ブナの沢旅ブナの沢旅
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2018.03.25
雨ヶ立〜大烏帽子山〜巻機山
カテゴリー:雪山

2018年3月25-27日

 

3月上旬に赤沢山から白毛門を周回したとき、白毛門に続く稜線から遠望した布引山から大烏帽子の真っ白でエレガントな山並みに眼が釘付けとなった。3年前に白毛門から巻機山を縦走したときは、大烏帽子山から布引山に続く稜線とナルミズ沢のメロウな源頭部に魅せられた。そうしたこれまでの思いがつながり、雨ヶ立から大烏帽子山をへて巻機山に続く上越国境稜線をふたたび歩きたくなった。

前回歩いた時は4月下旬の残雪期。かなり藪がでていたが厄介なものの難しいところはなかった。時期は1ヶ月早い。いまだ厳冬期に近い美しいクリーミィーな山並みが期待できるのではないかと期待すると同時に、雪稜の困難さもあるかもしれない。。期待と一抹の不安を抱えながら山に向かった。

3日間の日程なので朝立ちとした。水上駅からタクシーで宝川温泉へ向かうが、沿道には雪がなく拍子抜けする。春分の日の季節外れの大雪で、藤原の降雪は70センチを超えたと報道されていたからだ。タクシーの運転手さんにきくと、あのニュースは間違いでそんなに降っていないとのこと。

宝川温泉の林道もほとんど雪がない。少し先の駐車場には車がたくさん駐車しており、ほとんどが東京ナンバーだ。ということは行き先はみな同じはず。ここでも少し拍子抜けするが、雨ヶ立は縦走の出発点。トレースがあって楽ができると思えばいい。

やはり今年は雪が少ないようだ。途中早くも下山してくる複数のパーティと出会う。数パーティが入山しているとのこと。トレースの多くは板幽橋を渡った右岸尾根方面に続いていたが、雨ヶ立へ行くには橋を渡る手前から植林帯に入る。しばらくは茫洋とした地形の尾根を登っていくが、1150mから突然のように尾根が開け傾斜の緩い真っ白な台地となる。まるで別天地のようだ。大きな池でもあるのかしらと思ってしまう。空はおそろしいほどに青く、雪とのコントラストが強烈すぎるほどだ。

芦沢右岸尾根に乗るとブナ林が美しいなだらかな尾根となる。少し下ったところに見覚えのある大きなブナの木が尾瀬の山並みを背景にそびえ立っている。最初に雨ヶ立に登ったのはもう8年前。一本東側の顕著な尾根を登ってあのブナの木の下で休んだ写真が残っている。しばらくはゆったりとした二重山稜のブナの山歩き風情を楽しむ。前回テントを張って焚き火を楽しんだ尾瀬方面の展望のいい平坦地を過ぎると尾根が細く急斜面となる。

賑やかなトレースは雨ヶ立ではなく布引山方向にトラバースして続いていたが、やはり雨ヶ立から出発したくて山頂へ向かう。独立峰なので360度の展望だ。これから向かう大烏帽子以降の山並みが続く。あの稜線を歩くという実感がまだわかないが、一つずつ一歩ずつ越えて行けばいいのだと思う。

西に目を向けると布引山に続く山並みがこれ以上エレガントな姿は無いと思えるほど美しく広がっている。今回はトレースもあって順調なペースで進むことができた。初日の目標は達成したので、あとは好きなところにテントを張ればいい。展望を楽しみながら一旦鞍部へ下ると、大所帯パーティらしいテント跡が二つ並んでいた。いくら好天とはいえ、この賑やかさはどういうことだろうと8年間の変化を思う。(後日、ある山岳会が集中山行を行ったことを知り納得。。)

風が強くなってきた。展望のいいテン場適地は随所にあるものの、風が避けられる場所を探して先へ進む。布引山手前のポコの下で北側が樹林帯になっているところで行動を終えることにした。最近は強風に煽られながらのテント設営にも慣れてきた。焚き火ができなかったのは残念だったが、快適で暖かいテントの中で久しぶりにビールが美味しく感じられた。不安もあった3日間の山旅だが、順調に進むことができたことを喜んで初日を終えた。

 

 

夜中にそれほど冷えることもなく生暖かい風が吹いていた。まだ3月だというのにまるで5月の連休の時のようだ。起床後の行動もおっくうでない。今日も気温が高くなりそうなので、早めに出発する。朝日を背に緩やかに登って布引山へ。ナルミズ沢源頭を山々がやさしく取りかこんでいる。

小烏帽子に向かうと尾根は痩せてくるが、なんとずっとトレースが続いている。大烏帽子は遠目では尖ってみえるが実際に歩いて行くとあっけないほど容易に山頂に至ることができた。とはいえ、これで雪が締まってガリガリ状態だったらピッケルを使っても緊張したことだと思う。

山頂の手書きプレートは隠れていたが、石の三角点標識がでていた。風で均されてはいたが前日にかなりの人が登った気配だった。朝日岳が大きく迫り、清水峠の巡視小屋がみえる。ここからは馬蹄形縦走路はなんだか穏やかそうに見える。左手正面にはすでに黒々とした大源太山が顕著だ。谷川連峰の山が全て見えるといいたくなるほどの好展望にしばし山座同定を楽しむ。

大烏帽子からはいよいよ国境稜線の縦走路にはいる。進む山並みが手に取るようにみえるが当面は穏やかな山容で気持ちがなごむ。ここからは賑やかなトレースは消えるが、一筋の古いスキートレースがうっすらと私たちを導くように続いているのが見える。緩やかに下って登り返すとずんぐりと大きな檜倉山だ。3年前はすでに笹藪が出ていたので山頂下をトラバースしたが、今回は所々笹が頭を出している程度で尾根通しで進んだ。

檜倉山からは勿体ないほどくだり、最低鞍部から350mの登り返しとなる。ここはあらかじめ覚悟をしているのでゆっくりゆっくり登ろうと声をかけ自分にも言い聞かせる。前回は雪がズタズタで藪漕ぎをまじえて登ったところだが、登るラインはきれいにすっきりと見えている。いつものように、苦しい時は淡々と数を数えながら登る。ほんとうにゆっくりとした足取りだったが、止まらなければいつかは着くものだ。急登が終わり山頂近くのなだらかな斜面になるとスキーのトレースが現れたのは前回も同様だった。麓から登ってくるらしい。東側のゴトウジ沢源頭は真っ白で広いなだらかな斜面となっていて、スキーをやらない私でも妄想が膨らむステキな斜面だ。

山頂からはいよいよゴールの巻機山方面が遠望できるようになる。奥利根の山並みも迫ってくる。再び20万分の一地図を広げ、利根川源流を囲む山々の山座同定にいそしむ。この広い山頂にもっといて一休みしたいところだったが、少し前から風が強くなってきた。

山頂をあとに緩やかに下る。二日目の目標である柄沢山を越えることができたので、あとはテントサイトを探しながら進むことにした。一旦下ると広い鞍部となる。柄沢山越えに時間がかかったのでそろそろ行動を終えることにした。すこしでも風が弱い場所をさがし、ちょうどいい平坦地を見つけてザックをおろした。テントをはって中に入ると西日でポカポカと暖かい。自覚的にはそれほど疲労感はないが、やはり少し胃が疲れたサインを出している。まだ食事には早いので少し横になった休むことにした。いつの間にか寝入ってしまったようだった。ビールも前菜も食べることができたが、そのあとは私だけお茶漬けですませた。

 

 

 

最終日となった。バスの時間が定かでないため少しだけ早めに出発する。朝一のアルバイトは目の前の30m程のポコを登ることだ。雪面がガリガリの急登をピッケルを刺しながらジグザグに登る。アイゼンが効いて滑ることはないのだが、こういう場面は慣れていないので2番手とはいえ緊張する。

その後も痩せ尾根の通過に手こずる。一ヶ所、突端が切れ落ちたような瘦せ尾根でうろたえる。左手は藪の急斜面でとても回り込めず、右手の斜面は所々亀裂ができていた。そこで尾根の急斜面を仲間が空身でバックステップで下ることに。足元を固めながらなんとか下った時にはホッとした。3年前はなんということなく通過したはずだが、すでに雪が落ちた後でちょっとした藪を漕いだ程度だったのだろう。

米子頭山手前の笹が出始めている広い斜面を登っているとき、ふと振り向くと眼下の尾根に単独の男性が見えた。初日に下山パーティとすれ違って以来初めて人に会えた。しばらく見ているとかなりなスピードで歩いている。その距離はどんどん縮まり、這いつくばりながらポコに乗り上げたらすぐに合流となった。お互い人に会えてうれしくて話し込む。やはり前日白毛門から入ったとのこと。このコースは健脚者は2日で十分歩けるようで、3年前も巻機山近くで2日間コースの人たち何組かに出会っている。

米子頭山からはようやくいやらしいアップダウンもなく、ゆったりとした尾根歩きとなる。巻機山は正面に大きな壁のように聳えている。けれどここからは近いようでけっこう遠かった。気温はこれまでの2日間よりもさらに上がり、今度は暑さでばて気味となる。

巻機山から牛ヶ岳に続く尾根にのる。いよいよゴール間近だ。北側の越後三山が姿をあらわし、見える景色が変わる。トレースはたくさんあったが誰もいなかった。山頂はすでに雪が剥がれ土がでていた。以前あった標柱はわからなかったが、代わりにケルンがつまれていた。今年初めての3日間の縦走をやり遂げることができた。うれしいはずなのだが、なぜかあっさりした気分だった。やはり二度目だし、今回は仲間がいる。3年前の初めて、しかも単独で歩いた時とは違うのだ。

山頂も風が強く長居ができない。避難小屋まで下って休むことにした。避難小屋は完全に埋まっておらず屋根が出ていた。以前は4月下旬でも全て埋まっていたのだから、今年はやはり雪が少ないことがわかる。あとは下るだけだし、1時台のバスには間に合わず次は3時半過ぎまでない。ゆっくり休みながらある意味夢のような3日間を振り返る。

心配していた井戸の壁は、トレースがしっかり付いていたためそれほど苦もなく下ることができた。むしろ暑さで何度も足がとまった。今回は雪でアイスミルクを食べようとコンデンスミルクを持ってきたのだが、ようやく出番がまわってきた。

しばらくはアイゼンのまま下っていたが、腐れ雪に耐え切れずワカンにかえる。それでもグズグズ雪にうんざりしながら登山口に下り立った。ここで地元のスキーヤーに声をかけられた。縦走してきたことを話すと興味をもち、車で送っていくので話が聞きたいという。願ってもない申し出ながら越後湯沢まで行きたいというのは気がひけたので上越線の六日町駅まで送ってもらった。駅では、米子頭山であい私たちより一足先に下山した単独男性に再会し、充実した3日間の山旅を終えた。

 

 

宝川温泉8:50ー板幽橋10:40/10:55ー芦沢右岸尾根13:20ー雨ヶ立15:00ー布引山鞍部幕営地15:40//6:00ー大烏帽子山8:40/8:55ー檜倉山11:00ー柄沢山14:40ー柄沢山鞍部幕営地15:20//5:30ー米子沢ノ頭8:00ー巻機山10:50ー避難小屋11:25/11:45ー登山口14:45ー車道15:20

2015年4月25-27日の記録 (白毛門〜巻機山)