ブナの沢旅ブナの沢旅
▲トップページへ
2018.08.21
楢俣川ヘイズル沢左俣右沢
カテゴリー:備忘録

2018年8月19-20日

険谷が多い奥利根にあって、楢俣川は本流もさることながら穏やかで技術的にも比較的容易できれいな沢が名を連ねている。にもかかわらず、長い林道歩きや日帰りが難しいためか入渓者はそれほど多くなく、いつも静かな沢旅が楽しめる。今回は楢俣川の美渓ヘイズル沢を遡行した。

このところの不安定な天候のため前もって計画することが難しい。そのうえ来週は台風が次々とやってくるらしい。このまま8月を終わらせるのも寂しいと、急遽計画したヘイズル沢だった。最近はこんな風に直前に決まることが多いのだが、そこは日程の自由がきく身のささやかな強みといえる。

猛暑の長い林道歩きは歳を重ねるごとに辛くなるのだが、さいわい一時的な涼しい気候に助けられた。アクセスを車にすると、同じ場所に戻るためには下山路が笠ヶ岳をへる長い長い登山道となる。あれも辛い、これも辛いといいながら山への想いはまだ諦めたくない。できるだけ負担を軽くしようと、当日発で水上駅からタクシーで奈良俣湖キャンプ場入口へ向かい、下山は鳩待峠とした。そうすれば当日発で入渓が昼近くなってもゆったりと遡行することができるのだ。

一時は崩壊がひどかった林道も奈良俣湖まではすっかり整備され元通りになっていた。以前は一般車も通行出来た林道なのだからもっと奥まで入れるようにならないのかと思ったが、すぐにその考えは違うと打ち消す。手軽に入れないからこそ静かな落ち着きが保たれているともいえるのだ。長い林道歩きは通行手形なのかもしれない。

覚悟をして歩いたのでヘイズル沢出合の橋へは意外と早く着いたと思える程度だった。さっそく沢支度をして橋左手の踏み跡から本流に降りる。少し下って左手から出合う穏やかな平瀬がヘイズル沢だ。堂々とした水量豊富な本流と違い威圧感がないのがいい。

明るい岩盤と澄んで青々とした沢床と青空の三拍子そろった短い沢旅の始まりだ。目の前に広がる光景に4年前の記憶がよみがえる。小さなゴルジュを何度か通過するが、すべてフリクションのいい岩盤をヘツリながら通過する。悪いところはないので気が楽だ。ちょっと首をかしげるような箇所には釣り師のトラロープがかかっていたりもする。

緩やかな多段の大ナメがあらわれると気分はさらに高まり、噛みしめるように楚々と流れるナメに足を浸す。ナメの沢といっても当然それぞれ個性があり、ヘイズル沢は岩盤が広がるスケールの大きい開放感と、しっとりとした緑の平瀬が交互にあらわれ、メリハリがある。

いくつか滝も出てくるが、どちらかの水流脇が登れるか、小さく巻くことができる。前回遡行した時は「奥利根の山と谷」の遡行図が唯一だったが、今は違うらしい。沢で他パーティに会うことはなかったが、真新しい地図とトポが落ちていたので拾ってみると、ひろたさんの遡行図。わたしも見ていたので、やっぱりねと微笑ましい気持ちになったが、落とし主は地図をなくして困らなかっただろうか。

1130m二俣を過ぎるといよいよ印象に残る豪快な大滝だ。岩壁をへつって少し近づいて眺めた後、手前左岸のガレ窪を登る。ズルズルしていやらしかったがすぐに明瞭な巻き道に合流。トラバース気味に進んで滝上に降りた。

しばらく進むと右岸に目星をつけていたテンバがあったが、よく見ると地面が湿っていたのでパスすることに。すぐに1180m二俣となる。まあ小さなテント1張り分くらいなんとかなるだろうと二俣を左へ進む。するとすぐに一段上がったところの右岸に整地済みのテンバがあった。小さな階段状滝を見渡す広々とした川原で、前回泊まった1400mのテンバよりも快適だ。少し心配だったので大喜びしてザックをおろした。

さっそく枯れ木を集めて火を熾す。きれいな沢を予定通り歩いていいテンバに巡り会えたことに感謝の乾杯。ヘイズル沢は二俣までがハイライトだ。とくに荒れた様子もなく満足と安堵の気持ちに満たされ初日を終えた。

 

 

少しずつ日が短くなっているのを感じながら朝を迎える。おまけに肌寒い。熾火が残っていたので焚き火をたいて暖まりながら軽く食事をして出発する。

すぐに二俣となり左に見栄えのする16m滝が目に入る。ここは一見冴えない右沢へ進むと、こっちにだってちゃんと滝はあるよと言わんばかりの2段12mとなる。この滝が二日目の核心で、頑張って登るしかない。一見難しそうにはみえないが、途中の一歩がなかなか突破できずシャワーとなってしまうのだ。なんとかクリアしてやれやれと一安心。

その後小ぶりなナメ滝を幾つかこえると開けたゴーロが続く。1400mのテンバは最近利用されたらしく枯れ木もたくさん残されていた。最後の大滝となる2段20mは階段状の左壁を登る。岩が乾いているので不安はない。次第に傾斜が増し、前方が開けてくる。1500mから1700mの間に砂防ダムの鉄製堰堤が三つ続く。どうやって資材を運んだのか興味深い。

どんどん高度を上げて行き、1790m二俣となる。前方には岩稜帯の稜線を見渡し、振り返れば奈良俣ダムが見える。左の沢筋を忠実に詰めていく。いつまでたっても水が枯れず、一時的に伏流になりながらも2000mまでチョロチョロと流れていた。笠ヶ岳の美しい姿を時々振り返りながら歩きやすそうなところを選んで小至仏山直下の登山道に抜けた。最後は踏み跡ができていたので、遡行者の多くが同じルートを辿っているのだろう。

沢装備をといていると平日にもかかわらずひっきりなしに登山者が通り過ぎていく。さすが尾瀬の百名山ルートだ。至仏山と小至仏山には会社名まで記した恐ろしく立派な石造りの山頂碑が鎮座していて違和感を覚えた記憶がある。ルートからはずれた笠ヶ岳の方が静かで美しいと思うのだけれど、〇〇名山ではないのだろう。

尾瀬ヶ原やオヤマ沢田代の湿原を眺めながら3時前には鳩待峠に下ることができた。後半は体力的にきつかったけれど、美しい渓とブルースカイの稜線を目指して岩稜帯をよじ登る爽快感が魅力の山行となった。

 

 

林道ゲート9:00ーヘイズル沢出合11:10/11:30ー二俣幕営地15:50//6:00ー小至仏山下12:30/13:00ー鳩待峠14:40