ブナの沢旅ブナの沢旅
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2012.06.17
大倉川戸立沢右俣~奧戸立山~寒風山~関山峠
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2012年6月17-18日

 

東北の沢始めは、宮城県境の山域が最近の恒例となっている。船形連峰には笹木沢という東北屈指の秀渓があり、3年前に遡行して、その素晴らしさに強く印象づけられた。今年の沢始めは、そのひとつとなりの沢である、戸立沢へ。「滝は多くないが非常に美しい沢」という20年近く前の一言コメントを目にして以来、ずっと気になる沢だった。

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東京を発つ時は雨が降っていたが、仙台につくと曇り空でホッとする。梅雨時なので贅沢は言えないが、せめて雨は降らないでほしいと、祈るような気持ちで出発する。前回は愛子駅からタクシーをつかったが、今回は右俣から左俣を下降する周回ルートを予定しているのでレンタカーで現地へ。

十里平の林道終点に車を止め、沢支度をして山道をたどる。途中でまた道を間違えながら進むと、見覚えのある森林軌道の橋桁と堰堤が見えてきた。堰堤の階段を下って大倉川へおりる。みちのくの沢旅の始まりだ。

ふたたびあらわれる堰堤を高巻き、渡渉を繰り返して戸立沢の出合いへ。ちょうど昼時なので温かいうどんを食べながらひと休み。なにしろ今回は日帰りできる沢をのんびり沢泊するので、時間にも気持ちにも余裕がある。

沢は小ぶりで岩盤とゴーロの繰り返しがつづくが、さすが笹木沢のお隣さん。雰囲気は悪くない。しだいに両岸が狭まり、釜と小滝が連続するちょっとしたゴルジュ帯となる。釜のへつりがいやらしいのだが、トラロープがかかっている。この沢は釣師が多く入っているようで、この後もちょっとした滝にはトラロープがあった。釜は合計6個もあって、ヒヤヒヤしながら通過した。

この頃になると青空がでて陽が射し始めた。沢は急に明るくなり、チャラ瀬が燦めいている。とても穏やかで心が和む景観だ。鮮やかな緑の森には山ツツジが点在して彩りを添えている。すべてが美しい。

二俣出合の右岸にあるテンバ適地の平坦地は草ボウボウで、今シーズンはまだ使われていないようだ。左俣を下降する予定なのでここで泊った方が都合がいいのだが、翌日の長い行動時間を考えて、もう少し先のテンバ適地まで進むことにした。

右俣に入るとようやく滝らしい滝があらわれる。最初の5m滝は左側から登り、落ち口に抜けるところはトラロープのお世話になる。滝上は小滝とナメの渓相となり、美しい8m滝へ。岸辺にはタニウツギが咲いている。とてもエレガントな滝だ。右の水流沿いを気持ちよく登る。さらにいくつかの小滝を越えると今までで一番きれいなナメが続く。両岸はブナが卓越するようになり、まさにブナの沢旅モード全開だ。

680m二俣の手前右岸に格好のテンバ適地があり、予定通りここで行動を終える。草を刈ったり小石を除けると特上テントサイトができあがる。なんといってもテント泊一番の楽しみは焚火だ。前日まで雨だったので難しいとは思ったが、着火剤も用意して執念を燃やす。無心になって火を熾す、この作業が楽しい。1時間ほど粘って火が安定したところで乾杯!

焚火の青白い煙がブナ林にたなびいている・・・

 

 

 

 

ようやく訪れた暗闇の炎を見ながらシュラフにもぐるといつの間にかzzz。翌朝焚火の灰を掘り起こすと熾火がくすぶっていた。ならば朝の焚火を楽しまない手はない。すぐに火がつき、清々しい朝の空気に煙がたなびく。焚火の前でぼっとしていたら朝食の準備ができていた。急いだ訳でもないのに6時前には出発の用意がととのう。冬とは大違いだ。

歩き始めるとすぐに3mナメ滝があらわれ、ちょっといやらしい。四つん這いで這い上がるとふたたび平ナメとなる。気分をよくしたのもつかの間、倒木帯に前途を遮られる。あ~あ、また。越えると雪渓があらわれ、戸立沢の15m大滝へ。ほぼ直瀑だが、よく見ると左側が階段状だ。もちろんトライする気もなく、手前の左手斜面から小さく巻いた。

ふたたびきれいなナメが続き、しだいに沢幅が狭まる。苔蒸した美しい階段状の滝をこえると小気味よい段々状の滝となる。このあたりは変化があってきれいな所だ。けれどふたたび沢は倒木で埋まり、760mの二俣となる。

左の沢は急傾斜の8mナメ滝を落としている。この枝沢を詰めると奧寒風山と奧戸立山の鞍部に抜けるのだが、時間もあるので情報のない本流を詰めることにした。流程は長いが傾斜は緩く、しだいに谷が浅くなるため倒木から解放される。

登るにつれ森の深さが際立つ。800m付近で沢は雪渓に覆い尽くされるが、悪い所はなく化があって楽しい。雪渓を越えると傾斜のあるナメが続く。少しぬめっており、滑りそうで怖い。四つん這いになったり笹をつかんだりして緊張の匍匐前進だ。

ナメが途切れて源頭部の様相となり、分岐があらわれるたびに方向を確認しながら奧戸立山手前の鞍部をめざす。窪をたどって枝尾根にのると赤テープがあった。あたりはブナの大木が点在する深い森。本流を詰めてよかった。雰囲気のいい源頭部に詰め上げた満足感に満たされる。

そして突然爆弾発言。もう沢を下りたくない。このまま尾根を下ろうよ。沢を下ったらせっかくのいい印象が倒木や長いゴーロ歩きで萎えてしまう。タクシー代払ってもいいから尾根にしよーよ。

するとsugiさんも内心同じことを感じていたようで、すぐにサンセーの声が返ってきた。また日和ってしまった。ザックをかついで来てよかったが、まさか登山道を下ると思わなかったので、登山靴は車において来た。山ではまさかの事態がよく起こるねーと軽口をいいながら登山道へ抜けた。

地図では破線だが、とても立派な道だ。刈り払いもしてある。ザックをおいて奧戸立山を往復する。古い標識は戸立山と書いてある。山頂から少し先へ下ると見晴らしがよく、船形山が黒い雲に隠れて見える。関山峠に下るこの尾根はあまり歩かれていない地味なコースのようだが、分水嶺なのだ。ほとんどが樹林帯で展望は少なく、アクセスも不便なのだが、ブナの沢旅の下山路としては最高だ。

寒風山を越えると南側の展望が開ける。顕著な独立峰の大東岳と、その後ろに神室が霞む。手前には南面白や小東岳、面白山を確認。うれしいことに、みんな沢からたどった山々だ。

戸立沢左俣への下降点らしき地点にテープがある。下降点までもアップダウンの長い道のりだ。登山道に切り替えてよかったと、自分の気まぐれに納得する。

下山時間にメドがたったところでタクシーを呼ぶ。地図を見ると、広瀬川熊沢沿いに林道があるので十里平までそれほど遠くないと思ったが甘かった。車は通れないのだという。ということは、恐ろしく遠回りの道だ。

タクシー代が心配になったが、いい旅ができたのだから、まあいいことにしよう。わかっていたら最初からもっと合理的な手配ができたはずだが、こればかりは実際に体験しないとわからない。人生ってそんなものかも。

40分ほどもタクシーに乗ってようやく十里平の駐車スペースへ。あたりまえなのに、ちゃんと待っていてくれて嬉しいなどと思ってしまう。尾根を下ったので今シーズン初の沢ソーメンは逃したけど、終わりよければすべて良し。お腹すいたねと、定規如来の食堂に立ち寄る。秋保温泉に寄り道し、旧元湯旅館の跡地にある木の香りただよう日帰りの湯につかって帰途についた。

 

 

  

 

 

17日 十里平林道終点10:30~大倉川堰堤入渓点11:20~戸立沢出合11:48/12:20~二俣14:25~680m幕営地15:30

18日 幕営地5:40~760m奧の二俣6:45~登山道8:30/8:55~奧戸立山往復~寒風山10:30~関山峠12:40