであるオロ山から中倉山にいたる展望の稜線を歩いた。予想通り気持ちのいい笹尾根で、南側は仁田元沢源頭の緑豊かなメローな斜面がゆったりと広がり、北側は松木川沿いの荒くれ殺伐とした岩稜の山並みが広がる。そのあまりにも対照的な風景が石塔尾根の特徴なのだろう。

最初のピークであるオロ山からしばらくは痩せ尾根をトラバース気味に進むと再び笹尾根に乗って展望が開ける。気持ちのいい尾根歩きではあるが、しだいに暑さでバテ気味となる。沢ではあまり水分を消費することがないため尾根歩きで携行する水分量が少なかったことが疲労感を増幅させてしまった。登り返しの度にひっくり返って休みながら沢入山へ。

石塔尾根を歩いた人が必ずと言っていいほど言及する「孤高のブナ」は弱った様子も無く元気に枝を広げていた。ブナの周りには、松木川側の崩壊予防という名目でロープが張られ土留めらしき手当が施されていた。最近の作業らしい。岩稜の中倉山へは松木川からジャンダルムをたどって登るルートがあることを知る。見下ろすと空恐ろしげな尾根だが好きな人にはたまらないのかもしれない。

主尾根を外れてからの下山路もまるで登山道のように歩きやすい。枝尾根から沢筋に入る地点を見過ごし無駄に登り返したものの、おおむね快調に下って前日歩いた林道900m付近に降り立った。すでに水は飲み干してしまい苦しい思いをしたが、林道が仁田元沢に近づくあたりで小川を発見。ザックを放り投げて川筋に降りて顔をあらい何度もなんども手にすくって思う存分水を飲み、生き返った心地で駐車場に戻った。

 

 

 

 

 

銅親水公園9:45ー林道ー入渓点11:10ー1400m幕営地15:50//5:30ー稜線8:00ー庚申山8:45ーオロ山10:20ー沢入山12:20ー中倉山13:35ー林道ー銅親水公園15:50