ブナの沢旅ブナの沢旅
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2010.10.16
大深沢東ノ又沢
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2010年10月16-17日

 

紅葉の季節を迎えると共に、沢泊まりもそろそろ終盤を迎える時期となる。8月、9月と天候不順のため、予定していた東北の沢旅が実現しなかったことが心残りだった。そこで、これが今年最後のチャンスと、短いながらルートを工夫して八幡平の大深沢を計画。

最初は下流から遡行することも考えたが、増水していると徒渉に苦労しそうなので、より安全かつ確実に遡行できるルートとして八瀬森山荘から関東沢の枝沢を下降してメインの東ノ又沢を遡行することにした。

八瀬森山荘へ初日の昼までに到着するのは一見難しそうだが、小和瀬林道から破線の登山道が縦走路999mまで延びていることに着目。ここから登山道を経て山荘に行けば、午後から沢の下降が可能になる。

前夜のうちに田沢湖駅に向かい、三方がガラスで囲まれた駅の左玄関口にテントを張って仮眠。風雨もしのげそうな快適な空間だったが、駅に配達される新聞置き場となっていて早朝テントの脇でドスンという物音で起こされる。

早朝タクシーで小和瀬林道車止めまで入ってもらう。昭文社の登山地図にある駐車マークよりもさらに1キロ以上奥まで入ることができた。ここからさらに沢沿いの踏み跡を進み、大白森と大沢森の中間点999mから派生する尾根の登山道を登る。標識はないが、しっかりとした道だ。徒渉するところで顔に枝がかかったYさんはメガネを沢に落としてしまい、結局見つからなかった。沢や雪山の場合、メガネはやっかいなことが多い。

尾根は急傾斜だが、登るにつれブナを中心とする広葉樹林が色づき始め、とてもきれいだ。どんよりとした空模様も晴れ、日が射しはじめて嬉しい。タクシーの運転手さんによると、この道はタケノコ狩りで良く歩かれており、とても柔らかく良質のタケノコが採れるとのこと。途中、大きなスノーダンプがいくつか木にくくられていたが、タケノコ狩に使われているのかもしれない。

今年初めての本格的紅葉を楽しみながら999mの縦走路へ。裏八幡平縦走路は最近仮払いが行われたようで、広々とした快適な道だった。これから沢登りをすることを忘れてしまいそうなほど紅葉のプロムナードに心を奪われる。大深森を過ぎて高度を上げ始めると、針葉樹林が卓越するようになり、最後は笹原の道となる。展望のない曲崎山を過ぎたあたりから雨脚が強くなり、しばらく雨宿り。

少し下ると急に展望が開け、これから向う八瀬森のブナのモコモコが何ともいえない渋い赤味を帯びて広がる。それは思わず息をのむほどの美しさあった。うっすらとガスがかかっていたためとても幻想的だったが、写真でその雰囲気が伝わらないのは少し残念。

鞍部まで下るとふたたびステキなブナの森となり、懐かしい八瀬森山荘に到着。2年前の秋に葛根田川を遡行して泊まった山荘だ。ひっそりとした山荘で途中に収穫したブナハリタケを入れた味噌ラーメンをつくって温まる。

ふたたび空がどんよりとして気持ちが沈みがちだったが、ここまで来たのだ。さあ、元気をだして楽しく沢を下ろうと自らを鼓舞して、いざ第二ラウンドへ。山荘前に広がる湿原の左端に流れている小川へ入った。これは関東沢の枝沢で、とくに悪いところもない、きわめて下降に適した沢だった。

出合いを重ねるたびに沢が大きくなって行き、大深沢本流出合いへ導かれた。4時に到着できたので、いつも残業ばかりしているブナの沢旅にとっては上出来だ。少し上流の右岸に平地を見つけ、念入りに整地をして快適なテンバができた。けれど雨が降ったために、焚き火は最初から諦めることにした。機会をあらためて焚き火納めをしなければ・・・

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夜中に目覚めるとタープをたたく雨音がしている。気になってシュラフの中で地図を取り出し、エスケープルートを考える。仮戸沢を遡行すれば最短で縦走路に抜けられるが、それでは大深沢に来た意味が半減してしまうなあなど、あれこれ考えながらうとうと・・・

けれど、翌日出発するころには雨もやみ、晴れていく兆しを感じた。さあ、これからが大深沢のメインコース。ゴーロの川原を進み、8m滝を右手前から巻いてしばらく進むと、前方に幅広の大滝が見えてきた。いよいよかの有名な「ナイアガラの滝」の登場だ。

これまで顕著な滝がほとんどなかったこともあり、そのスケールに圧倒される。自然と気持ちもエキサイトしてきた。右側の滝の左水流沿いにトラロープが垂れていたので、これを手がかりに少しシャワーを浴びながら登った。爽快なり!滝上から見下ろした景観もすばらしく一挙にテンションが上がる。

行く手には沢幅一杯のナメが広がっていた。このドラマチックな展開は、クワウンナイ川の魚止めの滝を登ったときに似ている。大深沢は予想以上に川原歩きが多かったので、すこしくさりかけていたのだが、そんな気持ちは吹っ飛んでしまった。ナメ天国の始まりだ。この沢幅一杯のナメを幸福感に浸りながらヒタヒタ歩くことは、ブナの沢旅にとって欠かせない要素なのだ。

すぐに仮戸沢が出合い、北ノ又沢と東ノ又沢が出合って、ほとんど三俣となる。北ノ又沢もきれいなナメを落として出合っており、そそられる。東ノ又沢へ入って少し歩くとナメと小滝があらわれ、こちらも劣らずいい雰囲気だ。ナメが終わるとゴーロ歩きが長く続くのだが、この頃から日が射しはじめ、何もない沢が輝き始めた。紅葉も鮮やかとなり、太陽の偉大さと恵みをあらためて実感。

川原歩きに飽きるころ連瀑帯のゴルジュとなる。最初の滝は左手前の草の斜面から取り付きトラバースして滝上へおりた。2段目の滝は左スラブをフリクションで登った。その後沢は緩やかに蛇行を繰り返し、穏やかな平瀬が続く。なんにもないのだけれど、沢と森の雰囲気がしっとりとして心が和む。

1300mを過ぎたころから読図に注意を払いながら進むと、ほとんど藪こぎなしに最初の湿原に飛び出した。振り返ると前方彼方に、たおやかな八幡平の縦走路が見渡せる。とても順調に遡行できて満足感一杯だった。静かな湿原の空気に思う存分ひたる。そしてさらに進んで笹の斜面を登るとふたたび湿原となり、その真ん中を登山道が通っていた。2年前にこの道のこの場所を通ったとき、奥に広がる湿原を見つめながら、今度はきっと東ノ又沢を遡行してここに来るねと約束したことを思い出した。そして今、そのささやかな約束をかなえることができたのだ。

ここからふたたび登山道を歩く。天候不順のせいか、縦走路では単独の男性とすれ違っただけで寂しいほどだった。風が出て寒くなったので、樹林の中で沢装備をといて休憩。大深岳へ登り始めたころから雨が降り出し、源太ケ岳へは風雨の尾根歩きとなってしまった。

けれど、山頂に着くと同時に急にガスが流れ、太陽が顔を出し始めた。そして行く手の山並には大きな虹があらわれ、感激のひとときだった。なんとドラマチックな展開だろう。なんだか見守られているような敬虔な気持ちになる。昨日から天候はめまぐるしく変化していたが、幸いなことに沢で降られることはなかった。

松川温泉への下山路は途中から相当の悪路となる。そのせいか、最近の地図のコースタイムは自分が持っている以前のものよりも20分長くなっている。ヤレヤレだったが、樹林帯に入るとふたたびすばらしい紅葉の散策路風情となり、最後とばかり目の保養をしながら車道に降り立った。

時間がなかったので温泉はおあずけとなったが、バス停前の温泉宿にある登山者用のスペースで着替えを済ませ、コーヒーを入れて温まる。ほとんど貸し切り状態の最終バスで盛岡駅へ向かい、最速のはやてに乗ってあっという間に帰京。こうして懸案の東北のブナの沢旅を締めくくった。

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16日 小和瀬林道終点7:10~999m登山道9:00~曲崎山~八瀬森避難小屋12:30/13:30~大深沢本流出合16:10
17日 テンバ7:00~東ノ又沢出合~登山道11:55~源太ケ岳13:45~松川温泉15:50

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