ブナの沢旅ブナの沢旅
▲トップページへ
2019.03.21
石見堂〜赤見堂岳
カテゴリー:雪山

2019年3月19~20日

朝日連峰前衛の石見堂と赤見堂、穏やか〜な山を連想させるステキな名前を知ったのはもう10年以上前のこと。けれど車がないと行き難いとても遠い山だと思っていた。そもそも朝日連峰の山は関心はあっても遠い存在でいままで一度も行ったことがなかった。そんな長年の憧れの山にようやく足を踏み入れることができた。山ともが背中を押してくれた。

いざ調べてみれば、馴染みの南会津の山に行くのと同じだし、むしろ新幹線と車という組み合わせならば便利で早いこともわかった。いままで何をボッ〜と生きてきたんだろう、ってまた思ってしまった。月山と朝日連峰の中間に位置する赤見堂はひとこと、ホントに素晴らしい山だった。朝日連峰のゴージャスな展望台でもあった。

久しぶりの山形新幹線で山形へ。レンタカーで山形自動車道に乗ると出口の月山口は意外と近かった。ここから大井沢方面へ南下し、小桧原川に近づくあたりから駐車スペースを探しながら石見堂への取り付き尾根をさぐる。ちょうどガードレールが切れたところにうっすらとトレースらしき跡があり、はす向かいに2台分の除雪された駐車スペースがあった。

初めての山域に入る時のワクワク感をこのごろは忘れかけていたが、久しぶりに期待が高まる。雪壁に乗ってシューをはき、雪原斜面を登ると植林帯となる。今回はワカンにするか迷ったが、ヒールリフターのあるシューの方が登りが楽なのだ。すぐに月山、姥ヶ岳、湯殿山が並んで見えてきた。初めて見る景色は新鮮だ。

650mあたりからは急斜面の痩せ尾根となり、ところどころ雪が剥がれて通過に難儀する。けれど長くは続かず再び広くゆるやかな尾根となり、ブナ林が広がる。とても美しいブナ林だ。どの記録をみてもブナ林のことはほとんど書かれていなかったのであまり期待はなかったのだが、やはり雪国のブナはいい。きっと地元の人にとっては珍しいことではないからあえて書かないのだろう。

南西方向には真っ白な山並みの真ん中に赤見堂岳が近い。見渡す尾根と谷は少しも割れているところがないクリーミィーな厳冬期の様相を保っている。今年はどの山も雪が少なく残雪期のようだったが、前衛とはいえさすが朝日連峰。はるばるやってきた甲斐があったと喜ぶ。

歩き始めたのが遅かったので石見堂山頂手前で行動を終えることにした。ちょうど展望が開けたゆるやかな雪原台地にテントを張った。予想以上に暖かく夕日に染まる山並みを眺めながらちょっと散歩を楽しんだ。夕日はちょうど赤見堂岳の山頂に沈んでいった。その時に山は赤く染まる。だから赤見堂岳という名前がついたのだろうか、などと夢想する。

日が落ちてからは満月に近い月が煌々と輝き、街の灯りがオレンジ色に光ってみえた。夜中も、あまりの明るさにナイトハイクしたくなるほどだった。

 

 

翌日空は晴れ渡り風もない穏やかな朝を迎えた。地元の人たちが日帰りするコースをテント泊でゆっくり歩くのが最近の私たちのパターンになっている。気持ちにも余裕をもって出発したのだが、じつはテントを片付けるさい、ちょっとしたはずみでテントポールを斜面に流してしまうという失態をしでかす。またやってしまった。。というのは、数年前にも前科があるのだ。下山日でよかったと前向きにとらえるが、これが3泊の中日だったら戻るに戻れず大変なことになったとしきりに反省。

小さなお椀を越えると石見堂の山頂が見えてきた。ほんとにずんぐり安穏とした山容だ。山名通り大きな石が鎮座している。左手には真っ白に聳える赤見堂。右手には幾重にも浅いお椀を伏せたようなこれまた真っ白な鍋森と離森。次回はこっちの山にも足を延ばしてみたい。

一旦ゆるやかに鞍部へ下ってからは、小さなアップダウンを繰り返しながらじわじわと赤見堂岳に近づいていく。朝日連峰主稜の山並みからははずれていてあまり高い山の印象はないのだが、その姿は堂々としており、南に位置する祝瓶山よりも標高が高いことに気がついた。赤見堂の山頂は細くとがっており、360度の絶景を望む。

これまでもずっと朝日連峰の山々を見渡していたのだが、ここにきて全景を一望することになり気持ちが高揚する。山頂付近だけは風が強いため少し下ったところで休憩し、登山地図と20万分の一地図をひろげて山座同定を楽しむ。やはり一番目近くで目立つのは南東方向の以東岳だ。ここから延びる尾根を一つずつ追う。北方向に長く尾を引く尾根がいわゆる「朝日軍道」と呼ばれる山並みのようだ。戸立山から茶畑山、さらに少しずつ標高をさげ、北端で高安山が目につく。この尾根を歩いてみたい。

南側の最奥中岳に重なるように大朝日岳が霞がちにそびえ、左手に小朝日、右手前に西朝日、下って龍門から以東岳につながる稜線が見え隠れする。地図と目の前の地形をぴったり比べられるほどに空は澄み渡り、朝日連峰入門者にとっては非常に幸運な出会いとなった。まさに一目惚れの心境となる。

当初は時間の余裕があるのだから下山路の分岐となる1327mから少し足を延ばして枯松山まで行ってみようかなどと思ったりしていたが、目の前の絶景にお腹が一杯になり、そんなことは忘れてしまった。右手に朝日連峰の山々を従えながら、ひたすら続く大雪原のようなだだっ広い尾根をゆるゆると進んで行く。

尾根が広い上にいくつも大きな支尾根が派生しているため、以外と読図に神経を使う。700mを過ぎると痩せ尾根となり雪が割れてそのまま下ることが困難となる。アイゼンに履き替え、薮を絡めたり危うい雪の急斜面をトラバースしたりと、久しぶりに右往左往の悪戦苦闘となった。

最後のポコに乗り上げると眼下に車道が見えてきてホッとする。が、下山ルートが見出せない。どこも恐ろしく急斜面なのだ。なんとか下れそうなところを見つけて恐々と下り、着地点が見えてきたところからシリセード気味に一気に植林帯入り口の雪原に降り立った。やれやれだったが、終わってみればヒヤヒヤはワクワクに変わり、久しぶりに手応えのある充実感を得たのだった。きっともう少し早い時期ならば雪も安定して楽だったのだろう。

予定よりも2時間近くかかってしまったけれど、最後のアルバイトをねぎらおうと月山麓の志津温泉に向かった。日帰り入浴の時間は終了していたが宿のご好意で受け入れてもらい月山を眺めながら気持ちのいい湯に浸かって帰路についた。

 

 

 

駐車地点10:45ー石見堂山頂下16:00//6:20ー石見堂6:35ー赤見堂8:30/9:00ー1327m分岐11:00ー駐車地点16:00