ブナの沢旅ブナの沢旅
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2008.06.01
吉ヶ平山荘〜八十里越〜入叶津
カテゴリー:ハイキング

2008年6月1日

 

生まれ故郷の越後で幼い頃に抱いた、あの山の向こうへの憧れー下田。小さい頃祖母からその名前を聞いた河井継之助ー小説「峠」。そして大好きなブナの森が豊かな南会津。私にとって、この三つをつなぐものが八十里越なのだ。

一方で明治後期の記録によれば、当時は一年に2万人近くの通行があったらしい。会津の生糸や繭、ワラビ、カラムシ、越後からは塩や魚の干物、金物などが運ばれ、重要な交易路であり続けたのだ。そうした歴史と伝承ロマン、豊かな自然の八十里越を、ようやく歩くことができた。
ムーンライト越後で東三条駅に早朝着。予約のタクシーで登山入口の吉ケ平山荘へ向かう。仕度をしていると地元山岳会のグループが3台の車でやってきた。入叶津から登るグループと途中で合流して車の鍵を交換するのだという。

緑鮮やかな登山道は明瞭だが、草が覆いかぶさっているので、前日までの雨のためすぐに雨具も濡れてくる。ひと登りして椿尾根に出ると、大岳から守門への稜線が見えて風通しがよく気持ちがいい。山腹のトラバースはところどころ崩壊していてトラロープがかかっている。山ノ神を過ぎるころから道幅も広くなり、ブナ林が続くようになり気持ちがいい。

890mの番屋乗越は雪で覆われていた。この峠を越すと山腹道は尾根の反対側を進むようになり、景色が一転する。南に烏帽子山の鋭鋒がそびえ、西に目をやるとはるかかなたに鞍掛峠らしき鞍部がみえる。これからあんな遠くまでいくのかぁと思ったけれど、それでも八十里越の半分にも達しないのだなんてことは考えないようにして歩いた。

しだいに緩やかに下り始めると、あたりは開けたブナの森となり、車も通れそうな道幅となって快適だ。さらに下ってブナ沢を渡渉し、雪で覆われた道を登り返して高清水沢を渡る。

 

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すぐに開けた平坦地に出たかと思うと空堀小屋跡の石標がたっていた。大正末期まで営業しており、もともとは、この地に伝承される高貴な落人が住んだ要塞の旧跡とのこと。伝説とは言え、さもありなんと思えてしまう。

再びブナ林の道となるが、あたりはブナの大木が林立していて巨木に抱きついたり写真を撮ったりして道草をする。道が西に急カーブする地点には殿様清水の標識があり、その先に小沢が流れていたので休憩。あまりの暑さに頭から水をかぶりたいくらいだ。顔を洗って沢水をたくさん飲んで生き返った心地。

烏帽子山の岩峰を巻くように雪渓の急斜面をトラバースして、一番標高の高い鞍掛峠965mへ。戊辰戦争の時にはここで何度も戦いが繰り広げられ、会津藩の若き勇士が敗走する長岡藩の兵士を助けたのだという。

しばらく進むと急に展望が開け、黒姫から守門岳が見渡せるように。この角度から見る守門は端正で凛々しく美しい。小松横手という石標の地点は絶景ポイントで、浅草岳がエレガントに裾野を広げた姿で現れる。

北面はとてもたおやかな姿で、見る角度によってまったく印象が違うのに驚いた。展望を楽しみながら田代平へ降りてみた。水芭蕉が点在する湿原を木道に導かれながら一周してからブナの森の中で昼食タイム。

登山道にもどるとどこからともなく車が現れビックリ。五味沢林道はブナ林を伐採するために造られたという・・・大白川への分岐をやり過ごし、木ノ根峠へ向かう途中数人のグループとすれ違う。今朝登山口で一緒になった山岳会の人たちだったが、これから日没までに吉ヶ平にたどり着けるのか心配してしまう。

ようやくたどり着いた峠であるが、叶津まで16キロとある!ここにはかつて木ノ根小屋があり、継之助も泊まったのかもしれない。昭和七年までは山小屋の番人もいたけれど、猛吹雪で凍死してから無人になり朽ち果てたとのこと。

峠から先は明治になって付け替えられた新道で、古道は南の尾根から沼の平を通って浅草岳登山道に合流していたらしい。先月に沼の平を歩いたときに知ってロマンをかきたてられてしまった。ネットには古道探しの記録なども見られるが、多くは藪に覆われて消えてしまっているらしく、むずかしいようだ。

 

 

八十里峠を少し下って山腹道を進むと再び急に展望がひらけ、小さな石の祠の松ヶ崎へ。ここからは道がぬかるんで歩きにくく、何度も小沢に下りて登ってとあまり楽しくない道がつづいた。

沢はおおむね崩れかけた雪渓に埋もれておりところどころ手こずる。名香沢では唯一渡れそうなところが緩やかながらナメ滝の落ち口手前で、登山靴で渡渉するのは不安だったので迷った末に沢靴に履き替えることに。補助ロープまで出して恐る恐るナメ床に降り立ったところ何の問題もない渡渉で、臆病な自分たちに大笑いしてしまった。けれど、これくらい慎重でいい。

時間をロスしてしまったため時間が気になりはじめる。民宿のおばさんに6時には着くといっていたので遅れて心配させてはいけないと思い、あとはわき目も振らず登山口まで一目散に飛ばしたが、途中からはぬかるみの悪路も終わって再びきれいなブナ林の散策路のようだった。

もう少しのんびりしたかったが、なんとか5時過ぎに八十里越入り口の石標にたどり着いた。電話でタクシーを呼べる入叶津までさらに工事中の国道を5キロ歩いてお疲れ様。

越後と会津の峠道の歴史に少し関心をもつだけで、八十里越の面白さは倍増するのだと感じた山旅だった。

 

 

吉ケ平山荘6:00―椿尾根7:05/15-山ノ神8:00/10-番屋乗越8:25-火薬庫跡9:5/15-ブナ沢9:55/10:05-高清水10:15-空堀小屋跡10:30-殿様清水11:00/15-鞍掛峠11:55-田代平13:00/13:40-木ノ根峠14:15-松ヶ崎14:55-入叶津登山口17:05/30-入叶津18:30