ブナの沢旅ブナの沢旅
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2019.05.22
鍋倉山〜茶屋池〜野々海池〜天水山
カテゴリー:備忘録

2019年5月22~24日

遠出の沢旅には少し早い5月下旬。残雪を踏んでブナの新緑を楽しむ山旅が最近の年中行事になっている。さて今年はどこへ? 当初数年前に行って印象がよかった神室連峰を考えたのだけれど、完全縦走のすべてがあまりにも素晴らしかったので、たぶんそれ以上の山行は期待できない。しばらくはいい思い出のままにとっておきたい。

再度仕切り直し、残雪豊富、ブナがきれい、登山道あり、とがっていない山、などのキーワードをインプットして出てきたのが信越トレイルの鍋倉山以北だった。積雪期に何度か歩いているが、須川峠から野々海池までは未踏だった。日本海に近い豪雪地帯なので低山でもまだ雪はあるはず、登山道があるので前回の八十里古道のように雪が途切れて藪に阻まれるという心配もない。3日間とってゆったりと残雪の新緑や池巡りを楽しもうということになった。

積雪期には鍋倉山への林道除雪終了点が麓の温井集落までだが、さらに除雪が進んでいたため850mの巨木の谷登山口まで入ることができた。数日後には完全に開通して関田峠を越えて新潟側まで通じるらしい。そうなると途端に観光地化しそうなので、静かな山が保たれるギリギリのタイミングだったともいえるだろう。

駐車広場から適当に雪の斜面に取り付く。しばらくは相当の傾斜だが、1050mで尾根に上がると傾斜が緩み早くもブナの新緑が広がる。巨木の谷の森太郎に立ち寄ろうと思ったが、登すぎてしまった。もう何度か見ているし尾根のブナ林があまりにもきれいなのであっさりとパスする。ブナの山を多く登っているが、それぞれ個性が違う。鍋倉山のブナは日本海から直接吹き付ける風雪にさらされているためか樹肌が白くて美しい。南会津や只見など多くの山のブナには最深積雪ラインが見て取れるのだが、この辺りのブナはてっぺんからつま先まで樹肌が一様に白く、樹高が高くて樹冠の下に枝がないためすらっとしている。逆に先月の村杉半島のブナは十一面観音のようなブナの枝ぶりが特徴的だったなどと思う。

鍋倉山頂付近は芽吹きが始まったばかりだ。これからたどる信越トレイルのゆったりとした山並みを見渡す。尾根筋は緑に覆われているが山腹は残雪が豊富。その中に若葉のブナが点在している光景に目を細める。鍋倉山から少し下って登り返した黒倉山からは尾根が少し細くなるが残雪がたっぷりあって積雪期とほとんど変わらない。

時間があるので尾根からはずれて茶屋池に下ってみた。あたりはすばらしいブナ林で尾根だけ歩いていては出会えない森がそこにあった。池はほとんどがまだ氷の下だった。池の奥にブナ林コースという散策路があるらしい。といっても全て雪で覆われているのでどこでも自由に歩けるのだが、奥にはいってみた。大木ではないけれどとても端正なブナがすくっと林立しているポコを見上げた時、まるで奥只見の新山峠のブナ林のようで郷愁が湧いたのが不思議だった。だって、新山峠は行ったことがないのだから。

茶屋池の散策を終えて少しだけ除雪してある車道を歩き、関田峠へ。長野、新潟双方で除雪が終了しているのに、境界線の1~2mほどだけ雪を残してあるのは、正式の開通前に車を通さないためなのだろうか。道路脇の雪壁に乗って再び雪尾根を進む。登山道を離れて緩やかな尾根を下ると、ふたたびきれいなブナ林となる。気持ちよく下って登ってを繰り返して梨平峠へ。南側を見下ろすと雪原台地が広がっている。ここに泊まろうと斜面を下ると、さらに奥にすばらしいブナの森が広がっていた。

テントを張って枯れ木を集め焚き火を熾すというルーチンワークも山旅の楽しみの一つだ。明治の岳人、田部重治の言葉を借りるまでもなく、山を旅するということは、山に寝ることなのであり、山の風を感じながら、焚火をしながら、そこに一夜を過ごすことなのだ。夜になるとさすがに涼しくなるが、焚火のそばで食事をすませテントに入った。

 

 

 

梨平峠から牧峠に進むと途中からは尾根に雪がなくなり登山道があらわれる。藪漕ぎの労もなく何も考えずに道を歩けばいいので楽なのだが、今度はちょっと物足りない気分にもなったりしてややこしい。牧峠はアスファルトの車道を横断するが、長野側の車道はいまだ2mほどの雪壁になっていた。

少し進むと旧牧峠の標識があり、説明書きが興味深かった。かつては信濃と越後の交易・交流の要所であった牧峠は、麓の土倉集落から稜線を見通すことができるため、積雪4mを超える冬でも晴れていれば物資の運搬に利用されていたという。越後からは酒、米、塩が運ばれ、土倉集落から見えるところに荷をまとめて赤旗をたて、それを見た土倉の人たちが信濃の和紙や蓑、菜種などを運んで山に登り、越後の物資と交換したそうだ。信越トレイルの関田山脈には16の峠道があり、歩いていても両サイドの麓の近さが実感出来る。

次第に登山道を歩く割合の方が多くなり気温の上昇と相まってバテ気味となる。何度も足を止め、ペットボトルに雪を補充しながら休んでいると、反対方向から人がやってきた。単独の若者で斑尾山まで80キロ踏破とのこと。縦走路で人に会ったことに互いに驚きつつ話を交わした。きっと歩き通したことだろう。

それにしても伏野峠までが遠かった。鞍部には車道が通っているらしいがまだ全て雪の中。ずんぐりした花立山からしばらくは稜線からの見通しが良く、新潟側は米山と黒姫山が小粒ながら顕著な山容を並べている。登山道が出ているところではイワカガミが沿道を飾るようになり、タムシバやユキツバキなどの彩りが出てくる。須川峠に近づくと、あんなに遠くに見えた菱ヶ岳が近い。3年前は菱ヶ岳から入山して鍋倉山まで歩いた。登山道は尾根の北側についていて牛馬も通れるほどに幅広く快適だ。

二日目の目安である須川峠を越えて1時間ほど歩いたところで早めにザックを下ろすことにした。何しろ暑さでばててしまい、これ以上歩くと胃がストライキを起こしそうになったからだ。テントを設営後は枯れ木集めの力がわかず、1時間ほど昼寝をして休んでから準備を始めた。早くに行動を切り上げ休んだおかげでいつも通りおいしく食事ができ、早々に眠り込んだ。

 

 

 

暑さ対策もあり、早立ちを心掛ける。二日目は雪のない登山道を歩く割合が多かったが、再び雪尾根を歩くようになる。小さなポコを二つ越えると広い雪原があらわれる。地図の西マド湿原だ。雪原を横断すると登山道は北へ向かうが、野々海池に向かう緩い沢筋を南に下る。すぐに池の北西端にでた。

野々海池も茶屋池とおなじくまだ春の目覚めが始まったばかりだ。氷がしっかりしている場所を選んで少しだけ池の中に入ってみる。前回はだだっ広い雪原だったが、今は淡いブルーのマーブル模様が美しい。ゴボゴボと池が目覚める音が聞こえそうな雰囲気を感じる。ブナの新緑に縁取られた池に沿ってしばらく散策。適当なところで斜面を上って登山道に復帰するとすぐに深坂峠となる。何やら立派な石碑が建っている。展望もいいところなので、車道が開通すれば観光客で賑わうのかもしれない。

いよいよ天水山が近づいてきた。三方岳からは北が崖マークの細尾根となるが、樹林で覆われているためなんということはない。ポコの登り返しにフウフウいいながらブナの美しい登山道をすすむ。3年前の3月初旬に立った天水山山頂があまりにもきれいで印象に残っていた。残雪期の姿はどのようなのか楽しみだったが。。

全行程を歩いたわけではないけれど、予定よりも順調に進むことができた。思い出の山頂でしばらく時をすごし、残雪とブナの新緑というテーマの山旅が期待どおりだったことを喜んだ。とはいえ、まだ森宮野原駅までは10キロ近い道のりだ。下山路も車道歩きを避けるためには工夫がいる。957mポコを下ったところで分岐となる。当初は信越トレイル非公式サイトが推奨する東側の旧道を下るつもりだったが、積雪期に歩いた尾根通しに地図にはない「森コース」の道があることがわかった。とても歩き易いブナ林の道を下り貯水池のところで林道にでた。少し下ると下に別の林道が見えたので杉林を下ってショートカット。駅裏に張り出した尾根のところでもきっと道があるはずと車道を離れて斜面を下ると学校の裏にでた。ここから道なりに1、2分で踏切の先に駅舎が見えた。

文字どおりブナしかない、ブナだけの、ブナに抱かれた、やさしくゆったりとした山旅だった。

 

 

 

駐車広場9:30ー鍋倉山11:30ー茶屋池13:10/14:30ー梨平峠15:50//6:30ー牧峠7:50ー宇津ノ俣峠9:50ー伏野峠ー須川峠13:55ー幕営地14:50//5:20ー野々海池7:00/7:45ー深沢峠8:15ー天水山10:30/10:50ー森宮野原駅13:55