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2023.09.24
柳沢川柳沢右俣〜三重泉沢三林班沢下降〜二林班沢〜柳沢左俣左沢下降
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2023年9月24-26日

長い間計画倒れだった泙川三重泉源流の沢旅をようやく実現させた。10年以上前、足尾の泙川湯ノ沢本流から国境平を経て鈴小屋沢を下る周回ルートを辿って以来、気になる山域の一つとなった。三重泉沢下流部はわたしにとって論外ながら、上流部は「山深さと静かな沢登りが味わえる」初級の沢として「上信越の谷105ルート」でも紹介されている。いつか足を踏み入れてみたいと憧れのような気持ちを抱きつつも遠い存在だった。

その後日光側から山越えをして泙川上流に下る記録がいくつか出され、そういうアプローチもあるのかと興味を抱いた。数年前に計画を立て、詳細な遡行図も作成してみたがあれこれの理由で後回しになってばかりいた。2019年の秋にリハビリテント泊でアプローチとなる柳沢右俣から県境尾根に抜け、日光側の下山ルートとなる柳沢左俣左沢を下った。あの時、またやってくる可能性を仄めかしたのは、頭の中に泙川三重泉源流を遡下降するプランがあったからだった。

初日は柳沢右俣上流の平地と決めていたので当日発とした。宇都宮経由の日光駅着にすると東武線よりも一本早い湯本行きバスに乗ることができる。赤沼で低公害バスに乗り換え出発点の西ノ湖入口から歩き始めたのが10時少し前。柳沢林道を歩いて赤岩滝への歩道をたどる。柳沢は3回目だが来るたびに荒れ方が著しい印象だ。

右俣の美しいナメ滝群は健在ながら今回はアプローチの感覚であっさりと通過する。最後の「羽衣の滝」は左岸の水際を笹に掴まって簡単に登った記憶があるが、今回は途中で倒木の枝が張り出していたり、水際の様相が変わっていたりで一部が難しくなっていた。

滝上からは源流の様相となり2000m付近で茫漠とした笹原となり突然キャンプ場のような平地があらわれた。周りには焚き木が数多く散乱しており格好の幕営地。水場も近いのでザックを下ろした。時間の余裕もあり、焚き火ライフを存分に楽しんで初日を終えた。

 

 

 

 

二日目は長い一日になりそうだ。どれほどのコースタイムで進めるのか不安もある。今回の沢旅を実行するにあたっては、栃木県を中心に多彩な活動をされているきりんこさんの写真記録を大いに参考にさせてもらったのだが、コースタイムが私たちの半分以下ほどの超健脚。(なにしろ同じルートを日帰りされている!)タイムリミットが西ノ湖入口バス停の最終バスが15時56分なので、そこから逆算して大まかな予定コースタイムを決めて出発した。もし大幅に遅れるようなら引き返せばいいと言い聞かせて。

県境尾根の2241m北の鞍部までは涸れた沢筋をたどり、最後は歩きやすい斜面を選びながら尾根に上がった。しっかりとした道がついており県境尾根によく見られるブリキの標識にも再会した。いよいよここからが未知の領域となる。天気がいいので気持ちも明るい。三林班沢の下降をめざし足尾側の軽いヤブに足を踏み入れるとすぐに疎林となりフカフカ斜面をどんどん下る。しばらく下ると右手にザレた谷筋があらわれた。

下る谷に降り立ったようだ。あとは緩い岩ゴロの斜面を下っていくと192-30mで水がでて沢らしくなってきた。悪いところは何もないので順調に下ると1830mで15m大滝上にいたる。ここはしっかりと予習をしておいたところで、懸垂をせずに右岸の小尾根に取り付き隣の小沢から簡単に巻くことができた。

大滝下からは小滝とナメが多くなり、順調に下降している安堵感も手伝って楽しむ余裕もでてきた。1625mの二俣まで下ると左俣の奥に滝が見えた。右俣と違い岩質が明るい褐色をしている。左俣は笠ヶ岳に詰め上げるようで、ガイド本にはこちらの記録が掲載されている。地図からも予想されるようにしばらくは緩やかな川原を木漏れ日を浴びながら進み、山奥でゆったりとした沢旅をしている気持ちが心地よい。

二林班沢出合が近づくと大岩に挟まれた6m滝があらわれる。(ガイド本には三重泉沢本沢とあるが、増田宏氏の「皇海山と足尾山塊」及びきりんこさんに倣い二林班沢と記載)右岸を巻くと下にトラロープがかかっていた。この辺りから渓相にも変化があらわれ小滝がつづく。さらに下るとゴルジュの間に滝場が続いて美しさがます。すべて巻き気味に通過したが登った方が楽しめそうだった。二林班沢出合は穏やかな平瀬。ほぼ予想コースタイム通りにやってこれたことを喜ぶ。

 

 

 

 

 

 

二林班沢に入ると沢のスケールが一段階小さくなり穏やかなナメがつづく。三林班沢の最後がダイナミックだったので小振になった沢への安らぎと、これまで予定通りに歩くことができた安堵感に満たされる。しばらく進むといいテン場適地があったが、さすがに早すぎると通過。

ナメが終わると滝場となる。小滝、ナメ状滝をいくつか越えると登れない滝があらわれる。15m二段滝は左岸から高巻く。とても立派な直瀑で出合付近の小振りなナメ沢からは想像がつかず驚く。滝上からも小滝が続くが時間も押してきたのでテン場を探しながら進む。けれどなかなか見つからず滝場が続いて17m二段滝へ。右岸のガレルンゼを登るが上部は傾斜がきつく緊張する。かなり登ったところでトラバースできそうな微かな踏み跡をたどり一旦小尾根に上がって滝上に下りた。

幸い滝上は穏やかな川原状だった。5時近くになり、時間が迫っていると少々焦りながら先を急ぐと中洲状の台地に整地不要の平坦地を見つけた。おもわず、あった〜と叫んでザックを下ろした。急いでタープとツェルトを張り焚き火の準備をするが、疲れと緊張で胃も疲れてしまう。時々おこる症状なのだが、結局食事をとることができずそのまま横になってしまった。仲間には申し訳なかったけれど、一人寂しくとはいえ食欲旺盛だったらしい。

 

 

 

よく眠ったので気分も回復した。前日はテン場がみつからずに不本意ながら1450mまで進んだため三日目に余裕を持つことができた。しばらくは穏やかなナメ歩きが続き、ずっとこんなふうに続くことを願う。ときどきゴーロ川原となり蛇行のたびに左岸右岸の台地を巻いていくと大きな瓶が無傷のまま横たわっていて興味をそそられた。かつてこの辺りに足尾銅山鉱区の飯場があったというので、その名残なのだろう。

右俣を分けると再び小滝やナメ滝があらわれるがどれも容易に登ることができ、ようやく沢登りの気分となる。1650mで沢が東に向きを変える辺りは両岸に台地状の平地が続く。一見テン場適地に見えるのだが、上がってみるとかなり整地しないと使えそうもないため、昨日のテン場は正解だったかなと思う。ずっと穏やかな平瀬を歩く。

両岸が笹で覆われるようになり源頭の様相になると沢の分岐がふえて確認しながらすすむ。1810m付近の分岐で左に進んだつもりがGPSで確認すると地図でははっきりあらわれない小沢に入り込んでいた。トラバースしながら修正し、あとは沢筋を詰めると自然と2077m北の鞍部に導かれ尾根にあがった。まだ終わったわけではないけれど、なんとか予定通りに周ることができて嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

2077mに向かう尾根道には必要以上に多くの赤いブリキの標識が打ち込まれており、誰が何の目的でやったのか奇妙に思う。ここからは2019年の秋にも歩いている勝手知ったる下山路だ。尾根の反対側は木が疎な見晴らしのいい斜面で快適に下る。すぐに柳沢左俣の赤茶けた現頭部の崩壊地を見下ろす。

淡々と下るが4年前に降った時からさらに崩壊が進んだ印象を受ける。とくに悪場もなく下り、左俣右沢が出合うあたりからきれいなナメとなる。ナメは滑っているので傾斜があるところは水流脇をくだって右俣出合へ。ただいまーと、いつもの挨拶。二日間の冒険をしてきたのだなと思う。

三日目は気持ちに余裕ができたせいかゆったりと歩いたため、時間の余裕が思ったほどはなくなってしまった。渡渉点で靴を履き替えることはせずそのままバス停へ。東屋で装備を解いて一服する間も無く最終バスがやってきた。

今回は計画から実行まで年月がかかったが、足尾の奥山の穏やかな沢を巡ってみたいという長年の憧れにも似た思いを実現でき、近年にない充実の山旅となった。

 

 

西ノ湖入口バス停9:55ー赤岩沢出合11:30ー二俣12:30ー2000m幕営地14:50//6:00ー2241鞍部7:10ー三林班沢下降ー1625m二俣ー二林班沢出合14:15ー1450m幕営地16:50//6:30ー右俣出合ー2077m鞍部11:10ー柳沢左俣下降ー二俣13:10ー西ノ湖バス停15:30