ブナの沢旅ブナの沢旅
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2013.05.12
燧ヶ岳
カテゴリー:備忘録

2013年5月12日

 

4月末に燧に向かったが大雪で御池林道を進めず敢えなく撤退。翌週は稜線漫歩を楽しみながら丸山岳をめざした。そのとき尾瀬方面の山並の中でも遠く独立双児峰の燧ヶ岳が際だって高く凛々しくそびえ立っていた。今シーズンは尾瀬南会津の山を集中的に登ってきたので、まだ登ったことのない燧にも行ってみたい。

毎年必ず今の時期に燧でスキーを楽しむというyukiさんに、行くときには声をかけてくれと頼んでおいたところ、すぐに予定がはいった。ただ当初は日曜日の予報が悪かったのでためらっていたところ、直前になって晴れマークがでた。麓の予報は相変わらずパッとしないのでホントかなーと半信半疑で現地へ向かった。

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前夜、会津高原駅でピックアップしてもらい、いまや尾瀬の定宿となった感のある「アルザ尾瀬の里」食堂へ向かう。今回はりょうさんが飛び入り参加する。かねてよりyukiさんからとんでもない健脚ぶりの噂は聞いていたので興味津々だったが、初対面の印象はワイルドながら人なつっこそうな、真っ黒に日焼けしてボサボサ髪のいかにも山男。って、今頃くしゃみしているかも・・・

3週連続で同じ場所に泊まるなんてと、互いにあきれ合いながら到着すると今回は先客がいた。東京と山形ナンバーで、みんな遠路はるばる来ている。Yukiさんが朝食用に用意してきた山菜尽くしの家庭料理を肴に11時近くまで飲みながら山談義。とくにりょうさんの飯豊をフィールドとした山歴や、登山道の修理保全や山小屋の荷揚げなどの地道な活動、彼ら地元の人たちの「関東組」に対する認識の一片など、興味深い話をきくことができた。

夜遅くまで降り続いた雨も上がり、翌日は朝から晴れている。昨日の見通しではあまり早く行動しても山はガスっているだろうからと目覚ましもかけずにノンビリ寝込んでしまったが、好天に誘われて意外と早く起床。6時過ぎには出発する。

会津駒の登山口附近の駐車場はどこも閑散としており、前回4月29日の時とえらい違いだ。尾瀬御池の駐車場にも車は少なかった。直前まで予報が悪かったせいかもしれない。熊代田代までは急登がつづくのでつぼ足で出発する。ペースの早いりょうさんと熟年組はもちろん別行動で、山頂で合流することに。彼はあっという間に視界から消えていった。

ここはすでに標高1500mと、普段ならめざす山頂の高さだ。そのためブナ帯をこえたところが出発点となり、最初からシラビソ林をぬって進む。すぐに最初の急斜面となり、同じ軒下でテントを張っていたパーティがとりついていたが、スキーを履いたままで登るのに苦労している。連休に重いザックで4日間歩いたことをまだ体が覚えているせいか、軽いザックで足取りも軽い。どこでも歩けるので別ルートを登って先行する。その後も何人かのスキーヤーを追い越したりと、きわめて快調なり。

最初の急登をやり過ごすと、だだっ広い平原の広沢田代があらわれる。平原を横断して次の急斜面を登る頃には上空にかかっていた雲もとれ、真っ青な空となる。直前まで悪天でやきもきしていたので、できすぎで拍子抜けするほどだ。

急登を終えると前方に燧ヶ岳の山頂が見えて来る。ええっ、山頂ってあんなに近いの、と思う。つい先日高幽山に向かう尾根から見えた燧は他にぬきんでて高く聳えていた。初めての私は、あの時のイメージと実際のコースの手軽さのミスマッチに面食らう。ここで私はシュー、yukiさんはスキーに履き替え、熊代田代の大雪原盆地へと緩やかに下る。

熊代田代には池塘が点在して登山道は木道になっているとのこと。ベンチがあるらしいがまだ雪に埋もれていてわからなかった。ここからは前方に山頂をのぞみながら緩やかに広がる斜面を好きなように登っていく。なるほどスキーが気持ちよさそうな斜面の連続だ。針葉樹に混じってダケカンバが目立つようになり、明るい幹が青空に映えて美しい。

山頂に近づくと右手のハイマツ越しに甲のような柴安クラが見えて来た。だから遠くから双児峰に見えるのね。初めての山はいちいち新鮮で興味深い。左手には顕著な山容の日光白根や男体山もはっきり見える。キョロキョロと展望に見とれながら急斜面を登ると雪のついていない岩場に数人の姿が見え、yukiさんはスキーをはずしていた。えっ、てことはこここが山頂?と、とぼけた気分であっけなく山頂へ。

眼前にでーんと立ちはだかる柴安クラの向こうには、いまだほとんどが雪に覆われた尾瀬ヶ原が広がり、その先には至仏山から笠ヶ岳に連なる山並、更に奧には武尊山。去年の夏に楢俣川後深沢を詰め上げ、あの至仏山の右端の肩あたりにテントを張った。そこから見下ろした尾瀬ヶ原の光景は今でも鮮明に覚えているほど素晴らしく、次回は尾瀬ヶ原の反対側の燧から同じ光景を見たいと思った。それが早くも実現した。想いの連鎖が次々とつながっていく。山って素晴らしいとあらためて思う。南側から見下ろす尾瀬沼はいまだ真っ白に塗りつぶされている。これからドンドン雪解けが進むと水芭蕉の楽園になるのだろう。

展望にふけっているうちに柴安クラを滑りおりてきたりょうくんが合流する。なんと1時間半で山頂に登り、それから2回滑っては登り返しを繰り返して遊んでいたらしい。フルーツやお菓子を食べながらくつろいでいると次々と人が登って来る。今の時期に燧に登るのはほとんどがスキーヤーだ。りょうくんはまだ滑り足りないらしく、もう一回遊ぶというので我々は山頂下の風の当たらない雪面に銀マットをしいて彼を見送る。三回目の登り返しはさすがにきついといいながらようやく気がすんだようなので、そろそろ下山することに。

1時間以上も山頂で休むなんてめずらしいことだ。私だけシューで時間がかかることは明らかなので一足先に下り始める。アドバイスにしたがって最初からつぼ足で下る。この頃には階段状のトレースができていて苦手な急斜面の下りも難なく通過。熊代田代でスキー組と合流し2度目のオレンジで喉を潤す。いつもyukiさんのザックにはオレンジが途切れることなく入っているのだ。

のんびりマイペースで下る、といいたいところだが、先行スキー組をあまり待たせてはいけないという心理が働く。会津駒方面の山並もすっかり雲がなくなり、素晴らしく開放的な展望がコンパニオン。最後は淡々と樹林帯を下り、結局山頂から1時間半で駐車場に戻った。あとで登山地図のコースタイムを見ると下山は2時間半だった。雪で歩きやすかったとはいえ私にとっては画期的な早さだ。(その分あとで疲れがどっと出てしまったが・・・)

手軽に登れて山頂からは尾瀬を一望に見渡す素晴らしい展望。スキーをしない自分にとっても十分に楽しめた燧ヶ岳。ここで感想をとめておけばいいのだが、率直に言って時間が短いだけじゃない何かが足りない。それはブナの尾根歩きがないからだ。そこが隣の大戸沢岳や三岩岳と違う。

積雪期のこのルートはやはりスキーヤー向きで、大きな自然のゲレンデを歩いたといったら言い過ぎだろうか。頂上からブナのモコモコを見下ろした燧裏林道を歩く周回コースに燧を組み入れ、季節を変えて歩けば、また違う魅力を感じられるはずだ。機会をつくって歩いてみたいと思う。

時間もたっぷりあるのでいつも日帰りではパスしていた温泉に立ち寄る。沿道のブナ平のブナは芽が今にもはち切れそうな状態で、下るにつれ新緑が美しい。駒の湯は時間が早いせいか我がパーティの貸し切り湯となる。

電車は1時間に一本なためつぎの電車には時間がある。ということで、先週沿道の案内板で気になった舘岩地区前沢の曲屋集落に立ち寄ってみることにした。茅葺き屋根の中門造の曲屋集落は実際に人々が静かに暮らしている集落だ。道路沿いの駐車場に小さな案内所があり、集落の暮らしを妨げないように見学してほしいとの簡単な説明を受ける。

川を渡るとさっそく水車小屋とバッタリ小屋。あぜ道を進むと曲屋家屋が建ち並ぶ集落があらわれ、まずは資料館になっている曲屋へ。昔の暮らしぶりや道具がそのまま保存されており、実家が農家のyukiさんは、あれこれ見つけては昔うちにもあったと、興味深げに一番盛り上がっていた。サクッと順路を進んで最後は薬師堂へ。中に入ると天井の碁盤板にはそれぞれに色鮮やかな鳥や花の絵が描かれており、精神的な豊かさが感じられた。

集落のはずれには沢にそって石造りの水辺公園があったり、これから開花する花しょうぶ園があったりと、控えめに手をかけて美しい里山を作り出し維持している雰囲気が感じられた。地味だけれど、だからこそ好ましい風景に三人ともいたく感じ入り、いまや一大観光地と化した大内宿よりいいと全員一致の感想がもれる。

いってみれば燧にサクッと登れたおかげで立ち寄ることができた秀逸の散策路だった。そういえばまだ昼食をとっていないと会津高原駅の食堂へ。尾瀬の雄たる燧に登って山頂で1時間もノンビリしてゆっくり温泉につかり、曲屋集落を散策して駅で食事をしても3時20分の電車に間に合う。とっても盛りだくさんの充実した休日だったというような感想を言うと、りょうくんがすかさず、燧はその程度の山ってことですよ、だと。そう言われみんなで妙に納得しつつ、できすぎの日曜日に大満足して帰路についた。

御池駐車場6:55-熊沢田代8:25-燧ヶ岳9:50/11:00-御池駐車場12:30