ブナの沢旅ブナの沢旅
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2010.05.01
二王子岳~赤津山~門内岳~門内沢~梅花皮荘
カテゴリー:雪山

2010年5月1-3日

 

ブナの沢旅を立ち上げてからは、毎年GWの前半に南会津のブナロードを歩いていたのだが、今年は趣向を変えたばかりでなく私にとってはかなりの飛躍となる、飯豊連峰の縦走にチャレンジした。この山域に初めて足を踏み入れたのはまだ去年の3月、美しくも恐ろしい剣ガ峰を越えてたどり着いた三国岳だった。そこで見た神々しいまでに真っ白な峰々に魅了され、私の飯豊信仰が始まったのだった。

いろいろと調べているうちに、飯豊に行くなら残雪期にしかたどれない二王子から門内岳へと続く魅惑の尾根をたどりたいと願うように。時期尚早という気持ちが脳裏をかすめたものの、いったん思い込むともう止まらない。幸い天気予報は全日程とも良好だったので最終判断をし、相当の意気込みで臨んだのだが・・・

前夜新発田駅で、すでにバイクをデポ済みのsamさんと待ち合わせ、登山口の二王子神社へ向かう。神社前の広場はキャンプ場となっており、トイレや水場もある。雪はまったく消えており、すでに1パーティがテントを張っていた。

長いコースなので翌朝は4時起床の予定だったが起きたらすでに4時半。あわてて朝食をとり、6時前に出発する。きれいに手入れされた杉林の登山道をゆっくり登っていくが、とにかくザックが重くて足が動かない。しばらくすると斜面に雪があらわれ、雪道となる。女人禁制の場所にやって来た女性が石になったという神子石を通り、広場のようなところにでると小さな石の社へ。ここが一王子神社のようだ。近くには小屋が建っていた。

しだいにあたりは開け、市街を見渡せるようになる。写真でよく見ていた独標は1.3m位の積雪量を示しており、4月に入って急速に雪どけしたことがわかる。前方には定高山が見えてきた。時折雲の合間から陽が差していたが、登るにつれガスが出始め視界がなくなる。予報では晴れマークがついていたのにと恨めしく思うが、今回は二王子岳が縦走の出発点のようなものなので、まあいいことにしよう。

視界の無い中、茫漠とした雪原をトレース頼みで進んでいくと、小さなかまぼこ型の小屋があらわれた。9合目の標識あり。さらに少し進むと山頂のベルの塔へ到着。一応証拠の写真を取り、避難小屋に逃げ込む。

このままの天候では先に進むことなどできないので、しばらく様子を見ることに。中にはすでに何人かの登山者が休んでいた。お茶を沸かしながら単独のスキーヤーと話をするとこれから北股岳をめざすという。スキーフリークのsamさんは興味深々のよう。

地図を出してこれまでたどったスキールートを聞いていると、まさに垂涎物のルートばかり。きっと自分のサイトを持っているに違いないと、強引に聞き出す。我々はしばらくの停滞を覚悟して早々とシュラフにもぐってしまったが、単独のbig momoさんは何と悪天の中、出発していった。

この間、何組かの日帰り登山者に混じって年配4人パーティが物々しい装備で到着。やはり門内岳を目指すという。喜多方山想会の方々だった。避難小屋のデポ品を割り当てている様子をみて目を丸くする。大量のお酒と共にキャベツや玉ねぎが丸ごとごろごろ。このコースで宴会山行?いろいろな楽しみ方があるものだと関心することしきり。

いったんガスが取れたので、相談の末1時半に出発することにした。全工程にかかる時間を逆算すると、これがギリギリの決断だった。視界がないと二本木山への取り付きが心配だったが、避難小屋で二本木山へ行くと話していた別パーティが、あらかじめ向かう方向に赤旗を立てていた。

少し進むと旗はなくなったが、今度は先行したbig momoさんのトレースがでてきてホッと胸をなでおろす。よかった、これで大丈夫。天候も回復し始め、突然のように雄大な山並が眼前に姿をあらわしたときには、そのスケール感に息を呑んだ。そう、私はこれから飯豊の大きな懐に向かって歩いていくのだと、身が引き締まる思いだった。

二本木山はずんぐりとした優しい山容で、山頂には標識が立っていた。標高は1424mと、二王子岳より4m高いのだが、ここまで足を伸ばす人はあまりいないようだ。しばらくは快適な雪原の尾根を下っていく。視界もひらけ、ようやく想定していたシナリオ通りとなる。

これから進むべき尾根が、滔々とした大河のように優雅なうねりを見せており、そのはるか彼方には門内岳や北股岳の主稜線が真っ白に聳えている。遠いなあ。ほんとうにあそこまで行けるのだろうかという不安と、未知の世界が開けるのだという期待が交錯する。右手には蒜場山から大日岳へつづく尾根が見渡せる。

しばらく続いた快適な雪尾根も長峰を過ぎたあたりから痩せ尾根となり、雷岳からは藪が出始める。いよいよ藪こぎかと思ったが、トレースは雪の急斜面へと続いている。先行するSamさんも、精神的に随分助かったと珍しく殊勝なコメント。けれどかなりの急斜面を延々トラバースするので、緊張の連続だった。

連続する小峰のアップダウンが続き、雪が割れていたり藪に阻まれたりと、あの手この手で攻めてくる。そんなエキサイティングな行程がしばらく続き、時間も押し迫ってくる。そろそろテンバを探し始めたところ、桝取倉山の山頂が雪堤となっており、風除けのためその下の斜面を整地してテントをはった。門内岳から北股岳の主稜線を望む絶景の快適なねぐらが完成。

samさんはこんなときでも焚き火に執念を燃やし、何とか火を起こす。盛大とまでは行かないものの、焚き火に当たりながらビールでくつろぐ時間は至福の時だ。停滞のため一時はどうなるのかハラハラしたが、午後からは天候も回復し、トレースに助けられて順調に進むことができた。

 

 

とても疲れていたのか、珍しくぐっすり眠り4時前には起床。ウグイスのさえずりが聞え心が和む。朝から空は晴れ渡り、さわやかな一日の始まりだ。しばらくは相変わらず藪と雪がミックスした急斜面の痩せ尾根を進む。ヤンゲン峰に近づくと雪がつき出し、再び快適な雪尾根歩きとなる。ヤンゲン峰の山頂は気持ちのよさそうな台地で、昨日停滞していなければここにテントを張る予定だったところだ。ここから尾根は南へと方向を変える。

いくつか小さな峰を越え、赤津山への長い登りが始まる。目の前に横たわる赤津山の稜線は、西ノ峰から焼峰へとつづいている。西ノ峰から加治川に下る尾根には踏み跡があるらしく、エスケープルートとして考えていた。

一挙に標高差200mの急斜面を登って赤津山山頂へ。ほぼ全方位の素晴らしい展望に思わず歓喜の声。山頂の一角には三角点があり、ピッケルに鉄板の標識がかけられていた。ザックをおろしてしばし展望を堪能し、おやつの時間をとる。Samさんは雨量観測小屋がある隣の小山へスキー斜面の偵察へ。四方どこでも滑れそうな斜面に囲まれていると、えらくご満悦だ。

赤津山から尾根は直角に東へ向かう。いよいよ本丸への旅立ちだ。広い雪原の尾根を下ると眼下にはさらに広々と開放的な空間が。千石平、万石平とよばれる100m道路のような雪原尾根だ。夢見心地の稜線漫歩で全身脱力状態。気持ちいい~。幸せ~。いつもうんと先を歩いているsamさんが、雪の広場のど真ん中で一足先に休んでいた。

気持ちだけはタラッタラッタラッタと駆け寄り、一緒にピクニック。昨晩食べ切れなかったチーズやハムを取り出すと、さらに枝豆とビールまで出てくる始末。もうここに泊ってしまいたいね。太陽が燦々と輝き熱いくらいだ。ビールのあとはコンデンスミルクでカキ氷。うわぁ、おいしい。さあ、先に進なければ・・・

藤十郎山が近づくにつれ、めずらしく稜線にブナ林があらわれる。北股岳がさらに近づき、おういんの尾根が指呼の間だ。湯の平温泉へと下るこの尾根も興味深く、いつか歩いてみたいと思う。おういんの尾根の奥にはマイナー12名山の烏帽子山鋭鋒を突き出している。

ここから見る大日岳は西大日岳から続く台地状の山容。去年三国小屋から見たときは緩やかなピラミッド状だった。飯豊の最高峰を正反対の両方向から見たなんてなかなか得られない体験かな、などと一人悦に入る。

小粒ながらいつも前方にその尖った姿をアピールしていた二ノ峰がいよいよ間近だ。本当に登れるのだろうかと不安だったが、近づいてみると雪を拾いながら何とか行けそうだ。尾根上の藪を避けながら斜面をトラバース気味に登っていくと上に登山者が見える。

やっぱりこのコースをたどる人がいたのだと納得。若い男性が下りてきたので挨拶をかわす。なんと蒜場山から大日岳を経て来たのだと言う。びっくりするやら感心するやらで、話を聞きだしていると、ひょっとしてakoさんですかと聞かれ、さらにビックリ。カメラを入れているポシェットでわかったという。こうして、山人さんと後からやって来たモコモコさんご夫妻に、飯豊のど真ん中、二ノ峰で出合ったのだった。思ったより早くお会いできましたねと、モコモコさん。お二人に会えて涙が出そうなほど嬉しかった。

急斜面を上り詰めた山頂に雪はまったく無く、三角点が打ち込まれていた。さて問題は下り。下る側は藪と岩のほぼ垂壁となっている。最初は、ええっ、こんなところ下るのーと青ざめてしまったが、古いクサリが垂れていた。ストックが邪魔なので下の雪面に投げ下ろしバックステップで慎重に下る。まるでアイゼンで岩トレしている気分だ。ヤレヤレと難所をやり過ごすと穏やかな雪尾根となり、今宵のねぐらに到着。

門内小屋までは最初から無理だとわかっていたので、二ツ峰を越えられたことで予定達成とする。予備日を使わずに済みホッとする。さすがに疲労困憊だったが、samさんはまたもや焚き木集めに余念がない。喉が渇いていたのでまずは乾杯しようと、アルコール飲料を一缶飲み干してしまう。あまり飲めない自分にとってこれは暴挙。案の定しばらくすると気分が悪くなり、食事ができなくなってしまった。食当のsamさんには申し訳なかったが、早々と寝込んで2日目を終えた。

 

 

 

 

3日目は急ぐことは無いので少しのんびりと朝を迎えた。昨日以上の快晴だ。体調も回復し気分は上々。外に出るとなんと日本海が見えるではないか。興奮して伝えると、越後の山では何も珍しくないと軽くいなされる。テンバから斜面を下ったところは藤七の池がある辺りで、広々とした雪原となっている。

門内岳へ続く稜線が、太陽の光の陰影で美しい姿を見せている。あまりに美しく、何度も立ち止まって見とれてしまう。ゆっくりと歩を進め山頂が近づく。雪の白さと空の青さのコントラストが冴えている。

さあ、いよいよ門内岳だと思うと同時に強風に見舞われる。今まで経験したことのないものすごい風だ。よろめきながら、やっとの思いで山頂の小さな社にへたり込む。恐ろしさで心臓がドキドキし始め身動きできない。必死の思いでヤッケを着込み、しばらく身をかがめていると、心配したらしいsamさんがやってきた。

ザックを担いでもらい、ふらつきながら小屋へ向かって一安心。一階の扉は雪で閉ざされていたが、鉄バシゴで二階の窓から中へ入った。できれば門内岳の山頂からたどってきた尾根のうねりを見届けたかったのだが、とてもそんな余裕はなかった。道中何度も振り返ったのだからいいことにしよう。

さて、まずはお茶でも沸かして気を落ち着かせることに。またもやしばし停滞を決め込む。予定では頼母木山から西俣ノ峰をへて梅花皮壮に下るコースだったが、強風の尾根を歩くことは危険。そこで入門内沢を下ろうとSamさんからの提案。谷に下れば風も収まるはずだという。想定していなかったので調べておらず、地図で見ても等高線が密なので不安だったが、強風の恐ろしさよりはましだろうと不承不承で了解する。

小屋から少し下ると、恐ろしいまでの急傾斜で谷が落ちている。samさんはキックステップで下っていくが、その通りに続くことはできず、ピッケルを差しながらバックステップで下る。標高差にして200mほど下ると少し傾斜が緩み、前を向いて下れるようになった。

壁のような斜面を振り返り、よくこんなところを降りてきたものだと我ながら感心する。しばらくするとフリートレックの2人パーティが登ってきた。それを見て、ここは人が歩いて来れる場所なのだとわかり安心する。すれ違いざまに話をすると、この先悪いところはないらしい。よかったー。

途中からアイゼンをワカンに履き替え、石転び沢の出合いへ。ふう~ん、ここが有名な石転び沢か、などと観光気分。連休中にもっと人が入っていると思ったが、シュプールやトレースは見られなかった。それにしてもなんと贅沢で素晴らしい景観だろう。いつの間にか風も無くなり穏やかな春山風情が漂っている。大きな円形劇場のど真ん中にたたずんでいる気分だ。尾根歩きとはひと味違う飯豊も経験できたことだし、結果オーライだったかなと思う。

少し下った滝沢にはシュプールのあとが何本か見えた。このあたりからたくさんの踏み跡が現われるようになり、淡々と下っていく。梅花皮沢は青々と水量を湛え清冽な流れを見せている。どんどん下るとあたりが開けたブナ林となり、麓が近いことをうかがわせる。

ブナの大木に囲まれた台地で休憩。ザックに腰をおろし、遠くになりつつある山並をしみじみ振り返る。と、突然熱いものが胸にこみ上げ、涙ぐんでしまう。よく歩いたなあという安堵感。もうこれで終わりかという寂しさ。いつも安らぎをもらっているブナに囲まれ甘えたい気持ちになったのかもしれない。

沢を下るというので温身平のブナの芽吹きを期待したが、残念ながら今年はまだだった。やはり雪が多いようだ。けれどブナ林の雪原歩きは緊張感もなく気持ちがいい。飯豊山荘はまだ開業しておらず、ひっそりとしていた。橋を渡って出た車道はすでに除雪が行われていたが、車は梅花皮荘までしか入れないとのこと。途中二箇所で雪崩が道路をふさいでいた。長い車道をフキノトウを摘みながら1時間ほど歩いて梅花皮荘へ到着。観光地のような賑わいで、飯豊の静かな山旅が終わったことを実感。山荘の温泉につかり、4時のバスで小国駅へ向かった。

 

 

 

 

1日 二王子神社5:45-二王子岳避難小屋10:05/13:20-二本木山13:55-枡取倉山16:45

2日 幕営地6:00-赤津山10:30/11:00-二ツ峰17:00ー二ツ峰下17:30

3日 幕営地7:00-門内岳8:45/9:45-石転び沢出合11:00-飯豊山荘14:05ー梅花皮荘15:15