ブナの沢旅ブナの沢旅
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2010.05.29
穴堂沢~樋ノ沢~南面白山
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2010年5月29-30日

 

連休明けに滑床渓谷で本格的な沢オープニングをしてから3週間、山にいけない状態が続いてしまった。この間東北の「千年古道」に興味をもち、沢を絡ませて歩いてみようと計画を立て、夜行バスの切符も手配したりと準備を進めたのだが、土壇場で頓挫。現地に問い合わせたところ、ダム工事のため岩手県側の林道が閉鎖されているという。やっぱり計画は甘かった・・・けれどいまさら近場でお茶を濁したくない・・・

ということで、この時期でも入れそうなお気に入りの二口山塊の沢へ行くことに。3年前、ブナの沢旅を始めたばかりの5月中旬に日帰りで大行沢を遡行し、新緑の美しさが印象に残った山行だった。今回は隣の穴堂沢を遡行し、あわよくば大東岳を経て大行沢側に下り、翌日はまだ遡行していない樋ノ沢を登って南面白山を再訪するというプランを立てた。

仙台駅から仙山線で愛子駅へ向かい、ここからタクシーで穴戸沢林道を鹿打沢出合の車止まで入る予定だったが、最初からいろいろとつまずいてしまう。仙山線がポイント故障の影響で30分ほど遅れたうえに、林道に入って1キロもしないうちに車止め。

予定外の林道歩きとなってしまったが、途中地元の軽トラックが通り過ぎて行った。まあ、よくあることなので、ウォーミングアップと思うことに。1時間ほどで左手に鹿打沢沿いの林道を分け、すぐに本来の車止めとなる。沢は平凡な様相に見えたので、しばらく林道をすすむ。

猿倉沢出合いを過ぎたところで沢に降り、遡行開始。すぐに小滝を連ねたミニゴルジュとなり、へつりながら進む。まだ体が沢に馴染んでおらず、ぎこちない。小滝の多くは大釜を持つが、小さく巻くことができる。しばらく小滝のゴーロをやり過ごすとようやくナメがあらわれ、遡行感度がぐっとアップ。新緑と相まってとてもきれいだ。

ナメ滝は小さいながら水量豊富で見栄えがする。予想以上の渓相に二人ともニコニコ顔。最初のつまずきも忘れてしまい、沢幅いっぱいに広がる美しいナメをヒタヒタ歩く喜びを全身で感じる至福の時。あなどれない穴堂沢、なかなかやるねぇー。

左岸から20m滝を落として出合う古唱沢を過ぎると前方には5mほどの大岩が二つ合わさって鎮座し、その間から沢が流れて小滝を落としている。ここが穴堂沢の名前の由来になった場所らしい。大岩に近づいてみると岩が被っていたので空身で登ってザックを引き上げた。岩の中をのぞいて見ると反対側の出口も滝となっている。その後沢はふたたび平ナメとなり穏やかな雰囲気となる。

しばらく進むと黒い岩壁があらわれ、左に曲がっていよいよ核心のゴルジュとなる。深そうなゴルジュの先には4m滝が見える。ここは泳いだり右岸の微妙なバンドをへつったりという記録もあるが、とてもそんな気になれない。高巻きルートを目で追うと右手前の枝沢から越えられそうだ。案の定、枝沢を登って急斜面に取り付くところには細紐が垂れ下がっていた。たいした苦労も無く沢床に下りることができホッとする。

その後も時々小滝を越えながらきれいで楽しい遡行が続く。左岸から水量豊かな見事な滝を落とす西晴沢が出合う。一見こちらが枝沢に見える左の本流を進むと登れない8mスダレ状滝となるが、ここは小さく巻いて越えられる。美しい渓相は変わることなく続き、奥の二俣へ。ナメの美しい左は大東岳の北肩へ向かい、右は一度権現様峠に突き上げるようにして南へ向かい大東岳の登山道に重なる。

このころからガスが出始め、小雨模様となる。標高も上がったことだし最後の二俣なので源頭部の様相となると思いきや、水量はいまだ衰えず、次々と快適な滝をかけて続いていくのだ。いやぁ、すごいねー、たいしたもんだねーといいながらどんどん進み、気がつくとコンパスが南へ振れている。

当初、時間が許せば大東岳を登って避難小屋へ下る予定だったが、何しろ入渓したのが11時半近く。その時点でたぶん無理だろうと思い、権現様峠の登山道を経て樋ノ沢を下降する心積もりだった。地図では沢が登山道と合流するはずなのだが一向にその気配がない。このまま沢を進むのはまずいので、適当に斜面を登って道を探す。

読図をしながらだだっ広い平地の森をしばらく歩き回り、ようやく道が見つかった。予想以上に時間がかかったのでホッとしたのだが、むしろ本格的に迷ったのはここからだった。登山道を行けば広い尾根の鞍部にある権現峠に出るはずなのに一向にその気配が無く、道は下り始めてしまう。どんどん下るのでおかしい。GPSで確認したsugiさんが、もう峠を越えているという。見落とすはずは無いので、おかしいと思いながら振出へ。

しばらく探してもわからないので、適当に薄い藪のブナ林へ入って登山道があるはずの方向へ向かう。とても広い尾根で茫漠としているが、ブナの原生林がとても美しく、ガスで幻想的なたたずまい。時間も迫り、ガスと雨の中で道を失い彷徨っているのだから、かなり悲惨な状態なのだが、森の美しさも格別で、いいんだか悪いんだかという感じだった。

ようやく出合った登山道は地図とはかなり離れたところを通っていた。権現峠はいったいどこにあるのかと、依然不可解なまま素晴らしいブナの小径を急ぐ。時間が無ければここに泊まりたいとか紅葉のときにまた来たいとか、素晴らしさに心奪われ暢気でいられたことは幸いだった。

樋ノ沢への下降点はとてもすっきりしており、簡単に沢へ下りられた。滝を小さく巻いたときに足元から突然鳥が飛び立ちビックリする。さらに驚いたことにそこは親鳥が卵を温めていた巣だった。数個の卵が取り残され、なんだかとても悪いことをしてしまった気持ちになる。すぐに戻ってくれたかなあ。

雪渓が完全に谷をふさいでいるところもあった。一箇所滝を懸垂下降した以外は悪いところもなく順調に下ると、しだいに素晴らしいナメ沢となる。けれど楽しんでいる余裕も無くなり、最後は迫り来る暗闇と競争するように急ぎ下り、なんとか7時前に避難小屋に着いた。中に入るとすでに多くの人がいたので、雨もやんだことだしテントを張ることに。

すべてが濡れてしまったが、態勢を整え着替えをしてさっぱりした」。いろいろなことがあった一日だったけれど、穴堂沢はナメがきれいなだけでなく変化があって面白かったし、素晴らしいブナの森を彷徨えたし(と前向きに)、読図で教訓を得たしと総括し、ご苦労様の乾杯。あれこれ持ち寄った惣菜で食事を済ませ、あっという間に夢の中へ。

 

 

 

 

3週間ぶりの山でさすがに疲れたのか、珍しく朝までぐっすり眠ることができた。当初はカケス沢を遡行することも考えたが、樋ノ沢がとてもきれいだったので、もう一度のんびり遡行して楽しむことにした。3年前に日帰りしたとき少しだけ歩いたのだが、その時よりも水量が多いせいか今回の方が遥かに好印象だ。明るい新緑が目にまぶしく、白く波立つナメとマッチして美しい。天候も回復し、青空が広がり始めた。

樋ノ沢は沢の由来と思われる樋状の岩盤から始まる。ここにハダカゾウキ沢沿いの登山道が横切っているが、この樋を飛び越えていくようだ。かなりの幅があり、おまけに先は樋状滝が下に水を落としている。滑りそうで怖い。東京近郊ならば板か何かがかけてあるはず・・東北の登山道ってすごいと妙に感心してしまう。甌穴に気をつけながら楽しい遡行が続く。大行沢のナメは全体の3割程度なので大岩やゴーロも多いけれど、こちらは7割がナメ。樋ノ沢だけでも十分楽しめると思う。

前日懸垂した滝の前で思案する。両岸は切り立ってどちらも巻きは容易でない。左壁のきわどいバンドを斜上したという記録もあったが、とんでもない。そこで手前左の倒木伝いに泥壁の急斜面をずり上がることに。こういうところはsugiさんの方が得意なので、お助けを出してもらう。最後の二俣は鞍部に近い左へ進んだ。どこを詰めても藪は薄く簡単に抜けられるようだ。お疲れ様~。

相変わらず周囲のブナ林が美しい。靴を履き替え、権現様峠を往復して昨日の疑問を解明することにした。ザックをデポして空身のハイキング。羽がはえたような身軽さだ。

小沢を何度か横切り、道はどんどん下っていく。そして標識のある権現様峠へ。鞍部からかなり下ったところに標識はあった。ええっ、これじゃあわかるはずないよねーと国土地理院に文句を言いたくなるが、登山道だけ歩いていれば少し地図の線がずれていても問題ないわけで、道の無いところを歩く方が悪いといわれそうと、振り上げたこぶしを早々に引っ込めてしまう。

でも、これで気持ちがすっきりした。昨日もう少し下ればよかったと悔やまれるが、これを教訓としよう。GPSに頼りすぎるのも問題だと痛感。無ければもっと下っていたと思う。まあ、今後の糧に。

ということで来た道を戻り、濡れた沢装備でずしりと重くなったザックを背負って南面白山へ。登山道沿いのコシアブラを摘みながらひたすら急登の道を進むと展望が開け、大きな山容の大東岳が見えてきた。そこから山頂は一登足。やはり山頂は気持ちがいい。素晴らしい展望に疲れが吹き飛ぶ。

昨年1月に雪の大東岳とその下に広がるブナの森、樋ノ沢の谷筋が目に焼きつき、いつか緑の姿も見たいと願っていたのだ。しばしその雄大な眺望にひたる。船形山も近い。ここも宿題のままだ。今回も最初は船形山という話もあったのだが、やはり沢を組み入れたいということで見送ったのだった。

さあ、あとは下るだけ。下山路は北斜面なので新緑が始まったばかりで初々しい。途中のブナ林は二次林ながら樹肌が白くて端正な森だ。急な坂道を下っていくとアスナロ林となり、岩場を回りこんでしばらく下るとスキー場跡へ。面白山高原スキー場は今年で閉鎖になったとのこと。雪のないスキー場は伐採が目立って痛々しい。砂利道を淡々と下って面白山高原駅へ。予定より1時間早い電車に乗って帰京の途についた。

 

 

 

 

29日 林道車止9:45-猿倉沢出合11:30-奥の二俣14:45-登山道16:00(この間迷ってロスタイム30分)-樋ノ沢下降点17:10-樋ノ沢避難小屋18:55

30日 避難小屋7:00-登山道10:00/10:30-権現様峠11:10-南面白山12:55/13:15-面白山高原駅14:45