ブナの沢旅ブナの沢旅
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2010.02.14
神楽入ノ峰~三頭山
カテゴリー:山歩き

2010年2月14日

 

出張だの治療静養だので、三週間ぶりの山となった。しかもこの間ほとんど体を動かしていなかった。一度はずみが切れてしまうと、気持ちはあっても億劫になってしまいがち。日曜日は天気も回復しそうなので、重い腰をあげてブナの山といわれている三頭山に行ってきた。

三頭山のブナは西面の尾根がすばらしいとのこと。できれば鶴峠から登りたかったのですが、今の時期は車以外のアクセスがない。そこで奥多摩側のヌカザス尾根の鶴峠分岐からトラバース道をたどって神楽入ノ峰下の尾根道に合流し、そこから山頂をめざすことにした。

奥多摩駅から鴨沢行きのバスに乗ると、晴天に誘われてか、バスは登山者で満員だ。小河内神社で下車し、階段を下って浮橋へ。以前からこの橋を渡ってみたかった。空は晴れ渡り、周囲の山々は白く雪化粧をしてとてもきれい。対岸に渡って一度車道にでてからヌカザス尾根の登山口へ入る。

すでに何人かの登山者が入っているようだった。植林帯を緩やかに登っていくと最初の小ピーク、イヨ山へ。この先急坂の悪場ありと書いてあったので、ここで軽アイゼンをつける。久しぶりに歩いたので、いつもよりも疲れやすい。来週のテント山行が思いやられるなあと、ため息をつきながら所々すべりやすい急坂をえっちら、おっちら。悪い癖で、登山道があるコースだと安心しきって地図をちゃんと見ないで登ってしまう。けっこうアップダウンがある尾根だった。

ヌカザス山で一休みし、気がつけば空も曇り始めてモノクロの世界になってしまう。再び急降下して登り返すと、ようやく傾斜も緩んでハイキング気分に。けれど鶴峠分岐にたどり着いたときにはすでに昼過ぎだった。疲れ気味だし、天気も下り坂なのでこのまま尾根をまっすぐ登って山頂に行こうか少し迷ったが、トラバースは水平道なのでそれほど時間はかからないはず。初心貫徹しようと鶴峠の方向へ進んだ。当然誰も歩いていない。

急に奥深い山に足を踏み入れてしまったようで心細くなったが、このくらい平気でなければ行きたい所に行けないよと、自分を励ましながら歩く。しばらくは道幅も広く問題なかったのだが、沢の源頭部に近づくと雪で道が斜面になり、歩きにくくなる。おまけに犬の遠吠えが不気味に響き渡り、不安感をあおる。

猟犬だろうから襲われることはないだろうと平常心を装いながら進むと、トラバース道が沢の本流を横切って方向をかえるあたりで2頭の犬が近づいてきた。もう体は硬直状態。目を合わせないよう平気な振りをしていくと、彼らは谷筋を下っていった。ど、どっと全身の筋肉が緩みホッとする。足跡にはうっすらと赤い血がついている。獲物をしとめた後のようだ。

何度も枝沢の源頭を横切り、そのたびにヒヤヒヤする。そして、とうとうやってしまった。滑って転び、あっという間に谷筋の斜面をズルズル。やばいっ。気がついたら左手のストックの紐にぶら下がるようにして体が宙ぶらりんになっていた。

足を斜面に蹴りこもうとするが、雪の下は凍りついた斜面になっている。四苦八苦のすえ足場を確保して這い上がり、ふうっ。幸いなことに、ストックが何かに引っかかって固定されたらしい。それほど急傾斜の谷ではなかったので、滑り落ちても怪我はなかったと思うが危なかった。

その後は緊張と疲れのせいか足が軽く痙攣し始める。こんな経験は始めてのこと。その上、気がつくと左足のアイゼンがなくなっている。滑ったときに取れたのかもしれない。踏んだり蹴ったりの有様だ。ようやく左の尾根が下がってきて分岐が間近であることを知る。1時間以上もかかってしまったが、尾根に乗ると踏み後があり、その先に人が見える。うれしくて、でも息絶え絶えに、こんにちは~と声をかけると呼吸困難となり、あとがつづかない。

登山者ではなく、境界線に標柱の設置作業をしている人たちだった。あの重そうな石柱を背負って鶴峠から登ってきたらしい。この道では登山者は歩いていないといわれる。疲労困憊で、いっそのことこの人たちに助けてもらおうかなどと思いながら、とにかく休んでエネルギーを補給することに。心配してもらったが、少し元気がでてきた。もうすぐだから気をつけてという声をあとに、先へ進む。

すぐに踏み跡もなくなり、狭い尾根道はずっと、樹氷の重みで垂れ下がった枝でふさがれている。神楽入ノ峰からが遠かった。小さなコブがいくつもあり、片足アイゼンのハンディーがきいてくる。ほんとうならこのあたりの斜面はブナがきれいなところで、そのためにトラバース道を選んだはずなのに、もう余裕がなくなっている。

樹氷の枝をよける気力もなくなり、氷屑を浴びながら、滑りながら、気持ちは匍匐前進状態。山頂にはもう誰もいないだろうな、どうやって下ろうかな、などと思いながらようやく最後の急斜面を登りきると傾斜がゆるんで道幅が広がる。ああ、山頂が見えてきた。と、前方に動く影が見えるではないか。人がいる!お願いだからまだそこにいてー、と心の中で叫びながら広場のような山頂に到着。これで遭難せずにすんだと本気で思ったのだった。時刻は2時10分。

おじいさんとお父さんと10歳くらいの息子さんという感じの3人連れで、なんと行きのバスで一緒だった。一瞬どうしてまだ山頂にいるんだろうなんて思ってしまったが、事情を話し、一緒に下山させてもらうことにした。

アイゼンをなくしたことも話したところ、予備があるから使ってくださいと無くしたものと同じタイプの軽アイゼンを貸していただく。ありがたくお礼のいいようがないほどだった。ベンチで一休みして落ち着き、安心感に満たされる。一番早く下れる都民の森のブナの路コースをたどるという。

すっかり腑抜けになった私は3人のあとをくっついて行くだけ。数馬からのバスは5時半までないので、途中、半分氷で覆われた三頭大滝を見学したりしてのんびり下った。4時半過ぎにはバス停に着いたが、車道の温度計はマイナス3度。じっとしていると寒いので、再び4人でバスが来るまで車道を歩き続けた。あらためてお礼をして武蔵五日市駅で別れ、一日の出来事を反芻しながら家路についた。。

たかが三頭山のハイキングコースなのだけれど、とんだハプニングと試練の山行となってしまった。帰ってからあらためてコースガイドを見ると、鶴峠から三頭山へ登るには分岐からヌカザス尾根にトラバースした方が楽だと書いてあるではないか。それを好き好んで雪の中、逆コースを歩いたことになる。頑張ったといえなくもないが、一歩間違えば、疲労遭難していたかもしれないのだ。安易な気持ちで取り組んだことを反省し、山頂にいてくださった3人に感謝。

三頭山1 三頭山2

三頭山3 三頭山4

浮橋9:00-ヌカザス山11:15/25-鶴峠分岐12:10-鶴峠尾根合流点13:10/20-三頭山14:10-都民の森入口15:50-数馬16:40