ブナの沢旅ブナの沢旅
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2021.03.01
朝日前衛 鍋森〜赤見堂〜離森山
カテゴリー:雪山

2021年2月28日〜3月1日

福島沖の地震でしばらく不通になっていた東北新幹線が制限つきながら開通したので、東北の山旅を計画した。一昨年に初めて朝日連峰北端の赤見堂を訪れて以来、真っ白でゆったりとした山容の山々に魅せられた。そこに鍋森、離森山があることを後で知った。今年こそはと早々と計画しタイミングを待っていた。

朝発では一番条件のいい日曜日の半日がつぶれてしまうので、久しぶりに前夜発とした。そうすれば当初の予定である鍋森と離森だけではなく、赤見堂まで足をのばせるかも知れないと期待を膨らませた。

早朝、山形自動車道の月山第一トンネル入口の駐車場に着くとすでに何台か駐車していた。好天の日曜日なので予想通り入山者がいるらしい。のろのろ支度をしているとさらに一組やってきて先行していった。地元では人気があるのだなと最初から気楽となるが、先週たっぷりラッセルしたので今回は素直に喜ぶ。それにしてもやっぱり南会津は格別だとあらためて思う。どんな条件のときでもまず人にあうことはないからだ。

駐車場裏から渡渉する白土谷沢は雪で完全に埋もれていてまだどこでも自由に歩ける。ルートは沢の南側と北側の尾根が一般的のようだが、トレースは南側の尾根に続いている。少し乗り上げて振り返ると月山を頂点とする出羽三山の雄大な展望が広がる。さらに遠方には鳥海山が意外なほどクリアに両翼を広げて浮かび上がっている。気持ちのいい尾根歩きが続き、ところどころ尾根が台地状に広がるところはブナ林が美しい。

前方に赤見堂から鍋森に続く稜線が見えてくると気持ちが高まる。なんてなだらかで美しい山々だろう。広い広い雪原を進み、時折振り返って周りの展望を楽しむ。そんなことを繰り返しながら鍋森へ。山名からも予想される通り山というほどの山ではなく、ちょっとしたポコのようだ。

雪の状態がわからなかったので、当初は初日に離森山へ進んで適当なところで幕営し、翌日赤見堂を往復する予定だった。けれど雪は軽くトレースもあったため鍋森には思ったよりも早くついた。そこで荷を軽くして好天の初日に赤見堂を往復できないかと考えた。多少の不安はあったので相談の上、場合によっては進めるところまででも構わないという条件で進むことに決めた。

 

 

 

鍋森からはトレースのない赤見堂に続く尾根へ。これまでのトレースに感謝しつつもこれからが自分たちだけの世界だとワクワクする。北側の月山に加わり南側には朝日連峰の大伽藍。展望のすばらしさにただただ息を呑むばかりだ。

すると前を行く仲間がいきなり大きなクラックに腰まではまる。とても予想のつかない場所だったので驚くが、その後も2回同様の事態となり少し緊張する。地図で予想していた以上に小さなアップダウンが多く、雪庇の張り出しや隠れたクラックに注意しながら進むので思ったよりも進まない。トレースを差し引いても一段階レベルアップした雪山になっていると感じた。

鍋森の南側のコルから登り返す手前が展望のいい平坦地となっている。もっと進んだ方がいいか迷ったがここにテントなど泊まり装備をデポする。小さなポコを越えるたびに感嘆の声をあげながら完璧とも思える稜線漫歩。遠目ではどう登るのだろうと頭をひねる箇所も近づけば乗り越えられる。難しいところはない。午後の日差しにもかかわらずところどころ斜面がカリカリしており、シューをデポしてアイゼンに変える。

しだいに時間的余裕がなくなってきたが山頂に至る尾根歩きがゴージャスなので急ぐ風でもなく展望を満喫しながらマイペース。赤見堂前衛峰に登り上げると360度の展望となる。まるでここが目指していた山頂のようだ。朝日連峰の山並みがさらに近づいた感がある。山頂は前衛峰を下って200mほどの登り返しが目の前だ。

西側からみる赤見堂は真っ白な姿ではなく上部は土が見えていたり灌木がヒゲの剃り残しのように生えている。しばし進むかどうするか迷う。なんとか日が沈む前には戻れそうだが、山頂はもういいかなという気持ちと半々くらい。一昨年に東側から真っ白な赤見堂の山頂は踏んでいるからかもしれない。相談の末、ブナの沢旅はピークハンターでないし、プロセスで満足したからいいことにしようとのコンセンサスが成立する。

そうと決まればゆっくりしようとザックをおろし、地図を取り出して朝日連峰の山々の山座同定。ここからは大朝日岳よりも以東岳が近く凛々しい。いつになっても近づけない山だが、今年こそはお花の季節に縦走しようといい合う。

 

 

 

 

 

 

これほどの好天無風の天候に恵まれたことを心から感謝しながら来た道を戻る。どの方角を切り取っても展望がいいので往路を戻るといっても少しも飽きることがない。少々疲れがでてくるころデポ地が見えてきて思わずただいま〜。長い一日となったし本当の山頂は踏まなかったけれど久しぶりの充実感に満たされる。テントはほとんど整地不要。風もなく前回の暴風状態を思えば天国だといいながら乾杯して初日を終えた。

 

 

静かな夜だったが明け方から風が強まりテントを片付けるのが大変だった。予報に反して空も高曇りだ。あらためて昨日赤見堂を往復しておいてよかったと思う。残るは離森山だけなので朝はゆっくりと出発する。

鍋森に不要な装備をデポして空身で離森山に向かう。こちらは離森山というだけあってしっかりとした山だ。石見堂から登った赤見堂の雰囲気と似ている。途中地図で池塘マークが点在しているところは氷結してなんとなくこのあたりだというのがわかる。山頂直下は一部カリカリの斜面となっているのでアイゼンで登る。このころから青空が広がり始め広い山頂へ。朝日軍道北端の山ともいえる高安山がさらに近い。標高は高くないが独立峰のように北の端っこで存在感を示している。残雪期に歩かれているようだ。再び朝日連峰の大伽藍を遠望しコーヒータイムでしばしくつろぐ。

名残惜しく下るとすぐに北に派生する尾根分岐となる。ほとんど高低差のない波がうねったような山並が伸びており、うんと先で白くちょこんとしたポコで終わっている。その山が三足一分山だ。山名に興味を惹かれるがどうも由来は不明らしい。もしまた離森山に来ることがあれば次回は三足一分山にも足を延ばしてみたいと思う。

鍋森で重いザックを背負い再びシューに履き替えて、ほとんど脱力状態で緩やかな斜面を下る。月曜日となると登ってくる人もないが、トレースが増えていることで昨日の賑わいがうかがえる。予想どおりのいい山だった。まるで雪の桃源郷のようだと思ったりもした。きっとまた来るはず。そして期待はさらにふくらみ、赤見堂から障子ヶ岳につづく尾根も歩いてみたいと思いながら山を下った。

 

 

 

 

 

 

駐車場7:00ー鍋森10:30ー幕営地ー1310m峰14:15/14:40ー幕営地16:45//7:00ー鍋森ー離森山8:55/9:15ー鍋森10:00/10:20ー駐車場13:00