ブナの沢旅ブナの沢旅
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2010.12.05
藤沢川タツ沢~恵能野川アモウ沢~滝子山
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2010年12月5日

 

ブナの沢旅もようやく沢納め。今回はすこし趣向をこらして滝子山周辺のほぼ記録のない沢に入ってみた。もちろん初冬の日だまり沢ハイキングなので、滝やゴルジュを期待しているわけでなく、濡れずに気持ちよく歩ければよかった。でも、どうしてこんなコースを?

「南会津」に出合って魅せられるようになったころ、あるサイトで同じく「ワンダーランドみ・な・み・あ・い・ず」に魅せられた若者の記録が目にとまった。その文章に共感をおぼえ、愛着さえ感じたのだが、その若者は何年か前にすでに渓に逝っていた。

若者らしく果敢に挑戦する山行と共に、なにもない沢を楽しむセンスも持ち合わせた彼は、ようやく休日がとれたある初冬の日曜日、滝子山周辺の沢をつないだ日溜まりハイキングを楽しんだ。具体的な沢の記録ではなかったのですが、なにげない山でもこんな風にコースを作って自由に歩けるなんてステキだなあと、自分も歩いてみたいと思ったのだった。

前置きが長くなったが・・・

初狩駅から歩き始め、藤沢集落の坂道を登っていくと背後に富士山が見渡せるようになる。これからは近場で富士山を眺めながらの日溜まりハイキングのシーズンだ。滝子山登山口を左に分け、さらに藤沢川沿いの林道をすすむと殿平への山道となる。一方の林道はさらに沢沿いに続いており、途中山の神の鳥居があらわれる。

しばらく歩いていると軽トラックがやってきていやな予感。そして突然異様な光景がガーンと目に飛び込んできた。沢が寸断されて山肌がコンクリートで固められ、新しい堰堤工事が行われていたのだ。ビックリするやら情けないやら、なのだが、気を取り直して植林帯に入って工事現場を巻き、上流の沢にもどった。

しばらくは工事用のテープが随所に見られ、このあたり一帯がすべて壊されてしまうのだろうかと思う。ほんとうに小さな沢なのになぜ???そういえばここ山梨は故金○某氏のお膝元、などと話しながら先へ進む。

ようやく本来の沢らしい渓相になりホットしながら進むと840mで神戸沢とタツノ沢の二俣となる。左のタツノ沢へ入ると沢幅は狭まり、小滝が続くようになる。いずれも簡単に登ったり巻いたりできるが、さすがに水中に手がかりを求めると水の冷たさが身にしみる。

予想通り930mを過ぎると両岸が開け、広い森の中を流れる小川風情となる。これ以上望めないような快晴の青空の下、サクサクと落ち葉を踏みながら何所でも自由に歩けてとても気持ちがいい。

いくつか漠然とした谷筋が広がり注意しなければならないと思っていた。それなのに扇状に広がったところですこしずれてしまい、気づいたらコンパスが違う方角を示していた。なんたることか!Yさんもリハビリ途上でいつもより疲れを感じ、ただついて行くだけで確認を怠ってしまったと悔やんでいる。

急いで軌道修正して20分ほどのロスタイム。開けた谷筋は次第に急斜面となり、最後は四つん這いになりながら這いつくばって御正人のタル(「大菩薩連稜」ではお上人ダル)へ抜けた。ヤレヤレ、ようやく第一の難関をクリア。時間がかかってしまい、この時点で大谷ケ丸から曲り沢下降は諦める。谷も尾根も両側が急斜面で、いかにも修行の場として名前が付きそうな痩せ尾根の鞍部だ。

さあ、ここからアモウ沢に下るのだが、タルからはほぼ垂直に切れ落ちていて下れない。長いロープは持ってこなかったので、少し沼の峰よりの傾斜が少し緩んだところから怖々と尻餅をつきながらズリ落ちるように下り、最後のガケを補助ロープをつかって着地。

途中から樹林越しにアモウ沢が見え、心ときめく。これまでとまったく渓相が異なり、開けた傾斜のある谷をナメ滝が楚々と水を落としていたのだ。山を越えるとこうも景色が変わるものかと、ワクワク感が高まる。

 

 

恵能野川アモウ沢に降り立ったところで一休み。記録のない沢だったのでまったく予想が付かなかったのだが、藤沢川が平凡だったこともあって、ちょっとした感動を味わうことができた。そもそも恵能野川といいアモウ(尼落)沢といい、近入手した1959年刊行の岩科小一郎著「大菩薩連稜」には、興味のつきない伝説や言い伝えが紹介されている。

保元の乱で島流しになった為朝の妻、白縫姫が九州から逃げ延びて今の鎮西ガ丸に安住の地を見いだした。アモウは尼落沢で白縫姫伝説とつながり、白縫姫が隠れ家としてこれほど良いところはないと、メグミヨキ野の意で恵能野と命名した・・・どのようにして伝説が生まれたのかはともかく、ロマンをかき立てられる筋書きに魅せられずにはいられない。

アモウ沢は流程は短いものの、とても東京近郊の沢とは思えないゆったりとスケール感のあるナメ滝群が続いていた。滑っていたのであまり気を抜けなかったけれど、予想外の美しい沢を見つけて有頂天。

落ち葉を踏みながらサクサク、ナメをヒタヒタ、ときどきズルッ、ヒヤッ、止まってホッ。短くも至福のひとときだった。しばらく進むと越えられない垂直の涸れ滝が出てきたが、右岸手前からトラバースする踏み跡があり、この踏み跡はその後ずっと続いていた。

源頭部の様相になったころ右岸の枝が出合い、その姿にふたたび歓声。本流に劣らない美しいナメが天の川のように天上から落ちていたのだ。地図を見ると直接滝子山から落ちているようだ。

こちらの沢に入りたくなるが、上部の様子次第では時間がかかるので、今回は予定通り、アモウ沢乗越に抜けることにした。新緑や紅葉のときに再訪できたらどんなにかきれいだろうと思う。

コースは変更となったが、アモウ沢乗越にでたときはとても充実感を味わうことができ、残念な気持ちは吹き飛んでしまった。ささやかとはいえ、尾根を越えて沢を二つ登り、すてきな沢を見つけたのだもの。

少し滝子山よりの太陽の日が降り注ぐ小高いポコで靴を履き替え休憩。今回は時間節約のため初めてカップうどんにしたのだが、予想以上に美味しく温まることができた。

賑やかそうな滝子山にはこだわらないのでゆっくり休んで下山。南アルプスの白い山並を遠望しながら開けて気持ちのいい登山道をたどり、平ッ沢コースへ。登山道は沢と平行しており、ときどきあらわれるナメ滝を目で楽しむ。車道に降り立ってから笹子駅までが長く感じられたが、4時過ぎの電車にぎりぎり間に合い余裕の帰宅となった。

こうしてブナの沢旅にとって、新しい山域で新しい沢に出合うという、うれしい沢納めとなった。

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初狩駅7:40~林道終点8:45~藤沢川タツノ沢9:30~(30分のロスタイム)~御正人のタル11:25~恵能野川アモウ沢遡行~アモウ沢乗越13:00/13:50~平ツ沢登山道~笹子駅16:15