ブナの沢旅ブナの沢旅
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2017.06.10
雁峠〜古礼沢
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2017年6月9-10日

 

ようやく雪の山旅に区切りをつけ、沢の季節へと気持ちを切り替えることにした。強制スイッチをおさないと、いつまでも雪山歩きへの未練が残りそうなのだ。いつも沢シーズンを待ちわびていたのに、なにが変わったのだろうか。

沢始めは穏やかで優しい沢に行きたかった。今年は例年に比べどこも残雪が多いので東北の沢にはまだ早い。よく訪れた二口の沢も考えたが、天候が安定しないので、久しぶりに奥秩父で印象が良かった古礼沢を選んだ。当然ながら今回も3年前と同様に下流を省略した古礼沢だけの、短縮ブナの沢旅バージョンだ。しかも初日は入渓点まででテント泊し、翌日のんびりと美溪を楽しもうというシニアの沢旅プランだ。

大月駅で待ち合わせ、車で一ノ瀬高原の作場平駐車場へ向かう。よく整備された登山道を歩いて、まずは笠取小屋へ。広々として気持ちのいい広場のベンチで昼食をとる。芝生で整備された快適なテン場やトイレも完備されている。休日には賑わうのだろう。実際、翌日下山した時は週末ということもあってテン場には数張のテントがはられ、登山者が銘々くつろいでいた。

雁峠から尾根をはずれ、明瞭な踏み跡をたどる。ところどころにテープが貼られ、アルファベット記号がつけられていたが、これは何のサインなのだろう。いずれにしても今でも歩かれていることがわかる。ところどころ谷筋にさしかかると踏み跡がわからなくなるが、水平に進むことを意識して横切ると再び道があらわれる。そんなことを繰り返しながら1800m地点まで進むと左手の尾根が迫ってくる。尾根上はシャクナゲの藪がうるさいので少し絡めていくと再びすっきりとした道があらわれ、白テープが目に入る。はじめての前回はここで目印らしきものを見つけてホッとした記憶がある。

古礼沢に下るため緩やかに伸びる枝尾根を下る。最後は急斜面となり、半ばずるずると滑りながら河原へ降り立った。河原は開けているが、ゴロタの河原なので少し下流にもどって適当な場所を探す。なかなか見つからなかったが、諦めかけた頃、奇跡的とでもいいたくなる土の平坦地をみつけザックをおろした。

さっそく手分けをして沢泊まりのルーチンに取り掛かる。体が自然に動いて身も心もすっかり沢旅モード。つい最近までの雪山未練はどこかへとんでしまった。枯れ木が豊富で焚き火もあっという間にできあがる。あとはちょっと多めに担いで来た沢始めの食材を広げてビールで乾杯。日が傾き、焚き火が暗闇に赤々と燃えるのを見届けて初日を終えた。

 

翌朝テントから顔を出し、まずは空を見上げて木陰の合間から見上げた空が青いことを確認。さあこれからがメインディッシュの沢始め。軽くなったザックに気を良くしながら出発する。

しばらくは平凡なゴーロだが、3mほどの滝を右から巻き上がると溪相が一変する。最初は控えめな、そして次第になめらかで優雅なナメがつづく。前回はここで興奮したことを思い出す。この後は長いナメが間断的にあらわれるが、まだ季節始めのせいか水流が弱いところでは滑りがあって、フェルト靴にしなかったことを悔やむ。

思い出は美しすぎる〜、という歌詞が何かの歌にあったような気がする。今回ちょっとがっかりだったのは、ところどころに倒木帯ができていて沢が荒れてしまったことだった。初めて遡行すればそれほど気にならないかもしれないが、思い出が美しすぎるものに変わってしまったのかもしれない。とはいえ古礼沢の名誉のために言っておくと、やはり楚々とナメのきれいな沢という形容に変わりはない。

 

 

1650mあたりまで進んだところで、左岸に大崩壊の跡があり、沢が瓦礫の山で覆われていた。3年前にはなかった崩壊で、倒木帯といい、やはりここ2、3年の異常気象が影響しているのだろう。気をとりなおして進むと再び美しいナメとなり、気持ちが救われる。ここで小一時間ほどソーメンタイムをとり、ひさしぶりの沢ソーメン。標高が高いのでソーメンにはちょっと涼しかったけれど、日の光を背中に浴びながらおいしくいただき、食後の温かいお汁粉にほっ。

 

1700mの二俣は左俣へはいる。もうひとつの楽しみは左俣のふかふかの苔滝登りだ。幸いここから先は3年前と同じで新しく荒れた様子もなくホッとする。終わりよければすべてよし、ではないけれど、最後は短いながらとても快適に楽しく美しい沢をたどり、稜線に詰め上げた。

標高も2000mとなると新緑が始まったばかりで、初々しい若葉の緑をもう一度くぐりぬけることができた。沢遡行の場合、稜線の登山道歩きはたんなる下山路と位置付けがちょっと低いことが多く期待もないのだけれど、ちょうどシャクナゲが満開だった。雁峠までの道は北と南側で樹林層が全く異なり、北の針葉樹林帯ではシャクナゲが鮮やかなピンク色のアクセントとなり、南側は広葉樹林帯でアカヤシオが淡い新緑の森の頬紅のように美しく点在していた。

燕山を越えて雁峠に下る頃になると端正な山容の笠取山と広々とした高原のような峠が絵になるような美しさで、なかなか素敵な縦走路だ。一度歩いてみるのも悪くないなどと思いながら峠に降り立った。

 

 

6月9日 作場平駐車場11:00ー雁峠ー河原テン場16:00

6月10日 テン場7:00ー二俣10:45ー稜線12:20/12:40ー雁峠ー駐車場15:30