ブナの沢旅ブナの沢旅
▲トップページへ
2008.10.12
赤谷川本谷
カテゴリー:

2008年10月12-13日

 

前夜ロープーウエイ駅でsamさんと合流。そのまま川古温泉まで行く予定だったが、風が強く寒いので駅内で仮眠して早朝出発することになった。samさんとは初対面なのだが、ずっと前からの知り合いのよう。

少し迷いながら川古温泉の駐車場に向かう。長い林道だが、師匠やsamさんのキノコレクチャ-を聞きながらのんびり歩く。けれど内心は今日中にドウドウセンを越えられるかと、かなり緊張していた。

林道が終わり、すべりそうなトラバース道をさらに小1時間ほど歩き、対岸に天から降るような滝をかけている枝沢を二本見送るとエビス大黒沢出合の渡渉点だ。両岸は切り立った岸壁で木々はうっすらと色づいている。予想以上にスケールが大きく圧倒されるけれど、なにしろ今回は接待山行と揶揄されているくらいなので、大船に乗ったつもりで楽しもうと自分に言い聞かせる。

白い岩と青い水、木々の緑と紅葉がマッチして美しいことこの上ない。右岸にそれぞれ10m滝と2段8m滝をかける枝沢を通過すると、前方にマワット下ノセンの上部が見えてくる。近づくことはできないため下部は見えない。

右岸の小尾根に取り付き踏跡をたどって滝上のナメに巻下りる。どの記録でもこの高巻きは簡単だと書いてあった。これが簡単だとすると・・・先が思いやられるなあと、ため息。右岸から滝を落として出合う東ノ滝沢と熊穴沢を見上げながら進むとマワットノセンが大きな滝壺に水を落としている。

右岸をへつってガレルンゼに取り付き、途中から右手の急斜面を斜上。足がかりのない急斜面はひたすら潅木をたよっての腕力勝負だ。やれやれと滝上に出て休憩。

さあ、次なるお楽しみは延々と続く巨岩帯の通過だ。どうやって越えていくのだろうと呆然とするが、samさんはお猿さんのように跳ねていく。それでも迷路に突き当たり右往左往したり、空身でくぐり抜けたりと大忙し。私はほとんど思考停止状態でついていくだけだったが、ベテラン勢はパズルを楽しんでいるようだ。

ここで体力を消耗してもしょうがないので、後半はできるだけ右岸沿いの踏跡をたどった。ようやく傾斜もゆるみ平穏な川原にもどったところで昼食の大休憩とする。その間、毛ばり釣りでは自他共に認める腕前らしい師匠は釣竿を振りながら先行する。すでに禁漁期であり、寒くなると岩魚の食いつきも悪くなるとのことですぐに納竿。

しばらく進むと裏越ノセンが見えてきた。いよいよ核心部への突入だ。右岸の大岸壁が威圧的に聳え立っており、中空の穴からは幾筋にも水が滴れ落ちている。赤谷川本谷の遡行が決まったとき、samさんは無謀にもドウドウセンを登りたいと師匠に告げたらしいが、私の計画では端から却下。

そのかわりと、せめて裏越ノセンを直登するつもりで来たらしい。水の冷たさにその気力もすぐに失せてくれて助かったのだが、未練ありそうに左岸のルート工作に余念がない。

気が済んだところで、大釜正面に急斜面で突き上げているガレルンゼへ。幸い腰までの深さで釜を横切ることができたが、水の冷たさに思わず悲鳴。浮石だらけのガレルンゼをどんどん登り、急斜面を右手にトラバースして潅木の小尾根を越える。

ここから懸垂で笹薮を急降下して沢床に降り立った。高巻きの途中、力尽き果てている私の後ろについていたsamさんが突然、わかったよ、と声をかけた。急斜面の泥壁登りが延々続くのだが、私は足でしっかり立ちこんでおらず、膝を曲げたまま腕力だけで登っているから疲れるのだと。

足裏フリクションをきかせて立ちこみ膝を伸ばして体重をかければ疲れないでしょと言われる。そう指摘されるとその通りで、以前クライミングの練習をしているときにもよく注意されたことだった。この悪弊をなおさないと、もともと短い沢の未来はないものと肝に銘じる。とても有益なアドバイスに感謝。

やっとのことで降り立った所は日向窪出合の手前だった。先にはドウドウセン入り口に小滝がかかっている。これまでは序の口で、これからがいよいよ大高巻きの始まりなのだ。

日向窪は一見貧弱で、ここが高巻きの入り口かと疑ってしまうが、登ると目印のチムニー滝が見えてきた。ここから右手の草つき急斜面をこれまた延々と登り続けると一本のブナの木が目印になる小尾根に乗る。

少し平らな空間で一息。前方にはさらに高い稜線が見渡せる。あそこまで行くのだと気を取り直し、再び悪戦苦闘して顕著な尾根へ。

どうやらドウドウセンを越えたようだ。眼下には穏やかな川原の流れが見渡せるが、恐ろしいほどの高度差だ。ここから懸垂で滝上に張り出した小尾根まで下り、左手の草つきスラブ帯とのコンタクトラインまでトラバースすると明瞭な踏跡が出てきた。あとは草つき斜面を尻セードしながら下っていくと窪状となり、最後は簡単に川原に降りることができた。

巻き始めておよそ2時間半。私にとっては世紀の大高巻きだった。川原に下り立ったときのうれしさはたとえようがなかった。思わず天を仰いでしまう。すぐに格好にテンバが見つかり、焚き火の跡があった。みな同じ思いでここをねぐらとするのではないだろうか。

時間もぎりぎりセーフの5時。てきぱきとテントを張り、焚き火を起こしてようやくくつろぎの時間がおとづれる。キノコも岩魚もないけれど、心は満腹感で一杯。暖かいテントで熟睡して翌朝を迎えた。

 

 

 

 

気持ちに余裕があったせいか、出発は少し遅めの7時半。すぐに8m滝のゴルジュ帯となる。トラバースできそうになく右岸の濡れた笹薮斜面を高巻くが、のっけから大いに手こずってお助け紐をちょこちょこ出してもらう。

滝上からは、これぞ期待のきらめきのチャラ瀬!という、美しく穏やかな流れとなる。日差しが入ればもっと素敵なのにとちょっと残念。

朝一番の緊張から開放されのんびり歩いていくと、再び釜と小滝がつづくゴルジュ帯となるが、開放的で陽も差し込み威圧感はない。夏なら泳いで簡単に抜けられそうだが、水に濡れたくないので側壁のへつりには緊張した。それにしてもなんと美しく穏やかな山並みだろう。

ゴルジュ帯をぬけると一挙に視界が開け、きれいに色づいた山々が四方八方から微笑んで迎え入れてくれる。よくここまで来たねーと言ってくれているようだ。この辺りからは、みんな沢ハイクモードに。俎グラ山稜も西面はエレガントな曲線の山並みだ。今、ここにこうしていられることの至福感・・・

1520mの二俣を左に入る。ようやく少しずつ高度を上げ始め、次々と小滝やナメ滝があらわれる。最後まで飽きさせないねぇーと、samさんもご満悦の様子。かつて険谷遡行をかさねていた師匠も、思っていたよりいい沢だとのこと。

私の希望に付き合ってもらったような山行だったけれど、みんなが満足できてよかった。そして最後の二俣で登山靴に履き替え左に進むと、黄金色に輝く草原のフィナーレが待っていた。ほんの少し笹をかき分けて登山道へ。

谷川から万太郎へつづく稜線ははじめてで、その素晴らしい眺望に感激。たどってきた谷を見下ろしながらオジカ沢の頭へ向かう。師匠は8年前に谷川岳石楠花尾根で友人を亡くし、遺骨の一部をここに埋めたのだという。供養をしたいとやってきたのだ。ウイスキーとタバコをお供えしてしばし故人をしのぶ。8年ぶりの訪問ということで、きっかけ作りに一役買えたかなぁ。

さあ、名残惜しいけれど帰らなければ。肩の小屋までの登り返しにバテバテになりながら、なんとかロープーウェイの最終時間前に天神平に駆け下りたところ、1時間待ちとのこと。一挙に気が抜ける。

そういえば、去年の高倉沢のときも天神平で気抜けしたなと、あのときの心細かった思い出がよみがえる。車を回収するために川古温泉に向かい、ここで解散して長い道のりの帰路についた。

 

 

10月12日 川古温泉駐車場6:00-赤谷川渡渉点(入渓)8:35/9:10-マワットノセン上10:30/10:40-裏越ノセン上14:15-ドウドウセン上17:00-テンバ17:05

10月13日 テンバ7:30-1520m二俣11:00/11:15-稜線13:10-オジカ沢ノ頭13:45/14:15-肩ノ小屋15:30-天神平16:55