ブナの沢旅ブナの沢旅
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2007.02.11
クロガネの頭東尾根~足拍子岳~荒沢山
カテゴリー:雪山

2007年2月18~19日

 

「去年は怖いもの知らずで行ったけど、私には無理」なんて言っておきながら、他に計画もないからと、性懲りもなくTKさんの計画に紛れこませてもらう。怖いけど、癖になりそうな山なのだ。

寡雪の今年は清水トンネルを越えてもほとんど雪がない。土樽駅で軽く飲んでおしゃべりをした後仮眠。ところが翌朝目覚めると小雪が舞っていて、しだいに本降りとなってくる。

とたんに気持ちが後ろ向きになり「どうするんですか~」と聞くと「そりゃ行くんでしょ」といわれる。とりあえず旭原の大源太工房の駐車場へ。去年来たときに随分とお世話になった所だ。軒下で身支度をして車道を歩き始める。去年と比べほんとに雪がない。

適当なところで水路をまたいで雪田を横切り足拍子川沿いに林の中を進む。しばらく行くと川から離れて登り始めたので、強引に笹薮の急斜面を下りると立派な林道が通っていた。

渡渉して尾根の取り付きに向かう。ベースキャンプとなりそうな気持ちのいい広場が現れたのでしばし休憩。前方にはクロガネノ頭のギザギザ尾根がそそり立っている。このころには雪もやんで時折太陽も見え隠れしてきた。

そこでとても不思議な現象が。太陽の周りがコバルトブルーのような雲に包まれ、一瞬虹のような色彩になったのだ。とても美しく幻想的。けれどすぐにあたりはガスに包まれ、これから目指す尾根の取り付きも判別しずらい状態に。

計画では中尾根を登り、できたら足拍子までピストンして東尾根を下ることにしていたが、リーダーも取り付きがわからなくなったというので、天候もあまりよくないことだし、無理せずに目の前に突き出ている取り付きは緩やかな東尾根から登ることにした。

けれど緩やかなのは最初だけで、すぐに急な壁のような斜面となる。アイゼン装着後、GTさんが先頭でどんどん力強く進んでいくが、雪が少ない分かえって登りづらい。木の枝につかまりながら腕力勝負の登攀だ。

リーダーが後ろについて、指示を出してもらいながら何とかついていく。それでも登れなそうな岩まじりの壁のところはザイルを引いてもらう。去年の北尾根ではたくさん雪がついていたのでそれほど恐怖感もなく、ザイルも出さなかったのに、3本の尾根の中では比較的緩いと思っていた東尾根でこんなに苦労するとは・・・

ようやく1000m付近で傾斜が緩み、1050mあたりでブナ林に囲まれた平らな窪地にでた。これまでの苦行がうそのような素敵な場所で、格好のテン場なのだが。よく記録をよんでいると、予定よりも早いが絶好のテンバなので一日の行動を終えることにした、なんて書いてあるけど、と水を向けたものの軽く聞き流されてしまう。もう少し先に進んでおかないと足拍子にはいけないのです。

吹雪いて視界の悪いなか、気を取り直して目の前の雪壁に向かう。これからしばらく急斜面のやせ尾根がつづき、視界もわるいのでずっとザイルを出しながら進んだ。TKさんが凍りつく木に何とか支点を作ってビレーをし、GTさんがザイルを引きながら壁のような斜面を登ってガスの中に消えていく。

わたしはただ呆然と見守るしかない。吹雪いてガスっているためにあたりも薄暗く、悲壮感がただよっていた。私がいなければザイルも出さずにもっとスピーディに進めただろうにと思ってしまう。予定のテンバは1250m付近なので、あと5ピッチがんばらなくてはいけない。

手が凍りついてきたが、ザイルもあるし、雪がついてきたので、下部の雪がはがれている岩混じりの斜面よりはのぼりやすかった。4,5ピッチ辺りはかなり傾斜も緩んできて、普通のキックステップだけでも大丈夫そうだった。

5ピッチ終えたところで、GTさんがここで終了という感じのサインを送ってくれて、ほんとにほっとした。時計を見ればもう5時半近い。行動時間としてはぎりぎり間に合ったという感じだった。

まだ先があるけれど、一日が終わってとってもうれしく、明るい気持ちで整地にせいをだす。2-3人用のテントで少し窮屈だったけど、工夫をしてザックも何とか収めて3人三様の場所を確保する。

まずはお酒で乾杯。あまり飲めないのに安堵感もあってか飲みすぎてしまう。軽量化を図ったTさんの、おでんのもとを使ったゆでソーメンは以外においしく食べられた。軽量化ということでシュラフもスリーシーズン用を薦められ心配だったが問題なかった。やってみなければわからないことがたくさんあると思った。

翌朝は起きた時間が起床時間。な~んと、外はこれ以上ないほどの青空だ。それはもう大喜び。昨日のあの悲壮感がうそのよう。なんてすばらしい景色か。来てよかったぁ~と、貧弱なボキャブラリーを駆使して喜びをあらわす。しばし山座同定。

テントから10mほど下の見晴台みたいなところでGTさんがしゃがんで景色を眺めているのかと思ったら・・こんなに気持ちのいいトイレも初めてだ。太陽の下、山々に囲まれた真っ白なデッキに裸で飛び込んだら気持ちいいだろうねなどと、気持ちが開放的になること極まりない。

のんびりしすぎて出発は8時半。相変わらずの急斜面だが、晴れていて雪もしまっているので慎重に行けば問題なかった。小一時間でクロガネの頭に到着した。尾根の東につづくコマノカミノ頭も凛々しくかっこいい。

尾根がなだらかに落ちている。とりあえずの目標は達成し、足拍子に向かうことに。途中の鞍部あたりで北尾根の絶壁を振り返り、Mさんはこの谷をこの辺りまでラッセルしながら登り返してきたなんてすごいね、と言い合う。

足拍子直下の急な斜面をGTさんはとっとと登っていってしまったが、ここはザイルを出そうということになり、TKさんの指示をもらってザイルをつける。直登せずに少し右寄りにトラバース気味に登って潅木で支点を作りそこから登っていくことにした。

少し緊張したがいい練習になった。2万五千分の1の地図では足拍子への稜線は起伏がないように見えるが、予想以上にたくさんの急なこぶを越えていかなければならなかったため、時間がかかってしまった。12時前にようやく登頂。360度の展望だ。ついに足拍子に足を踏むことができた。もう、うれしくてうれしくて、バンザーイ。3人で硬い握手。

さあ、問題は帰路をどうとるか。あんな怖い東尾根はもどりたくない。となりのコマノカミノ尾根は緩そうだが、あまりにも遠い。ならば荒沢山を経由して戻るか。Tさんによれば、荒沢山から足拍子に向かうとき一箇所懸垂する岩場があるそうで、そこを通過できればあとは問題ないという。

とりあえず荒沢山へ向かうことに。でもこの稜線がまたすごい。ナイフエッジのジェットコースターみたいなのだ。ピッケルを刺しながらのバックステップで下るが、見かねたTさんが手の置き方、足のけり方を実技指導してくれる。

ほんとうにありがたいのだけど、なかなか思うとおりには行かないこともあり、内心半べそ状態。急斜面では怖いのでどうしてもトレースに頼ろうとしてしまうのだが、まっさらの斜面を蹴ったほうが制動がきくのだと教わる。途中3人パーティとすれ違う。北カドナミ尾根から登り足拍子南尾根に下るという日帰りコースらしい。

そして問題の岩場に。正面は5mほどの岩の垂壁なので、足元の潅木で支点を取ってGさんが左手の雪の急斜面をステップで固めながらトラバースして岩を回りこんでから登っていってクリアした。

ここからは比較的アップダウンも緩やかになり順調に進めたが、ザイルを出した上に私ののろのろペースのため、ようやく荒沢山に着いたときにはすでに4時近くなってしまった。ここから旭原への尾根は時間がかかってしまうので、すれ違ったパーティが登ってきたという北カドナミ尾根を下ることに。速いペースで下るものの、次第にあたりは暗くなってきた。

幸いなことに下の道路の明かりが見えてヘッドランプなしでも歩行に支障はなく、下るところが見えるという安心感に救われた。途中からは雪もなくなって歩きづらく最後はバックステップで木の枝や笹につかまりながら急な斜面をすべり降りて、何とかふもとにたどり着いたのだった。

時計は6時半をまわっていた。すでにあたりは真っ暗。土樽駅に行ってタクシーを呼び、車を回収して帰路に着いた。時間がなかったので温泉も食事もパスせざるを得なかったが、サポートしてもらいながら足を引っ張りながら、何をしようがとにかく歩きとおせたことがとてもうれしかった。

それにしても、こんなマニアックな山行もうおなか一杯、とその時は思ったのだけれど、記録を書きながらまた行ってみたいような懐かしい気持ちでいっぱいだ。

 

 

コースタイム:記録せず