ブナの沢旅ブナの沢旅
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2011.03.29
大ドッケ花新田
カテゴリー:山歩き

2011年3月29日

 

山の先輩Sさんに、奥武蔵のフクジュソウの大群生地へ行かないかと誘われたのが一昨年の春。その年は日程が合わなかったため昨年計画したものの、直前に父が亡くなったため中止となり、今年ようやく実現。大震災前に立てた計画で、一時は今年も無理かと迷ったが、3年越しの計画であり、気持ちを切り替えて行くことにした。

計画停電の影響で、当初予定していた湘南新宿線と西武秩父線特急はともに運休中。奥武蔵方面は今まで来たことがなく、飯能から乗り換えた各駅停車の電車も地図を見ながら車窓を眺めていたらあっと言う間の時間だった。

なんとか8時半には西部秩父駅へ到着し、前日のうちに現地入りしていたSさんと合流してタクシーで登山口へ向った。大日堂手前の橋のところでタクシーを降り、橋を渡ってさっそく出発する。

民家を抜けると天目山林道を左に分けて山道が続いており、こちらの道にはいる。山腹にある細久保集落への道だ。よく手入れされた植林帯を登って行くと集落へ登る道をわける。しばらく進むと自然林となり展望が開けて明るい雰囲気となる。

廃屋や作業場跡を通り過ぎると道は次第に細くなり、伐採斜面をトラバースするように続く。所々崩壊してザレ斜面となり気が抜けない。カラ沢の二俣あたりから山腹のトラバース道を外れて沢に下らなければならない。それらしき下降点は見つかったのだが、最初が急斜面でザレていていやらしい。そこで少し戻って水涸れした枝沢を下ることにした。沢床が見えて悪いところはなさそうだ。

簡単に下ったのだが、こんどは鹿柵にはばまれてしまう。柵沿いにトラバースして抜け口を探し、ようやく沢に降り立つとちょうど二俣手前だった。あまり楽なルートではなかったけれど、あとは沢を詰めればいいので気が楽になる。少し休んで腹ごしらえをしてから左の沢へ入る。沢の様子がわからなかったので、念のため沢靴も持参したが、両岸が開けているので登山靴で問題なかった。

途中石積みのわさび田跡を通過し、何もないゴーロの沢を淡々と登っていく。次第に谷筋に雪がつくようになり両斜面とも一面雪に覆われるようになる。そんな状態がしばらく続いたので、福寿草も雪の下になっていないか心配になる。けれど1100mを過ぎると傾斜が緩み両岸も開けて再び雪が消え始めホッとする。

岩がごつごつして歩きにくい谷筋をさらに登っていくと突然、前方に小山のように緩やかに張り出した尾根が黄色く見えた。ああっ、ようやく着いた。これまでの殺風景な光景が一変し、まるで別世界へ足を踏み入れたようだ。あとは夢中で駆け寄った。

道のない山奥の一角に、このようなフクジュソウの楽園があるなど誰が想像できるだろう。地に這いつくばるように咲いている花なので、時にほとんど寝転がるような姿勢で花を愛でる。どのくらいの広さの自生地だろうか。ある記録では地元の人の話として昔はこの10倍ほどの広さで群生していたという。どうしてここだけにと不思議だし、知りたいことは山ほどある。

さらに登ったところにマザーツリーのような大木が広く根を張っており、根元にはたくさんのフクジュソウが身を寄せ合うように咲いている姿がとても印象的。上から見下ろすと、一面黄色いじゅうたんを敷き詰めたように見える。今年は花の開花が例年より遅いようでほぼ満開の時期に来ることができた。あえてぜいたくを言えば、晴れ渡っていた空が曇ってしまったことだ。フクジュソウは日の光に敏感に反応し、花を開閉させるとのこと。

群生地のちょうど真ん中あたりに古い倒木があり、そこをベンチ代わりにしてしばらくしみじみした時間を過ごすことができた。何年か前にやってきて途中で引き返したというSさんも、ようやく実現できてとても喜んでいる。

テレビや新聞を見ているといまだに山に行くのは申し訳ない気持ちだったが、やはり来てよかったと思った。フクジュソウは幸福を招く花、思い出の花という花言葉がある。荒れ地の中に人知れず咲きそう可憐な花がけなげでいとおしかった。

1時間ほどしてきた道を戻ることにした。雪の急斜面ではまさか使わないと思った軽アイゼンが役立った。まさかは、いつでもどこでも起こるものなのだ。下山にめどが立ったところで行きに乗ったタクシー会社に電話をして迎えに来てもらう。

これから山は本格的に春を迎える。花々が咲き乱れ、若葉が芽吹く春。新しい命が芽生える希望の季節がやって来たのだ、そう感じさせてくれたフクジュソウのハイキングだった。

 

天目山林道入口9:10-カラ沢二俣10:45-フクジュソウ自生地12:00/13:00-天目山林道入口14:50