ブナの沢旅ブナの沢旅
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2010.02.20
三本松沢右俣左岸尾根~栗子山~抗甲沢
カテゴリー:雪山

2010年2月20-21日

 

去年の6月に訪れた栗子山塊の滑谷沢は、穏やかな渓相とブナの新緑の美しさがいつまでも心に残る、とっておきの沢旅となった。あのステキなブナの森の雪景色を見てみたい。そうした想いを抱き、再びあのタイムトリップのトンネルをくぐってきた。

福島駅からレンタカーで国道13号線を東栗子トンネル入り口へ。トンネル前の広場に車を止め、スノーシューで旧道を歩き始める。道が大きく迂回するところでショートカットして適当に尾根にのると木に赤ペンキマークが続いていた。二度目のショートカットをするとすぐに二ツ小屋トンネルが見えてきた。思わず、また来てしまったと独り言。

夏に来た時よりは出口が明るく見通せる。うわさの氷柱見たさにワクワクして進むと、さっそく巨大なツララが垂れ下がっている。奥にはさらに立派な氷柱が行く手をさえぎるかのようだ。確かに一見の価値あり。出口近くでは、穴のあいたトンネル上部から見事な氷瀑が形成されている。穴は昨年来たときより大きくなっており、このままの状態が続けばいずれ土砂で出口が埋まってしまうのではないかと危惧される。

 

トンネルを抜けるととたんに雪深くなり、雪が舞っている。やはり別世界の雰囲気を感じる。膝下程度のラッセルをしながら進んでいくとあたりが少し明るくなり、薄日が差してきた。欄干がすっぽり雪で埋まった懐かしい烏川橋を渡り、斜面をよじ登って水平道へ。ジグザグ道をショートカットしながら、しばらくはのんびりとスノーシューハイキングを楽しむ。

滑谷沢左俣が近づいてきたところで快適な斜面をすべりおりて沢にでる。沢はほとんどが雪で埋もれて真っ白だ。四季の変化の妙をあらためて感じ入り、なんだかとても不思議な気持ち。しばらくは両岸も開けていて、どこにでもテントが張れそうだ。氷柱見物を兼ねてこのあたりまでシューハイキングをしてテントを張り、焚き火とおいしい食事を楽しんでのんびりするなんていうプランもありだなと思う。

地図のゴルジュマークは両岸が雪の急斜面となっている。すこし怯んだが、滑り落ちても口のあいた沢は浅いので、たいしたことはないと自分に言い聞かせ、慎重にステップを踏んでトラバース。こういう場面はよく出てくるだろうから、慣れなくちゃ。

再び両岸が開け、右岸の山肌がブナの純林となった。細いけれど、白くてとても端正だ。柔らかな日差しを浴びながら森の中を進む。至福の時だ。栗子山にたどり着けなくても、今こうしていられるだけで満足、なんて口走ってしまう。

三本松沢出合近くで左岸に渡ると、沢の滑床が黒く姿をあらわしていた。出合の雪庇の先に氷結した裏見ノ滝も見える。滝の裏をくぐって川原に下り、ソーメンを食べたことが思い出される。右俣左岸尾根の取り付きを探して少し上流へ。スノーブリッジから対岸へ渡り、緩そうな斜面に取り付く。四つんばいになりながら何とか這い上がり、尾根にのる。上部は思ったよりも急斜面で、ヒールのないシューをはいていたsugiさんがロープを求めてきた。

ここからはゆったりと登っていけばいいのだが、しだいにガスが出て雪が舞い始める。もともと一日目は予報もよくなかったので、期待はブナ林の尾根歩き。予想通り美しいブナ林となり、ガスとあいまってそれなりにいい雰囲気となる。

栗子山の東尾根に合流すると傾斜はさらに緩み、尾根が広がる。当初は1140mで北東に派生する尾根を下り、前回泊まった奥の二俣に降り立ち、対岸から北に伸びる尾根を登りかえした平坦地でテントを張る予定だった。そして翌日は栗子山の背稜1127mから東に派生する尾根にのり、稜線漫歩を楽しみながら栗子山へ。さらに南に下って1202m峰の東南尾根を下り、途中で滑谷沢へ緩やかに下る東南東尾根をたどるという、我ながらなかなか魅力的なプランだったのだが・・・

やはり悪天候には勝てない。1100mまで進んだものの、ガスだけでなく強風となり、茫漠とした尾根の分岐を見つけて下ることに不安を感じる。相談するまでもなく、二人で即決。コースを短縮することにして少し戻り、ブナに囲まれた平坦地でテントを張ることにした。

 

 

冬の栗子山は山形側からスキーヤーが時々入っているようだが、どの記録にも風が強いと書いてある。結局一晩中、強風に見舞われる羽目になってしまった。雪も降っていたのでタープを張ったのだが、強風下では失敗だった。経験者には当たり前のことかもしれないが、いまだ途上の我々にとっては試行錯誤の学習となった。

悪天候のため遅い出発となった。視界はあまりなかったが樹氷のブナ林が幻想的で美しかった。ゆったりと標高を上げていくと傾斜が緩みこれ以上高いところがない平たい場所にでた。このころにはホワイトアウト状態となるが山頂に着いたことがうれしかった。交互に万歳をした記念写真を撮りテルモスのお茶で温まる。

雪原荒野の風情でおどろおどろしく、標高がわずか1217mなんてとても思えない。あまり長居はできずに山頂を後にするが、まだ安心するのは早い。だだっ広い尾根ながら相変わらず強風はやむ気配がない。時々耐風姿勢をとりながら進んでいくと、突然ガスが晴れ、山形側の山並みがくっきりと見えてきた。あまりのドラマチックな展開に歓喜の声ふたたび。前回沢の下降点となった1202m手前の鞍部へと下る。美しい山容の1202m峰を見ながら苦労した薮が、美しい雪原となっている。

 

 

 

強風の中、ピッケル・アイゼンなしで1202m峰を登ることは論外のこと。そうとなれば、問題はいかに東面の無木立の急斜面をトラバースして南東尾根にのるか。まずは手前にみえる東尾根の樹林帯へはいる。さらにトラバースするには斜面が急で高度感があるため、もう少し手前の快適な尾根を下って様子を見ることにした。

ブナの樹氷がとても美しい、快適な尾根だ。とっておきの、自分だけの素敵なブナの森を見つけた気分。ふかふかパウダーのツリーランには最高のコンディションではないかと思う。適当に下ったところで抗甲沢が近づく。地図を見ながらあれこれ検討した末、ルートを変えてこの沢を下ることにした。原則的には雪山で沢を下るのは禁じ手なのだのが、斜面は樹林帯だし、明るく開けているので雪崩の心配はなさそうだと判断。

各人が適当なところで沢に下った。しばらくして沢筋がカーブしたところの先で、Yさんが仰向きにひっくり返っている。また転んだのかと思ったが、雪を踏んだら斜面ごと滑り落ちてしまったとのこと。小さな表層雪崩を起こしてしまったらしい。見上げると3、4m上の斜面が15センチの深さで幅4mほどスライドしていた。

とんだハプニングだが、この程度ですんで、いい経験ができてよかったじゃないと軽口。すぐ下にも斜面が崩れた痕があり、やはり雪崩のリスクを軽く見ていたのかもしれないと肝に銘じる。抗甲沢は何もない沢だという記録通り、ミニ雪崩は別として、シューでとても快適な下りだった。

あっという間に出合に降り立つと、あたりは春山JOYの雰囲気。あとはのんびり来た道を戻るだけだが、昨晩の雪でトレースは完全に消えており、かえって新鮮だった。ゴルジュの斜面を通過するところでは遊び半分に沢床に下りて雪の沢歩きにも挑戦。すぐに挫折するものの、今度はスコップで土木工事さながら沢に雪降ろし。何をやっているんだか・・・なのだが、こんな馬鹿なことして最後まで楽しみながら林道にもどった。

振り返ると1202m峰とその背後に続く稜線の奥になだらかな栗子山が見渡せる。とても晴れがましい気持ちでトンネルを抜け、日常の世界に再びタイムトリップ。満ち足りた気持ちで、ひと時の雪の沢旅をしめくくった。

 

 

 

20日 東栗子トンネル前9:15-二ツ小屋トンネル10:10-三本松沢出合13:00-1050mテンバ15:20

21日 テンバ9:55-栗子山11:10-抗甲沢出合13:30-二ツ小屋トンネル15:55-東栗子トンネル前16:30