ブナの沢旅ブナの沢旅
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2014.01.24
尾瀬岩鞍スキー場~西山~武尊田代~避難小屋~セビオス岳~武尊牧場スキー場
カテゴリー:雪山

2014年1月24-25日

 

最近はテント泊の山行が少なく、物足りなさとある種の「危機感」を感じている。確かに日帰り山行は気楽だしザックも軽い。けれど泊まってこそ得られる山の印象や思い出の深さも格別だ。

このままだと近い将来重いザックを背負って歩くことが辛くなり、そのうちやめてしまうのではないか。気持ちとは裏腹に諸条件が整わない現実にもどかしさを感じるこのごろ。。。

日頃そんな気持ちを抱いているので、新年最初のブナの沢旅は、山に、できればブナの森に泊まることにこだわった。過去5年間を振り返ると必ず1月には東北でブナの山旅を行ってきたが、今年の東北は悪天続きで見送ることにした。

そんな中で選んだのが武尊山周辺だった。以前から武尊山東麓の緩やかな尾根のブナ林を歩いてみたいと思っていたことと、年初に尼ヶ禿山に行った時、同行のkukenさんからもいいブナ林があったという話を聞いていたからだ。

地図を見ながらあれこれコースを考えるのは楽しい作業だ。武尊山麓にはスキー場が多い。そういう山は避けたいという気持ちがないわけではないが、限られた時間しかとれない弱小パーティにとって、厳冬期にも手軽に入山できるメリットは大きい。3年前にも玉原スキー場から獅子ヶ鼻を越えて山頂に立ち、川場スキー場から下山したことがあった。

今回は尾瀬岩鞍スキー場から武尊牧場スキー場へ下るというプランを考えた。西山をまわり、田代湿原に下って緩やかなブナ林の尾根に泊まる。武尊山は最初から無理なので、避難小屋から先の尾根はセビオス岳あたりを目安とする。標高差も少なくコース的にも短い「お手軽プラン」ではあるが、ブナの雪山に泊まることがテーマの厳冬期山行だから、これくらいが身の丈にあっている。

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前夜沼田駅で待ち合わせ、岩鞍スキー場へ向かう。一昨年の秋はまだ工事中だった山越えのトンネルが完成しており、冬期の夜でも安心だった。沿道は雪が少なく不安になるほどだが、スキー場に登っていくとそれなりの雪景色に変わった。

閑散とした広い駐車場について空を見上げるとまさに満点の星空。明日は本州がすっぽり高気圧に覆われる冬の「特異日」なのだ。他に日程がとれず、どんな天候でも決行を決めていたので素直にうれしい。

ゴンドラの始発は8時なので朝はゆっくり。しかもシニア割引が使えてラッキー。あっという間に1650mまで登ると、さっそくゆったりと裾野を広げた武尊連峰の美しい姿が目に飛び込む。これからたどるブナの山旅の素晴らしいスタートだと心が躍る。

目の前の尾根を緩やかに登っていく。途中まではトレースがあったが、ツボ足なので歩きにくい。針葉樹林帯に入るあたりからはまっさらな雪面を軽くラッセルして西山へ。山頂といっても樹林が少し開けている程度の平凡な小山だ。余り展望がないので少し先に下っていくと、尾瀬方面の展望が一気に開け、燧ヶ岳がどーんと聳えている。尾瀬、奥利根の山も青空に包まれている。

南東に目を向けると日光白根から皇海山に続く日光連山が望まれるが、雪は少なく黒々とした山並みだ。一方上信越国境稜線は真っ白な雪壁のようで、武尊連峰はその中間点。その意味で武尊山は、冬でも分水嶺以西ほど天気は悪くなく、日光足尾山塊よりは雪がたっぷりついていて、今の時期にちょうどいい案配の山域だと思う。

今回は西山が出発点のようなもの。田代湿原に続く尾根を下っていくと1700m付近から線を引いたようにブナ林に変わり、武尊連峰の全容が大パノラマのように広がる。予想しなかった光景に思わず声がでる。2週間前の尼ヶ禿山からの展望もなかなかだったけれど、今回は反対側からより至近距離で全容を俯瞰している。

ヤッホーという気分で快適に下ると、今度は右手の谷を挟んで笠ヶ岳から至仏山が近づく。ええっ、こんなに近いのかと意外だった。距離的には武尊山より近く、このまま笠ヶ岳に登ってしまおうかなどと早くも浮気心が出てしまうほど。

柔らかい雪の斜面を滑るように下るが、登るとなると大変そうだ。だだっ広い雪原の鞍部からは地形が茫漠としており、慎重に読図をしながら進む。樹高のあるブナ林の雰囲気がとてもいい感じになってきた。

今シーズンは北八の雨池、玉原湿原と、雪の湿原(池)横断が続いているが、今回は田代湿原を横断する。積雪期の湿原はただの雪原なのだけれど、なんとなくテーマ性が感じられて気に入っているのだ。広い雪原につけた一筋のトレースを振り返り、ブナの森へ入った所で一休み。

ガスったらいっぺんで迷いそうな広く緩やかな尾根をコンパスで方向を定めながら進むが、すぐにそれてしまうと指摘を受ける。行けども行けどものっぺりしたブナ林が続き、強い日差しで雪も重くなる。

時間的には余裕があるので避難小屋まで行けそうな気がしたが、単調な雪原歩きに疲れてきた。1700mを越えると針葉樹林帯になってしまうので、その手前の平地で行動を終えることにした。残業に慣れているせいか貧乏性のせいか、時間があるとつい進んでしまいたくなるけれど、先週の教訓を忘れないようにしよう。あくせくせず、のんびり山行するんだったよね。

柔らかい雪を踏み固め、テントを張ろうとして上を見あげた。ブナの大木の枝に布団のような雪が今にも落ちそうについているではないか。これはまずいということで、仕切り直し。おかげでテント2張り分の広いテンバが完成し、炊事場、物おき、トイレなど贅沢な間取りとなった。

前回のテント泊の時は忙しかったせいで食料がシンプルだった為、今回は二人で分担してしっかりと準備。食べきれないほどたくさん美味しく食べて一日を終えた。

 

 

日が長くなったとは言え、朝はなかなか明るくならない。いつものようにゆったりと朝食をとって7時過ぎに出発する。すぐに針葉樹林帯となり雪もふえるが、モンスターになるほどでもない。1時間ほどで避難小屋に到着。例年は今の時期かなり埋もれているはずなのだが、小屋の姿がわかる程度の雪だ。

下山する尾根から小屋まではスキーのトレースがあったが、これから進む尾根には誰も入っていない様子だ。痩せ尾根に雪がついているのでデコボコで歩きにくいが、時々尾根が広がって気持ちがいい。

朝のうちは晴れていたが、次第に高曇りとなる。それでも視界は明瞭で展望もいい。セビオス岳に近づくと樹林帯から抜け出して雪稜となる。中ノ岳から武尊山の稜線を見渡すが、近そうで遠い。中ノ岳直下は鎖場の岩溝なので、最初から手前で引き返すつもりだった。

セビオス岳は小さな小山だが展望は素晴らしく、ここを到達点にしても充分に満足できる所だった。最初はここから中ノ岳方向にもう少し進もうと思ったが、Yさんが、下山にどれくらい時間がかかると思っているのかと切り出した。いつももう少しもう少しと欲張る私のブレーキ役なのだ。とくに今回は下山してから尾瀬に回って車を回収し、それから長い岐路につくので早めに戻る必要があった。

直ちに了解し、小山の周辺を歩いて展望を楽しみ引き返すことに決めた。下りは早く、あっというまに避難小屋へもどると、スキーをはいた単独の男性が登ってきた。言葉を交わした雰囲気から慣れているようだったので雪の具合をたずねると、やはり例年よりかなり少ないという。

トレースのある明瞭な尾根を下る。最後の楽しみは三合平付近の立派なブナ林だ。曇り空なのが残念だが、「眠る男」のロケ地だという標識が立てられた平地から雰囲気が変わって素敵なブナ林が続く。樹木の色の変わり具合から察するとあと1m位は埋まるようだ。そうなれば途中の灌木も埋まってすっきりするのだろう。

ブナ林を抜けると前方が開けて東屋などの人工物が見えて来た。白樺が点在して開放的な雰囲気だ。スキー場のゲレンデトップに進むと上部のリフトは休止中。少し下って稼働中のリフトに乗せてもらう。

大きなザックを背負ってリフトに乗り降りするのはいつも緊張する。今回もストックを引っ掛けて降りられなくなり、2人のスタッフに抱えられてみっともない着地となった。いつもリフトが核心になると苦笑しながらも、ブナと展望の素敵なコースを繋いで歩くことができた。お天気と仲間に感謝!

 

 

24日 尾瀬岩鞍スキー場8:25~西山10:10~田代湿原12:35~1650m幕営地14:50

25日 幕営地7:15~武尊山避難小屋8:15~セビオス岳9:50/10:10~武尊牧場スキー場13:15