ブナの沢旅ブナの沢旅
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2015.03.07
天水山~三方岳~野々海池(信越トレイルーpart2)
カテゴリー:備忘録

2015年3月6-7日

 

5年前の4月初旬、信越トレイルの鍋倉山から関田峠を越え牧峠まで、ゆったりとしたブナの山稜を歩いた。天気にも恵まれとても印象に残る山旅だった。

今回はその信越トレイルの北端、天水山から野々海池を歩く機会を得た。けれど最初から予定していたわけでなく、限られた条件の中で急浮上したコースだった。もともと2月下旬に南会津の山を歩く予定だったのだが、悪天のために延期した。けれど再度予定した日程でも予報は芳しくなく、そのうえ前夜発ができないという制限が加わった。南会津はあきらめた。熱望はひらめきの母。ブナが美しいと聞いていた天水山がひらめいた。

東頸城山域は日本どころか世界有数の豪雪地帯であり、人気の信越トレイルも積雪期の入山は鍋倉山周辺に限られているようだ。今の時期の天水山の記録はなかった。だからかえって面白そうだと、ブナの沢旅のささやかな矜持に火がついた。(わっ、かっこいい〜)

当初は長野経由の飯山あたりで合流するつもりだったが、少し調べると越後湯沢からめざす宮森野原駅まで路線バスがあり、1時間でつくらしい。意外な発見に驚き、目からウロコだった。地図をみてなるほどと納得する。観光バスに乗った気分であっという間に現地へ。

宮森野原駅は数年前に地震で被害を受けた栄村の中心にある。そして駅前には「日本最高積雪地7.85M」の標識がそびえていた。昭和20年2月のこと。男手が不足していた戦争末期、地域の人々がどれほどの苦境をしいられたのか想像にあまりある。そんな所に私は遊びにきているのだと思いながら出発。

といっても駅の踏切を渡ったところが今回の山旅の出発点だ。文字通りの駅前登山。雪壁に乗り上げて裏山に取り付く。正規の登山道はジグザグの林道を登って行くのだが、すべて深い雪で覆われているので、最短のルートを適当に登る。

裏山の斜面は一面が畑か田んぼなのか、100mも登らないうちに真っ白な雪山となり、振り返ると越後三山、巻機山から続く上越国境の山並み、苗場山や鳥甲山、岩菅山や奥志賀の山々を見渡す絶景がひろがる。天気も予報に反して快晴となり、早くもテンションが上がる。

雪が締まっているためシューはほとんど潜らず、快調に進む。むしろ気温が高くてバテそうだ。小山に乗り上げる度に広がる展望に歓声をあげる。967mあたりからはブナ林が広がる。二次林で細いが、さすがに豪雪地帯。雪で磨かれ樹肌がきれいだ。

登るに連れてブナが太くなる。尾根が西に曲がると今まで見えなかった日本海側の展望も開け、二つの顕著な山に目が留る。さっそく20万地図でみると、刈羽黒姫山とその奥が米山だ。どちらも1000mに満たない山だが白くそびえ立つ姿は貫禄十分の存在感。う〜ん、さすが我がふるさと、越後の山だ。

天水山直下は地図で想像していた以上の急斜面で、一ヶ所シューではお手上げの雪壁にはばまれる。巻くこともできないのでアイゼンに変えようとしたが、難儀なのは数メートルほど。スコップで階段を作りながら乗り上げてクリアした。あとはなんとか立って歩けるほどの斜面を一歩一歩踏みしめながら登る。直下には北面の緩やかな斜面にブナの大木が点在している。時間の余裕があれば下ってみたくなるほど魅力的だ。

途中にテンバ適地はたくさんあったが、山頂を目指すことにした。いよいよこれ以上高い所のない平地に乗り上げると山頂だっだ。どれほどの積雪量かわからないが、ブナの大木が雪面からすぐに枝を広げているので、少なくとも3、4mはありそうだ。無雪期の樹林帯の山頂の写真しか見ていなかったので、これが同じ山頂かと驚く。まっさらな雪面に大きなブナが点在している光景は、文句なしに美しい。

無雪期ならば900m近くまで車で登ることができるし、車で通り抜けることができる峠もたくさんある。ハイカーも多い。そんな時期には信越トレイルを縦走するのでもない限り選択肢にはならないだろう。だから登るなら、静かで雪もきれいな「今でしょ」

4時半を少しまわっていたが、まだまだ明るい。登った正面はまるでここが展望台といわんばかりに2本のブナが門をなしている。雪の具合がわからなかったので控えめに予定を立てていたが、11時という遅い出発ながら初日に山頂まで登れた。ほとんど整地の必要もなくテントを張る。今年に入って立て続けに山頂テント泊だ。風もなくおだやかな天候だからこそ。

いつものように夕食を楽しみ、お茶をしてシュラフに入る。たまたま満月の夜のため、月明かりでナイトハイキングができそうなほど。ふもとの灯が四方でチラチラ揺らめいている

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翌朝は起きた時間が起床時間でのんびりしたつもりだが、最近は水作りを前夜に済ませておくせいか冬でも朝は2時間以内に出発できるようになった。天水山から一旦鞍部に下り、その後は緩やかなアップダウンを繰り返す丘陵漫歩だ。どのポコもブナに囲まれた平地で、全山テンバ適地だ。

トレイルの地図では三方岳附近もブナ大木の表記があり、期待できそう。曇りがちだった空の頭上に青空があらわれ、私たちと一緒に移動しているように見える。身も心も脱力状態で心地いい。一昨年に南会津の舟鼻峠を起点に茫漠とした丘陵台地を逍遥する山旅を楽しんだが、二人で雰囲気が似ていると言い合う。さらに言えば、もっと山並みにメリハリと展望があり、ブナもいい。Yさんに、わざわざ南会津に行くモーチベーションがなくなってしまうねと冗談めかす。

もちろん山はその姿形だけではなく、そこにしみ込み刻みこまれた人々の関わりも含めて良さが醸し出されるもの。それぞれの山はそこにしかない無形の魅力があるからこそ、人々を惹き付ける。

なんて、気持ちよく歩いて行くと、一瞬あっと立ち止まる。ここまで侵入しているのか。目の前にはスノーモービルのトレース。5年前にも関田峠附近で遭遇しているので驚きはしないが、少々ガッカリはした。そのトレースから察するにかなりルートを熟知した上級者のようだ。先が見えない小山を登るときには気をつけないと轢かれかねないと、半分本気に思う。

三方岳からは今まで見えなかった鍋倉山方面の山並みが広がり、信越トレイルのイメージが具体的になる。ほんとうに行けども行けども穏やかな山並みが麓に長い尾を引いて延びている。心安らぐ光景だ。高くとんがった山も刺激的だしかっこいいけれど、自分にとってはちょうど人生の山型とシンクロしているせいか郷愁がわく。う〜ん、なんだか年寄り臭い!

控えめなコース設定にしたのに予想以上に順調に進むことができたため、早くも最後の目的地となる野々海池をめざして下る。浅い沢筋沿いに進むと池の東端にでた。さらに雪原を奥へ入る。見渡す限り真っ白な雪原と化した野々海池。池の真ん中でザックをおろし大休憩。もう下山なんてつまらない、もう1泊できたら鍋倉山までいけるのに、などと未練たっぷり。

言いたくはないけれど、やはりここにもスノーモービルのトレースが幾筋かついていた。休憩しながら、土曜日だもの「奴ら」(実際にはそう言わなかったけれど、ここでは奴らといいたい)きっと来るよと言っていたら轟音が。やっぱり。しばらくして立ち去って行ったので、思いっきり大声で「うるさいんだよー」と一人で叫んでしまった。はっきりいって彼らは山の暴走族だ。プンプン!

こういう無法的なことがどうして山で許されるのか腹立たしい。以前も同様に感じたので後日調べたところ、月山などいくつかの山域で問題になっているようだった。一昨年南会津で駒止湿原を通過したときには入り口の高い場所にスノーモービル禁止の大きな看板が立てられていた。帰宅後、信越トレイルの稜線は禁止とされていることを確認したが、山麓の一部で貸し出しビジネスが認められている以上、各人の良識にまかせるしかないのでしょう。

さて本題へもどると、下山ルートについては少し悩ましかった。時間の余裕があるので往路とは別の尾根を下り、さかえ倶楽部スキー場を経由するとすっきりとした周回コースになる。けれど途中の貝立山の急斜面のトラバース道が気がかりだった。無雪期は何ともないだろうが、積雪期の山腹トラバースはけっこう恐ろしいのだ。

あれこれ想像して気を揉んでも仕方ないので、とにかく行ってから決めようということに。トラバースが難しければ貝立山に登って越えることもできると。

明瞭な尾根に乗るまでは読図の世界となる。地形が漠然としておりGPS頼みとなる。それでも慎重にコンパスを振って進んでは確認の繰り返し。視界がないと歩けないルートだ。

尾根を下って行くと貝立山が近づく。眼下には林道らしき筋もみえる。心配していたトラバースは大丈夫そうだ。万が一滑っても怪我をするような谷底ではないことを確認して心を鎮める。急斜面をトラバースするときはいつも、おまじないのように「ここから落ちても死なないよね」などと口にする。Yさん先行でクリア。振り返った貝立山は雪庇が張り出しクラックができて嫌らしい容相だった。登らずにすんでよかった。

ホッとしてさらに下ると人が見えた。スキー場トップにでたらしい。村営スキー場のようでそれほど規模も大きくないが、けっこう賑わっていた。地元の人ばかりかと思いきや、駐車場には品川や足立ナンバーもあり意外だった。最初はゲレンデ脇を真っすぐ下って行ったが、下部は傾斜がきついので、初心者向けの長い迂回コースをてくてく歩いて駐車場におりた。といっても、ここから駅までさらに数キロ。ザックをデポしてこんどはトボトボ歩いて始点の宮森野原駅へ。2日間の汗を流すためにバスの時間よりも温泉を優先し、村営の中条温泉に直行。長野駅まで送ってもらう。

道中Yさんから長野駅で時間があれば丸山コーヒーに立ちよるといいと勧められた。小諸が本拠らしいが日本一はおろか世界大会でも一位になるほどのバリスタがいるコーヒー店で、本格的なサイフォンコーヒーが飲めるという。ここまで聞いて立ち寄らない手はない。

翌週の北陸新幹線開通に合わせ、長野駅はMIDORIとかいう駅ビルのオープン初日でごった返していた。確かに興味をそそられる店が目白押しだったが、重いザックでうろつくのもシンドイ。インフォメーションで場所を聞いて丸山コーヒー店に直行。さいごは苦みとコクがほどよい深い味わいのコーヒーをすすって、ブナの山旅を締めくくった。

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宮森野原駅11:00−天水山16:40/7:00−三方岳8:50−野々海池9:50/10:40−スキー場13:20−宮森野原駅15:10