ブナの沢旅ブナの沢旅
▲トップページへ
2010.01.10
五頭山〜菱ヶ岳
カテゴリー:雪山

2010年1月10-11日

 

厳冬期の雪山はなかなか敷居が高いのだが、故郷の低山ならば行けるのではないかと、五頭山塊の心臓部をミニ縦走してきた。五頭は関東で言えば丹沢のような存在で、地元のハイカーに親しまれている山域。けれどさすが越後の山、1000mに満たないとはいえ雪山の醍醐味を思う存分味わうことができた。しかも新潟地方に久しぶりに訪れた快晴に恵まれるという幸運がかさなり、幸先のよいスタートとなった。

============================

 

いつものように長岡駅で待ち合わせ、samさんの車で五頭山の入り口となる北蒲原の村杉温泉をめざす。隣の水原町には、白鳥が越冬にやってくることで有名な瓢湖という湖があるのだが、写真を趣味にしていた父に、子どものころ連れていってもらったことを思い出した。今の時期にどれほど登山者がいるのか見当がつかなかったが、三ノ峰登山口前には数台の車が駐車していた。

これでトレースがある、山頂まで行けると、ホッとする。どんよりとして視界も良くないが、やはり地元の人は登っているようだ。ここでワカンを装着するが、あとでスノーシューにしなかったことを後悔。トレースがなくなってからのラッセルでsamさんのシューと差がついてしまい、私は戦力外通告を受けるはめに。

雪は踏まれているし、やる気満々なのだが、足が重くてすぐに苦しくなる。ノロノロ歩いていると地元の単独ハイカーが何組か軽い足取りで追い越していく。途中からは早くも下山してくる人たちとすれ違うが、そのたびに、大きなザックを見て泊るのかとか、どこへ行くとか聞かれる。菱ケ岳まで縦走するつもりと答えると、そのたびに、それは無理だろうといわれる。東京から来たのだというと、気のせいか、とたんに皆の反応が「はるばる良くやって来たねー」という口調になり、頑張りなさいと励まされる。トレースは避難小屋のある三ノ峰までらしい。

視界はほとんどないが、樹氷で覆われた樹林はやはり美しい。きれいだなあ、苦しいなあをくり返しながら三ノ峰に到着。この地方の山にはどこでも山頂に大きな鈴が置かれているようだ。少し下ったところに半ば埋もれかけたカマボコ型の避難小屋があった。中をのぞいて見ると快適そうで、最悪の場合はここが使えることを確認。地元の人はこのあたりでみな引き返すらしく、この先からはトレースが消えかけていた。

二ノ峰のお地蔵様は雪の下。さびしくたたずむ鈴が目印の一ノ峰に立った時、一瞬ガスが引いて進むべき稜線が見え胸が騒ぐ。一度下って登り返してから稜線に乗るところで、視界が悪く、地形も茫漠としていたために少し迷う。ここでsamさんが、明日もガスっているなら稜線を歩いても面白くないから、避難小屋にザックを置いて五頭山に登ろうという。

天候不順ならばそれも選択肢と思っていたが、予報では翌日は晴れマーク。少しでも距離をかせいでおきたいので先へ進む。緩やかなアップダウンを繰り返しながら3時半を目途にテンバを探す。873m峰を越えた鞍部付近に風をよけられるような場所を見つけ、一足先に到着していたsamさんが早々と整地を行っていた。

テントに入ってようやく一息。諦めずにほぼ予定通りの地点まで達したことに乾杯し、あれこれ持ち寄ったものを食べながら去年のことや、これから行きたい雪山の話で盛り上がる。う~ん、数え上げたらきりがない。シュラフに潜ってからも、雪山と沢への思いをこめた熱い言葉が暗闇の中を飛び交いつづけたのだった。

 

わっ、大変。もう6時だよーと、朝を迎えた。急いで昨晩食べるはずだった鍋の支度をする。昨晩は前菜で満腹となり、メインディッシュにまで至らずじまい。なにからなにまでいい加減なのだが、それが心地よいのだから困ったものだ・・・外にでたsamさんが、すげーと、興奮している。あわてて外に出ると朝日が輝き、昨日は見えなかった四方の山並みがくっきりと浮かび上がっている。やったねー。これで菱ケ岳はゲットだねと、大喜び。朝から豪勢な鍋で勢いをつけ、いざ出発。

まさに奇跡的な快晴のもと、気持ちのいい雪原歩きを楽しむ。しばらく進むと痩せ尾根が続き、ちょっとした雪稜がミックスされて変化がでてくる。麓には雲海がたなびき、なかなか絵になる光景だ。振り返れば、二王子から北股岳に続く稜線を初め、飯豊の前衛をなす尾根筋が幾重にも連なっている。いつか残雪期にあの稜線をたどって飯豊の山へと、また欲張りな夢を抱いてしまう。めざす菱ケ岳は、太陽の陰影で波打つ稜線の遥かかなたに思えたが、時間と気持ちの余裕はたっぷり。素晴らしい稜線漫歩を満喫しながらゆっくりと歩を進めた。けれど、もっと体力があれば、もっと楽しめるのにと、日ごろの不精を悔やんだりも。

2時間ほどでたどり着いた山頂は標識が埋まっていたが、あらためてSamさんとお疲れ様の握手。五頭連峰に行きたいという希望に付き合ってくれて、ありがとね。1000mにも満たない低山とは思えない堂々たる雪山ぶりに、思ったよりもずっといい山だ、五頭を見直したよと言ってくれてよかった。

さらに南に伸びている稜線も魅力的だが、風が強かったので少し下がった樹林の下で早めの昼食。鍋の残りにうどんを入れて温まる。眼下には新潟平野が広がり、日本海も近い。南方向の丘陵は護摩堂山があるところ。何十年もの間、故郷は遠くにありて思うもの・・・だったのに、最近は何かに引き寄せられるように故郷の山に通い始めているなあと、私たちだけの山頂で再び感慨にふける。

菱ケ岳は地元のハイカーもあまり訪れない静かな山とのこと。五頭山塊の最高峰ながら、隣の五頭山と明暗を分けているような感があるが、下山を始めてその理由がわかったような気がした。

のんびり休んで、さあ下山。地図で見ると主尾根から細かな枝尾根が左右に派生しており、ガスっていると迷いそうなのだが、視界が良くて一安心。ふかふかの雪を踏み下る歩みは例えようがないほど心地よい。時々たどってきた稜線を振り返り、充実感をかみしめる。

ひと下りするとあたりはブナの森となり、樹氷をまとった姿が青空に映えてとても美しい。ブナだよ、きれいだねーと、Samさんも私の好みを心得てくれるようになったのかな。幸福感にひたりながら滑るように下っていくと、横からヒャッホーという嬌声とともに雪煙をあげながら走り下りていくメンバー。

30分ほど下ったあたりで、初めて登ってくる単独の男性と出合う。なんとこれで下りもトレースばっちりと、内心ほくそ笑む。けれどこれだけ雪深い中、一人でラッセルしてきた壮年の男性は相当山慣れた人のようだった。軽く話をして情報交換。彼曰く、五頭の雪道はハイウエイ。一箇所、杉端の急斜面さえ気をつければ大丈夫とのこと。

アドバイス通り、垂直の岩壁を横に見ながらの、ものすごい急斜面を潅木だよりに下るところがあった。よくこんなところを登ってきたと感心することしきり。確かにここは一般的なコースにはならないだろう。地図をよく見ると、夏道はこの岩峰を巻いて谷側についていることがわかる。

この難所を通過してしばらくすると、再び単独の男性が登ってきた。すれ違いざまに顔を見合わせ、互いに、あっ。思わず不躾にも、昨日のおじさんじゃないですかあー。昨日五頭山の登りで話を交わした男性だった。縦走できましたよと報告。きっと好天に誘われ、急に山に行きたくなったのかな。

途中から尾根筋が広く判然としなくなり、トレースも尾根を外れて斜面を下り始める。やはりトレースがなかったらかなり迷いそうだ。ジグザグに下って登山口に降り立つと、なんと駐車場は車で満杯。路肩にも長い列をなしている。ハイウエイの五頭はものすごい渋滞だったようだ。続々と下ってくる登山者を見ながら、稜線漫歩の醍醐味を味わわずに入り口で帰ってくるなんてもったいないなどと言いながら車にもどった。

時間はたっぷりあるので村杉温泉の公共の湯につかって温まり、さっぱりしてから車を走らせる。遠ざかっていく五頭連峰。今からまた登りたくなる衝動にかられながら別れをつげると、菅名山塊が近づいてくる。ブナの原生林をもう一度見に行きたいなあ。そしてさらに、ひときわ真っ白な連峰が。やっぱり粟ケ岳は別格だ。今度は白根山から登ろうと、越後倶楽部の2月プランを立てながら長岡へ戻った。

いつもより少し重いザックを背負い、少し頑張れば、素晴らしい世界を体験できることをあらためて感じさせてくれた快心の雪山となった。

 

 

 

1月10日 三ノ峰登山口10:40-三ノ峰13:25-三叉路14:10-873m南鞍部幕営地15:30

1月11日 幕営地8:00-菱ケ岳10:30/11:10-三ノ峰登山口13:30